小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.39『となり町』



おいらとトラ猫は、いつの間にか、隣町まで来ていたようだ。
急にトラ猫の歩き方が変わった。
今まではしっぽをピンと立てて、軽やかに歩いていたのが、しっぽを水平に、背中も平らにしてすべるような動きになる。
時折立ち止まって、耳を立て、空気の中の匂いをかぐように、鼻を空に向けてぴくぴくと動かす。
そうして用心しながら、猫の匂いの薄いところを歩いていても、突然この町の猫に出会うこともあった。
そうするたびにおいら、落ち着かない気分で、トラ猫のはら毛に体をすりよせ、プルプルした。
おいら別に恐かったわけじゃないぞ。
これは武者震いという奴だ。
トラ猫は無表情に、ことさらゆっくりと、出会った猫の前を通り過ぎていく。
出合った猫は、知らん振りしている事もあったし、おや?と不思議そうに見ていることもあった。
トラ猫がメス猫だったのと、まだおいらが大人猫じゃないから、親子猫に見えたのかな?
おいらたちが隣町の猫だと気がついたら、トラ猫がボス猫だとばれたら襲ってくるかな?

おいらはぺろりと熱くなった肉球を舐めた。
『疲れたのこにゃん?』
トラ猫が心配そうにおいらを見ている。
『ううん!おいら元気だよ!』
ほんというと、さっきから肉球がひりひりと痛かった。
こんなに歩き回ったのは初めてだ。
いつもはあんまりおんもに出ないから、おいらの肉球は柔らかいままなんだ。
それに、さっき公園でトラ猫に抱かれて、ついうとうと眠っちゃったけど、こんなに起きているのも初めてだ。
おいらはふらふらする頭をプルリと振った。
『ごめんなさい。うっかりしていたわ。』
トラ猫は、おいらの大丈夫だと言う言葉を聴いていないみたい。
『一度、家に帰したほうが良いかしら?』
そんなことまで言い出した。
やだよ。やだよ。せっかくここまできたのに。
もうすぐママに会えるかもしれないのに。

おいらがもう一度、トラ猫に大丈夫だと言おうとしたとき、急にトラ猫が跳ね上がって振り向いた。
背後から低い唸り声が聞こえてきた。
『これは、これは・・・トラ公じゃないか!』
おいらの毛が一本一本逆立っていく。
塀と塀に囲まれた狭い路地裏。
背後にたっていたのは、背骨が見えるほどひょろりとやせた黄色い猫と、灰色であちこちに噛み傷禿のある大きな大きな猫だった。


act.40『喧嘩』  に続く






© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: