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2022.01.02
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行政に登録し、地域猫活動をはじめて2年目、2021年の春先。ある朝ふいに新顔の茶トラがやってきた。珍しいメスの茶トラ。しかも、お腹が横に張り出している。妊娠しているらしい。

とても用心深く、警戒心丸出し。フードを用意してこちらが離れれば、食べるのだが、近づこうとするとパッと逃げてしまう。





この子を連れてきたのは、コイツ↓



ボス猫としてこの地域に君臨している「まるちゃん」、またの名を「ドン・ファン」。この子の子供を産むメス猫は、知ってるだけでこの新顔茶トラちゃんが3匹目だ。

数年前は愛らしい目をした仔猫だった。それがいつの間にか、でっぷりと太り、いかにもふてぶてしい狡猾な野良となった。他のオス猫がこのあたりに入り込んでこようものなら、獰猛な表情で音もたてずに忍び寄り、バッと飛び掛かって、取っ組み合いのケンカに持ち込む。だから、このあたりからは野良のオス猫の姿がめっきり減った。

しかも、その狡猾さをある種の人間の前ではうまく隠す術も身につけていて、近所の老夫婦は、「まるちゃんはおとなしい紳士」と思い込んで可愛がっている。彼らの前では遠慮がちで控えめなかわいい猫ちゃんらしい。私が他のオス猫に襲い掛かる話をしたら、心底驚いて、目をそれこそまんまるにして、「信じられない!」を連発していた。

去年ドン・ファンの子供を産んだメス猫の「しまちゃん」は、とても懐っこい性格だったので、我が家で保護して完全家猫にした。しまちゃんがいなくなったら、まるちゃんのやつ、この茶トラちゃんに乗り換えて、ちゃっかりくだんの老夫婦のところにも連れていったらしい。

ついでに言うと、ドン・ファンはしまちゃんとイチャイチャしていた時期に、しれっとしまちゃんの娘のミケちゃんにも種をつけていたのだ!

「困ったことになったなあ」――中絶になる不妊手術を施すのが地域猫を管理する側としてはベストだが、慣れていない新入りの野良猫を強引につかまえて中絶させると、その子はもう二度とこの餌場に来ないかもしれない。術後の経過も見てやれないかもしれない。

とりあえずは「チャー子」と名付けて見守ることにした。最初のうちはフードを食べに来たり、来なかったり。できるだけはやく信頼してもらいたいから、チャー子が姿を見せたときは気前よくおいしいフードを用意した。

ウェットが好きらしく、それを食べているときはかなり警戒心というものを忘れるよう。これなら、手で捕まえられるかな? でも、お腹はあっという間に、どんどん大きくなっていく。

「出産間近の野良のメス猫ちゃんを手術に連れていったら、亡くなってしまったことがあったの…めったにないことだけど、『心拍数が上がってこない』って獣医師の先生に言われて…こんなことになるなら産ませてあげればよかったなって…」

かぎしっぽのベテランさんの悲しそうな声が蘇る。同時に、一緒のチームで活動している別の方の声も聞こえてくる。

「野良猫は生まれても、なかなか育たないから。4~5匹生まれても、5匹が3匹になり、3匹が2匹になり、とうとう2匹が1匹になり…その子を守ろうとして親猫が交通事故に遭って亡くなったこともあるのよ」

同じ経験をMizumizu自身も昨年している。「ミケちゃん」のケースだ。4匹いた子が気づいたら3匹に。そして、大雨のある日、ずぶ濡れの子猫を意を決して保護することにした。ところが2匹の黒白子猫に逃げられた。とてもすばしっこかった。逃げられなかったのは、一番発育が悪かった茶トラの子。目の状態もおかしくて、あきからに何らかの病気に感染していた。

そして…今は母猫のミケちゃんと、その茶トラの息子だけが我が家で家猫になっている。

チャー子はどうすべきなのか? 迷っているうちに出産は明らかに、もう間近に。今回は産んでもらって、野良のまま見守り、乳離れしたところでチャー子の手術、生まれた子も育ったところで手術、という路線でいくことにした。

お腹が大きくなるにつれ食欲も右肩上がりに増していくチャー子。毎日来るようになった。そして、ある日、ふっと来ない日が。翌日も姿を見せない。

ああ、多分、どこかで出産したのだな。

この近所で猫好きは、むしろ少数派。「物置で野良が子供を産んだから、目がひらかないうちに用水路に子猫を捨ててやった」などと猫好きの老夫婦に平気で話したという猫嫌いの老女もいるのだ。もちろん普段は普通の市民だが、猫にとってはとんでもな存在だ。そんな人のところで産んでないといいのだけれど…

数日後、チャー子は現れた。体はスリムになっている。子猫を連れてくるのはまだ先だろう。授乳期だから、たっぷり栄養を摂ってもらわねば。チャー子が来るたびにフードをせっせと出すMizumizu。

しばらくすると、道端で授乳するチャー子の姿をたまに見るようになった。Mizumizuが見たときは子猫は4匹いた。

だが…やはり日を追うにつれ、子猫の数は減っていく。最終的に茶トラ(茶太郎と命名)とサビ(サビーヌと命名)の2匹になり、我が家にご飯を求めに来るように。ただ、サビーヌはとても発育状態が悪い。しょっちゅう目を腫らしているし、細くてプロポーションも悪い。それでも、うちでご飯を食べる習慣が定着していからは、なんとか育っていった。逆に茶太郎のほうは健康優良児。猫にはよくあることなのだが…

そして2ヶ月半が経過。そろそろチャー子の次の妊娠が怖い。というのは…

ミケちゃんが昨年、出産後すぐまた妊娠してしまったのだ。もちろん、ドン・ファン(猫かぶってるときは、紳士のまるちゃん)の仕業。ミケちゃんはしまちゃんの娘で、ドン・ファンと仲良しでしょっちゅう一緒にいたのは母のしまちゃんのほう。しかも、しまちゃんも娘と同時期にドン・ファンそっくりの子猫を複数産んでいた。

チャー子はドン・ファンとしょっちゅう一緒にいる。餌場にドン・ファンがやってくると、スリスリ~チュッチュとご挨拶。ただ、まだ子猫はお乳にふるいついてくる。この状態で母猫を手術していいものか? またも逡巡するMizumizu。

獣医師の先生に相談すると、2ヶ月過ぎればほぼ授乳期は終わったとみてよいとのこと。もう一つのMizumizuの懸念は天気だった。今年の初夏は雨が多く、天候不順だった。心配だ…と獣医師の先生に言うと、大丈夫だと即答。野良猫はちゃんと雨に濡れない隠れ家を持っているし、この時期なら手術の傷の治りもはやいのだという。それより、次の妊娠のほうを心配すべきだとのアドバイス。

それでも、なるたけ晴れている日を選ぼうとするMizumizu。気温も高すぎないほうがいい。天気予報とにらめっこの日々が続く。チャー子は、ウェットフードをあげているときは、触っても逃げなくなった。決して人間に背を向けてご飯を食べることのないドン・ファンと比べると、警戒度はダダ下がり。

数日晴れそうだというある日、ついに捕獲する決心をした。チャー子がウェットフードにがっついているのを見計らって後ろから持ち上げ、すばやくキャリーケースに入れる作戦。

去年は、このやり方で、しまちゃんとミケちゃんを手術に連れていった。チャー子も慣れたみたいだし、大丈夫だろう。

と思ったのだが…

甘かった! 動物の生態を甘く見てはいけない。そう思い知る顛末が待ち受けていた(以下、​ 次のエントリー ​に)。

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最終更新日  2022.07.04 19:24:25


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