がらくた小説館

マトリックス

   目が覚めたら病院のベッドの上だった。

 記憶を辿る。そういえば交通事故にあって…

 そんなことを考えていると、ふいに誰かがドアをノックして入ってきた。
 可愛らしい二十歳そこらの女の子だった。そして開口一番「良かった」と言って、泣きながら抱きついてきた。

 分けも分からずうろたえる俺。

 そして彼女は俺に抱きついたまま、服を脱ぎ、唇を這わしてきた。

 断る理由も見つからず、自然に身を任せることにした。ことが終わったところで俺は彼女に聞いてみた。  

  俺「どうなってるの?」 

 俺「貴方は私の命の恩人よ。だから…」

俺「そうか…思い出したよ。車に引かれそうだった君を、俺は…」

俺「うん。だから…」

俺「だから!?」

俺「違うわよ。それだけじゃないわ」

俺「君の気持ちが聞きたい」

俺「私はあなたに一目惚れしたのよ。だから…」

俺「信じるよ」

俺「大好き」

俺「これは神様がくれた送りものだね」

俺「ええ、でも痛かったでしょ…」

俺「いや、麻痺してて分からないよ。事故の直後も、そして今現在もね…」

 二時間後、俺は痔の手術を受けていた。あの時俺をマトリックスの世界から引き戻した、あの中年看護婦の引きつった笑顔は生涯忘れることはないだろう。

 そして現実はいつも俺に厳しい。



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