メートル・ド・テル徒然草

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エルネスト1969

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Jul 20, 2005
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 現代のフランス料理店、特にグランドメゾンと呼ばれる高級レストランにおけるスタイルの各所には、16世紀から18世紀にかけての貴族社会の慣習を模倣した要素が数多く見られる。店内の内装しかり、レストランにおける組織運営の方法しかり。
 フランス料理店の敷居を上げてしまっている、「マナー」だとか、「エチケット」といわれる部分にも貴族社会の習わしに源を発する物は多い。
 そのひとつに「ワインのホストテイスティング」がある。ホストといってもヒロシや北新地にたくさんいる職業の人の事ではない。会社の接待での利用なら招いた側の方、ご家族ならご主人、男女のばあいならほとんどは男性のケースが多い。

 ワインを注文すると、最初に恭しく10ccほどがグラスに注がれ、お客様にお味見をして頂くという、フランス料理店ではよく見かける光景のことである。大体ワインを注文した時だけに見られる行為で、あんまり日本酒とかで注いで良いかどうかを尋ねたり、ましてビールなどで味見をしているのをみた事は無い。

 実はこのホストテイスティングも貴族社会の習わしであった。中世から以降に成立した貴族社会といっても華やかなばかりでなく、暗殺や謀反などが度々ある物騒な時代でもあった。

 例えば、ある貴族が他所の貴族を招いて会食の宴を開いたとする。招かれた方もこの間まで戦争をしていたり、不穏な空気の流れる仲どうしだったりすると、もしかして宴の席でワインに潜まされた毒薬によって殺されるかも知れない。
 そこで、招いた側は「この場で振る舞うワインは安全ですよ」、「同じボトルから注がれたワインを一緒に味わいますよ」、ということを敢えて証明するために最初の一口は自らが飲み、「おすすめするに相応しい味だ」という名目で皆に振る舞った。
 また、もう一つには、昔のワインは密閉性をよくするためにボトルの口の部分には少量の油が流し込まれていたという説もある。最初の一口は美味しく無いので、ゲストに提供するには失礼だという事でもあったらしい。

 レストランにご来店されたお客様のホストの側の方に、テイスティングをお願いしようとして、
「あ、あちらの方がお客様だから、お客様のお好みを伺って」
と、ゲストの方にテイスティングをして頂くようにうながされる場合がままあるが、そう言う意味で始まった事なので「マナー」としてはホントの所は間違いかも知れない

 そういうわけで現代ではこの「ホストテイスティング」、非常に儀式めいた意味しか持ち合わせなくなっている。しかし無ければ無いで何となくワインを飲む気分が盛り上がらなかったりするので、やっぱり今日もあちこちのフランス料理店でテイスティングは行われている。





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Last updated  Jul 21, 2005 12:23:24 AM
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背番号のないエースG @ チョコレート 「風の子サッちゃん」 ~ Tiny Poem ~…
坂東太郎G @ 「辛味調味料」そして考察(01/16) 「石垣の塩」に、上記の内容について記載…
エルネスト1969@ Re[1]:ホスピタリティは「人」ありき(10/04) はな。さんへ コメントありがとうございま…

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