小説 こにゃん日記

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act.34『月猫』



緑ヶ丘公園の入り口で、おいらはふと立ち止まった。
高い高いイチョウの樹。
あの時は丸裸だったけど、今は緑の葉っぱがふさふさと茂ってる。
花壇には黄色い目をした赤紫のパンジーが、一列に行儀良く並んでる。
月の光の中でさえ、あの時、おいらが拾われた寂しいところとは、ぜんぜん違う明るいあたたかいところに見えた。
本当においらここで拾われたんだっけ?
おいらが立ち止まったまま動かないでいると、おいらの後かついてきた猫たちは、そこで詰まってぎゅうぎゅうおしくら饅頭みたいになった。
『なんだ。なんだ?ここじゃないのか?』
おいらは公園に入る。
ぐるりと見渡せば、見覚えのあるブランコ。
鳥かごみたいなぐるぐる回る乗り物。
木の下の白いベンチ。
確かにおいらの記憶にある公園だ。

『ここがそうか。』
黒猫がおいらを見た。
おいらはうんとうなずく。
『問題は捨てた人間がどこから来たかだな。』
忍者猫がう~んといいながら、ゆらゆらとしっぽを振った。
『おいちび、どっからきたんだ?』
おいらは何にもおぼえちゃいない。
おいらがそういったら、黒猫は、ボリボリ後ろの耳を掻きながら、
『これだから、ちびは・・・頭ん中までちびだな。』という。
おいらのひげがしょんぼり垂れた。
『この公園を中心にして、手分けして探しましょう。』
トラ猫がおいらに優しく額をすりよせた。
トラ猫が黒猫にフウッて少し唸ったら、黒猫ってば、あわてたように目をそらした。
それから、みんなを二匹ずつに分けて、探す場所もちゃんと分けた。

トラ猫は、綺麗なメス猫で、いばったりしないし、優しいけど、やっぱりボス猫だなあ。
みんな真剣な顔をして、ちゃんと聞いている。
忍者猫は、おいらにウインクして見せて、しま姉さんとひらりと消えた。
黒猫は、がりがりにやせた赤猫をしたがえるようにして、公園を出て行った。
無口な白猫は黙ったまんまで、カツラ猫と肩を並べて行く。
白黒猫も、三毛猫も、シャム猫もおいらのママ探しに出動だ。
みんな、みんな、ありがとう。おいらもがんばるぞう!
おいらもあとについて、とんでこうとしたら、トラ猫に止められちゃった。
『あたしと一緒にここに残りなさい。』
 なんで?なんで?おいらのママ猫探しだよ?
『みんながね。子供を失くした母猫を連れてくるから。』
トラ猫はそういったけど、おいらは、早くママに会いたくて、すぐにとんで行きたかったんだ。
『せっかく連れて来ても、あんたがいなきゃ、こにゃんのママか、わからないでしょう?』
おいらの目がしぱしぱした。
しっぽの付け根もちくちくした。

ここはおいらが捨てられた公園。
お月様は真ん丸で、まるで金色の猫の目みたいに見えたんだ。

 お空の上からなら、ママが見えるかな?
 ママ、ママ、おいら早く会いたいよ。
 おいらのお眼目が溶けちゃう前に。
 おいらのしっぽがとれちゃう前に。
 お願い月猫。
 おいらのママを探してよ。

act.35『悪い猫』  に続く





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