小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.31『綿菓子猫』



おいら達がついたのは小さな公園だった。
おいらブランコやすべりだいを見て、思わず立ち止まっちゃった。
そこはおいらが捨てられてたところじゃない。
それはわかってたんだけど。
でもね。
おいら公園って嫌いかもしれない。

公園に入ると、おいらドキドキした。
猫集会って何をやるんだろう?
おいらがそう聞いたら忍者猫は、
『別に何もしないさ。』だって。
『この辺の猫だって、みんなに顔を見せとけばいい。』
そういって忍者猫は公園の樹の上によじ登って行ってしまった。
しま姉さんは花壇の花を味見している。
白猫はいつのまにかどこかへ消えていた。
おいらちょっぴり心細くなった。
月の光が公園のあちこちにいる猫たちを照らしていた。

おいら土管の上にいる、長くて白い毛皮の雌猫のところへ行ってみた。
近くで見ると、まるで綿菓子みたいな猫だと思った。
ふわふわしていて甘くて美味しそう。
おいらがトロンと見ていたら、灰色っぽい毛皮の猫にお尻をカプって齧られた。
 うにゃッ!
おいらびっくりしたよ。
『いつ見てもグラマーだよなあ。お付き合いしたいなあ。』
おいらを齧った奴が綿菓子猫を目を細めてみていた。
『痛い!』
おいらが文句言っても、灰色猫はちっとも聞いてない。
『駄目かなあ。ライバル多いもんなあ。』
そこへ、黒くて足の先だけ白い猫がやってきてた。
『どけどけ!邪魔だ!』
黒猫はでっかかった。
背中でどんと灰色猫を押しのけた。
灰色猫はよろよろっとしりもちをついた
『なにすんだよ!』
灰色猫は言ったけど、黒猫にひとにらみされると、こそこそとおいらの後ろに隠れようとした。
おいらの倍くらいの大きさの猫が隠れられるわけはないのに。
『なんだぁどちび!お前も勝負する気か?ええ?』
おいらブルブルしちゃった。
逃げたかったけど、灰色猫にしっかりしがみつかれていて、おいら動けないよ。
そうしたら綿菓子猫があぁふうってあくびしたんだ。
あくびまでふわふわしてる。
『やめなさいよ。まだ子供じゃない。』
綿菓子猫はハチミツみたいな声で言った。
『ぼうや。来年になったらいらっしゃい。』綿菓子猫は言ったけど、おいら来年まで待てないよ。
そう言ったら黒猫が、おいらにふううって唸ったから、おいら背中の毛がぴんぴんになっちゃった。
綿菓子猫は真ん丸い眼でおいらを見て、いきなりコロコロ笑い出した。
『こっちいらっしゃい。』
綿菓子猫が言ったときの黒猫の眼は、まるでおいらを食い殺そうとしているみたいに見えた。
おいら後ずさりしようとして、灰色猫の背中の上をコロンと転がって地べたに頭からおっこっちゃったよ。
黒猫がさっと飛びかかってきて、おいらのおなかをぎゅううって踏みつけた。
助けて・・・おいらは綿菓子猫を見たけど、ただ黙ってあくびをしただけだった。

『やめなさいッ!』
なんだか聞き覚えがある声がリンと言った。
黒猫がおいらの上から足をどけたので、おいら急に息が吸えるようになってごほごほと咳き込んだ。
涙がにじむ目で見上げてみると、そこにいたのはあのトラ公・・・綺麗なトラ猫だった。
『こんな子供になにをしようっていうの!?』
でっかい黒猫がなんとかして体を縮めようとしているみたいに、しょんぼりうなだれていた。
そこへ忍者猫が飛んできた。
『おい。こにゃん大丈夫か!』
そしてオロオロとおいらのおなかを舐めたり、背中の下に鼻を押し込んで起こしてくれたりした。
『あんたも、連れてきたんならちゃんと面倒みなさい。』
トラ猫は忍者猫にビシビシと言った。
『いや・・・その・・・こいつはまだちびだし・・・喧嘩を売る奴なんかいないと思って・・・。』
忍者猫はもごもごと言った。
『おいら大丈夫だよ。』
おいらまだおなかが痛かったけど、がまんして元気そうにしゃんと立ち上がった。
忍者猫にこれ以上迷惑かけられない。
トラ猫はおいらを見て鼻の頭にちょっとしわを寄せた。
少し笑ったのかな?
こんな騒ぎの中でも、相変わらず綿菓子猫は退屈そうに眠そうな目をしていた。
トラ猫はおいらに、
『こっちにいらっしゃい。』と優しく促した。
でも、おいらまだ用事があるんだよ。
『あの・・・。』
おいらそこにいるトラ猫、忍者猫、綿菓子猫、黒猫、灰色猫に向かって言った。
『おいら猫探ししてるんだ。』


act.32『おいらのママ猫知りませんか?』  に続く






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