みやび

みやび

2008.03.29
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カテゴリ: 物語


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 カナは、とにかく怒っていた。

 その透きとおった白く美しい頬を、ピンク色に染めて、形のよいよく動く唇を、さらにうごかして。

 カナは自分自身のことでは、こんなふうに怒ることはない。

 たいていは、ミチルのことだ。

 人にいいように使われるミチルは、いつも損な役割が回ってくることが多い。

 「ミチルはいつも、いいよ、いいよって言うから、損ばかりしてる」

 カナは歯がゆくて仕方がない。

 そして、もう我慢が出来ない、と思うと爆発してしまうのだ。

 こんなふうに・・・

 「ミチルが いいって言ったって、私が許さないんだからっ」

 やっぱりミチルには私がいなきゃ駄目だ。

 カナは、いつもそう思う。そう思っていた。

 今回だって、やっぱりそうだ。

 私がいなきゃ・・・

 「ミチル、今度だってやっぱりそうじゃない。なんでミチルが怒らないわけ?

  それって、どう考えてもミチルが騙されてるんじゃないの?」



 カナは、ミチルがコウキと仲良くやっているのを、心から微笑ましいと そう思っていたのだ。

 ついさっきまでは。

 ミチルから、とんでもない話を聞くまでは。


 今日、久しぶりに、カナはミチルは一緒にランチをしていた。

 最近、ミチルはコウキと一緒のことが多いので、カナは遠慮していたのだ。

 そこでミチルは、まるで他人事のようにカナに話し始めた。

 「明日ね、一緒に駅まで見送りに行ってくれる?」

 「えっ?誰の?」

 そこまでは冷静だったのを覚えているが、そこから先は驚きと、怒りとがごちゃまぜになって

 何がなんだか、わからなくなっていた。

 ミチルの話を、よくよく聞いてみると、このようなものだった。


 コウキは、明日、この地を離れ地元の大都市へ戻るのだそうだ。

 そして、親の会社を継ぐべく、今の会社も昨日でやめて。

 さらに、カナを怒り心頭させたのは、コウキにはお見合いで婚約者がいたというのだ。

 「絶対に、ミチルは騙されている。私、彼に文句言わなきゃ気がすまない」

 「ううん。いいの。だって彼の家は、そういう家なんだもん。カナだってそうでしょ。

  カナ、いつか言ってたじゃない。釣書っていう仰々しい縦書きの、最後に“母の出身”

  なんていうのも書かなきゃならないのを書いたって。お見合いのために」

 そうだ、確かにそうだ。

 でも、それは子供の頃から、そう言われて育ってきたんだから仕方ない、

 そう思ってきたんだもの。

 「でも、ミチルは違うじゃない」

 「だけど、彼は、そうなのよ。カナの家みたいなのよ」


 もう時代は「昭和」ではない。

 つい何ヶ月か前に「平成」に変わったのに。

 だけど、“家”だとか “血筋”だとか そんなの、まだ続いているんだ。



 カナの、その大きな瞳から、涙があふれて止まらない。

 なんで、なんでなの。

 ねえ、ミチルはそれでいいの。

 「ミチルが許すって言ったって、私が許さないんだから」

 街ゆく人が、カナを振り返る。カナは、ミチルを思うと、涙がとまらない。



         (いよいよ、次が最終回。やっと終わるぅ~)











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Last updated  2008.03.29 21:57:54


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