助産婦メモルの日常~Happy Birthな毎日~

落とし物



落とし物

Rちゃんのママは泣きながら、こう言った。

どうしてうちの子だけ、こんなにいっぱい病気になるんですか?
どうしてこんなに苦労しなくちゃいけないんですか?
未熟児で生まれたからって、みんながみんななる病気じゃないんでしょ?
私は妊娠中から毎日お腹に話し掛けてました。今も変わらず愛情を注いでいるつもりです。
タバコも吸ってないし、お酒も飲んでない。
妊娠中も安静が必要だと言われれば、ちゃんと安静にしてた。
先生の言わはることをちゃんとやってた。
こんなことを言うのは、間違ってるのかもしれないけど、
世の中には妊娠中にタバコもお酒もやっていて、
虐待とかもあったりして、母親失格の人もいると思うんです。
私だって、完璧な母親じゃないかもしれない。
でも、だけど、どうしてうちの子だけ? どうして私だけこんなに苦労ばっかりなんですか?
ぜいたくは言わない。あの子に障害があっても一緒に頑張っていきます。
でも一度でいい。一度でいいから。家で、家族だけで一緒に過ごしたいだけなのに・・・。


Rちゃんは生まれてから2年間、1度も病院から出たことはない。
NICUに1年間、その後小児科に移ってさらに1年間入院して、今に至っている。

600g台で生まれたRちゃんに今までつけられた診断名は数しれず。

『超低出生体重児』
『新生児仮死』
『動脈管開存症』
『未熟児貧血』
『呼吸窮迫症候群』
『無呼吸発作』
『肺炎』
『高ビリルビン血症』
『未熟児くる病』
『腸回転異常』
『短腸症候群』
『新生児壊死性腸炎』
『鼠径ヘルニア』
『頭蓋内出血』
『脳室周囲白質軟化症』
・・・
心臓、腸、ヘルニアの手術もした。
生まれてからずっと点滴のお世話になっている。
母乳を与えることもほとんどできなかった。
人工呼吸器からもなかなか離脱することができず、今も鼻からの呼吸器、Nasal CPAPを使っている。

呼吸器から完全に離れることはできないだろうから、気管切開をした方がいいかもしれない。
家族で呼吸器の管理ができれば、在宅療法も可能だろう。

家で一緒に暮らせるかもしれない、という希望の光が見えた。
かすかな希望にRちゃんのパパもママも喜んでいた時、
また新たな診断名がRちゃんにつけられた。

『脳梗塞』

また手術が必要だった。

せっかく希望の光が見えたのに。
またふりだしに戻ってしまう。
Rちゃんのママは、今までためこんでいた悲しみも怒りも全部まとめて医師にぶつけたのだった。


医師はゆっくりと答えた。

Rちゃんはとっても優しいお子さんなんです。
物が落ちてたら、ちゃんと拾ってあげちゃうんですね。
落とし物なんて、そのままにしておけば、 そのままほったらかしになるか、
他の誰かが拾ってくれるかもしれないのに、Rちゃんはちゃんと拾ってあげるんです。
私もずっと「もういいよ。拾わなくていいよ。ほっておいたらいいよ。」って言ってたんですが、
それでもRちゃんは拾ってあげちゃうんです。
他の誰かが病気という落とし物を拾わないように・・・、と自分で拾っているのかもしれません。
そんな優しいお子さんです。
お父さんとお母さんの優しい心をちゃんと受け継いでる本当に優しいお子さんです。
Rちゃんは胸をはって威張れる自慢のお子さんだと思いますよ。
これからも一緒に頑張りましょう。私もできる限りの力になります。


Rちゃんのママは泣きながら小さくうなずいた。




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