星空のお散歩にどうぞ
冬の寒い夜。
実家の犬「クロ」と散歩にでかけた。
こんなに寒い夜なのに、クロは私と散歩に行きたがる。
できれば無視したかったけど、丸い目で見つめられたらどうしようもない。
お気に入りの曲を入れたＭＤウォークマンを聞きながらリーボックのスニーカーを履く。
京都の冬は寒い。門を出ると、耳がちぎれるようだ。
マフラーに顔をうずめ、前かがみになって北風に立ち向かう。
クロはまったく寒さなど感じないように機嫌よく歩いている。
今ヘッドフォンからビリージョエルの「夜空のモーメント」が流れている。
原題はLeave A Tender Moment Alone （やさしい時をそっとしておこう）
イントロのハーモニカが郷愁を感じさせる。
愛犬との散歩・・・考えてみれば私はこの時が一番好きなのかもしれない。
散歩のコースはだいたい決まっている。
住宅街を抜け、途中からは両サイドが畑になっている野道。
そこからは急に視界が開ける。
遠くに山の形が黒いシルエットになってうかぶ。
その上には三日月がかかっている。
私は今、いにしえの時代からほとんどかわらない景色を見ているのだろう。
クロは私の感じていることなど気にもせず、テクテクと横をついてくる。
たかが３０分の散歩でも、たまに流れ星が見られる。
願い事などしているひまがないくらい、はかなく消えてゆく。
冬の星空は冴えわたる。
まるで寒いのをがまんしているごほうびのように星がまたたいている。
今流れているのはスティービーワンダーの「ステイゴールド」
映画「アウトサイダー」の主題歌だ。
夜のひこうき雲を見たことがありますか？
それはまるで銀河鉄道のとおったあとのように、まっすぐはるかかなたにのびている。
銀河鉄道に乗ってみたい。
夜空を見上げていつも思っていることだ。
この角を曲がると家の明かりが見えてくる。
もう少し今の時間を楽しんでいたい。
「クロ、今日はちょっと遠回りしようか？」
私達はひこうき雲を見上げながら星空の下をまっすぐ歩いた。
ＭＤからは７２年のヒット曲、エルトン・ジョンのロケットマンが流れていた。（完）
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