メートル・ド・テル徒然草

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エルネスト1969

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Jan 21, 2014
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 料理の世界に携わって、今年で25年になりました。

 25年のうち、ほとんどがフランス料理店での勤務です。専門学校を卒業して、料理人としての仕事が1年余り、その後ずっとサービス畑です。

 約5年、日本料理のお店にお世話になっておりました。食事というものの、普通に毎日毎日行われている行為であっても、背景にある文化は様々な要素が絡み合って大きく相違を見せます。

 まだまだ、私も若手と呼ばれていた1990年代の頃、誰しも想う事なのでしょうが、さて、フランス人ではない日本人が作るフランス料理とは、果たして「本物」なのだろうか、という自身への問いかけです。
 近年になって、日本にミシュランがやってくると、幾人かの料理長は「フランス人に日本料理がわかるめぇ。」的な感覚で拒否感を露わにしました。同じ感覚が日本でフランス料理を懸命に拵える料理人に劣等感をもたらしていました。

 ある日、一冊の本に出会いました。玉村豊男さんの「グルメの食法」という食に関わるエッセイ集です。

 この中に、「日本料理とフランス料理では、食に対峙した時の感性がまるで違う。日本料理の良さとされるのは『意識の拡散』であり、フランス料理のそれは『意識の集中』であり求められるものが正反対に違うのだ。」と。

 なるほど、当時20代の私にとっては、目からうろこでした。ビガンっ、と来る感じです。正に。

 それぞれ高級といわれるレストランになればなるほど、その目的は顕著に現れます。

 先ず空間。高級日本料亭では各お客様のグループそれぞれに個室が用意されます。フランス料理では、ダイニングはパブリックなスペースで、何十人もの人がその空間で共に食を愉しみます。

 料亭の個室には、床の間があり、画や書の掛け軸が掛けられている。客人は料理もさることながら、目でも楽しませられます。

 食器がさらに異なります。日本料理では、漆器あり土物あり、お酒を楽しむ猪口などは銘銘全く異なるデザイン、形状であったりします。

 様々に趣向を凝らして気を散らしているのです。料理に強く意識が向かないように施す。これが「意識の拡散」です。

 一方、フランス料理は現代でこそ変化をしておりますが、当時は真っ白な磁器の皿、料理によって大小の違いがある程度で変化を乏しくさせ、その分皿の上の料理に技法を凝らしていました。コースの組み立てもロジカルで、メインディッシュからデザートに向かうクライマックスの為に、オードブル、ポタージュは用意されるべき一皿でなければなりませんでした。

 コースはその名の通り、美食への「道筋」です。しっかり食べた、という感覚をもたらせる為のにシェフはコースを組み立てることが、先ず、且つ最も重要な技術でした。

 料理、一皿の上に「意識を集中」させることがフランス料理の使命でもあるのです。

 極上の料理に対しての人々の評価の仕方の違いも大変興味深いです。

 日本料理はとにかく、脂の乗った魚介類や、サシのたっぷり入った和牛を食した後でも、
「あっさりしてて、美味しかった。」
というのが最高の評価の言葉と思われています。

 フランスでは、記憶に残る料理を使ってくれた、風味も濃くて抜群であったことを、
「上あごが爆笑する」ほど美味しかったと表現するそうです。

 食事に対する、「日本料理の意識の拡散」と「フランス料理の意識の集中」との文化・歴史の違いが、極上の食事に求めるものに差異が現れているのでしょう。

 とは言え、21世紀を迎えてから15年経つ昨今、現代では情報が溢れる中、洋の東西を越えた食文化はボーダレス化しています。そもそも、ヌーヴェル・キュイジーヌの時代には、日本料理の技法が、随分とフランス料理に取り入れられました。器も、同じ形状の物ばかりでもなく、硝子だったり、錫などの鋳物であったりと。

 高台寺 極 -KIWAMI- はその点において、「日本の拡散」と「フランスの集中」が共に楽しめるには相応しい空間です。足して2で割った、「和洋折衷」とは一線を画し、双方の「愉しみ」がふんだんに、贅沢に溢れています。

 壁面一面を覆う京都西陣織。描かれた花鳥風月は、床の間の掛け軸を愛でるような、そんな風流さの表れです。和の文化、茶室と同じくの丸窓は、西洋における「構築の美学」では見られない「切り取りの美学」。カウンターからは窓の外、四季折々に姿を変える日本庭園が目を愉しませてくれることでしょう。

 高台寺 極 -KIWAMI- 、「極めつき」の食文化がここにはあり、その名に究「極」の名を配した所以がここにはあります。

高台寺 極 -KIWAMI-  カウンター






















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Last updated  Jan 21, 2014 05:50:33 PM
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Comments

背番号のないエースG @ チョコレート 「風の子サッちゃん」 ~ Tiny Poem ~…
坂東太郎G @ 「辛味調味料」そして考察(01/16) 「石垣の塩」に、上記の内容について記載…
エルネスト1969@ Re[1]:ホスピタリティは「人」ありき(10/04) はな。さんへ コメントありがとうございま…

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