小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.28『満月』



今日は満月だ。
おいらはのんびりお月見していた。
おいらがいるのは台所の出窓。
窓はすりガラスだけど、今日は網戸になっていて、甘い花の香りのする夜の風も入ってくる。
おいらがお月見するにはぴったりのところだった。
窓のすぐ前には1本の樹。
おいらのうちの屋根に届きそうな高さだ。
まるでその木の枝にぶら下がった大きなはっさくみたいな月が見える。
おいらはぶらぶらとしっぽを揺らし、お月様ってすっぱいんだろうか、それとも甘いのかなって考えてた。

そしたらお月様の上にひょいっと白い猫が座ったんだ。
おいらが思わずしゃんと座りなおすと、今度はお月様の下に黒い猫が現れた。
おいらパチパチと瞬きした。
忍者猫じゃないか。
『よお。こにゃん。』
忍者猫はおひげをぴんぴんさせてなにやら張り切ってる。
『おまえ今夜ひまか?』
暇・・・?暇なのかなあ?
桃はもう寝ちゃったけど、まだパパは帰ってこない。
おいらパパにお帰りのスリスリをしてあげなきゃ。
でもさっきママが、パパは今日は遅くなるよって言ってたんだ。
おいらは大きなあくびをした。
ママが、
『こにゃんてば。いつかお顔がひっくり返っちゃうよ。』と言うくらい大きなあくびだ。
『う~ん。おいら暇かも。』
おいらがそういったら忍者猫は急にひそひそ声になった。
『ちょっと抜け出せないか?』
おいらのお耳がぴんと立った。
抜け出す?お家を?どうして?どこに行くの?
おいらの頭にはハテナがいっぱいだ。
『今夜は集会があるんだよ。お前にもここいらの猫を紹介してやるよ。』
忍者猫の言葉においらはぴょんと立ち上がった。
『行く!』
猫集会はいっぱいの猫が集るんだ。
もしかしたら・・・ひょっとしたら・・・おいらを生んだママ猫に会えるかもしれないじゃないか!

おいらは網戸に頭を低くして体当たりした。
でも網戸はガタガタと音を立てて揺れただけ。
おいらは勢いをつけてもう一度ぶつかろうとした。
『待て待て。そんな大きな音を立てたら、家の人に気づかれちゃうだろ。』
忍者猫はそういうと、枝から窓のひさしにぴょんと飛び乗り、そこから上半身をぶら下げ、網戸に爪をかけて器用にするすると開けちゃったんだ。
ほんとに忍者みたいだなあ。
おいらはワクワクしてたまらなかった。
夜の外出なんて急に大人になったみたい。
おいらは白猫のいる枝に飛びついた。
後ろ足がずるっと枝から落ちかけたけど、後ろから忍者猫が飛んできて、おいらをすばやく捕まえてくれた。
『ありがとう。』
おいらはへへへと笑って見せた。
さあ。早く行こうよ。
白猫がひらりと枝の向こうにある塀に飛び乗った。
塀の高さは枝と変わらないけど、少し遠いかな?
おいらは今度は失敗しないように、思いっきり枝を後ろ足でけって塀に向ってジャンプした。
『まてっ!』
忍者猫が押し殺した声で小さく叫んだけど、おいらは待ちきれなかったんだ。

おいらのジャンプは今度はさっきより大きく出来た。
出来すぎちゃった・・・。
おいらはそのまま塀を越えその向こうに飛んでいた。
一瞬の浮遊感。
それから体が急に引っ張られるみたいにぐんと落ちてゆく。

 ぼっちゃ~~~ん!!

おいらは塀の向こうの川に、見事に頭から落っこっちゃったんだ。


act.29『菜の花とお月様』  に続く






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