助産婦メモルの日常~Happy Birthな毎日~

お母さん



お母さん

赤ちゃんがお腹の中にいる時から、

おそらくお腹の外では生きることのできない赤ちゃんです・・・。
自然の経過でお腹の中で亡くなってしまうかもしれません・・・。

そう説明されていた。

それでもAさんは、赤ちゃんに会いたくて、会いたくて会いたくて・・・、
生きているうちに一目でも会いたくて、妊娠33週で帝王切開にふみきった。

本来帝王切開は本人希望では行わない。
基本的には、帝王切開は陣痛というストレスで赤ちゃんがしんどくなってしまうと予想されるとき・・・、
赤ちゃんを助けるために行う出産方法。
お母さんのお腹には傷が残る。
傷を見るたびに赤ちゃんを亡くした悲しみが蘇るかもしれない。
また、一度帝王切開をすると次回の出産時も帝王切開を勧められることが多い。
なので、赤ちゃんが助からないと分かっている場合は、できるだけ帝王切開をせずに経膣分娩を勧める。

そんな中で、Aさんの帝王切開は特例とも言えるものでした。
それだけ赤ちゃんに会いたいという思いは熱いものだった。
そして一縷の望みを賭けて、蘇生も希望された。

そして帝王切開で生まれた赤ちゃんは600gという小さな体。アプガ-スコアは1/1。
出生後、ただちに挿管し、気道を確保した。

「お母さん、おめでとうございます。今からすぐにNICUで治療をはじめますね。」
医師はAさんにそう伝え、赤ちゃんは手術室を出た。

のちにAさんはこう話していた。
「あの時、赤ちゃんはあんまり見えなかったけど、すぐに手術室を出ていってくれて嬉しかった。
治療をはじめると言ってくれて嬉しかった。死んでないんだ、生きてるんだ、って分かったから。」

・・・600gという小さな体で8時間も頑張った赤ちゃんはAさんのだんなさんの腕の中で静かに亡くなった。
Aさんも病室のベッドからストレッチャーに移り、急いでNICUに入ったが、赤ちゃんはすでに亡くなっていた。

小さな赤ちゃんを抱いて、Aさんは
「○○、生まれてきてくれてありがとう。」
と赤ちゃんの名前を呼びながら、涙ながらに言った。

経膣分娩なら5日程の入院だが、帝王切開は10日程の入院が必要だった。
ほかの赤ちゃんの泣き声が響く病棟での入院は、本当につらかったと思う。

だけどAさんは私たちの前では終始笑顔だった。
「○○に会えてよかった。私たちの家族。」
そう言っていた。

そんなある日、廊下で1人泣いているAさんがいた。
「どうされました?」
そう声をかけると、Aさんは、

「今、NICUの先生にお会いしたんです。
『お母さん、お体は大丈夫ですか?』って声をかけてくれたんです。
私のことを『お母さん』って・・・。
NICUの先生は私を『お母さん』って呼んでくれるんです。
私もお母さんなんだって思える。嬉しい・・・。」

そういえば、産婦人科ではメインの対象は大人のお母さん。
生まれた赤ちゃんの名前がついてないうちはAベビーと呼ぶことになる。
だから、当然のように名前で「Aさん」と読んでいた。

だけど小児科のNICUはメインの対象は赤ちゃん。Aさんは「○○ちゃんのお母さん」なのだ。

そっか、そうだね、そうだよね。
たとえ赤ちゃんが亡くなっても、Aさんはお母さんなんだよね。
○○ちゃんはAさんにお母さんになってもらいたくて、この世に生まれてきたんだね。

赤ちゃんって本当にすごいね。そしてお母さんって本当にすごいね。
メモルの知らないことをたくさん教えてくれるね。

ありがとう、本当にありがとう。




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