長男の幸一夫婦は共稼ぎながら団地に住んで無事に暮しているし、家には娘の路子と次男の和夫がいて、今のところ平山にはこれという不平も不満もない。細君と死別して以来、今が一番幸せな時だといえるかもしれない。わけても中学時代から仲のよかった河合や堀江と時折呑む酒の味は文字どおりに天の美禄だった。その席でも二十四になる路子を嫁にやれと急がされるが、平山としてはまだ手放す気になれなかった。
中学時代のヒョータンこと佐久間老先生を迎えてのクラス会の席上、話は老先生の娘伴子のことに移っていったが、昔は可愛かったその人が早く母親を亡くしたために今以って独身で、先生の面倒を見ながら場末の中華ソバ屋をやっているという。
平山はその店に行ってみたがまさか路子が伴子のようになろうとは思えなかったし、それよりも偶然連れていかれた酒場“かおる”のマダムが亡妻に似ていたことの方が心をひかれるのだった。
馴染の小料理屋へ老先生を誘って呑んだ夜、先生の述懐を聞かされて帰った平山は路子に結婚の話を切り出した。路子は父が真剣だとわかると、妙に腹が立ってきた。今日まで放っといて急に言いだすなんて勝手すぎる--。
しかし和夫の話だと路子は幸一の後輩の三浦を好きらしい。平山の相談を受けた幸一がそれとなく探ってみると、三浦はつい先頃婚約したばかりだという。口では強がりを言っていても、路子の心がどんなにみじめなものかは平山にも幸一にもよくわかった。
秋も深まった日、路子は河合の細君がすすめる相手のところへ静かに嫁いでいった。やっとの思いで重荷をおろしはしたものの平山の心は何か寂しかった。酒も口に苦く路子のいない家はどこかにポッカリ穴があいたように虚しかった。
小津が一貫して取り上げてきた、妻に先立たれた初老の父親と婚期を迎えた娘との関わりが、本作では娘を嫁がせた父親の「老い」と「孤独」というテーマとともに描かれている [2]
。
岩下志麻が演じた路子の衣装は、 浦野理一
が和服を、 森英恵
が洋服を担当した。衣装選びには小津が立ち会い、生地からブラウスの襟の形にいたるまで、丁寧に時間をかけて検討された [4]
。
作中で岩下が失恋するシーンは、小津が 100
回以上撮り直すほどこだわったとされる [5]
。
(ウィキ)
小津の遺作で、この年の12月に亡くなっています。
作品の構想中に母を亡くしているので、老いを意識したものとなっているのでしょう。
主人公の 笠智衆
の実年齢は58歳。
ひょうしょうとした語り口がいいです。
中学からの幼馴染の 中村伸郎
、 北竜二
との交流場面もいいです。
出色は、本物の老人を演じた漢文の教師役の 東野英治郎
です。
漢詩を吟じたり、鱧に舌鼓をうったり、酔いつぶれるシーンもうまかったです。
婚期を逃した娘の 杉村春子
の涙が印象的でした。
愛方は教え子が出世し自分は場末のしなそば屋という境遇の父親に対する失望との見方です。
私は、同世代の出世した教え子と自分のみじめな境遇を比較して、失った「青春」人生への悔悟の涙と見ました。
高度成長以前の都会のサラリーマン(と言っても主人公は役員クラスでしょうが)の生活が新鮮です。
便所の臭突が回り、家には冷蔵庫もテレビもなく、アパートの住民同士で貸し借り(映画ではトマトふたつ)などなど。
ゴルフも出てきます。
クラブが4本で2万円、月給はもそのくらいだったのでは。
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