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その子はダウン症だった。 21番目の染色体を人よりちょっと欲張って3本持って生まれた子、それがMちゃんだった。 Mちゃんのママ、Tさんは妊娠中に、羊水過多とSFD(週数に対して赤ちゃんが小さい)を指摘され、羊水検査を受けた。 結果、21トリソミー、つまりダウン症だと結果が出た。 Tさんは「産みます」と言った。迷うことなく、はっきりと。 でもTさんは、生まれてきたMちゃんを受け入れることができなかった。 ひと月に一回、Mちゃんは小児科外来を受診した。そして必ず、産科病棟にも顔を出してくれた。 でもMちゃんを抱いてくるのはいつもおばあちゃん。 Tさんはおむつの入った大きなかばんを持って後からついてきているといった感じだった。 そんな光景が何ヶ月か続いた。 ところが、ある日TさんがMちゃんをだっこして、産科病棟に来た。 メモルは不謹慎なことに、おばあちゃんが亡くなったのか?!と思った。 でも違った。 Tさんは「メモルさん、ありがとう。」と突然言った。 メモルには何が何だか分からなかった。 「メモルさんが、この子のこと、パパ似やって言ってくれてうれしかった。」 そういえば先月なんとなく「Mちゃん、パパ似やね~。」と言った(ような・・・)。 「生まれてきた時から、独特の顔つきとか言われて、自分の子どもだと思えへんかった。 パパに似てるところも私に似てるとこもあるのに。メモルさんが初めて言ってくれてん。」 確かにダウン症児は独特の顔貌でみんな似たような顔をしている。 それでもやはりパパに似てるところも、ママに似てるところもある。 たったひとことなのに、メモルがなんとなく言ったひとことなのに、TさんはMちゃんを受け入れることができた。 メモルもうれしかった。 やっぱりお腹を痛めて産んだ子。愛してあげてほしかった。 でもメモルが一番うれしかったのは、メモルのひとことでTさんが変われたことじゃない。 「この子を産んでよかった。」 Tさんがそう言ってくれたこと、ただそれだけがうれしかった。 今でもひと月に一回、TさんはMちゃんを抱いて産科病棟を訪れてくれている。 |