みやび

みやび

2008.03.20
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カテゴリ: 物語


 ♪ 今までの「菜の花物語」は こちらまでどうぞ ♪


菜の花物語

菜の花物語2 ~ミチルとカナ

菜の花物語3 ~コウキ~

菜の花物語4 ~コウキとミチル~

菜の花物語5 ~それから コウキ~






 「一緒に行こう」

 それはまるで何かの合図のような、そんな気がした。

 自分から手を差し出したのか、コウキに手を掴まれたのか、どっちだったのか、

 そんなことわかんない。

 ただ、気がついたら一緒に手を繋ぎ、走ってた。

 橋を渡り、土手沿いを。ミチルのいつものランニングコースを。

 そしていつも、そこで立ち止まる大好きな桜の木の下で、ミチルはコウキに尋ねられた。

 「どこまで走る?」

 息が上がっているコウキの顔が可笑しくてたまらない。

 「私は平気よ。まだずっと走れるわ。だって、ここ私のいつものランニングコースなんだもん」


 さっき、初めて顔を見て、初めて声を聞いて、初めて話して、

 なのに、生まれるずっと前、そのもっと前に、どこかで会ったような気がした。

 この手の感触は確かに、覚えがあった。なんて錯覚してしまうほど。

 「この先に、菜の花畑があるの。そこまで行く?あと少しよ」

 今度はミチルがコウキの手を引っ張る。

 菜の花畑は、もうすぐそこだ。海に近いそこは、きっともう花が咲いているに違いない。

 ミチルの秘密の菜の花畑。カナにも教えていないミチルだけの場所。

 春になるとランニングのコースをここに変える秘密の場所。

 「だって菜の花は、まだって今日テレビで言ってたよ」

 「あ!おんなじテレビ見てた?週末お出かけ情報でしょ。あれは県北。山のほうよ。

  きっとこの先のは、もう咲いてるって思う」


 ミチルはコウキと手を繋ぎ、走り出した。

 「ちょっと待って。心臓がドキドキだ。運動不足」

 「案外、やわなのね」

 繋いだ手から、コウキの弾むドキドキが、ミチルの弾むドキドキとシンクロして

 やがて見えてきた菜の花の黄色と溶けて、きれいな青空と二色のコントラストを見せていた。



 これから1ヶ月、こんな時間が流れた。

 友達のような、恋人のような、兄妹のような、ひょっとしたら双子のような。

 その全てのような、そんなふたりのふたりだけの特別な時間だった。




   (そろそろ 息切れ~)







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Last updated  2008.03.20 22:01:08


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