FFいれぶんのへたれな小説とか

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February 3, 2005
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 ジュノ共和国下層地域。
 ジュノは四層から構成される巨大な街であり、飛空挺乗り場から空に浮かぶ庭まである。冒険者が集い、経済の中心として栄える賑やかな街。その三層部分にあたる下層は、世界で最も人口密度の高い区画である。
 傭兵募集、バザーの押し売り、果てはテレポによる移動サービスまで、今日も様々な声が響き渡る。下層で仲間とはぐれたら探し当てるのに三日はかかる、なんて揶揄される通り、多種多様な人々の群集が所狭しと広がっていた。
 煉瓦を基調とした情緒溢れる町並み。通りに面する窓際にはいつも綺麗な花壇が飾られており、噴水が水しぶきを上げている。だが、そんな景色を眺められるほどタルタルの身長は高くない。目の前に見えるのはほとんどが誰かの足だ。四苦八苦しながらそれを掻き分け、彼は目当ての品物を探していた。
「あーもうっ、邪魔っ!」
 そんな抗議の言葉も、騒がしい街の音に掻き消されていく。
 彼がジュノに上京してきたのは、ほんの数日前のことだ。そして、それはもう色んな物に驚かされた。人の多さ、物価の高さ、異国の言葉、そして、知らなかったルール。
(・・・なんで戦闘で食事にまでこだわらないといけないんだよっ!)

 ジュノデビューをしてからの初めての冒険は、散々なものだった。
 冒険者はそれぞれの力量に合った仲間を探し、その腕を高めるためパーティを組んで狩りに出かけることが多い。顔見知りの仲間同士だけでは得られない様々な技術、体験をすることができるし、全国を飛び回る都合上、時間を合わせることが難しいためだ。国も種族も関係なく協力し合うその姿は素晴らしいものだとは思うが、色んな人と組む機会が多いということは、中には口の悪い人や性格の悪い人もいるということだ。
 彼が誘われるままに入ったパーティのリーダーは、口も悪ければ性格も悪かった。
 パーティのメンバーは皆冒険慣れをしている熟練者達だった。一口に冒険者といっても、その腕を決めるのは剣の腕や魔法、格闘や弓術など多岐に渡る。新たな技術や職を極めようとすれば、その練習相手も相応の敵が求められる。巨大な魔術で敵を一掃する黒魔道士が、剣だけで敵を倒すことが出来ないように。
 だが、熟練の冒険者は幾多の冒険で培った知識と経験がある。また、その懐も新米冒険者達より当然重い。ルーキーをそれとなく指導するのもベテランの役目だが、中には効率ばかりを追い求め、ただ非難するしか出来ない者もいる。
『あんた何考えてんだ?そんなもの食って、狩りをなめてんのか!』
 初めて訪れた狩場で待っていたのは新鮮な感動などではなく、そんな罵声だった。
 彼が修行中の魔道士にとって、食事も重要な要素だ。魔力の込められた食事は術者の魔力を高める効果がある。ただ効果が高いほど当然値も張り、新米の冒険者では簡単に手が出せるものではない。
 彼はそれでも挽回しようと奮闘したが、時折垣間見えるリーダーの蔑むような視線が変わることはなく、気まずい雰囲気のままパーティは終わった。

 それから数日間、彼は金策に励んだ。あの憎たらしい視線が忘れられず、半ば意地になっていた。
 そしてほんの少し懐が重くなった頃、別の人から狩りに誘われた。狩りの一回分くらいの食事代ならたまっている。彼は意気揚々と返事をした後、下層を駆け回っていた。
 人の集まる下層では、大勢の冒険者達がバザーを開いている。道端で開かれる露店には、高価な剣や魔法、そして食事など様々なものが売られている。
 肩で荒い息をつきながら、彼はようやく目当ての品を売る店を見つけることが出来た。
「ぜぇぜぇ・・・魔女の串焼き・・・をっ、5つっ!」
 ネムリタケと呼ばれるキノコの一種を火であぶり、味付けした焼き串は後衛である魔道士に好まれる食事の一つだ。魔力や集中力が上がり、また魔力の回復にも効能がある。
「ぜぇぜぇ・・・あれ?」
 しかし、露店の主はきょとんとして彼を見つめるだけだった。青い瞳をしたミスラの少女。その品札が、異国の言葉で書かれていることに彼はようやく気がついた。
「あー外国の人か・・・。アー、キノコ、ファイブ、プリーズ・・・」
 魔法学校で習った異国の語学授業を必死に思い出しながら、身振り手振りを交えて必死に説明する。パーティの連絡用パールからは急かすような言葉が聞こえてきており、彼の焦りを助長する。
(あーもう、面倒だから外国人は嫌いなんだよ・・・)
 彼の指差す姿を見てようやく合点が行ったのか、彼女はぽんと手を打ち、にっこりと笑った。そしてさらに何事かを喋っている。どうやら買い物への謝辞と世間話のようだ。
「あー、えー、急いでんの。ベリーファスト。オーケー?それにダース買うようなギルはないの、値引きしてもらっても。ノーマネーノーマネー」
 そう言って、串焼き5つ分のギルを取り出し、彼女に渡す。少し複雑な表情をした後、彼女はダース分の串焼きを袋に詰め、にっこりと笑って彼に差し出した。
「え?だからもうギルはないんだって。ノーマネー・・・ああもうっ、発音悪いのか!?」
 彼女はただ微笑んで紙袋を差し出すだけだった。彼はしぶしぶそれを受け取る。
「サービス」
「え?」
「ガンバレ、リトルボーイ」
 妙なイントネーションで、異国出身の彼女はそう言った。格好を見れば、彼が新米の冒険者だと言うのは一目で分かる。それは、ジュノで初めて出会った好意だった。
「・・・サンキュー」
 そう言い残すと、彼は複雑な面持ちのまま、パーティメンバーとの待ち合わせ場所へと駆けて行った。

 二度目の狩りは、順調に進んだ。
 誰も彼の食事を咎める者はいなかった。それを食べるのが普通だと、気にも留めない。
 雰囲気のいいパーティだったが、何か物足りなさを感じた。
 そして無難に仕事をこなし、パーティは終わった。

 実際、食事を変えた事により狩りは楽になった。劇的に、というほどではなかったが。冒険者として必要な知識を諭してくれたのだから、彼には感謝すべきなのかもしれない。・・・それには、だいぶ時間がかかるかもしれないが。

 そして冒険者としての腕も、財布の中身も、少しだけ成長した。しかし彼は小さな苛立ちを感じていた。人の事なんて考えないあのリーダーを、見返してやらないとどうしても気が済まない。
(初心忘れるべからず、そう言ってやらないと)
 そんな事を思案しながら下層を歩いていたときだった。どこかで聞いた甲高い声が、彼を呼び止める。
「ハーイ、リトルボーイ」
 すらりとした両足と、ふるふると揺れる尻尾が目の前にあった。ゆっくりと見上げると、いつかバザーをしていたミスラの少女が、同じように笑っていた。
「アー、ハロー。その節はどうも・・・」
 少しぎこちない笑みを返す。その表情を見て一瞬きょとんとした彼女だったが、すぐに笑みを浮かべ彼を抱きかかえる。
「わっ、ちょっ・・・こら、俺は愛玩動物じゃないぞ!」
「ハハ、少し強くなったみたいネ。リトルボーイ」
 じたばたと暴れるが、一向に彼女の腕を振り解けない。彼女が身にまとうのはモンクのアーティファクト―――熟練の冒険者の装備。
(ハァ・・・外国人ってスキンシップを気にしないというか、人の事も周りの目も気にしないというか・・・)
 嘆息して、脱出するのを諦める。彼は少し赤くなっていた。
「ワタシの料理、役にタッタ?」
「あー・・・うん、まぁ・・・」
 頬を指で掻きながら、答える。
「ヨカッタ」
 満面の笑顔。感情表現が豊かな彼女らは、見ていて少し羨ましくなる時がある。
 そして嬉しそうに、彼女は訊ねた。
「オイシカッタ?」
「え?」
 何故だか一瞬、何を訊かれているのかわからなかった。
 決まっている。魔女の焼き串。サービスまでしてもらった。だが、必要なのはどれだけ狩りに役立つかどうか。味なんて・・・気にも留めてなかった。
(・・・そうか)
 うつむく。彼女の顔を、見ることが出来ない。
(人のこと考えてなかったのは・・・俺だったんだ)
 戦闘用の食事といえど、食べる人の事を考えずに作る者はいない。少しでも美味しく、笑顔になれるように。
「・・・?」
 抱きしめられた腕の力が弱まり、彼はタイルの道へと下ろされた。やがて再生される街の雑踏。
 垣間見えた彼女の顔は、きょとんとしていた。
 とんとんと、彼女の足がリズムを取る。逃げ出したくなる気持ちがあったが、足が動かない。
 なんとか謝ろうと思った。だが、こんな時に彼女の国の言葉で、なんと言えばいいのだろう。
 やがて靴音がとまる。やがて、ぽんと手を打ち合わせる音。
「オー、ウマカッタ?」
「へ?」
 思わず、見上げる。視界に広がる、相変わらずの笑顔。
「・・・ドウシタ?」
 多分、ひどい顔をしていたんだろう。慌てて両手で顔を拭い、ぶんぶんと手を振る。
「アー、えーと、キノコ、デリシャス。ベリーベリー・・・」
 照れ隠しに、一気にまくし立てる。そして、思わず背を向けた。
 刹那の静寂。
 色んな思いが頭を駆け巡る。多分、顔は真っ赤だ。
「オゥ!」
 やがて響き渡る、能天気な声。再び高くなる視界と、暖かな腕の感触。
 一瞬、青い空が見えた。
「サンキュー!リトルボーイ」
「ちょっ・・・!だからやめろって!」
 腕の中でくるりと反転させられ、抱きすくめられる。ため息をつき、抵抗を諦める。
「・・・サンキュー」
 小さな声で、呟くように。その声が届かなくとも、構わない。
 初めてジュノで、笑えたような気がした。

 今日も賑わいを見せるジュノ下層。
 様々な声が飛び交う。国境も、種族も、目的も、様々に。
 本日も、ジュノは快晴。
 そんな街の声が、少し小さくなる場所がある。新米の冒険者が、憧れと共に初めて踏み入れる、街の入り口。
 そこにある古い看板には、こう書かれている。
 ようこそ、ジュノへ。新たなる冒険の、始まりの街へ。





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Last updated  February 4, 2005 12:36:20 PM
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