小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.18『おいらの冒険』



桃のうちに来てから1週間。
おいらはすっかり元気いっぱいだ。
おいらは窓のところで、のんびり日向ぼっこしていた。
すると、目の前をさっとよぎった影がある。
すずめだ。
すずめたちはちゅんちゅんと、家の前の道に舞い降りた。
前の道は石ころがたくさん敷き詰めてある。
その石ころの間に何かいるのかな?
すずめたちは、しきりとくちばしで、あっちの石の影、こっちの石の影と、急がしそうにつついている。
おいらのしっぽが、ゆっくり左右に揺れ始めた。
おいらのおひげもぴんぴんになる。
 あぁ~すずめ狩りがしたいよお。
でも、窓には硬いガラスが入っている。
おいらがガラスに顔を寄せると、おいらの吐く息で、ガラスは白く曇った。
 『こにゃんどいてどいて~。』
ママが洗濯物を両手に抱えて、窓をガラリと開けた。
おいらはするりとお家から抜け出した。
ママが後ろから何か叫んでいたけど、ちょっと待っててね。
おいらすずめ狩りに行くんだよ。

おいらがひらりと、窓から身軽にとび出すと、
もうそこには、すずめたちは一羽もいなかった。
どこへいっちゃったのかな?
おいらは空を見上げてみた。
居た!5軒先のおうちの軒の端でちゅんちゅんいってる。
おいらは、そっちに向って走っていった。
すずめたちはおいらをからかうみたいに、おいらがその家にたどり着いたとたん、ぱっと飛び立った。
 まてまて~。
おいらは、塀の上に飛び乗ってその後を追う。
でも、すずめたちはたちまち見えなくなった。
 つまらないの・・・。
おいらは塀からひょいと飛び降りた。
そのままとぼとぼ歩いていると、車が一台止まっていた。
おいらはそこにもぐりこんだ。

 ここで、ちょっと一休みしようっと。
すると、タイヤの影からひょっこり子供が顔を覗かした。
 『あっ!猫だ!』
そうしたら、もう少しおっきい子供が
 『どれどれ?あっ!子猫だ。』と、おいらに向って手を伸ばした。
 『来い来い・・・猫。』
おいらはじりじりとあとずさった。
 『駄目だ。猫でてこないよ兄ちゃん。』
小さい方の子供は、しゃがみこんでおいらとにらめっこしてた。
 『いいもんがある。そこどきな。』
大きい方が、何かをおいらに向って転がした。
白いものがコロコロ転がってきた。
 『あっ!それ、ぼくの野球ボールだよ。』
 『まあ。おとなしく見てな。』
野球ボールはコロコロと、おいらの目の前を転がっていく。
おいらのしっぽの先がうずうずした。
おいらがボールを追ってぱっと飛びつくと、大きいのがおいらをぱっと掴みあげた。
 『つ~かまえたっ!』
 『兄ちゃん、ぼくにも見せてよ。』
 『あっこらっ!さわんなよ、俺が捕まえたんだぞ!』
 『見つけたのはぼくだよ。』
大きいのと小さいのが、おいらをあちこちつかんで引っ張った。
 やめろよ、おいらは物じゃないんだぞ!
おいらは大きいのを引っかき、小さいのに猫キックして逃げ出した。
 『あっいてぇ!』
 『兄ちゃんの馬鹿!猫逃げちゃったよ!』
 参ったか、おいら強いんだぞ!

おいらは意気揚々と、しっぽを旗のように立てて、早足で歩き出した。
 すずめには逃げられちゃったけど、おいら、おっきいのと小さいのに勝ったよ。
 戦いが終わったら、おいらお腹がすいちゃった。
 はやくママのところへ帰ろうっと。
おいらは道の角を曲がった。
 この角を曲がるとおいらのお家だ。
ところがおいらが着いた先には、何もない空き地が広がっていた。
空き地は、棘棘だらけの固い紐でぐるりと囲まれていた。
風がひゅうひゅう吹いていた。
 ここはどこなんだろう。
 おいらのお家はどこへ行ってしまったの?
風はぴゅるるる答えてくれたけど、おいら風の言葉はわかんないよ。
おいらは叫んだ。
 桃~っどこ~っ?ママどこ~っ?ママ~ママァ~~~っ!
風は変わらず、ひゅうひゅうぴゅるるる吹いていた。


act.19『キジ猫大将』  に続く






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