前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

前門の虎、後門の狼 <年子を抱えて>

北の大地に夢を




 70年の歴史上、初のストライキに突入し、2日間試合のなかったプロ野球。スト明けの今日、ナゴヤドームの中日‐巨人では4万5000人、札幌ドームの日本ハム‐ダイエーでは4万2000人、西武ドームの西武‐ロッテには4万5000人と、3球場が満員になった(おや、西武ドームの収容人数は3万8000人じゃないのか?外野が芝だから、無理矢理入ったのか?)。下位チームどうしの横浜スタジアム(横浜‐広島)でも2万2000人が訪れるなど、6球場で合計20万6500人を集めた。ファンは野球を見ることができる喜び、そして選手は野球ができる喜び。各球場では、試合前からこの思いが充満し、これまでにない異様なムードを醸し出していたことだろう。

 プロ野球が帰ってきたこの日、私が注目したのは日本ハム‐ダイエーであった。プレーオフ進出争いが佳境を迎えている。ストも影響して残り試合が僅かとなった今、3位に食い込むのはロッテなのか日本ハムなのか、非常に気になっているからである。個人的には、今年から北海道に移転して地域密着チームを目指している日本ハムを応援している。

 日本ハムの先発は入来。立ち上がりから飛ばしているようであった。先頭打者への四球から始まり、井口、松中の連続二塁打でいとも簡単に2点を失ってしまった。この後、ズレータの併殺打で救われたが、5回までもつだろうかと心配になった。

 その裏、ダイエー先発の新垣から、小笠原が直球を捉えてセンター右へ同点の2ランで同点となった。しかしその後は相変わらず新垣のスライダーに手が出てしまい、ランナーは出すものの追加点は奪えなかった。

 3回、井口にカウント2-2と追い込んでから力勝負を挑み、7球目を右中間へ運ばれ勝ち越しを許した。さらに松中へのチェンジアップも甘く、フェンス直撃の二塁打、城島にも外のボールを狙い打たれもう1点。入来は外角しか投げられなくなり、おまけに制球力もなくなった。続くズレータをなんとか抑えたものの、ここで降板した。リリーフした清水は、次の柴原にレフト前へ運ばれ、荒金には死球を与え満塁。続く本間は得点圏打率2割そこそこなのに、バックスクリーンへグランドスラムという始末である。あぁ、見ていられない。もうダメだ…。ちょうど、小姐が眠そうな素振りを見せ始めたので、お風呂に入れることにした。

 小姐を寝かしつけ、再び起きたら22時を回っていた。日本ハム負けただろうな、と思いつつ、阪神や中日も気になったので、パソコンを開いた。なんと、なんと…。そこには信じられない結果が載っていた。スポーツニュースで映像を見なければ!!!

 6回裏に小笠原が起死回生の3ランを放ち逆転した。ところが7回表に代打・宮地に2ランを打たれ再びリードされる。さらに8回表にはズレータに完璧に運ばれ、12‐9とされる。完全に負けパターンかと思われた。しかし、最終回にこの上ないドラマが待っていようとは…。

 3点を追う9回裏、マウンドにはダイエーの抑えの切り札・三瀬。四球とヒットで無死一、三塁、打席にセギノールを迎えた。一発同点の場面ながら、今日は4三振と大ブレーキ中である。低めの直球をとらえた打球はセンターへの二塁打になり、一塁走者も生還して1点差に詰め寄った。続く代打・オバンドーが放った打球はあわや本塁打だったが、フェンスを直撃し、ついに同点となった。ここまで来たら決めるだけ、押せ押せだ。一死満塁となって、代打・エチェバリアは三振。それでもこの男がいる。SHINJOだ。

 二死満塁、新庄の打球は左中間スタンドに突き刺さった。打球の行方を確かめた新庄は飛行機のように両手を水平に伸ばし、喜色満面で走った。しかし一、二塁間で一塁走者の田中を抜き去ってしまった。歓喜の抱擁をした二人が180°回転し、新庄が田中を追い越した形となり、新庄にはアウトが宣告された。記録は1打点のみのシングルヒット。同点でなかったら、負けていたということ。いやはや、なんというオチ…!

 劇的なサヨナラ満塁弾は幻となったが、新庄にとって自分の記録はどうでもよかった。プレーオフ進出にむけての大きな大きな白星を喜ぶ、今シーズン最多の4万2000人のファンや、チームメートの笑顔、これで十分だった。お立ち台に上がった新庄は、「今日のヒーローは僕じゃありません。皆です!」と絶叫し、興奮冷めやらぬスタンドを指さした。

 球界を揺るがせたストライキ明けの一戦は、歴史的なエキサイティングゲームとなった。4年ぶりにメジャーから復帰した今シーズン、新庄は阪神時代よりも輝きを増している。試合前の練習では、黄レンジャーに扮してファンを魅了した。他の外野手4人とともに、ゴレンジャーの覆面をかぶってグラウンドに登場したのである。子どもに大人気の戦隊ヒーローが、明るい雰囲気をつくった。「一昨日、昨日と試合できなくてゴメンJOY」と、独特の表現でお侘びもした。エンジョイとかけた言葉には、3日ぶりの試合を楽しんでほしいという願いが込められていた。1リーグ制移行への流れが強まっていた7月11日のオールスター第2戦(長野)では、ホームスチールを決めてMVPを獲得し、日本中を沸かせるなど、千両役者という言葉はまさに彼のためにあるようだ。ヒーローインタビューは「明日も勝つ!」という言葉で締めくくった。阪神時代、こう言って翌日負けたが(笑)、今度は大丈夫だろう。

 今日の試合を通じて率直に思ったことは、プレーオフに出る出ないではなく、こういう試合をするなら、いつまでも応援したいということである。今後、北海道にさらに根付いていくであろうチームにとって、大きく語り継がれる試合になったと思われる。

 ところで、今回のプロ野球再編問題において、日本ハムはパで唯一、選手会の主張に理解を示していたという。日本ハムは昨年まで関東にいて、巨人をはじめ6球団がひしめく中で独自性を打ち出すことに苦労したようだが、今年北海道に本拠地を移転して「自分たちのファンがいる地域が存在する、と実感できるようになった」(日本ハム大社会長談)らしい。大社会長は、スポーツマネージメントのセミナーなどにも参加して、熱心に勉強しているという。
「巨人戦はいらない。地域球団としての実力を試すために、このままでやりたい」
「今はコスト削減より、ファンを増やし増収基調に乗せることを優先する」
ファンにとって、こんな嬉しい言葉はないだろう。ファン獲得のための努力を怠り、安易に合併などと言い出すどこかの球団幹部に、爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいだ。

 プロ野球界でコスト削減が必要だとしても、球団を削減し縮小均衡を目指すのではなく、むしろ球団を増やして、まだ不毛の地である東北や北陸、四国などのマーケットを開拓し、日本ハムのように地域密着を目指すべきだと思う。

 ストライキの日、東京で開かれた選手会のファン向けイベントに日本ハムの選手は敢えて参加せず、「選手全員で北海道でのファンサービスを」と、札幌ドームでサイン会を開催した。そこにはヒルマン監督もいた。こういう行動がファンの心をつかむ、そして「オラがチーム」をつくっていく。北の大地に夢を!日本ハムには是非、プレーオフに出場してほしい。




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