小説 こにゃん日記

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act.16『ねんねん』



おいらの寝床は、桃が昔使っていた、籐で出来たクーファンだ。
クーファンてなんだって?
赤ちゃんを、寝かせながら運べる、籐かごのようなベッドだ。
桃は、おいらと寝るといっていたけど、
ママが、まだおいらは小さいから、寝相の悪い桃につぶされちゃうから駄目だって。
初めてこの家に来た日、おいらをどこに寝せようかとママが悩んだとき、
ちょうど目の前に、桃のぬいぐるみがいっぱい詰まったクーファンがあった。
 『桃ちゃん。これ。猫ちゃんのベッドにくれる?』ママが桃にすまなそうに聞いたとき、桃はにっこり、
 『うん。いいよ!』と、いってくれた。
 『猫ちゃんのかわりにね。桃、ほかの子たちと寝るよ。』
そうして入っていた、たくさんのぬいぐるみたちを、自分のベッドに寝かせはじめた。
ママはそれを見て笑った。
 『桃ちゃんの入るところが無くなりそうね。』
それから、おいらと桃にお話してくれた。

 『桃が少し大きな赤ちゃんになって、もうクーファンは小さくなったから、そこに桃のぬいぐるみやおもちゃを入れてたの。
ある日、桃ちゃんが一人で機嫌よく遊んでいたから、ママはそっと桃を部屋に置いて、台所にお昼ご飯をつくりにいったの。
しばらくして戻ってきて、部屋をあけてみたら桃ちゃんがいないのよ。
ママは部屋をぐるりと見渡したわ。
部屋の窓は締めてあるし、ふすまも、ママの入ってきたドアも閉まっていた。
ベビーベッドは空っぽだし、桃一人では入れない。
その時、ママは桃がクーファンの中に、ぬいぐるみたちに囲まれて、丸くなって眠っているのに気がついたの。
なんだか、桃ちゃんまでぬいぐるみさんみたいだったわ。』
桃は、その話を聞いて大喜びだった。
 『ぬいぐるみの桃ちゃん!』と、はしゃいでいた。
 『猫ちゃんも、ぬいぐるみと一緒に寝せようよ。』桃は言ったけど、おいらは、胡散臭い思いでぬいぐるみのにおいを嗅いだ。
モコモコしててあったかそうだけど、なんだか怪しい奴らだな。
おいらはその夜、クーファンの中、小さなお布団で眠った。
小さなお布団は、黄色とピンクのチューリップ模様で、なんだかミルクのにおいがした。

今夜もおいらはそのお布団で寝る。
ママがお布団をぽんぽん叩いて呼んでいる。
 『おいでこにゃん。今日は風邪が早く直るように、湯たんぽを入れてあげたから。』
お布団はぬくぬくしてて、何か丸いものがタオルに包まれて入っている。
おいらはふんふんにおいを嗅いだ。
やっぱり甘いミルクのにおいがした。


act.17 『イチゴとおっぱい』  に続く







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