小説 こにゃん日記

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闇の取引




『オイ話が違うぞ!』
低く恫喝する響きで太った男が唸った。
『手に入れろといったのは金のはずだ。これはただの銀じゃないか!』
『それしか手に入らなかったんだ。』
恫喝された痩せた男はおどおどと、無意識に自分のポケットに手をやった。
『おい。』
にやりと痩せた男が痩せた男の手を掴んだ。
『そのポケットの中を改めさせてもらおうか。』
痩せた男はとたんに、じりじりと後ずさりする。
『待ちな!』
くるりと走って逃げようとした痩せた男の腕を、太い指が捉えねじりあげる。
もう片方の手が、痩せた男のポケットの中に突っ込まれた。
『や、やめてくれ・・・。』
半泣きになりながら、痩せた男が太った男の手に渡ったものを取り返そうともがいた。
太った男は、自分の手の中にあるものを見ると満足げにうなずいた。
『銀が六っつか・・・金じゃなかったのは残念だが、これさえあれば。』
『ま、待ってくれ!そ、それをとられたら俺は・・・。』
必死で痩せた男は、太った男の脚にすがりついた。
太った男は、こともなげに痩せた男を蹴り飛ばすと、一つだけ銀を男に投げてよこした。
『それはお前の取り分だ。』
『そ、そんな・・・手に入れたのは俺なのに・・・。』
がっくりとうなだれた痩せた男を尻目にして、太った男は意気揚々と口笛を吹きながら郵便局へと向かって行った。
この銀で物と交換できる。
だがぐずぐずしていれば、強力な追っ手がかかるかもしれない。
早く手配を済まさねば・・・。
数日後、無事、問題の物は太った男に届けられた。
だが、それは太った男の手には入らなかった。
『武!また弟のものを勝手に取ったわね!』
男の母親が悪鬼の顔で、7歳の息子の手から物を取り上げたのだ。
『ごめんなさい~ごめんなさい~。』
お尻を叩かれている兄の後ろで、弟が幸福そうにおもちゃの缶詰を手にしていた。

*教訓 天使はよいこの見方です。








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