[Stockholm syndrome]...be no-w-here

2020.01.06
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カテゴリ: 映画
フロイド博士を、知恵を受け継ぐ者と認めたモノリス。
ところが、ここでモノリスにとって予定外の出来事が起こる。
フロイド博士が、木星探査船ディスカバリー号に乗らなかったのだ。

代わりに乗船したのは、ボーマン船長を始めとした5名。
彼らは(本当の目的を知らされていないのだから、仕方無いのだが…)雑談をしたり、似顔絵を描いたりと、随分と気の抜けた連中に映る。

当然、モノリスは疑念を抱く。
「果たして、彼らは木星へ連れて行くに値する、知恵を持った人間なのか…?」
モノリスはHALを介してボーマン達の知能をテストするが、その結果はモノリスが満足するものではなかった。
彼らは自ら答えを出す事も、解決策を示す事もできない、ただの追随者(フォロワー)でしかない。
そう判断したモノリスは、5人を排除する事に決める。

仮に、ここで船員が全滅しても問題は無い。
何しろ、最初の接触から400万年もの間、モノリスは人類が宇宙空間までやって来るのを見守っていたのだ。
この先、また何十年か経った所で、大した違いはない。
モノリスにとって最も重要なのは、先にも述べた通り、知恵を受け継ぐ人間の確保なのだ。

ウィキペディアには「モノリス探査の任務を隠しつつ、乗組員と協力しなければいけないという矛盾に耐え切れず、HALは異常を来した…」と書いてあるが、これはどう考えても無理がある。
何故なら、モノリスの件は木星到着後に搭乗員全員に開示される事になっていたからだ。
その事は、HAL自身もフロイド博士から命令を受けて知っていた。
つまり、木星に到着するまで知る必要の無い情報を、HALがボーマン達に黙っていたとして、何の矛盾も無いのだ。

このように、HALが暴走行為に出たのも、全てモノリスの企てだと考えれば辻褄が合う。
(HALが故障を指摘した箇所が、「電波」を受信するアンテナというのも、モノリスの関与を示唆している)
HALの赤いランプは、モノリスの目だと考えて良い。
モノリスはHALを使って船員達を観察し、テストしていたのだ。

しかし、モノリスの予想に反し、ボーマン船長は自らの知恵と勇気でHALとの戦いに勝利する。
この時のボーマンの姿は、400万年前に敵対する群れから水場を奪い返したあの猿人と重なる。
これにより、彼はモノリスから「知恵を持った人間」として認められ、木星探査の真の目的を告げられるのだ。
(フロイド博士からのメッセージ映像を流したのも、モノリスの意思だろう)

モノリスに導かれ、ボーマンはある部屋に連れて行かれる。
現在、ノルウェー領のスヴァールバル諸島には、世界中の農作物種を冷凍保存するための「世界種子貯蔵庫」が設置されているが、ボーマンが来た部屋もきっと同じ目的(=種の保存)のためにあったのだろうと思う。
だからこそ、モノリスとしては、より知能の高い人間を選ぶ必要があった。

この部屋で、ボーマンは残りの人生を過ごす事になる。
ただし、部屋の中に流れている時間が、地球上の1分1秒と同じだとは到底考えられない。
カメラが切り替わった途端にボーマン船長がいきなり老けるのも、地球とはまるで違う時間が流れている事を示唆しているのではないか。

やがて、ベッドに横たわる年老いたボーマンの前に、再びモノリスが現れる。
この時、木星に着いてから何年経っているのか、地球の現生人類はどうなっているのか、繁栄しているのか、絶滅の危機に瀕しているのか、それは全く分からない。
ラジオ番組の中で、トータス松本は「核戦争」の可能性について言及していたが、僕もその仮説に賛同する。
それこそ、モノリスが人類種を保存しておこうと考えた理由だろう。
そして、遂にその時が来たのだ。
(最初の感想でも言及したが、テーブル上のグラスが落ちて割れたのが、現生人類が危機的状況に陥ったサインだと、僕は考えている)

今回の考察の冒頭で、この映画のキーワードに「触れる」を挙げた。
劇中では直接描かれていないが、ベッドの上で手を伸ばしている事から、恐らくボーマンはこの時もモノリスに触れたのだろうと思う。
それによって、彼はスターチャイルドへと進化を遂げた。

この辺りも、僕がモノリスを道具ではなく、一つの意思を持った生命体だと考える理由だ。
仮に、モノリスが道具だとして、「果たして人間をスターチャイルドに進化させられるだけの能力があるのか?」、更にその能力があったとして「そこまで高度なものを作り出せる知的生命体が、そもそも道具などという副次的な物を作る必要があるのか?」という疑問がある。
つまり、「道具」という発想自体が既に人間レベルではないか、という事だ。
ほぼ万能と言っても良い存在者が、道具を作るだけ無駄な作業のように僕には感じるが…。

何れにせよ、こうしてスターチャイルドとなったボーマンは、再び地球へと返される。
その後、どうなるかは分からない。
果たして、新たな人類はどんな歴史を歩むのか…。
スターチャイルドは、人類を正しい歴史へと導けるのか…。

モノリスは、今度もただ黙って人類を観察するのだろう。
人間が動物を観察するように…。
あのラストからは、そんな印象を受けた。



いかがだったろうか。
人間の視点から見ると、不可解で脅威的なものにしか映らないモノリスの存在やHALの行動も、モノリスの視点から見れば全て理屈で説明できる事が分かってもらえたのではないかと思う。





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Last updated  2020.11.05 20:12:06
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