小説 こにゃん日記

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星を統べるもの4


やわらかくて、あったかくて、とくとくと眠気を誘うリズム。

へっ?
俺の枕には、心臓はついていないはずだが。

俺は開かない目を無理にこじ開け、腕の中で羽交い絞めしていた枕を、至近距離でぼんやりと見つめた。
『おとーさま。苦しいよ。』
枕がしゃべった。

『うわわわわっ!』
顔から、ほんの5センチほどの距離にあるものに気がついて、俺は腰を抜かしかけながら、ベッドの隅にまで飛びのいた。
天使が、ばら色のこぶしで目をこすりながら、ふああと可愛らしくあくびを洩らした。
肩まで垂れたやわらかそうな巻き毛、透き通るような白い肌。桃色に色づいた唇。
夏の空のような青い瞳。
身にまとって見えるのは、少し大きめで、肩が半分ずり落ちかけた白いTシャツだけだ。
ほっそりとした腕や脚が、惜しげもなくそこから伸びている。
天使は、にこりと笑うと、四つんばいになって俺に迫ってきた。
Tシャツの胸元から、わずかに膨らみかけたものが覗いて、俺はあわあわと、思わず自分の体に布団を引き寄せ、それを防波堤にしようとした。
ずるりと滑った布団の下から、もう一人の天使が現れた。
むにゃむにゃと寝言を言いながら、無意識にだろう片手で布団を探している。
見ていると芋虫みたいに、くるんとシーツを体に巻きつけて、また眠りの世界へ行ってしまった。
どうやら、少なくてもこっちは、いきなり襲いかかってくることはなさそうだ。

『おとーさま。大丈夫?頭痛くない?』
天使が心配そうに、俺を覗き込んだ。
『一体どうなってるんだよ?』
頭痛てぇ。俺はガンガンする頭を抑えた。胸もむかむかする。
まるで二日酔いだ。健全少年の俺様には経験はないが。
ここが自分のベッドじゃなかったら、遠慮なく吐いていたところだ。
『あれ?ここって俺の部屋だよな。じゃあ今までのは夢?』
天使はきょとんと首をかしげた。
『・・・って、ことはなさそうだな。』
俺はがっくりとうなだれた。
『おとうさま。オーバーロードしちゃって、いきなり気を失っちゃうからびっくりしたわ。』
『オーバーロード?』
『暴走しそうになった自分の力を、無理やり引っ込めたでしょ?』
『ちょい待ちっ!』
突然、学校の屋上での記憶が戻ってきた。
『お前たち、岸本と石田をどうしたんだ。まさか・・・。』
『あの人間たちなら、おとうさまが守ったじゃない。』
天使はぷんと膨れて見せた。
『おとうさまを危ない目にあわせたんだもの。お仕置きしようと思ったのに。
とっさに、私たちの力を撥ね返したのはおとうさまでしょ?』
どうやら二人は無事らしい。
『屋上が半分ばかり崩れちゃたけど。』
ほ、本当に無事なのか?

『お前たちは何なんだよ?』
そして、俺は何なんだ?
俺の中から溢れてきたあの力は何だったんだろう?
『私たちは、サタアン星からの留学生。この星の王の下で教育を受けるためにやってきたの。』
天使たちは、どうやら悪魔の星からやってきたらしい。
『エイリアンが地球留学?だったらエリア88とかにいけよ。』
確か88だったよな?009はエイリアンじゃなくてサイボーグだし。
親父の鼻歌によると、伊代はまだ18だそうだ。
『えりあはちじゅうはち?夏も近づく八十八夜?』
『茶摘歌じゃねえ・・・って、どうしてそんなこと知ってるんだ?』
天使は、小さな耳たぶについた、真珠色のピアスをくるりと回した。
『これが、翻訳機兼、地球の情報をいろいろ教えてくれるの。』
翻訳のほうはともかく、情報としては、役に立っているのか?
『私たちは、茶畑ではなく、王のいるところにいる。』
それから、俺をきらきらと星のような目で見つめる。
『う~ん。だったら、総理官邸?いや、ホワイトハウスかな?いやいや国連が・・・。
と、とにかく、俺には関係ないから。』
俺はじわりと背中に汗をかいていた。
なんだか嫌な予感がする。そして、俺の予感って言うのはめったに外れないのだ。
『おとうさま。あなたがこの星の王なのよ。』




『星を統べるもの』5 に続く








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