考え中 0
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「カトサキちゃん、彼氏と同棲してるってホント?」 商品の不良がみつかって大がかりな処理対応がされることになった。 急な日帰り出張を朝一で言われて、バイヤーのキジタツさんの車に4人で乗り、あちこち回って、 帰り、同じ方向の私だけになった時の、いきなりの質問だった。 相変わらずの直球で参る。 けど、会社に入ってからの長年の付き合い。 オトナで一人で行動してるこの人は他に広めることも無いってわかってきてたので、 質問にキチンと答えようか、ちょっと迷う。 「バンドマンの彼にふられて、寮出て、今度は違うヤツと同棲してるとか聞いてるぞ~」 「どこで、そういう話になってるんですか?」 私は半分、そんな噂になってそうだと納得しつつ、 現実とは違うことに憤りを感じながら返事をした。 「電車で女子社員が言ってるのが聞こえて来た。 アレだね、公共乗り物の中に噂の知り合いが乗ってるって、女は考えないのかね?」 私は溜息をついた。 「寮は確かに出ましたけど、ふられたからじゃ無いし、 寮だと、あること無いこと言われるんで。 少し高くなるけど、住宅手当を選んだんです。 バンドマンの彼って言うのと未だに付き合ってます。同棲は、してません。」 「は~、なるほどねぇ~。女は怖いね~。」 他にも何か怖いことでも言ってたのか? 私は、少し会社の何もかもが嫌になる。 「一般職で企画の部署に行ったから、やっかまれてるんじゃないの?カトサキちゃん。」 「・・・そうなんですかね?」 運が良いのか、私の上司は一般職、総合職、分けずに企画をどんどん採用するタイプだった。 私の発想を気に入ったのか何なのか、たまたま提出した現場での報告書が気に入ったらしく、 私は、今の上司の直属の部署で働けるようになった。 現場にも出るけど、その部署にいれば総合職になれる可能性は高いらしい。 仕事が面白いと感じた私は、 同僚との付き合いより仕事を優先させたので孤立してるかもしれない。 明らかに女子の皆様とは距離ができてる気がしていた。 「まあ、でも、カトサキちゃんはガンバってると思うよ。 もっとツンとしてるかと思ってたけど、ちゃんと頭も下げるし、 仕事を途中で放り出して帰ることも無いし。 群れてることもないし。 けど、アレだ。 女って言うか、人間って言うのは、自分と違うと感じたら、 攻撃したり、無視したり、よそよそしくなるのは普通だから。」 「普通、、、ですか。」 「そ。普通だと思って、気にしないのが一番。一番。」 キジタツは自分の言葉に納得したように、うんうんって感じで頷いた。 長年の顔馴染みとは言え、そんなに二人で過ごす間柄でも無いし、 この緊張する空間で、少し緊張してるのかも? 会話をどうするか気遣ってくれてるのかもしれない。 ・・・直球だけど。 考えてみたら、こうして私が働いてる姿をシンちゃんは知らない。 だから、私の状況だとか、そうしたことを話してもイマイチ通じない。 昔、同じバイト先だった頃は、いろいろなことをお互い報告しても、 「あ!あの話か!」「ふーん、あの人がね?」って、すぐに分かり合えた。 今は何を報告しても「ふーん、そうなんだ?」「ありえないだろ」って感じで、 社会人経験の浅いシンちゃんは、わかってくれないことが多くて、 まだ時々青臭いな~って思うような理想論に聴こえることも言ってたりして、 私が話したことが、自分だったら、さももっと上手くやれるようなことを言うから腹立たしい。 それにシンちゃんの職場は男が多いみたいで、私が男性と同じような状況で働くことが想像できないらしい。 だから、何だかめんどくさくなってきて、私は あまり会社の悩みを言わなくなった。 シンちゃんが研修出張で会えない時期が淋しくなって、 会社の人たちの目も煩わしくて寮から出たけど、 シンちゃんに「疲れた~」が増えて、 バンドができなくなった分、うちに来ることが増えたけど何をするワケでも無くて、 シンちゃんの荷物が増えて、 私はシンちゃんの分まで家事が増えて、 気を使ったシンちゃんが家賃や食費も少し負担してくれるようになった。 こういうのが毎日続くと、そのうち結婚なのかな~ 「それにしても疲れたな~。肉体的にもだけど、精神的にも。。 まあ、今回の仕事は、誰がやってもしょうが無いっていうか、 いつか起こるだろうな、、、って俺は思ってたな。」 「やっぱり、日程に無理がありましたよね。。 みんな言ってましたもん。」 私は我に返ってキジタツの言葉に深く頷く。 一緒に処理してないと出てこない言葉だ。 そこには理想も何も無くて、 ただ、疲れを共有できる人との会話。 そんな何気無く、わかってくれる人がいることが何だか嬉しかったりする。 シンちゃんの言う、男と女がどうこうじゃ無くて、人間としての会話だよ。 シンちゃんだったら、何て言うかな、この仕事は。。。 私は、ここにいないシンちゃんのことを思う。 けど、わかってくれない気がして、 そんなシンちゃんに失望したくなくて、 私は多分話さないだろう。 雨が降ってきた。 少しの降りだったのに、どんどん酷くなっていく。 「傘は、、、」 「あ!折り畳みもってきてます。どうもありがとうございました。」 「この辺りでイイのか?」 「はい。道わかります?帰れます?」 「何とか、、、大丈夫だろう。オツカレ!」 「はい。ありがとうございます。お疲れ様でした」 車から降りた途端に夕飯の心配が頭をよぎる。 部屋で待ってるとかメール来てたけど、食べて来てって書いたけど、 ちゃんとご飯食べたかなシンちゃん。。 帰ったら、またご飯作ることになるとか、もう疲れたから勘弁だよ~ 私はコンビニに寄れば良かったと後悔しながら部屋の鍵を開けた。 シンちゃんは来ていなかった。 前の話を読むサキ1:目次
2017年02月21日
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「カトサキちゃんのとこに泊まりに来てる彼氏ってイケメンなんだってねー? 写真無いの?見てみたぁ~い♪」 朝の満員エレベーターの中で四大新卒の女性社員が私に言った。 私の部署に配属されたこの女は、どうやら私の元彼キジマカズユキと付き合ってるって噂がある。 明らかな悪意を感じる。 エレベーターの中にいる人たちの耳がダンボになってる気がする。 大体、同じ歳だってわかった途端タメ語で話してくる学生ノリが抜けて無いとこからして嫌だった。 同期の女の子同士でクスクス笑ってる。 スルーした。 ムカつくことを言ってくる人が多過ぎて、スルースキルが上がってきた気がする。 いちいちまともに聞いてたら、社会人なんてやってられないってことに気付いた。 疲れる。 エレベーター、早く着いて欲しい。 降りた途端、男性社員がつぶやいた声が聞こえた。 「オンナって怖ぇ。。。」 頭が痛いことに、キジマカズユキが務めてるデパートが私の担当先なので、 今日も顔を出しに行かなければならない。 カズユキと話すことは無いんだけど、本当に冗談じゃ無い。 「よぉ、カトサキ!朝から何怒ってんだよ。眉間にシワができるぞ~」 そんな私の心中もしらず、バイヤーのオヤジ、キジマタツヤ、通称キジタツがいつのまにか横にいた。 「はあ、どうも、おはようございます。」 「オマエ、彼氏と同棲してんだって?捨てられないよう気をつけろよ~ 女は男と違って、同棲なんて勲章にならねーからな。」 「同棲してません!それにそのうち結婚するんで、心配しなくても大丈夫です。」 ったく、なんてこと言うんだよ、このオヤジ。 全国の同棲してる女性に謝れ! とりあえず顔に呆れた表情だけ出して言葉にしない。 「そのうち結婚するのか?そっか!まあ、それなら安心だな。」 「いや、しばらくしないですけどね。。」 「え?なんでだよー?子供産むなら若いうちがイイぞ~」 バツイチのキジタツ、、、子供はいないはずだけど。。。 壁を突き破って入って来るこの年代には、まともに返したくなるけど、 そもそもこの年代とは人生の価値観が違うんだって最近気づいた。 思い返せば高校時代、姉は産んだばかりの姪を連れて、しょっちゅう実家に帰ってきていた。 義兄が赤ん坊の泣き声がうるさくて眠れず、仕事に支障があるから、、、と言っていたけど、 泣きながら義兄と電話をする姉の姿を同じ部屋の私は知っている。 ちゃんと働いてよ、だとか、私一人でこの子育てるなんて無理、だとか、 深刻な話をしてる中、姪っ子が泣き出す。 オムツ替えて、ゴメン!って動作をして姪を私に渡してくるので、仕方なく私が替える。 こっちだって、うるさくて勉強できない。眠れない。 受験勉強をしながら思った。 だけど、泣いてる姉に、そんなこと言えない。。 この小さいカワイイ生き物をうるさいと思う自分が人で無しに思えてくる。 この家を出たい。この家を出たい。この家を出たい。 だけど親は大学に行くなら短大へ行って欲しいと言い出した。 私は家を出るのを条件に寮付きの都会の短大を選んだ。 そして今、離婚した姉は姪を連れて実家に戻り、 上げ膳据え膳で気楽なバイトをして生活していて、家を出た私は都会で就職している。 「おかーさんたちはうるさいけど、夜も安心して出かけられるし、実家に戻って良かったよ~」 こんなことを帰省する度に言う姉がいて、どうして結婚したいと思える? 義兄は遊びに来ていた彼氏の時は優しくて気がイイ人に見えた。 結婚したシンちゃんが変わらないって、誰が保証できる? 週末になると就職したシンちゃんがうちにやってくる。 私の会社はマンション一棟が独身の社員寮として借りられていたから、 会社で噂になるのも当然なんだけど。。 玄関で待たれると目立つからスペアキーを渡したのがマズかった。 帰りにしょっちゅうやってきて、待ってる間に冷蔵庫のモノを悪気無く飲み食いするシンちゃん。 シンちゃんの安い社員寮は、私のマンション寮と違って本当に寮らしく、 申し込み制の食堂、共同風呂と台所、泊まり禁止、面会はロビーのみ。 自炊をしたことの無い自宅暮らしのシンちゃんは、私の家が実家かのようにやってくる。 マンション社員寮がいくら安くても、短大卒の私のお給料なんてたいした額じゃ無いだけに、 外出デート代や食費が痛い。 寮だから転がりこんで来ないけど、私が本当の一人暮らしだったらどうなんだろう? だけど、まだ結婚するには早いと思ってるし、結婚しても会社を辞める気は無かった。 今の仕事、私がふとした時に企画したデザインが商品に通ったのがきっかけで面白くなってきていた。 総合職の仕事もさせてもらえる今の仕事状態が好きだった。 働きながら家事と育児までさせられたら死んじゃうよ。。 姪の世話を少ししただけでウンザリしていた私は、どうしてもシンちゃんのこの言葉に頷けなかった。 「俺が就職したら結婚しよう、サキ。俺、子供がいるあったかい家をサキと作りたいんだ」 続く 前の話を読む サキ1:目次
2016年12月16日
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サキ2-17平日の夜中の2時。。。とりあえず証拠が残ればイイかと、無言女の番号は着信拒否設定をしていたのに、知らない番号だったので、出てしまったのがいけなかった。これだから、学生ってヤダ。勤め始めてから、夜中の長電話なんてすることが無くなった。翌日が休みでもなければ。オマケに私は一人暮らしだから、この時間の得体の知れない電話がどんなに怖くて気持ち悪いか。今までの無言にプラスして腹が立つ。私は切らずにいた。あっちから話してくることは、コレが最後になるかもしれない。放置してれば、飽きて諦めて切るかもしれない。せめてもの仕返しだ、電話代がかかればザマアミロだ。オンナの声が聞こえてきた。「聞いてるの?ねえ?私、、私、、今まで何度もアナタとしゃべろうと思って、ちゃんと話し合おうと思って電話かけてただけで。。けど、実際かけたら、どうしたらイイのかわからなくて切っちゃっただけなのに。。なのに、みんなに私が無言電話してるとか、言いふらさなくたっていいじゃない。。」無邪気なミサコちゃんの顔がすぐに頭に浮かんだ。あの後、ミサコちゃんがバイト仲間の誰かに状況を話したらしい。そのことで、バイト先に無言電話の件が広まった。そうしたことを、私は、さっき聞いたばかりだった。考えてみれば、すぐにわかるもんだ。あそこはサークル化した仲良し村同然。ミサコちゃんが黙ってるワケが無い。口止めしなかったけど、しょうがない。にしても、この女、自業自得だと思わないものなんだろうか?声がだんだん泣き声を含んできた。泣きたいのはこっちなんだけど。あ~もう、どうしようかな。切っちゃおうかな。私はため息をついた。だけど、切ったら、あっちと同じレベルになる。それは絶対にやりたくない。けどなぁ。。声を出すか、私は迷った。が、弁解することにした。「言いふらして無いよ。知らない人から無言電話が来てるって友達に相談したら友達が調べてくれただけ。けど、こういうの良く無いと思う。何時だと思ってる?そっちは学生だからいつでも何してもイイと思ってるかもしれないけど。それとも、ワザとそこを狙って電話してんの?」「あ。。ゴメンなさい。。私、、そんなつもりじゃなくて。。昼間は、いろいろあって気が紛れてるけど、夜になると、いろいろ考えちゃって眠れなくなって。。言えば、わかってもらえるんじゃないかって。ホントに、ホントに、赤木くんのこと好きだから別れて欲しいんです。ホントに、お願いです。。」とんでもなく、自分勝手な言い分だ。けど、そこが、頭が悪そうな感じで可愛いと思わせるのかもしれない。甘ったるい声に切り替えて、必死で頼み込む。仲良しの友達なら、そういうふうに考えがグルグルして眠れない時ってあるよね~わかるよ~なんて、つい言っちゃうところだ。「別れないよ。」私はハッキリ、強い口調で言った。意地悪な怖い女だと思ってくれ。「シンヤが別れたいって言うまで私からは絶対別れないから。もう、こういうことしないで。私も、好きだから、絶対無理だから。シンヤのこと好きな子がこういうことするの、何だか同じ人を好きになった立場として、すっごい嫌。」私は「すっごい」に力を込めた。「・・・何。。サキどうした?」起きてしまったシンちゃんが、心配した顔で私に声をかけた。声出した時点で起こすかもしれないと思ってたけど、ゴメン!もうアンタのせいなんだからね。しょうがない。電話替わって、って態度が言っている。でも、私は渡さなかった。コレは女同士の戦いだから。それに彼女は泣いている。もしかしたら、めちゃめちゃ純粋ちゃんなのかもしれない。シンヤもそう思ったら嫌だ。今度はシンヤがてこずる番になる。けど、私はオンナだから、それに同情するほど、良い人でも無い。あっちはあっちなりに戦ってることがわかったから、正々堂々と受けて立ってやる。、、、って、こっちも眠さの中、起こされてキレてるのかも。しくしく泣いている声に、私はずっと付き合った。シンヤも私の様子を見て、無言で付き合った。いつでも電話を渡せと態度が言っている。泣くこと数分。落ち着いたのか、彼女の声がした。「、、、ゴメンなさい。赤木くんの彼女がこういう人だってわかって良かった。彼女がいるからって断られたから、いなければ付き合ってもらえるんじゃないかって、、、私、勘違いしてた。。ゴメンなさい。本当にゴメンなさい。。もっと早く、ちゃんと話せば良かったです。。」その可愛らしい声に、私はクラっと来た。最初の恨むような声とは天と地ほどの差だ。コレは、断るにもかなり困っただろう。私が男なら、こんなふうに泣かれたら困る。心配した顔で私を見ているシンヤを見て、私もつい困った顔になった。「いいよ。。こっちこそ、もしかしたら思いつめさせちゃったみたいだったから。友達には、ちゃんとアナタが悪い子じゃなかったこと伝えるから、安心して寝て。ね?」「はい。。。本当に、本当にゴメンなさい。。」電話が切れた。コレでわかってくれればイイんだけど。。私はシンヤが泊まってくれていたことに感謝した。お蔭で、ちょっと優しくなれた気がする。けど、こうした「イイ人」「イイオンナ」みたいな自分を演じた気がして、自分に嫌気がさしたことも確かだ。「何で渡さないんだよ。。」シンヤは私にティッシュを渡してきた。「女同士の戦いだから」私はそのティッシュを受け取って、涙を拭いて、鼻をかんだ。「シンちゃんがいてくれて良かったよ。一人でこんな時間に電話とってたら、凄いブチ切れてたか、めちゃめちゃ怖かったか、どちらかだったと思う。」私は笑顔を作って言った。あんなことにビビってたまるか。なのに、体は正直で、手は震えてたし、涙も出ていた。「戦わなくていいよ。。」シンちゃんは、私を抱き寄せた。「戦う必要無いし。」私は何も言えなくなって頷いた。「さっきも言ったけど、、、俺はそんなに頼りにならない?そんな気がして、ずっと悔しいんだけど。」私は首を横に振った。今更ながら、涙があふれて止まらない。シンヤが今日泊まったのは偶然でも何でも無い。バイト先で起こったことを人づてに聞いてきたらしく、心配と腹立たしさとでいっぱいだったらしく、叱られて、仲直りした夜だった。仕事のシフトも明日は休みで、幸せな気持ちだったから、だからあんなに余裕があって、話せたんだと思う。「サキは、天邪鬼だし、一人で何でもやろうとするから、何か心配になる。一人でいろいろ背負うなよ。。」「それが私だから、、、しょうが無いじゃない?」私が泣くのをやめようとして言うと、シンちゃんが呆れたように笑って、私の頭をポンポンと撫でる。私はうつむいて、シンちゃんに抱き寄せられたままでいた。ずっとそんなふうにして、一緒にいられるものだと思っていた。シンちゃんの言う通りにして甘えてれば、今、私の横にはシンちゃんがいたのかな?続く前の話を読むサキ1:目次
2013年11月14日
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サキ2-16私はバイト仲間だった一つ上のミサコちゃんに連絡をした。無言電話の女が、まさかのバイトメンバーじゃないかと思ったからだ。今は、お互い就職をして、滅多に会うことも無くなっちゃったので、こんなことで電話するのも何だけど仕方が無い。ミサコちゃんは、良かったら会おうよ~!と言ってきた。会社帰り、私とミサコちゃんは待ち合わせて、ちょっと洒落たレストランバーに入った。「ねえ、それってさ、サキちゃんがバイト辞めた後に赤木くん目当てで入ってきた子だと思う~すっごかったもん!もう、赤木くんが一人でいるとベッタベタベッタベタしてきててさ~サキちゃんが心配するといけないから、あんまり言わなかったんだけど。。あ!ねえ、良かったら、送ってきたメアド教えて!」ミサコちゃんは携帯を出して、自分のアドレス帳から、その子のアドレスを検索しだした。こんな時のミサコちゃんは、何だか生き生きしている。何だかとてもたのもしい。そして、彼氏の山川さんが浮気した時に「何よ、コレはー!」って叱ってるミサコちゃんが容易に想像できた。小柄で可愛いミサコちゃんが怒っても、飼い主にキャンキャン怒る小型犬みたいな感じがしたけど、そんな強気なミサコちゃんが何だか羨ましかった。私も、そうすればイイのかもしれないけど、できないでいたから。多分、深刻なことになってしまう。。「あ!やっぱりビンゴ!どうするサキちゃん?何かしてやる?」私は、う~ん、、って考えて、「どんな子?」と聞いた。「そうだなぁ~、声が可愛い感じ。顔は普通だよ。サキちゃんのが、ぜんっぜんカワイイ!けど、そういう子好きじゃない?男ってさ!あと、オッパイがおっきい子ね!何か、どうも嫌な感じなんだよね~オンナオンナしちゃててさ!」「ミサコちゃん、、、何か嫌なことされたの?」ミサコちゃんの勢いにおされて私はつい口をはさんだ。「えー?あー、、、あのね、私が仕事、人出足りないから、早く戻ってって言ったら、ひーくんってば、あんまりイビるなよ~って言うの!あの子は、オマエと違って言い返せるタイプじゃないんだからさ~とか言っちゃって!何かムカつくの~~!!!」ひーくんとは、山川さんのことだ。山川さんも火に油を注いでいたらしい。ミサコちゃんの話では、私が辞めた後、新規で入ってきた女の子たちを巡って、いろいろと男女仲がゴタつき始めていたようだ。無言電話や別れてメールが来たのは、サークル化していたバイトの中で、親切で作っていた名簿の中に、私の名前もだけど、辞めた仲間の名前もずっと残っているらしい。だけど、滅多に会えないバイト辞めたメンバーには更新の名簿が配られていないので、私はモチロン、彼女の連絡先や名前も知らないワケだ。「で?どうする?サキちゃん?抗議するなら、私も一緒に言ってあげようか?大丈夫?」その発想がスゴイ!って、なかば感心しつつ、私は自分のことなんだよな。。と考えた。「ううん、いいや。相手が誰なのかわからなかっただけで気持ち悪かったから。後はシンちゃんに任せるよ。」ミサコちゃんはビックリした顔で言った。「え?!サキちゃん、それでイイの?どうするのよ?アカギくん取られちゃったら!」「、、、嫌だけど。。けど、裏で、そういう子と話すのも嫌だし、決めるのはシンちゃんだと思うし、心は縛れないと思うし。。。あ、、何か違うな。。。そうじゃなくて。。。シンちゃんに聞くのが怖いって言うか、、、聞いて、シンちゃんが白黒つけようとして、私のこと選んでくれなかったらって思うと、、そう思ったら、、何か聞けないかも。。」泣くつもりは無かったけど、涙が出そうになったので、出ないよう堪えた。ふと見ると、ミサコちゃんのが目をウルませて、ボロボロと涙を出していたのでビックリした。「サキちゃん。。ホントにもう!何てイイ子なの~~!あたし、、あたしもう。。もう、まったく、赤木ってヤツは!こんなイイ子をあんな女に。。あたし、サキちゃんと付き合いたい!何か悔しい!あたしのが悔しいよ!」「ミサコちゃん。。」私まで堪えていた涙がつい出てしまった。そして、二人で横並び席なのをイイことにハグした。アホだわ。。って頭の中で思うと、つい笑ってしまった。「やだも~、サキちゃん、何で笑ってるの~?」「え~、だって、こんなに心配してくれる人がいると思うと嬉しくてさ~ミサコちゃんだって笑ってる~」「そうよ~、ザ、オンナの友情だよ~!ダメよ~サキちゃん!その涙は赤木くんの前で見せなくちゃさ~~」お互い、涙で化粧が取れないようぬぐいながら笑っていた。そんなことも何だか可笑しかった。私はミサコちゃんを見て言った。「様子見ることにする。もしフラれちゃったら、こんなふうに慰めてくれる?」「何言ってんのよ!モチロンだけど、そんなことになったら私が赤木くんをはったおしてやるわよ!!でもダメ!負けないで~!!サキちゃん負けちゃダメ~!!」ミサコちゃんは、怒った顔を作って言った。「ありがと。。」私たちは駅で再びハグして別れた。ミサコちゃんに話したことで心が軽くなった気がしたけど、相変わらず悪意のメールと無言電話が時々かかってくる。けど、ある日、無言電話の女が言葉を出した。「汚い女…」続く前の話を読むサキ1:目次
2013年10月31日
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サキ2-15最近、無言電話が結構入るようになった。出るとプツっと切れる。「彼と別れて」とうとうメールが来た。めんどくさいから返事は書いてない。ふうん。。。私の頭の中でメールの言葉がずっとまわってる。シンちゃんがよく聴く曲と共に。もともとモテるだろうって、わかっててシンちゃんとは付き合った。だけど、シンちゃんが私のことを好きだって、不安にさせない態度をとるから、私は、以前付き合ってたカズユキと違ってヤキモチ的なモノを焼くことが、ほとんど無い。一番楽しかったことを真っ先に教えてくれる。会いたいと伝えてくる。心配は口に出す。甘えてくる。親友の青山くんとも、すっかり顔なじみだ。心を開かない猫が飼い主にだけに許す態度みたいで、知れば知るほど、シンちゃんは、とてもわかりやすくて、可愛い。シンちゃんのこんなところ、この女の子は知ってるのかな?多分、知らないだろうな。彼は、こういうことをする女をどう思うだろう。私が男なら嫌だけどね。けど、こういう「女の子」した子の方が、心が可愛いんだろうな。。こんなことを、うっすらと思うのは、シンちゃんが、何となくまんざらでも無いんじゃないか?って気がするからだ。最近、私が仕事ばかりで忙しくて、とてもじゃないけどラブラブモードがうせてる。それに倦怠期ってやつかもしれない。今はカズユキの気持ちが少しわかる。忙しくて疲れてて、悪いな、、って思うけど、相手を気遣う余裕が無いし、気遣わなくてもイイ相手だから、一番大好きなんだ。私は、カズユキと付き合ってる時は、ヤキモチを焼く自分に疲れていたところがあったので、ヤキモチを焼いていても抑えてた。そんな自分に気がつくと慣れていたかもしれない。シンちゃんにそうした自分を出して無いことが、シンちゃんを不安にさせているのかもしれないな。。「カトサキちゃん、おい!だいじょぶか?」キジタツさんに声をかけられて我に返った。「あ、スミマセン!」気づくと打ち合わせが終わっていた。「何だ?何、ぼーっとしてんだ?」「いや、ちょっと。。」「彼氏とのデートのことでも考えてたんじゃないか~?あ、コレもセクハラか?」ははは!って、キジタツが笑う。「こんなに忙しくさせて、どこにそんな時間があるんですか~?」私は軽くキジタツをにらんだ。「そうだな。あんまり忙しいと俺みたいにバツイチになるか、結婚できないかもな!」更にキジタツは楽しそうに言う。「笑いごとじゃないですよ~ホントに、変な女から無言電話や別れてメールが来てますもん~」私はつい口から重い気持ちを出してしまった。「え?!マジで?いやぁ~、そりゃヤバい!ヤバいね~、サキちゃん!早いとこ手を打たないと!」目を輝かせるキジタツ。「キジタツさん、楽しそうなんですけど~」「え?わかる?」私はつい苦笑いした。もう笑うしか無いか?そりゃそうか。急に、こんなこと言われて、どう返事しろって言うんだよね?けど、この対応、ありがたい。言ったついでだ。相談しちゃえ。「どうすればイイですかね~?」「そりゃ、そういうことされてるって言った方がイイと思うよ~」「キジタツさんなら、付き合ってる人に、それ言われたらどうですか?」「う~ん。。。どうするかなぁ~浮気はバレないようにしないといけないよなぁ~」私は半ば呆れながら聞いた。そうか。バレないようにするのが前提か。「何気に浮気のこと言われたら彼女のこと嫌いになります?それとも、浮気相手の女を嫌いになります?」キジタツさんは、「そうだねぇ~」と、また少し考えて、「その場になってみなきゃ、わかんねーな。人間、理想通りに生きていければ、後悔も悩みもねーだろうしな。」と、意外と大人なことを言った。「そうですよね。。」キジタツさんは、ちょっと同情したような顔になって、いや、そんな顔を作ったのかもしれない感じで、「まあ、ガンバれよ~!若いってイイね~♪」と、去って行った。はあ。若いから、こういうことがあって、それはイイことなんですか?ガンバるって、何を?ガンバったら人の心は繋ぎ止められるモノですか?私は、また質問してみたくなった。キジタツさんの後ろ姿が、いろいろなことを知ってそうで、とても自由に見えた。続く前の話を読むサキ1:目次ちなみにこの頃のシンちゃん
2013年10月22日
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サキ2-14飲み会後、男性社員たちはゴソゴソと内緒話を始め、小突き合い、ニヤニヤ笑いだした。さっき、宝飾品の写真を何枚か見せられ、「カトサキちゃんなら、どれがイイと思う?」何て言っていた仕事の顔とは違う、男たちのイタズラっ子のような顔。「じゃ。男は男の行くところへ行くんで。オツカレ!」場を〆るようにキジタツさんが言って、楽しそうなオジサンたち+若手男性社員は去って行った。「はい、お疲れ様でした~」女性社員たちは、「はいはい、どうぞ~」って顔をしていて、息子を見送る母みたい。バイトしてた時には、こうした光景は見れなかったなぁ~と思う。自分と同世代の男の子たちが、そうした場所へ堂々と行っちゃうようなことは無かったし、上の人たちとは常に別行動だった。「コレが大人になるってことなのかなぁ~」私は帰り道にポツリとつぶやいた。「え?何が?」帰り道が同じ方面なので、他のフロアーで働いている、私と同じ歳のオガワちゃんが言う。今日初めて話したのに、なぜか妙に打ち解けてしまった。「子供の頃ってさ~、大人になるってことは立派な人になるってことだと思ってたんだよね。何て言うか、感情とかも呑みこんでさ、動じないって言うか、頼りになる理想の人間っていうか?けど、実際、成人式過ぎて、大人って言われる歳になってくるとさ~なんかこう、、、人間としてダラしないところをズルる流してくようなのが大人って言うかさ、悪いことを許しちゃうのが大人って言うか。。」多分、キジタツさんたちは、ホステスと呼ばれるオネーチャンたちのいる店にでも行ったのだろう。或いは、もっとウハウハとかって男性たちが言うような場所。女は行ってもウハウハじゃないとこ。私の言ったことを聞いたオガワちゃんは、ちょっと考えて、、、空を見て、うなって、「う~ん。。。あたし、そういうの、わかんないやぁ~」と、のんびりしたように言った。オガワちゃんの言葉は、言葉尻を上げて延ばす。そこが故郷の言葉なのか、とてもおっとりしていて心が和む。そう言われると、何だか、自分が思ったことをつい言ってしまったことが、ただ思った言葉を口に出して説明しただけなのに、何だか深く考えてるみたいで、つまんないことに悩んだり迷ったりしてる人間みたいで、考え過ぎみたいな人間みたいに思えてきて、ちょっと恥ずかしいような、何とも行き場の無い気持ちになってしまった。けど、オガワちゃんの言い方が、本当に本当にノンビリしていたので、私は、そんなオガワちゃんに大人を感じてしまったんだと思う。母が持つ、何かを感じたのかもしれない。こんなことをつぶやく自分が凄く子供に思えて、「そうだね~、変なこと言っちゃったよ。あはは」って言ってしまった。「サキちゃん、やっぱり頭イイんだね。私高卒だからさぁ~」そんなことをサラリと言うオガワちゃんに、ますます大人を感じてしまった。言われて納得で、オガワちゃんは化粧もし慣れてる感じで、しゃべらなければ、とても垢抜けて見えた。寒い地方の人らしく、色も白くてキメが細かい肌をしていて、大柄。豊満なボディとでも言うんだろうか、オジサンたちには、人気なんだなぁ~って、今日の飲み会でとてもよくわかった。同じ歳だと言ったら、結構周りに驚かれた。「いや、、、オガワちゃんはオトナなんだと思う~漢字の大人じゃない、大きな人って書かない、カタカナのオトナのオンナって感じ」そう私が言うと、オガワちゃんは何となく褒められてるとわかったらしい。「やっだ~ぁ、もう、サキちゃんは!そんなこと言われて嬉しいよぅ」って、バンバン私の肩を嬉しそうに柔らかく叩く。けど、そんな仕草も親しくなったようで楽しい。お互い酔いを差し引いても好意を感じた。「サキちゃんさぁ~、キジタツさんと仲良し~?」「え?いや、ただの仕事いっしょにしてる人だけど。。」聞いたものの、私の言ってることは、どうでもイイとばかりにオガワちゃんが続ける。「あの人さぁ~、バツイチなんだよねぇ~サキちゃん、気をつけなぁ~、べっぴんさんだしさぁ~」「え?!何言ってんの?」私は自分がべっぴんさんと言われたことにもキジタツさんがバツイチなことにも驚いて、一体何を返事してイイのか、わからなくなった。柔らかな顔立ちの母や姉がルックスで褒められたことはあっても、キツい顔をした私が褒められることなんて早々無かったからだ。お酌も、どう接してイイのかわからない。何を話してイイのかわからない。いつもどこにいたらイイのかわからない。嘘で笑顔を作って、人当りがイイふりをして、いつも一人でいる気がする。私。だから、似た空気を感じたシンちゃんに惹かれた。私の心境も知らず、オガワちゃんが続ける。「アタシさぁ~、今の彼氏と結婚したいんだよねぇ~。一人の部屋に帰ると淋しい~。けどさぁ~、アイツさぁ~、仕事忙しいとか言って、勝手な時に来て、やることだけやったり、勝手な時に帰ったり呼び出したりしてさぁ~アタシもアイツの部屋に行って、掃除して洗濯して料理作ってさぁ~こんなのがずっと続くかと思うと、結婚したいけど、結婚したくないんだよねぇ~」おいおい、やることだけやるって。。。私はオガワちゃんのアケスケな言動に、ついツッコミを入れつつ笑ってしまう。「でさぁ~働きながら子供生まれたら仕事とか嫌だしさぁ~けどキジタツさんみたいに離婚でもしたら、また仕事とか子供いながら働いたりするの大変だろうしさぁ~彼氏、稼ぎがアタシより少ないからさぁ~」ああ、べっぴんさんは、話の流れのお世辞だったのね。ちょっとホッとしつつ聞いていたオガワちゃんの言葉は、何だか、かなり共感できる。「うちも、おねーちゃん離婚しちゃってさぁ~姪っ子と家帰ってきちゃったよ。親が姪っ子のめんどうみててさ~パートみたいなことしてるって感じ。家をね、ホントは別にした方がイイって、世帯主がどうこうで税金の問題があるらしいんだけど、おねーちゃん、娘預けるのが楽みたいで家を出なくて、税金も親に頼ってるんだってさ~今、彼氏っぽいのができたらしくてさ~親、からの電話は愚痴ばかりさぁ~」私もオガワちゃんの言葉遣いがうつって似たように言う。オガワちゃんは、ウンウンって頷いて、「どこも大変だよねぇ~」と、遠くを見て、他人事では無いとばかりに言った。「ホント、大変だよねぇ~」その様子を見て、私は、つい笑って言った。オガワちゃんも私の様子につられたように笑った。「けど、何とかなるもんだよねぇ~?」オガワちゃんはノンビリとそう言った。そうかもしれない。と、私は言った。コレが「大人」ではなく「オトナ」になるってことかもしれないなぁと思いながら。続く前の話を読むサキ1:目次
2013年10月19日
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サキ2-13会社員の生活にも慣れた頃、新装開店した店舗の販売ヘルプに行くことになってしまった。お蔭で、土日に仕事に入ることが増えた。もうすぐシンちゃんが就職したら、すれ違っちゃうかもしれないな。。そんな心配が頭に浮かんだ。シンちゃんの内定が決まった会社は普通に土日休みって言っていた。今はシンちゃんもバイトを土日に入れたりしてくれて、すれ違いも少ないけど。バンドに打ち込んでたり、友達と集まってたり、彼はずっと変わらないのが羨ましい。そんなことを思ってしまうせいなのか、嫌味が増えてしまった気がする。仕事は、海外でそこそこ人気のある宝飾品売り場の接客だけど、やっぱり値段が値段なのか売れない。周りは、私よりはるかに年上の女性ばかりで、パートだけどベテランの風格を漂わせていた。そのうち出向扱いになるかもしれない。私を含めて、女性社員の何人かは、そんな噂にヒヤヒヤしていた。特に私は一人暮らしだから、給料の減額が痛い。「カトサキちゃん、うちの商品どう?」客が全くつかない店内で、バイヤーのキジマさんが、ぼんやりショーケースの前にいた私に尋ねた。「なんか、カトサキって、どっかのカマボコみたいなネーミングでイヤなんですけど。」「え?そう?だってカトウって多いからイイじゃない?俺だって、キジマが二人いるから間違われるしさ。まあ、タッチャンとカッチャンで分けてもらってるけどね。」キジマさんは笑って答える。ちょっと堅気に見えないのはナゼだろう?気安い話し方のせいだろうか、顔立ちのせいだろうか?そして、もう一人のキジマとは、恐ろしいことに、このヘルプに入った店舗のデパートで働く、元彼カズユキのことだった。このことはシンちゃんには言えない。言う必要なんか無いと思ってるけど。狭い世の中。。。いや、有り得るのか、カズユキは私と同郷だし、私は地元会社だから、多分採用されたのだし、このデパートだって私たちの地元から進出したデパート。知ってる人がいたって全くおかしくない。にしても、何でだよ。。心の中は気まずいけど、大人の顔で挨拶してすれ違う私とカズユキ。私が傷つけて別れた人。ふったこっちの胸も痛むなんて言うのは、あっちからすれば、ふざけんな!って感じだろう。いや、もう何とも思って無いかもしれないな。。で、バイヤーのオヤジキジマはそんなことはモチロン知らないし、歳も違うカズユキとも繋がりは多分無さそうで、オヤジキジマはタツヤと言う名前なので、タッチャンとカッチャンで、某有名野球漫画の双子のように呼び分けてもらっているらしい。確かに覚えやすく解りやすい。真面目な若者のカッチャン、どこかユルいオジサンのタッチャン。が、私がこのオジサンのことをタッチャンと呼ぶワケにも、あっちをカッチャンと呼ぶワケにもいかない。「キジタツさんも、今日はヘルプですか?」見習って私も省略形の名前を付けて話す。キジタツがちょっと嬉しそうな顔をして答えた。「いやいや、今日は商品の売れ行きチェック。若い新人さんの声が聞きたくてね。あ!意見ってことだよ。変なこと言うと、今は何でもセクハラって言われちゃうからなぁ~」言わないって、んなもん。。キジタツは陽気にしゃべる。「やっぱり広告が入った時と、最初のサービス品の時は、お客様が凄かったですけど、あの時の勢いはパッタリですね。そういえば、京都展があった時は便乗して人が結構来てました。」「ふうん。客層はどう?」「そうですね、、、私の母ほどの年齢の奥様方、それに連れられたらしい私ほどの年齢の娘さんでしょうか。この前、言われたのは、お母様世代にはちょっと若いデザインで、若い御嬢さんが身に着けるには値段が高過ぎるとのことでした。」「けど、買ってくのは、若い女の子?」「そうですね~、多分、お金に余裕がある若い女性かなぁ、、、あと、歳を感じさせないマダムって感じで、、、」くだけたモノ言いにつられる。ちょっと抽象的かな?って思いつつ、私は言葉を選んで説明する。何が聞きたいポイントなのかを探りながら。「カトサキちゃんは、この中なら、どれを買う?」そう言うと同時に、キジタツさんがチラッと視線を外した。視線の先にお客様が足を止めてウィンドゥの商品を眺めている。暇だと油断しているのか他の店員が気付いていない。同僚が言っていた。 あの人は仕事がデキるらしいよ。そうかもしれない。「良かったら、終わってから時間あるようなら、飯に行こう。他にも声かけとくから。」お客様がウィンドウから顔を上げて、私の方を見た。「わかりました。」接客するために咄嗟に言葉が出る。絶妙なタイミング。キジタツさんは、サッサと売り場を後にした。続く前の話を読むサキ1:目次ちなみにこのちょっと前頃のシンちゃん
2013年10月11日
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サキ2-12あの日の思いをずっと忘れられないでいれば、私達はずっといっしょにいられたのかな?みつけてしまった成人の日の写真を見て、ふと思う。短大を卒業して、眠たい入社式があり、泊まりの研修。同期との親睦を深めるために、レクリエーションを通して、仲間意識を高めるのは、何だか小学生の時に班を作って、話し合ったことを発表する授業に似ていた。こんな時間は久しぶりだったので、楽しかった。終わると、研修保養所での飲酒はできないけど、同じ班になった仲間と「ホントにあった怖い話」やらで盛り上がったりしてた。イイ同期に恵まれたような気がする。社員研修が遊びみたいで楽し過ぎたせいなのか、同期が各地、各部署に分かれ、会社での業務を覚えることが始まると、毎日が一気に退屈な時間へと変わった。伝票の記入の仕方、パソコンの入力の仕方、お客様との接し方、研修をして現場へ。覚えることは山ほどあるけど、楽しいかと言われるとそうでもない。それが仕事なんだと思う。後は、よく知らない先輩たちとの人間関係。同僚との中での自分のポジションの確立。コレが一番やっかい。商品を客に売る方が楽だと思う。けど、その対応の仕方を逐一チェックされ、後でお小言。妙なプレッシャーがあったり、要領が良い先輩は、こっちに仕事を回してくる仕方で、すぐにわかった。仕事が終わると飲みの誘い。ドラマとか、テレビで冗談でやってるのかと思ってたけど、ホントにあるんだ、こういう断れない状況って。直属の係長辺りと違って、部長クラスともなると、みんながペコペコとお大名みたいだ。同期のキリちゃんは要領が良くて、上手に出張に行かせて下さい~とか、お酒の席で、おねだりしてた。彼女は自宅組。よく一人暮らしの彼の家にお泊りしての出勤をしている。だが、そんなことを知らない部長も、美人で愛想のイイ、キリちゃんに甘えられるとまんざらでも無いらしい。私、もともと愛想良く無い。何話していいのかわからないし、疲れる。だから、同じように、話すのが苦手そうな人を見ると、同人種な気がして、少しホッとする。自分から話しかけたりできる。けど、社会人になると、そうは行かないよね。疲れた~、と、ワンルームの部屋へ帰る。会社が寮として借り上げてるマンションの一室。6畳にミニキッチン、ユニットバス付き。家賃は給料天引きで3万5千円と、この辺りなら格安。けど、学生寮と違って、本当に一人暮らししてるみたいで淋しい。唯一のくつろぎはシンちゃんとの電話かメールなんだけどな… ただいま~ 今日も疲れた。 オヤスミ。遅くなったので、そうメールを入れたら、即電話が返ってきた。「サキ、今、寝るとこ?」「うん、そう。」「何時に帰ってきたの?」おかーさんみたいだな~って思いながら答える。「11時。」コレは嘘で、ホントは10時半だ。だって、お風呂もちゃんと入りたかったし、ちょっと疲れてた。「酔ってる?」「うん、少し。今日は部長に付き合わされて二次会まで出たから…」「ここんとこ毎日じゃ無い?女なのに、そんなに上司と飲みってあるの?」どこから仕入れて来るんだか、誰か他の新人社員は、そうじゃないのか、シンちゃんが疑いの声を出す。「まだ新人だから、あるんだよ。部長だと、課長でさえ断れないからね。みんな行くの。」「ふーん。」「心配しなくても、大丈夫だから。私はシンちゃん一筋だし~周りは女ばっかだし~」ホントは男の社員もいるけどね。けど、ホントに女の同期でかたまってるから。「ビールの注ぎ方が下手だって言われた。うち、お父さんビール飲まないから晩酌なんてしないし。なんか、ホステス扱い。毎回。」シンちゃんの声がちょっと和らいだ。「そっか。新人だし、女はそういう苦労があるか…。大変だよな。」いい加減寝ないと、明日に響くな~。私は時計を見て思った。学生の頃と違って、休める時間が無いし。ラッシュは5駅だけどキツイ。「シンちゃん、土曜ライブだっけ?3時にライブハウスに行けばイイ?」「うん。サキ日曜は?」「大丈夫だよ。」良し!午後からでイイなら、土曜の午前中に洗濯済ませて、支度して、ちょっとダラダラしようっと。そう心の中で思う。オヤスミ~。そう言って電話を切って眠る。隣にシンちゃんがいればイイのに。帰ってきたら、シンちゃんがこの部屋で待っててくれたらいいのに。そしたら、こんなふうに電話をいちいちしなくても、ご飯食べたり、お風呂は入りながら、今日あった話をして、二人で眠れて安心なのにな。。私はそんなふうに思っていた。誰かが側にいるメリットしか考えてなかった。それくらい、一人で眠るのが淋しかったし、疲れていたし、若かった。続く(多分20日更新)前の話を読むサキ1:目次
2011年06月16日
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サキ2-11最後の試験が終わって、すぐに成人式。私は実家へ帰っていた。用意されてた振袖は、姉のおさがり。昔からのことなんだけどね。そうじゃなければ、高くて買わないだろう。一人になって鏡に映った自分の姿を見ていると、ドアの入口で、姪のクゥが私の着物姿をジッとみているのに気付いた。「どしたの?」クゥは、しばらく不機嫌な顔をして、ようやく口を開いた。「これ、ママのじゃないの?」ああ、なるほど。着て欲しくないのね?私に。「今日と、あと一日だけ借りてもイイ?」多分謝恩会で~と気軽に考えていると、「まだ着るの?だって、コレ、クゥにくれるって言ってたよ。」クゥは怒ったように言った。かなり口が達者になってきたな~と思う。同時に、なんかオンナ的なものも感じて小憎らしい。「脱げばイイの?クゥ、今すぐ着るワケ?」クゥが黙った。泣くかも。だから、子供って苦手。いや、苦手になってしまった。それより、20歳にもなったのに、4歳の子供いじめてどうする?私は気を取り直す。「今のクゥ、意地悪みたいで、サキは悲しかったよ。クゥ、着物ってね、みんなで着ていく方が喜ぶんだよ。だから、いろんな人が着た方が幸せになれるの。知ってる?だからね、今日はサキが着て、クゥが沢山幸せになるようにしておくから、安心して待ってなよ。」適当なでまかせを言っておく。サキ叔母ちゃんと自分を呼ぶには、まだ早いだろう。いつも自分をどう説明するか迷いながら話している自分に苦笑いだ。「うん。サキちゃんゴメンね。」あ、素直。こういうとこ、クゥはカワイイ。だから、子供って困るよ。私はクゥの頭を猫みたいに優しく撫でた。クゥは、猫みたいに目を細めた。成人式には、幼馴染たちと行くことになってた。お互い、近況を話しながら。どこに就職決まったとか。進学することにしたとか。彼できた?結婚考えたりする?しばらく会ってなかった懐かしい顔。子供が一気に大人になった感覚にビックリした。自分も、そう思われてるだろうか?けど、相変わらずだねって言われるってことは、たいして変わって無いんだろうな。成人式が終わって、夜からは同窓会に行くことになっていた。もう写真だけは前日に撮ってあったので、着物を脱いで行くか迷っていたら、携帯が鳴った。シンちゃんからだ。「あ、俺。」「うん。どしたの?」「今さー、オマエの家のとこのインター降りたとこなんだけど。」「はあっ?!」「まだ着物着てる?」「え?着てるけど、何?何で?友達と飲みに行くんじゃなかったの?成人式は?」「あー、つまんなくてさ。じゃあさー、ちょっとだけ着物姿見ることって無理かなー?今、同窓会中?」「ううん、今から一度帰ってからだけど…」シンちゃんは、以外と家の近くまで来ていた。まあ、いいや、来てるなら仕方ない。とにかく会おう!ってことになって、私は近所のファミレスを指定した。もう本当に窮屈で、早く脱ぎたいところなんだけど…ファミレスで一人。振袖を着てるせいなのか、何だか私は注目されているようだった。しばらくして、ようやくシンちゃんが現れた。紺のスーツを着たシンちゃんは、いつもと違って大人っぽくみえた。そして、私をみつけると、ニコニコしながら近寄ってきた。視線は私に釘付けなまま、ドカっと座る。「イイねー振袖。やっぱ、見に来て良かったー!すっげ、イイ!綺麗。」私は何だか照れた。照れて、とりあえず自分も思ったことを口に出した。「シンちゃんも、何か、いつもより大人っぽいよ。サラリーマンみたい。」「それ、褒めてんの?」「褒めてる。カッコイイし、似合ってる。」窮屈で、早く脱ぎたい。着替えてくれば良かった…シンちゃんも私と同じことを思ってるようでつぶやいた。今度はシンちゃんが照れてるようだった。注文したコーヒーを無言で飲んだ表情でわかる。「で、どしたの?急に来るなんてビックリするでしょ?」「うん。迷惑かな~って思ったんだけどさ、一目でも会えればイイや、って、思ったからさ。すぐ帰るよ。成人式出たら、俺、引越しちゃったからさ、知ってる顔もいたけど、何か場違いに思えて。どうしてココにサキがいないんだろうなーって思ったら、何か会いたくなっちゃってさ…」う…妙にキュンときた。シンちゃんって、こういう時がある。ググっと女心を掴むことを、このルックスでサラリと言うの。正直、私の方が、成人式にシンちゃんが昔の彼女と会わないか、心配だったりした。「同窓会サボっちゃおうかなー」「え?!マジで?イイの?」シンちゃんが喜んだ顔をしたので、そうしよう!って決めた。「うん。」「あ、けど、イイよ。」「なんで?せっかく来てくれたのに。」「だって、俺とは、これから先ずっと会えるけど、同窓会って、滅多に無いだろ?あ、でも、ちょっと心配だったりするけど。好きだったヤツとか来る?」「あ~、それは~」シンちゃんが心配そうな表情をしたのが可笑しかった。「じゃあさ、私、ちょっとだけ顔出して、そしたら、いっしょに帰ろう?どうせ明日電車で帰ることになってたし、車でシンちゃんといっしょに帰れる方が嬉しい。あ!けど、待っててもらってイイのかな?」「イイよ。いくらでも待つ!ちょっとだけじゃなくて、ちゃんと出なよ。」シンちゃんは、とても嬉しそうな顔をした。忠賢ハチ公って、こんな感じなのかな?って思った。カワイイ。「俺、急に来ちゃったし、邪魔したくないから、って、もう邪魔しちゃったか。ゴメンな。あんまり気にしないでイイし。車で寝てるか、この辺り、ブラブラしてるから。知らない街見るの面白そうだし。」車で行動しないならスーパーに止めておくとイイよ。と言って、二人でテキトーな写真を撮って別れた。親は着物を脱いで帰る支度を始めた私を見て呆れていた。お祝いは、昨日してくれたから、イイよね?何よ、アンタはもー!と、ふくれる母と、もう帰るのか?と、ちょっと淋しそうに言った父に少し後ろ髪を引かれた。別居中で、仕事に行ってる姉にヨロシク伝えて!と言って玄関を出ようとすると、クゥが「幸せ、いっぱいつけてくれた?」と言うので、「もちろん!幸せを呼ぶ着物よ!アレは!」と、頭をグシグシ撫でた。クゥが嬉しそうに目を細めた。懐かしい顔ぶれに会えたのは面白くて楽しかったけど、大好きなシンちゃんが待っててくれてるかと思うと、サッサと帰りたかった。ねえ、シンちゃん。私も思ってたよ。ずっと二人は、いっしょにいるんだって。この日の成人式も、数年先の二人のイイ思い出になるって。こんなに私のことを好きになってくれる人、これから先、きっと出てこないと思っていたし、私も、これ以上好きな人なんてできないって思ってた。私の振袖姿を見るために、あんなに遠いところを高速で来てくれた男がいた。自分の成人式に私がいないのが淋しいと思った男がいた。過ぎ去った時間は、何て現実味が無くて、呆気ないんだろう。いつから人は、その人が隣にいることが当然と思うようになるんだろう。思い返すと苦いのに、甘い。でも、それは今の私を作った、人生の宝物の一つなんだよ。続く(16日更新)前の話を読むサキ1:目次
2011年06月10日
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サキ2-10朝起きて、トイレに入っても生理が来て無いことにガックリした。講義を受けてからも、オナカが痛くなる兆候さえ無い。足取りも重い帰り道、私はミサコちゃんに聞いてあった病院へ向かった。ふと、高校生の頃の記憶が蘇った。幼馴染で一つ上のノリカちゃんが、久しぶりにうちに来て、中絶してきたと私に打ち明けた。一人で抱えてるのが辛くて…と。ノリカちゃんは高卒で働いていたけど、年上の彼氏がまだ収入安定してないから、将来は絶対結婚しよう。って、言ってるから…と。麻酔を打ってもらって、数かぞえて、起きたら終わってたよ。何か、ホントにあった出来事なのか、変な感じ。淋しそうに、忘れるためなのか他人事みたいにそう言っていた。私は何も気が利いたことを言えなかった。口に出しそうになったのは、本当にその彼、結婚してくれるの?だった。あの時のノリカちゃんの様子が忘れられない。シンちゃんは、産んで、結婚しようって言ったけど、今の自分だって現実どうなるか、シンちゃんの気が変わる可能性もあるし、他人事では無い。病院は、私が今まで行ったことがある病院とは違って、古臭く無い、綺麗で新しいものだった。間接照明の緩いオレンジっぽい光。薄いピンクの壁紙。温かい、安心できるような雰囲気で、こんな病院に来たことの無い私は、逆に緊張してしまう。これが産婦人科なんだ。問診表の「妊娠検査」に○をする。人は3人ほどしかいなかった。午後の診察だったからかもしれない。知ってる人いないよね?まだ学生ってことと、結婚して無いのに来てることで後ろめたさがある。自分が周りに興味を引かれていないか不安になる。また一人、人が来た。冷たい視線を浴びることもなく、結構同じような歳の女の子が大きなオナカをして、彼氏(旦那さん?)と、楽しそうにボソボソと、しゃべっていた。私もシンちゃんと来れば良かったかなぁ…。と、思ったのも束の間、尿検査用の紙コップを渡された。やっぱり、いっしょに来なくて正解。そんなこともあったせいか、どうも男性がいると居心地が悪い。デキちゃったの?って、笑われてる気がする。。結婚して、夫になった人なら、尿検査のコップをもらう姿を見られても、恥ずかしく無いのかな?私は、現実逃避のために、置いてあった出産雑誌を手にとった。妊娠して幸せな雰囲気でいっぱい。みんな幸せそうに出産を迎える気満々って感じで、自分とは遠い世界のように感じながら、こうなるのかなぁ…って、他人事みたいにパラパラと眺めた。私の名前が呼ばれたので、サッサと診察室の中に入った。歯医者のような大きなイスがあって、イスの前には遮り用のピンクのカーテンが上から吊ってある。「下を全部脱いで下さいね~スカートなら脱がなくて大丈夫だけど、座る時に、上にあげて下さいね。」看護師さんは、そう言うと、カーテンの向こう側へ行った。なるほど、コレで、先生と顔が合わないようになってるんだ?イスに座ると、足を右左分けて乗せるようになっていて、私が乗ると、「あげますね~」と言う声と共にイスが上がり、自動的に足が広げられた。「カトウサキさんですね?」私の名前と本人を確認する、女性の高い声がカーテン越しに聞こえた。女医さんであることで、少しホッとしながら、とんでも無い恰好で返事してるな~と思う。下半身がスースーして落ち着かない。「ちょっと冷たいですよ~」先生が何か体の中に冷たいものを入れた。ああ、なるほど、コレが嫌なんだろうな~って、私はミサコちゃんとの話を思い出す。風邪を引いた時に、「喉をみますね」って銀のスプーンみたいな金属を口に入れられた感じ。実際は何をしてるか、わからないけど。ああ…私が男だったら、こんなふうに、股をひろげて、股の中を知らない人に見られたり触られたりするなんて早々無いはずなのに。男だったら、こんな検査しなくていいのに。いや、待てよ、男なら、お金払って、わざわざ触ってもらいに行くのか?いや、でも、それは、コレとは違うものであって…いっしょにしちゃいけないよね。うん。それに、もし男なら、こんなとこ検査する方が滅多に無いことで、もっと恥ずかしいのかも?う~ん、男も出産できればいいのに。そしたら、この診察される気持ちや、子供ができてるか不安な感覚をわかってもらえるのに。頭の中で、下らない思考を戦わせているうちにイスが下がって、診察が終わった。「生理が遅れてるだけですね~」先生が言った。「何か最近疲れることとかあった?」「あ、就職活動とか…ちょっと疲れてたかも。。」「なるほど~。じゃ、ホルモンの調子が悪くなってるのかもしれないから、ホルモン注射打っておこうか。」看護師さんは待っていたかのように用意をしていて、私が返事するまでも無く、今まで見たことも無いような太い注射を出した。ええっ!コレを打つの?!よほど、ギョッとしたのが顔に出ていたのか、先生が、私の顔を見て(楽しそうに)微笑み、大丈夫よ~。はい、横になってね。と、私に診察台にうつぶせになるよう促し、腰の下近くの右おしりの辺りを消毒したらしく、スースーした感触の上に、ブスっと、それを刺した。うっ!!けど、私の心は安堵でいっぱいになっていた。痛い。けど、赤ちゃんができてなくて良かった。。。「コレで、生理が来ないようなら、また相談しに来てね。」先生がニッコリと笑った。診察料8千円ちょっと。今まで病院に行って、そんなに取られたことが無い。懐も痛いと思った。冗談が出るようになったくらい、私の心は晴れ晴れとしていて、良し良し!と思った程だ。病院を出たら、シンちゃんに真っ先に電話して、遅れてただけだったことと、あんなに責めた手前、照れ隠しに、(オシリに打ったことを省いて)太いホルモン注射を打たれたことを話すと、シンちゃんがホッとしたように笑った声が聴こえた。笑い事じゃ無く、痛かったんだけどね!サキだけに、辛い思いさせてゴメンな。いつか、俺がちゃんとしたら、結婚しような。そんなシンちゃんの言葉に、堕ろすようなこと想像しちゃってゴメンね…と、口には出さなかったけど、私は責めたことを何度も謝った。もしも…もしもこの時に子供が本当にできていたら、私はシンヤを失うことは無かったのかな?時々ふと思う。返事を聞くことは、もうない。続く(10日更新)前の話を読むサキ1:目次
2011年05月19日
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サキ2-9シンちゃんの返事は、避妊はした。けど、100%大丈夫とは言えないってことっだった。それは私も保健体育の授業や、友達との話や、テレビ等などで得た知識でわかってる。生理前の1週間以外は、安全では無いってことも聞いたことはある。だから、避妊は男任せじゃダメなんだってことも知ってる。だけど、だけどね、、、二人で会っていて、抱きしめられると安心して、そういう雰囲気や流れになった時に、毎回、大丈夫な日に会ってるワケじゃ無い。心のどこかで、そんなに簡単に子供なんてできないでしょ。避妊してるし。って、思う自分がいたのは確かだ。シンちゃんは、いつもいっしょに行く土手の駐車スペースで車を止めて言った。「サキ、結婚しよう。」そして続けた言葉は、学校を辞めて働くから。だった。 ちょっと待ってよ心の中で、その言葉が真っ先に浮かぶ。だって、私は、そんなの嫌だ!って、思ってしまったから。じゃあ、私は何のために、学生時代、遊びもしないで勉強してきたの?ようやく、自分を一番に考えてくれない家族から抜けられて、ようやく自由になれて、ようやく自分のペースができて、ようやく自分一人で歩いて行けるんだと思った矢先だったのに。私がどんなに就職活動したのか、私がどんなに、この街で働く場所を得るためにガンバったか、それが全て無になっちゃうって言うこと、シンちゃんは本当にわかってくれてる?そんなに簡単に、辞める辞めるって、シンちゃんは、就職するのが、どんなに大変なことかわかってんの?辞めるのは簡単だけど、就職って言うのは、バイトの面接とはワケが違うんだよ?頭の中が一気に悔しい気持ちでいっぱいになって、私は気付くとシンちゃんを責める言葉でまくしたてていた。どうするの?辞めて一体どうするの?まだ20歳になったばかりなんだよ?そんな自信無いよ!そんな言葉をぶつけていた。「じゃあ、どうすんだよ!堕ろしたいのかよ!」シンちゃんが初めて怒鳴った。泣き出しそうな目をしていた。「嫌だよ!だからこんなに悩んでるんじゃない!」たまらなくなって泣き出した私をシンちゃんが抱き寄せた。咄嗟に出た言葉で、わかった。私は生む決意をしてたんだってこと。この、私のために何もかも捨てようとしてる男の子供を殺すなんてできない。だから悔しかったんだ。今まで積み重ねてきた全てのことを捨てなきゃならないって、そんな現実が、わかってるから。きっと親は祝福なんてしてくれないだろう。オメデタ婚をした姉が出戻るかもしれない状況で、私のことなんか。シンちゃんが、私の髪をなでる。何とかなるって、私たちくらいでも生んでちゃんと育ててる人たちがいっぱいいるって、大学なんて辞めようとしてたのが早まっただけだって、言う。シンちゃんが言ってることは、甘い見通しなのかもしれない。けど、私を守ろうと必死な気持ちが伝わる。私は知ってる。シンちゃんが、今、大学生活がどんなに楽しいか。子供を堕ろせば、シンちゃんだって、苦労をしょいこまなくたっていい。なのに、私のために、シンちゃんも、それを捨てようとしている。大丈夫かもしれない。この男のためだったら、私も自分の今までを捨てたってかまわない。シンちゃんさえいてくれたら、どんなに大変だって、苦労したって、二人なら、きっとガンバれる。親を泣かせるかもしれない。だけど…誰も私のことを、こんなに大切に思ってなんてくれないもの。シンちゃん以外、誰も。とにかく、私は病院に行くことにした。続く(多分19日更新)前の話を読むサキ1:目次
2011年05月15日
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サキ2-8あれ…?と、思ったのは、ミサコちゃんが山川さんとデートでプールに行くって話を聞いた時だ。「どうしても、その日に招待券があるって言うから、病院に行って、生理の予定日ズラせるよう薬もらったんだよね。」「え?そんなことできるの?」「うん。中学の頃から学校の水泳の補修受けなきゃいけない時とか、結構行ってるんだよねー。」「それって内科?」「産婦人科。婦人科って言うでしょ?」「ふーん、産婦人科って産む時しか行かないものかと思ってた~。」「まぁね~。確かに行くのは躊躇したりもするけど、婦人科で来る人もいるから妊婦ばっかじゃ無い診察時間があるしね。」あとね、、、と、ミサコちゃんは小声で言った。「昔付き合った彼がアレつけるの好きじゃなくて、赤ちゃんができた心配があった時にもお世話になったりして」「え?!そうなの?」「そうなの~」ミサコちゃんは、思い出したかのように苦々しい顔をした。「あんな思い二度としたく無いから、その彼とは別れちゃったよ。どんなにイイ人でも好きでも、毎回そんなこと心配してたらヤんなっちゃって。」イイ人は不安になるHなんてしないんじゃない~?なんて私が言ったら、けど、好きだったのよ~とミサコちゃんが笑った。で、そういえば…と、思い当たった。私、生理がそういえば今月来てない?と。「ねえ、そこって女医さん?」「うん。そうだよ~。」「私も、その薬もらおうかな。もしかしたら、私も旅行に当たっちゃいそうだから。」「うん、じゃあ場所教えるね。…って、ねえ、まさか、妊娠検査じゃないよね~?それなら絶対スカートにしてった方がイイよ~。下全部脱ぐことになるから。」「も~、何言ってんの~!」「だって、私Gパンだったから、スゴイやだったんだもん」あはは、ってミサコちゃんが笑った。「あとね、妊娠検査とかって、保険利かないから、お金かかるんだよね。だから、行く前には妊娠検査薬使った方がイイんだって思ったよ~。」「そうなんだ?流石1こ上!何か、スゴイ、勉強になる。何かあったら、ミサコちゃんに聞くことにしよう!」私が言うと、他に何答えるのさ~!何聞くつもりなのさ~!と、ミサコちゃんが笑って、私も笑った。行くことは多分無いと思うけど、用心のために…。私は心の中で、ミサコちゃんに感謝しつつ、妊娠の心配があるって、ホントのこと打ち明けなくてゴメン!と、謝っていた。だって、もしも、何でも無かったら、シンヤに悪い。ミサコちゃんのことだから、彼氏の山川さんにしゃべることは間違い無い。そこから冷やかされ、まさかのバイト先に広まる可能性もある。ミサコちゃんが同じバイト仲間じゃなくて、シンヤのことを知らなかったら、絶対打ち明けてたのにな~と、思った。寮の友達では、こうした経験値を持って無い子がほとんどだ。仲が良くても、経験値の無い友達に相談したら、客観的に産婦人科に行けと言われるだけだろう。もしかしたら軽蔑される可能性もある。それに大半は、彼氏がいるってことで、私に相談をしてくるのに、そんな私が友達に何を聞けるって言うのだろう?私は念には念を入れて、滅多に行くことが無い駅に降りて、並んでいる薬局で妊娠検査薬を買った。たいしたことじゃ無い。そんなに周りは私に興味なんて無い。自分にそう言い聞かせて、何でも無いフリをした。そして、その駅のショッピングビルにある個室トイレの一室で、説明書にあるように、尿を検査に使う棒状の物にかけてみた。うっすらとピンクの線が見えるような見えないような…。コレって陰性?陽性?説明書を何度読んでも妊娠したら陽性反応の線が出るとしか書いていない。何度見てもうっすらとしか見えない。陰性?陽性?うっすらだし、きっと陰性だよね?でもでも、うっすらだから、陽性なの?どれだけ時間が経ったのか、長かった気もするし、そうでも無い気もする。私は泣きたい気持ちで、トイレの汚物入れに妊娠検査薬を捨てて、洗面所で手を洗った。一人で抱えるなんて無理。明日、シンちゃんと会った時に相談しよう。続く前の話を読むサキ1:目次
2011年05月03日
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サキ2-7「赤木くん、時間だよ。電話かかってきたよ。出ないとお金かかるよ。」自分は身支度をバッチリ済ませて、グッスリ眠ってるシンヤの体をゆすった。目をつぶって無防備に寝てるシンヤはカワイイけど、全く起きる気配が無い。さっきフロントから電話がかかってきてしまっていた。あと10分。ほん、とにもう。。。と寝顔を見て、ほっぺたをつつく。耳元でささやいた。「シンちゃん、朝ですよ。起きて。」シンヤの顔がニヤリと笑って、いきなりガバっと抱きしめられた。「キャー!」「おはよ。。」「何よ~!起きてたの?」「うん。今起きた。俺、人に起こされることがあんまりないから、何か嬉しくなった。」「え?そうなの?」「俺んち親共稼ぎで、帰ってくるの遅くて、朝は俺とねーちゃんのが早いから。ねーちゃん、絶対起こしに来ないし、勝手に起きて、勝手に朝飯食ってを小学校の時からやってて。」「そっかぁ。。」心のどこかで、シンヤは大学生の自宅組お坊ちゃんって思ってたところがあった。親元から出てきてるってことで、私の方が絶対大人値が高いって思っていた。けど、私は家を出るまでは、お母さんが起こしに来てくれていたし、朝御飯もお弁当も用意されていた。いっしょに朝を迎えなかったら、知らなかったことだったな…そんなこと、ふと思った。素早く身支度をしたシンヤはコーヒーを急いで飲んで、歯ブラシだけもらってこーって、ちゃっかりしたことを言い、さっさと車でホテルを出た。二人で遅い朝食を兼ねた昼食にしたのはファミレスだった。「赤木くんは自宅だから、起こしてもらってるんだと思ってた。」「意外?」「うん。」「その言葉、よく言われる。」「私も。目つきが悪いみたいで、よく誤解される。」「だと思った。」シンヤがハンバーグを頬張った。「俺と似てる気がした。」そんなこと思ってたんだ?シンヤは親しくならないと、感情を顔に出さなかったり、黙ってると、不機嫌なように見えるからなぁ。。私は何となく、シンヤがハンバーグを食べる姿をジッと見てしまう。私がシンヤを見ていたように、いつから私のこと、そんなに見ていてくれたんだろう?「何?」「ううん、美味しそうに食べるな~と思って。」「美味いよ。ハラ減ってたし。運動沢山したしね。」「バッカじゃない!」「サキってさ、結構現実的だよな~。さっきも、お金かかるとかって~。萎えるよな~。」「朝なんだから、萎えて丁度イイじゃない。」「うっわ!冷た!」あはは!とシンヤは笑った。私も笑った。お互い講義をサボっちゃったけど、今日は特別だと思った。結局夜までいっしょにいて、帰り際に寮の近くに車を止めて、シンヤが言った。「昨日、あの月が綺麗だったから、サキに言いたいなーって思ってた。」私も、同じことを思っていたので、驚いた。「どこに行ってても、そんなこと思ってるよ、俺。だから…どこにいても、オマエが俺といっしょにいると思ってるから。」シンヤが私の手を強く握った。「うん。」そんなことを言われると、また離れたくなくなる。泣きそうになった私は、シンヤの手を強く握り返して、降りたくなかったけど、車から降りて、手を降った。シンヤが手を振り返す。小さくなっていくシンヤの車を、いなくなるまで、ずっと見ていた。ガンバるから。もしも、私が就職できなくて、故郷に帰ることになったとしても、きっとイイ思い出になる。でも、別れたくなんか無い。とりあえず先の心配をするのは、やめようと思った。今の積み重ねが未来への積み重ねだから。年上の一人暮らしの彼とは家にいるばかりで、まるで万年夫婦みたいな付き合いに、付き合うってこんなものだろうと私は諦めていたんだと思う。シンヤといつもいた学生生活は、まるでドラマに出てくる恋愛モノみたいだった。好きな音楽がいっしょだったから、二人で行って騒いだライブ。ずっと行ってみたかった遊園地のパレード。バイト仲間とみんなで行った遠出。ボーリングにビリヤードにドライブ。全てが夢のように楽しかった。いつも、いつも、シンヤと手を繋いでいた。就職活動のことでフリーターのワタナベくんが、年上の功とばかりにアドバイスを授けていてくれたのに、(じゃあナゼあなたは就職しない?と心で思っていたけど)割って入ったかのようなシンヤの行動は、後から聞いたら、ちょっとしたヤキモチみたいだった。この前は、私の方がヤキモチみたいになったのにね。本格的に別居したという姉のことで実家はバタついていた。就職試験も落ちまくっていた。ヤケクソ気味に試験を受けて、もっと思い出作ってやろう!と、夏に帰省することをやめた途端、あきらめかけていた就職がようやく決まった。こっちでは有名じゃないけど、地元では有名な大手の会社が支社を出すことになって、私の出身地が影響して採用されたんだと思う。ダメモトで受けた会社だったけど、寮付きで、一般職でも総合職になれる可能性があること、仕事の遣り甲斐など、説明会を受けて良かったと思わせた会社だったから、思いがけない嬉しい内定だった。私は、本当に飛び跳ねて喜んで、親でも友達でも無く、真っ先にシンヤに報告した。その頃には、初めてシンヤと結ばれた朝に呼んだように、赤木くんからシンちゃんと呼び方が変わっていた。これで、ずっとシンちゃんといっしょにいることができる!だけど、本当にドラマに出てくる恋愛モノのようなハプニングが、私の身に振りかかった。続く(多分5月3日更新)前の話を読むサキ1:目次
2011年04月29日
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サキ2-6携帯のヴァイブが鳴ってる。バッグの振動で感じるけど、私はミサコちゃんといっしょに帰りの電車の中にいた。何で電話に出ないようなことをしたんだろう。。。軽い後悔の気持ちを持ちながら、駅に到着してから寮に向かう。どうしよう…どうしよう…今、こっちから連絡をしなかったら、気まずくなってくかもしれない…そう思うのに、自分からシンヤに電話をかけることができない。このまま寮に戻るのが何となくイヤで、いつもシンヤに送ってもらうと、別れがたくてつい話し込んでしまう公園のベンチに座った。シンヤが隣に座っていないことが淋しい。それならいっしょに帰れば良かったのに。私は携帯を開いて文字を打ち込んだ。 ゴメン。就職活動で疲れてた。 変な態度取ってゴメンなさい。 このまま就職活動が上手くいかなかったら、 実家に帰らなきゃいけないかと思うと怖くなって。 そう思ったら、赤木くんがユウコちゃんとしゃべっていたのを見たら、 こっちの子の方が赤木くんには合ってるような気がしてしまいました。 今日はこのまま帰って寝ます。 オヤスミ~〔月〕真面目に書いたのが照れ臭くなって、最後だけ変に堅くならないように月のマークを入れて送信。しばらくしても何も返事が無い。出したメールを読み返して、何か重いこと書いてるかも…と軽く後悔した。溜息が出た。さて、帰ろう。見上げた空に丸くて白い月が光っていて、輝いてるって表現がピッタリだと思った。シンヤに会いたい…月を見て、そんなことを思う自分は、何かに酔ってるようで、バカかと思った。立ち上がると携帯が鳴った。シンヤからだった。「俺だけど…」「うん」「メール読んだけど…今どこ?」「ゴメン…寮の近くの公園」そう言って入口の方を見ると、細長い男の人影が見えた。携帯を耳にあてた、シンヤだった。目が合う。お互い電話を切った。シンヤが真っ直ぐ私の方に向かって歩いてきた。「バカ!オマエなんでこんな暗いとこに一人でいんだよ!危ねーだろ!」怒ってたシンヤの表情は、すぐに驚いた顔に変わった。「ゴメン…」「何で泣いてんだよ…」シンヤは私を軽く抱きしめて、頭をなでた。ポケットからハンカチを差し出してきたので、涙を拭いて返した。「会いたいと思ってたから」スルリと出た自分の言葉に自分でも驚いて恥ずかしくなった。シンヤの顔がマトモに見れない。「言うかな、そういうこと。勝手に帰ったくせに。」「うん…だから、ゴメン…」シンヤは今度はキツく私を抱きしめた。「オマエってヤなオンナ。ワガママなヤツー」ホントにそうだ、と思って、シンヤの胸に頭を預けた。春の夜の空気がまだ涼しかったので、シンヤの体があったかいと思った。私もシンヤを抱きしめ返した。「サキは、俺がこっちのオンナと付き合って欲しいって、ホントに思ってるの?」私は首を振った。「ほんと、何しでかすか、わかんないよな。。」ポツリとシンヤがつぶやいた。「オマエ、どっかに行っちゃいそう。」「行く気は無いけど、就職決まらなかったら帰るしか無いけどね。」シンヤの溜息が耳元で聞こえた。「就職がもしも決まらなかったら…」シンヤが体を離して私の顔を見た。「俺が就職するまで待てる?」頭が真っ白になった。「甘い?それとも重いか?」「え…だって、まだ、そんな約束しちゃってイイの?まだ付き合ってそんなに経って無いし…」「まだ、最後までヤって無いしー。」シンヤは茶化したように下ネタに持って行って笑った。この人は照れるとそういうことをする。私も釣られて笑った。「俺はそういうつもりで付き合ってるけど、サキは?」「正直、あんまり結婚とか考えたこと無かった。だって、そういうことって、まだまだ先だと思ってたし。あ、別に赤木くんが結婚相手としてってワケじゃなくて、漠然と結婚って言うのが…だって、まだ働いたことも無いし、生活費だってどうなるかわからないし…」シンヤがアハハって笑った。「俺だってそうだよ。けど、このまま付き合っていけて、離れたくなかったら、簡単に別れるような付き合いじゃ無いってことで…」また涙が出てきた。「また泣く~」「だって…なんか、嬉しくて…」どうしたらイイのかわからない気持ちでいっぱいだった。先の見えない未来に、不安でいっぱいだった。だけど、シンヤが、そんな私の心を一言で軽くする。「てっきりヤキモチやいてんのかと思った」「うん…」「その方が楽だったな…」淋しそうに言ったシンヤは、言葉が単なる慰めにしかならないと、わかってるのかもしれない。見えない未来に不安を抱いてるのは、シンヤも同じなんだと感じた。シンヤは、私の涙をハンカチで拭いて、また抱きしめた。ずっとずっといっしょにいたくて、駐車場に置いてきたと言うシンヤの車に乗って、その夜は寮に帰らなかった。続く前の話を読むサキ1:目次
2011年04月28日
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サキ2-54月。先輩に教えてもらった単位が取りやすい講義を選択して、ノートやテストの出題傾向も譲り受けて、友だちたちと情報を交換しあう。就職のオリエンテーションは、イマイチ具体的じゃなくて、何かわからなかったら就職課に聞きにくるようって話だった。自宅組は、結構ノンビリしてる。私だって、今更こんなに焦るとは思わなかった。だって、入学した時には帰省して、地元で就職すると思ってたから。私みたいに、こっちで彼ができちゃった子たちは、みんな必死に就職活動してる。中には結婚を考えてる子までいる。年上なら、それもアリなんだろうけどね。。あ~あ。私は溜息をつきたくなった。まだ付き合って4ヶ月も経って無いのに、最後までしてないけど、指輪だけもらって浮かれてる。自分はきっと、赤木くんの特別だって信じてる。友だちは、指輪を見ると冷やかしてくる。4ヶ月程度の付き合いで重くない?なんて言う子さえいる。重くなんか無いよ。ただ、怖いだけ。体ばかりの関係になっちゃうのが、今の状態が変わっちゃうんじゃないか?って、お互い、何となく、友だちから始まったから怖いんだ。私はそう思ってるし、そう感じてる。携帯電話の表示に「赤木シンヤ」って名前が浮かぶと、赤木くんって呼んでるくせに、心の中では「シンヤからだ~♪」って、思う。でも口から名前が出て来ない。なんでだろう?学校での就職説明会の帰り、時間が、もったい無いので、そのままバイトに行くことにしていた。何だか、心がモヤモヤしていた。やっぱり、こっちで就職するのは不利だとか、自宅組の有利さとか、コネで入れることが決まってる子の話を聞いてきたからだ。けど、そんなモヤモヤも、シンヤに話すと、ちょっと楽になる。せめて顔だけでも先に見てからバイトに入ろうかな。そう思って、シンヤのいる1階カウンターに客を装って入ると、棚に在庫を入れてるシンヤが見えた。声をかけようとしたら、隣に女の子がいるのが見えた。ユウコちゃんだ。シンヤと何かしゃべって、楽しそうに二人で笑ってる。バイトエプロンを着た二人の、その空間と、自分の紺色のスーツが、何だか違う世界を意味しているみたいで…。私が就職して(もしかしたら、就職できなくて帰省して)、この空間からいなくなったとしても、何も変わらない、この風景。シンヤもユウコちゃんもまだここに数年いて、今と同じように商品を出して、私がいても、いなくても、何も変わらずに、こうしてバイトしてる風景。ふと、そう感じて、シンヤがいる「この世界」にもう戻れないような気がして、何だか、ここにいるのが辛くなった。笑っていたシンヤと目が合いそうになった瞬間、私は咄嗟に後ろを向いて、逃げるようにロッカー室へ向かってしまった。ヤバイ。変だった?…よね。スーツ、やっぱり一度帰って、着替えてくれば良かったと後悔した。たった4時間だし、店のトレーナーやエプロンがあるからイイと思ってた。けど、堅苦しいスカートが動きづらい。社会人になったら、毎日こんな服を着て動くのかと思うと、何だか嫌だと思う自分がいた。ジーンズをはきたい。Tシャツでいい。「サキちゃん、今日何か大人っぽいー。」いっしょに品出しをしながら、ミサコちゃんが言った。「ストッキングにスカートだからかなー?社会人って感じがするー。」「ババ臭いの間違いじゃ無いー?」「やめてよー!私のが年上なんだからー!」ミサちゃんは大袈裟に、両手を頬に当てて、青くなるポーズを作ってから笑った。「そろそろレジ交代するかなぁ?」フリーターのワタベくんが声をかけてきた。「あれー、もう就職活動の時期だっけ?」ワタベくんが私の服を見ながら言う。彼は海外に行く資金が溜まると店を休職(?)して、お金が尽きると帰ってくるらしい。店のオーナーの親戚って話で、年齢は不詳。けど、妙に若く見える。肌から20代と言う人もいれば、実は40なんじゃ?と言う人もいる。どう見ても見えないのに、本人は50歳だと、ワケのわからないことを言っているので、みんな、もう何歳だろうが、どうでも良くなっていた。「カトウさんは、早婚の相が出てるから、きっと就職して、すぐに結婚するね。」「え?なぜ?!」私もつい、ミサコちゃんと同じ頬を両手で押さえるポーズをしてしまう。「またまた~!この前、サキちゃんが赤木くんと付き合ってるって知ったからでしょ?」ミサコちゃんがお見通しと言うように言った。「いや、そうじゃ無くてねー、俺、海外で友達になった占い師に教えてもらったんだけど…」と、ワタベくんが言いかけた瞬間、目が他所を向いたので、私もその視線を追うと、そこには、こっちに向かって来るシンヤがいた。「サキ、ちょっとイイ?」「きゃー!サキ、ちょっとイイ?だってー!」ミサコちゃんが楽しそうに繰り返すと、シンヤが恥ずかしそうにこっちを見た。「ほら!行ってきな!早く戻ってきてねー♪ホントにちょっとだよね~?」ニヤニヤしたミサコちゃんが私の背中を押す。こっちまで恥ずかしくなった。「いや、やっぱイイや。すいませんでした。」シンヤは、私がすぐにシンヤの方に近付かなかったからなのか、すぐに戻ってしまった。「ごめーん!騒ぎ過ぎた?」あまり、ゴメンと思って無い感じでミサコちゃんがペロリと舌を出して言う。「ううん、いいの。別に大した用じゃ無いと思うし。」しばらくして、ポケットの中の携帯がふるえた。トイレに入ってメールを確認する。 バイト終わったら、いっしょに帰ろう。やっぱり、シンヤからだった。顔を見に来てくれたことが嬉しいと思うけど、今、シンヤと話すと何か心の中にあるモヤモヤをぶつけそうな自分がいる。何て返事をしたらいいのか、わからない。私はメールを放置した。続く前の話を読むサキ1:目次
2011年02月22日
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サキ2-4バレンタインデー、私は私のフロアーの男子たちに、義理チョコをみんなで配った。男の子たちは、それなりに嬉しそうな顔をして受け取ってくれていたので、私達女子は、ちょっと嬉しい気持ちになった。赤木くんは、赤木くんのフロアーの女子やパートさんから義理チョコをもらってきていた。それとお客さんから義理っぽいのを2つ。大学では、(多分)もらって無いことにホッとしていた。お互いバイトを早番にして、もう付き合ってることは周りにバレバレなのに、何気無いふうを装って、いっしょに帰った。「ふぅ~ん、お客さんからも、もらってるんだー」「うん。何かチョコ沢山持ってるのの一つみたいだったけど。人妻みたいだったし。いつも目の保養をありがとう!とか、ワケわかんないこと言ってた」「別に、イイじゃない?モテてるんだから。」「なーんか、棘を感じる。」「ねえ、ホントにコレしかチョコって、もらって無いの?」「うん。」美味しくて大きなピザトーストを出す喫茶店で、二人で夕飯を食べながら、並べた義理チョコを見て、私は、つい探りの本音を言ってしまう。「うっそだぁ~。赤木くん、もっともらってるでしょ?私にあげたくないから、嘘ついてるでしょー?」「何で、そんな嘘つかなきゃなんないんだよ?ホントにコレだけ。大体、何でソレをサキが食べることになってるワケ?」「それは~、私がチョコが好きだからです~。」「ひでぇな~。俺を想って、くれたチョコなのに。」「その想いは私が食べちゃうのです。余計な想いは、いらないのです。」内心少しホッとしてるのを隠しながら、くれると言ったチョコを選んだ。赤木くんは、呆れたように笑っていた。帰りに送ってくれた車の中で、赤木くんがもらった義理チョコを、美味しいねーと、結局二人で分け合ってモグモグと食べた。もしかして、私と付き合ってるからモテなくなったとか?食べながら、モテなくなったことで、赤木くんが面白く無いんじゃないか?と、ちょっと心配になったりする。フリーでいれば、いくらでもモテそうな人だし、私が彼のモテ人生を邪魔をしているような気がしてしまう。だけど、私って彼女がいるのに、モテたらモテたで心配。私の気持ちは、少し複雑だった。私があげたチョコレートは、いっしょに食べさせてくれなかった。「家で味わって、ゆっくり食う。」そう言って、最初の一個だけ、パクリと頬張った赤木くんは、とても幸せそうに見えたので、私も、とても幸せだった。いっしょに渡した革のキーホルダーが、その日から彼の腰で毎日揺れていた。3月、ホワイトデー、バイト帰りの車の中で、赤木くんは不機嫌だった。ホワイトデーの義理返しを男子たちでしたら、値段の違うモノで差をつけられた!と女子たちが文句を言っているらしい。「俺は、フリーターが悪いワケじゃ無いと思う。いろんな値段のを、福引の景品みたいに選んで欲しかっただけだと思うし。けど、女子たちがさ、フリーターが高いのを取っておいたのが気に食わないんだってさ。」「ユウコちゃんが休んでたからでしょ?けど、そりゃ、そうなんじゃない?あの子、カワイイし、変なやっかみも入ってるかも。」「けど…さ、いなかった子に安いのを渡しにくかったって言うのもわかるし。男からしてみれば、ホワイトデーって単なるお礼って言うか。。チョコ欲しいって言ったワケじゃないのに、同等のもん返してよこせ!って気持ちが、嫌って言うか…」赤木くんは、最後は言いづらそうに、小声になった。「俺、別に、好きな女からしか、いらないし。」私はその言葉に嬉しくなったくせに、口からは、違う言葉を吐いていた。「そんなこと言えるのは本命の彼女がいる人だけ~。いろんな人を敵にまわすよ?」赤木くんは、黙り込んだ。運転に集中してる気もするけど、何かを考えているのか、それとも私の言葉が面白くなかったのか。それとも、考えるのをやめたのか。「私が赤木くんのチョコをお裾分けしてもらうんだから、本音言っちゃダメー!」私がそう言うと、赤木くんは笑った。「まあ、もうイイや~。」赤木くんは、峠道の夜景が一望できる場所へ車を止めた。「はい。どうぞ。」私にくれた小さな紙袋の中には、小さな箱が2つ入っていた。「何コレ?あ!チョコレートだ!」「飴よりチョコのが好きなんでしょ~?」そう言って、私から目線を逸らして、ハンドルに顔をのせて、夜景の方を見ていた。もう一つの箱を開けると、入っていたのは指輪だった。目を上げると、赤木くんが私を見ていた。「覚えてたんだ?」「うん。」それは、二人でいっしょにウィンドーショッピングをしていて、コレがカワイイねー!って、あれこれ見て、私がふざけて、ねだっていた一つだった。「一番安いヤツだけど。」シルバーのリングにピンクの石。私は自分の指にはめて眺めた。値段は関係無い!私の好きなものを覚えてくれてただけで。「うそ~。嬉しい。すっごい嬉しい!赤木くん、ダメじゃん。貢いでるじゃん!私が結婚詐欺師だったら騙されちゃってるよ?けど、赤木くんのが出来すぎ!私、騙されちゃってるのかも?」「サキは結婚詐欺師なワケ?じゃあ返して。」赤木くんはクククと笑いながら言った。「え?!嘘!ヤダよ!返さない~!」指輪をふざけて取ろうとした赤木くんともつれあって、そのまま深い深いキスをした。「サキ…」「ん?」「このままだと…」「何?」「俺の赤ちゃんの種をサキにあげたくなるんだけど。」真剣に目を見て言ったかと思うと、赤木くんは、冗談みたいに軽く笑った。多分、私が、どう答えていいかわからなくなって、頭が真っ白になってるのがわかったからだと思う。「な…っに言ってんの!バッカじゃないの!」「じゃあ、そういうことだから、まだその気が無いなら、もう少し離れて~」私は頬を膨らませた。多分、顔が赤くなってると思う。耳が熱い。触れてた体を離したら離したで淋しい。「体目当てで指輪よこしたワケ?」「そんなワケ無いだろーサキって、やーな感じ。」赤木くんは軽くムクれた顔をして車を出した。「赤ちゃんの種だなんて、変なこと言うんだもん。」「変かなー?」「うん。赤木くんて、変なとこで真面目。」「そうそう。意外と真面目なんだよ。俺。」赤木くんは笑いながら言った。ムードだけで押してくれればイイのに。って思う。そして、そんなことを思うと、彼の今までの女性関係を、つい思ってしまう。いつも思ってた。何で、この人がフラれたんだろう?って。女の子に気が利きすぎるのが嫌味になってフラれたのかな?と、思ったり、もしかして、フられるように仕向けたんじゃないか?と勘ぐってしまう。女はめんどくさいって言ってたのに私はどうなの?とか。私もいずれ、そうなるのかな?とか。「じゃね。」私の寮の近くで、いつもみたいに車から降ろしてくれる。無理なことは、しない。強引なことをして欲しい。けど言えない自分がいる。縮まったようで、縮まらない距離に、少し焦れている私がいた。続く前の話を読むサキ1:目次
2011年02月15日
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サキ2-3実家に帰ると、兄が彼女を連れてきていたのでビックリした。私が帰るのを待っていたらしい。みんなで母が作った正月料理をつまみ、四畳半の元兄の部屋で、兄と彼女が泊まることになった。私は姉といっしょだった六畳の自分の部屋で眠ることに。川の字に布団を敷くけど3人だと一気に部屋の狭さを感じる。クゥが「狭い~、ママと二人がいい~」って、言ったことに、つい腹が立つ。女の子は口が達者になるとは聞いてたけど、3歳でもうこの調子だなんて。去年は、もう少し可愛かったのに。それだけなら子供だから仕方無いって思えるけど、姉がそんなことを言うクゥに対して一切叱ることをしないで、仕方無いな~って感じの空気にますます腹がたってくる。家の中は姪のクゥ中心に動いていた。何かと言うと、「クゥが寝てるから、いっしょにさっさと寝てよ」とか、「クゥちゃんが食べたいものにしようね。」って感じ。テレビは幼児向け番組の録画に占領され、食べる以外にすることも無く、勘弁してほしい…って感じだった。それに、クゥはほんの半年程度で、私のことを忘れてしまったらしい。多分、それが一番私の心にひっかかってたんだろうと思う。兄と兄の彼女はクゥをカワイイね、と調子づかせ、お年玉を与えたりするので、大学生の私は、しまったと思った。クゥから、おねだりのまなざしを向けられると、こんな時だけカワイイ顔をしてみせるクゥが可愛く思えなくなった。「私は社会人になってからあげるからね。」そう言った私に、姉は「何それ?」って、冷たい眼差しを向けて、クゥはそんな母親から何かを感じ取ったのか、いかにも可愛がってくれる兄たちのところに懐きだした。家に居場所が無く、地元の友達に連絡を取るためにメールを送れば、「ゴメン!今彼と旅行中なの~♪」とか、「えー!帰ってきてるの?これからマーくんと初詣だよ☆明後日なら空いてるのに~!それとも明日、彼に友達連れてきてもらって会う?」って返事が来た。そんなの気を使うし、いらない。誰かいるだろうとアテにしていた友達たちにも結局会えず、私は何しに帰ってきたんだろう?赤木くんと、あのまま帰らないで過ごせば良かった…。心の中でつぶやいても後の祭りで、明後日の昼にはそっちに着けそうってメールを赤木くんに出した。返事が来ない。寝てるのかもしれない。夜中、真ん中で寝ているクゥの寝相は悪く、パンチされて起きた。兄が帰ってこなければ、私は兄の部屋で、ゆっくり一人で眠れたんだろうな…。いや、そうじゃ無い。姉が嫁ぎ先で上手くいってれば、ここに姉親子が泊まることもなかったから、私は自分の部屋で安らかに眠れたのに。そんなことを思い、姉のダンナにパンチした。ちゃんと娘の教育しろよ!って、姉の横っ面をひっぱたいた。クゥは寝てると天使のようだった。どうやら私も寝ていたらしい。翌日の昼間に兄と彼女は、今住んでいる街へ帰って行った。彼女の地元に兄の働く会社の基盤がある。兄はこのまま彼女と結婚して、家のある街に戻ってくることは無さそうな話をしていた。私も今大学がある街で就職を決めようと思っている話をした。もしも、前彼のカズユキとずっと付き合っていて、結婚することがあれば、絶対、家の近くとまでは言えなくても、側で暮らすだろうって思っていた。だけど、赤木くんとこのまま付き合って行くなら、私もここには戻らないだろうと思った。姉は本腰を入れて、離婚して家に帰ってくる気でいるらしい。親もそれを受け入れている。「私も明日の朝出るから。」そう言ったら、「そうか~、試験ガンバれよ~。」と、クゥをヒザに乗せて嬉しそうにしていた父が言った。母と姉は「気をつけて帰りなね~」と言い、じゃあ、明日はみんなで初詣に行って、オモチャ屋さんにでも行こうか。なんて話をしだした。クゥは私を見ようともしなかった。私の居場所は、やっぱり無くなっちゃったんだな…。遠くなっていく街の風景を電車の中で見ながら、何だか悲しい気持ちになっていた。これで付き合ってる男もいなかったりしたら、一人暮らしでグレてそうな気がした。待ち合わせをした駅の本屋で立ち読みをしている赤木くんをみつけた。彼をみつけただけで、今までの憂鬱が吹き飛んだから不思議。もういっか。私には赤木くんがいるんだし!肩を叩くと、赤木くんが振り返った。「ただいま」「お帰り。」赤木くんが私の頭をポンと軽くなでた。当然みたいに私の荷物を手から取った。「車で来たから、とりあえず出よっか。」荷物と反対側の手で、私の手を握る。胸がキュンと鳴った気がした。あ~、帰ってきて良かった!手の暖かさに、私は泣き出しそうになっていた。迷子にでもなっていた気がした。けど、堪えた。駅ビルの駐車場に止めてあった車は、初めて二人で話すことになったバーベキューで乗ったものだと思った。何だか懐かしい。「どうだった?家。」「もー!聞いてよ!腹が立つ~!」「聞くけどさ…」赤木くんの顔が近付いてきて、唇が私の唇を塞いだ。顔が離れると、抱きしめた腕と反対側の手で頭を撫でてくれた。「あ~、早く会いたかった。マジで。」「うん…」「で?何怒ってんの?」「忘れた…」「何だよソレ~!」「ううん、たいした話じゃ無いんだけどね~」赤木くんは笑って、私の実家での話を運転しながら聞いていた。私は怒ってたはずなのに、なぜか笑い話を話してるような気分になっていた。家よりも落ち着く。こうしてみんな家に帰らなくなっていくのかな…そんなことをふと思った。続く前の話を読むサキ1:目次
2010年07月29日
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サキ2-2膝にかけたダウンコートの下で、二人で手を繋ぐ。初日の出を見に行くワゴンの中は温かくて、みんなが興奮して賑わっていた。けど、誰も私たちが手を繋いでいるなんて気付かないんだろうな。赤木くんの手が私の手の平を掴み、そのうち、指と指が交差する、恋人繋ぎになった。顔が赤くなってそうだ。少し無口になると不自然だから、無理やり会話に加わるけど、みんなの会話の中で、変なことを口走って無いか心配になるくらい、私の頭の中は赤木くんの手でいっぱいだった。途中のファミレスで休憩して、みんなで怖い話をしているうちに年を越してしまった。広い道路では、暴走族らしき群れが私たちの車の横を素通りして行った。スゴイな~!って、みんなで窓からお祭り気分で眺める。絡まれないように注意しろよ!なんて、男の子たちはワケ知り顔で言っていた。深夜に、みんなで年越しドライブなんてしたことが無いので、私や女の子たちが興味津々で頷く。車が目的地の山に到着すると、赤木くんはパッと手を離した。目で赤木くんの顔を見る。赤木くんの目が私を見て微笑んだ。その顔を見ると、私も嬉しくなる。彼も私を好きなんだ。そんな安心感で心がいっぱいになる。クリスマスのライブ以来、私と赤木くんはバイトのシフト時間ですれ違い。バイトの間も二人でゆっくり話せるような時間は無かった。そんな毎日だったので、何だか車内の温かさと手のぬくもりに安心して眠い。どんなに長電話しても、どんなにメールのやりとりをしても、やっぱり、会って触れることには適わない。早く二人きりになりたいなー。心の中でそう思っていたけど、赤木くんも同じように思っているのか、少し気になっていた。「眠く無い?」みんなと別れて、待ち合わせておいた駅中の喫茶店で、ようやく赤木くんと二人きりになれた。「うん。少しね。」ようやく二人きりになれて、二人になりたかったはずなのに、いろいろ話したいこともあったはずなのに、こうして会えてしまうと、何から話していいのかわからない。「そうだ。これ、聴く?」赤木くんはカバンからウォークマンを取り出して、私にイヤフォンの片側を渡した。私はその片側を耳に入れる。赤木くんがもう一つの片側を耳に入れる。赤木くんが好きな音楽が、私の耳の中で鳴る。同じ音を聴いてる一体感が心地良い。「これ新曲?」「そう。オマエ好きだって言ってたから。もう聴いてた?」「ううん。まだ。」しばらく、そのアルバムを二人で並んで聴いていた。カウンター式の席に座って良かったと思った。机の上で、赤木くんの手が、私の手の上で重なる。指でその手を弄ぶ。「いつ、こっちに帰ってくる?」「うん?多分あんまりいないと思うから、3日後位かな…。」「そっか…」赤木くんがストローから飲み物を飲んで、無表情に前を向いて言った。「淋しい?」「な~に言ってんだよ!」ちょっと照れた感じで赤木くんが笑う。「淋しいなら早目に帰ってこようと思ったのにな~」「マジで?!」「うん。」「バイト何日から?」「6日から。試験始まるから、時間短縮して入れた。単位落とすとマズイし。」シフトの計画表に予定を入れてた時は、赤木くんとこんなふうになると思って無かったし。「じゃあさ、帰る時、連絡くれれば、俺、駅まで迎えに行くから、そのままどっか行く?」いきなりの提案が嬉しかった。「うん。」繋いだ手の力が強くなる。一瞬、このまま家に帰らなくてもイイような気がしてきた。けど、帰らないといけないんだろうな…って、思った。時計が電車の出発時間ギリギリになって、二人で喫茶店を出た。赤木くんが入場券を買っていたので、ホームまで見送りについてきた。「何か…こういうのって、遠距離みたいだな。」赤木くんが照れくさそうに、ボソリと言った。遠距離恋愛。遠距離カップル。私が、そうだね。って、笑った。電車に乗ると、窓の向こう側で、赤木くんが手を軽く上げたのが見えた。私も指定席に荷物を置いて、赤木くんに向かって手を振る。電車が動き始めて、赤木くんの姿が見えなくなった。 抱き合ったり、キスをしたり…さっき聴いた歌みたいに、そんなことをしたがっている自分がいた。繋いだ手が、さっきまでここにあったのに。今、隣に彼がいないことが、とても淋しい。続く前の話を読むサキ1:目次
2010年07月27日
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サキ2-1目の前にあるピンクのカーテンの向こうで人が立った。スカートで行くとイイよ。って、ミサコちゃんに言われてそうしたけど、なるほど。その通りだなって思った。何だって全く知らない人の前で、下着を脱いで、自分の股の間を見せなきゃいけないんだろう。男だったら、こんなことしないでイイのに…なんて、初めてのことにビクビクしながら思う。こんなことになった理由。シンちゃんと付き合い始めた記憶が蘇った。正月は自宅で過ごす。それが当たり前だと思っていた。けど、今年からちょっと風向きが変わりそうな気がする。だって、赤木くんと少しでも会っていたいから。母親に電話をした。バイトのみんなで初日の出を見に行きたいから、実家に帰るのは夜か翌日になってもイイかと。「ああ、うん。楽しそうだし、その方がイイかもしれないねぇ。…実はね、お姉ちゃんがクウちゃん連れて帰ってきてるのよ。」「え?!また?」お母さんの声に元気が無かったので、予想がついた。もう実家に姉がいるってことは、また…だ。「うん。今度こそ本当に離婚するって言ってる。お母さん、ちょっと疲れたけど、カジくん、お金ホントに入れないみたいだし、女グセも出てきたらしいし、もう、仕方無いかなぁ…って、思って…」私は溜息をついた。カジくんは、姉の旦那さん、私の義兄になった人だ。「お兄ちゃんは?」「うん、サキといっしょで、ちょっとだけ戻ってくるようなこと言ってたけど、仕事もあるし、男だからね~、よくわかんないよ。」「そっか。」このことを兄がどう思っているのか聞きたかったけど、お母さんは帰省のことしか頭に浮かばなかったらしい。それに姉のことを言って無いのかもしれない。言ったら、ますます帰って来ないだろうから。きっと兄も、このことにウンザリしてるんだと思う。私は、兄が来ないかもしれないことで、ちょっとガッカリしていた。兄がいれば、ちょっとは私の居場所に突破口を見出せるような気がして。姉はこういう時に私と二人になると、感情を思いきりぶつけてくる。私も、ウンザリだった。「ねえ、サキ就職は…」「うん。もう、こっちでするつもりでいるよ。こっちにそれで短大決めたんだし。仕事も、こっちの方があるし。家も狭いしさ。こっちで就職したら、私のもの、全部こっちに送れるじゃない?」「…悪いね。」お母さんはそう言うと言葉を無くしたように黙り込んだ。そんなこと、サキが考えなくてもいいよ…なんて、甘い言葉が出てくるワケが無い。それは高校の時に、よーく思い知った。子供が一人増えるだけで、家は狭くなるものなんだ。それに、姉の離婚問題が、今更スムーズに行くとも思えない。しばらく実家は再び、ゴタゴタとした日々をまた迎えるのだろう。「こっちは、すごくあったかいしさー、やっぱり、戸建てって寒いよ。だからさ、試験もあるし、レポートもあるし、就職活動もあるし、私、風邪ひかないうちにすぐに帰るつもりだったの。それでイイかな?」「うん…。」お母さんが元気無く頷く。いつの間に、こんなに頼りなく感じるようになったんだろう?子供の頃は、お母さんの言うことが絶対だと思っていたのに。「じゃあ、お正月にね。」「うん…サキ…」「ん?」「ありがとうね。」「うん。お母さんも、無理しちゃダメだよ。」電話を切った。溜息が出る。何だって姉はあんな性質の悪い男に捕まったんだか。お陰で私はあの街を出ることができたのかもしれないけど、離れてしまったせいなのか、姉の不幸話がすっかり他人事になっていた。まあでも、母親が大変じゃなくて、父親が孫と過ごせて喜ぶなら、それはそれでイイのかもしれない。姪のクゥはカワイイしね。私はお正月の実家を思い浮かべた。でも、そこに私の居場所は無いような気がした。明日になればバイトのみんなと会える。赤木くんと会える。そのことが、私の家族の現実を吹き飛ばしてくれる。私はぼんやりと年末のテレビを観ながら、赤木くんに会いたいな~って考える。早く明日になればいい。続く前の話を読むサキ1:目次
2010年07月16日
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サキ:2-0アナタはもういないアナタがいたことで楽しかったこともアナタがいたことで苦しかったこともアナタがいたことで嬉しかったことももう全てが遠いあの時間は何だったんだろう?過去を思い出して問いかけてもアナタが答えてくれるはずもなく私は独りで途方に暮れる忘れても覚えているアナタの声もアナタの肌の感触も心が泣き出しても涙はもう出ない流した涙は刹那立ち止まっても前に進む行方の知れないエスカレーターに乗っていつか思い出せなくなる時がくるのだろうか?そんな日がくるのだろうか?問いかけても返事は無いアナタは もういない続く前の話を読むサキ1:目次
2010年07月15日
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今日の日記(「月の恋人(初回)」と子供の日の出来事☆)サキ28(私の告白)お店を出ると、赤木くんがスタスタと早足で人混みの中を歩いて行くので、私は赤木くんの後を急いで付いて行く。そんなに、私と早く離れたいの?そんなに急いで戻りたいの?酔っぱらいがぶつかってくる。私も酔っぱらいだから、息が上がってきた。酔いがまわっちゃう。赤木くんと距離をつめることに、だんだん腹が立ってきた。「待って!赤木くん、歩くの早い!」これ以上は、もうこんなに早く歩けない!私は赤木くんの腕を引っ張った。「あ…ゴメン。」赤木くんは、ようやく気付いたって感じで立ち止まった。私は溜息をついた。泣きたい。さっきまでの私の決意は、歩いてるうちに吹き飛んでしまった気がする。「もう…急いでるなら、ここで戻っていいよ。帰れるから。避けてるみたいだし…」「違う。違うって…。それに、避けてるのはオマエだろ?ただ…ちょっと…何て言っていいか、わからなかったから…」ようやく赤木くんが立ち止まってくれたのに、ようやく話ができる状態になったのに、今度は私の方も何て言っていいのか、わからなくなっていた。どこから?何から話せばイイんだろ…早足で歩いたせいか、思考が上手くまとまらない。「何で来たんだよ。オレ…誤解するだろ…?」赤木くんが私の目を覗き込む。苦しそうな顔をしてる。そんな目で見ないで欲しい。私、そんなふうに想われるほどの人間じゃない。でも…やっぱり嬉しかった。赤木くんの言葉が。なのに、こんなふうに私の心をグチャグチャにしてしまう赤木くんに腹を立てている自分もいた。赤木くんが側にいると、どうしてこんなにメチャメチャになっちゃうんだろう?「何で、何も言わないんだよ?」「だって…アンタが悪いんだもん…」赤木くんがキョトンとした顔をした。「は?何でオレが悪いんだよ?」「もう!赤木くんがあんなことするから悪いんじゃない!」もうダメだ。私はこの人の前ではどうも子供になってしまう。言葉が素直に言えない苛立ちが声になってしまう。「ごめん…悪かったよ。」私と違って赤木くんは本当に悪かったとばかりに素直に謝るので、こんな時に限って、大人になるなんてズルいと思った。私はますますバツが悪くて、思わず目を逸らした。「そうだよ…お陰で私…頭の中、赤木くんのことでいっぱいになっちゃって…赤木くんのことばっか、考えるようになっちゃって…」ああ、もう、私、何言ってんのよ?想いがグルグルまわる。本音がグルグルまわる。感情が口からあふれ出て抑えられない。「別れた。もう、サイテーでしょ?私なんて、すごいサイテー!」私は、顔を上げた。赤木くんが戸惑っているのがわかる。「でも、ちゃんと言うよ?赤木くんが好き。すごい好き!どうしてくれんの?もう、アレで気が済んだとか、言わないでよね!」こんなサイテーな私を好きになれる?私は赤木くんの目をジッと見た。赤木くんの驚いた顔。いきなり視界が暗くなった。体を強く抱きしめられる感触。赤木くんの腕の中だ。彼の鼓動と呼吸の音だけが聴こえる。涙が出てきた。ようやく安心できる場所をみつけた。私も抱きしめ返す。好き。大好き。彼の中に包まれた私は、もう何も見えない。(一章完)(二章へ)前の話を読む目次
2010年05月11日
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サキ27(やっぱり好き)目が合ったと思ったのは錯覚だったのか、赤木くんが曲名を言うと、即ドラムの音にギターの音が絡み合い、赤木くんの歌が始まった。低い声もハッキリ聴こえる。いつものしゃべってる声と違う。カラオケの時のセーブしてる歌い方とも違う。コレは肉声?どこかで聴いたことがある声のような気がした。でも、どこでなのか思い出せない。声が伸びる。会場全体に響く。何コレ?鳥肌が立った。どんどんメドレー形式で知ってるクリスマスソングが繋がれていく。赤木くんが笑顔になり、会場を立たせる合図をする。立ち上がったみんなが赤木くんの指示で合図があると隣の人とハイタッチする。みんなが笑う。赤木くんが笑う。スゴイ会場の一体感。スゴイ…ノリが上がっていく。マイクを捨てた。それでも声が伸びる。目が舞台から離せない。心が音楽に吸い寄せられたような気がする。この人が、私のことを好きだって言ったの…?!ゴクリと唾を飲み込んだ。誇らしいような、怖いような気持ちが胸に湧き上がる。それがどうしてなのか、わからない。一気に全ての曲が終わると、遠い夢の世界から戻ってきたような感覚だった。ミサコちゃんがトイレに行くと言うので、いっしょに席を立つ。「凄かったね…」「ん…。」まだドキドキしてた。お互い個室に入ると、ガヤガヤと女の子たちが入ってきた声が聞こえた。「あれ、ユキが別れたって彼でしょ~?何で別れちゃったのかね?もったいなくない?」「ああ、何か大学辞めるとかって聞いて不安になったらしいよ。ミュージシャンとか、食べていけなそうじゃん。あの子、すぐ結婚とか考えるしさ~。それで結構ケンカが増えたとかって言ってたもん。」「現実はカッコイイだけじゃ食べてけないしね~。で、辞めちゃったワケ?大学。」「さあ~知らないけど~。」彼女たちは自分たちの彼氏の話をし始めた。心が小さくズキズキ痛んでる。そこでミサコちゃんが個室を出たらしくて話が切れた。ホッとして私も出る。チラリと彼女たちを見ると、化粧し慣れた感じの派手な子たちだった。彼女ってあんな感じだったのかな…私は手を洗いながら思う。「さっきのって赤木くんのことだよね?」ミサコちゃんが戻りながら私に耳打ちする。やっぱり、聞いてたから出なかったんだな?そんなところがミサコちゃんって好きだったりする。少し可笑しかった。「そうみたいだね。」私は聞いちゃいけないものを聞いちゃった気分だったので、ミサコちゃんがいてくれて良かったと思った。ちょっと心が和らいだ。赤木くんのライブを見て満足したみんなは、このまま飲みに行こう!って盛り上がりだした。でも私の頭の中は、さっきの女の子たちの言葉と、赤木くんの歌っている声でグルグルまわっていた。見たことも無い、赤木くんと付き合っていた女の子が、トイレで見かけた女の子たちとダブってモヤモヤする。あんな子たちに、アイツのことを、あんなふうに言われたことが、何だか腹立たしい。でも、私も知らない。彼のこと、何も知らない。そのことが何だか悔しい。私、言いたかった。トイレから出て、「赤木くんは、もうその子のことなんて何とも思って無いんだから!」って、叫び出したかった。何でもいいから、彼のことをかばいたかった。なぜ何も出来なかったんだろう…そのことが悔しく思えたりする。こんなこと考えるなんて、子供みたいだ私…歩きながら考えてると、気付くとみんながいなくなっていた。「サキちゃーん!こっちだよ~!」ミサコちゃんが人混みの中から手を振って見えて、ホッとした。リョウコさんたちが迷子発見!って笑ってる。いけない、いけない。つい、ミサコちゃんと同じ色の白いコートの人に付いて行ってたらしい。気をつけながら歩く。赤木くんのライブでの声が私の中で回る。ダメだ。やっぱり。どうしても気になる。私、もう間に合わないかもしれないけど…やっぱり私、赤木くんのことが好き。赤木くんのこと好きなんだ。。。お酒を飲みながらも、何だか落ち着かない。とにかく帰って、赤木くんに連絡してみようと思った。「ミサコちゃん、私、そろそろ帰るね。寮の門限もあるし。閉まっちゃうと朝まで入れないの。明日仕事があるから、朝までは飲めないし。」「え?あ、そうなの~?サキちゃん寮なんだ?」リョウコさんがビールを飲みながら言った。うん。って頷いてると、「あ!来てくれたんだ!」「お疲れ~!」みんなの声がした方に赤木くんが来ていた。お酒を注いで、みんなが赤木くんを激励する。だけど、赤木くんは、ちょっと顔を出しただけらしい。一杯飲んで行こうとした。声をかけたいけど、みんながいるとなるとそうはいかないジレンマが私の中で起こっていた。「あ!ねえ!赤木君!戻るなら、サキちゃん駅まで送ってってくんない?」リョウコさんが大きな声で赤木くんに言った。「ナイスアシスト!」ミサコちゃんが手をグッと握って、私だけに聞こえるような小声で言った。そんなことを言われると、恥ずかしくなる。お膳立てされると拒否したくなってしまう。「大丈夫よ。一人で大丈夫だから。」二人で会いたいと思ってたくせに、急にそんなことになると焦る自分がいて、慌てて手を振る。「そうなの?でもまた迷うんじゃない?ゴメン、赤木君、サキちゃん寮の門限があるのよ。迷うとマズいから~」そうそうそう。と酔ったミサコちゃんがニヤニヤしながら言う。「いいですよ。」赤木くんはビールを一息に飲んで言った。ドキンと鼓動がまた跳ねた。心の準備も無く、私は赤木くんの後を付いて行くことになった。振り向くと、ミサコちゃんがガンバレ~ってピースサインを出していた。(続く)前の話を読む目次
2010年05月05日
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今日の日記(「揚げずにからあげ」に挑戦!と「同窓会」「素直になれなくて」感想☆ )サキ26(彼のライブ)「サキちゃ~ん、シフト入れる前に!23日は空いてる?」 ミサコちゃんがニヤニヤしながら言った。 「うん、祝日だし、やることも無いし、バイト入れようかと思って…た、けどぉ~なんで?」 「入れるなら早番にしてさ、その日、みんなで行くことにしたから、赤木くんのライブ!」 「え?!え?え?え?何それ?私も行くの?!」 「そうだよ!サキちゃんが行くと思って、もうチケットの返事リョウコちゃんにしちゃったもん。断るのダメよ!前にバイト休んだ穴埋めしてあげたでしょ~?借りはコレで返してね♪」 リョウコちゃんは、一階の赤木くんフロアーで、アネゴって呼ばれてる人だ。大学4年生。バイトはすっかりサークル化していて、彼女を始め、大学4年生たちが遊びを仕切ってるところがあった。 ん~、今更逆らえない! 「りょーか~い。」 私は渋々といった感じで返事をする。 でも、ちょっと嬉しくもあった。 赤木くんとは、すっかり気まずい挨拶程度になっちゃったけど、やっぱり、彼のライブって見てみたい。どんな感じなのか聴いてみたい。 寮に帰る。 ふと思い出して、赤木くんと観に行った映画のパンフをめくった。前売りのチケットが二枚。一枚に赤木くんの携帯番号が書いてある。 ここにかければ、赤木くんが出るんだよね… そう思っても何だかかけることができない。もう、あれから一ヶ月経つ。 今更、連絡も何も無いだろう。しょっちゅうバイトで会ってるんだし…。 「ライブやるんだってね?私も行くことにしたから、ガンバってね!」 そう電話したらイイのかな…? 携帯に赤木くんの番号を入れる。 通話…ボタンが押せない。 あ~あ。 私はベッドに寝転んだ。 向こうから来てくれないかな?そしたら、私、彼と別れたって言えるんだけどな。 そう思う自分が何だか凄く嫌だった。 だから私たち付き合おうよ!って? 都合がイイことばかり考えてる気がした。 言えば良かったんだよ、きっと。 でも、もう言えない。 溜息が出た。 赤木くんのライブ当日、行くメンツはみんなバイトを早上がり。 バイトが無くて来る人たちは駅で待ち合わせ。 それなりにみんなお洒落してたし、浮かれていた。 受付でチケットと引換えにドリンク券をもらう。 店内はバーみたいな感じで薄暗くて、かなり賑わっていた。 私はモスコミュールを頼んでもらう。 おつまみにポテトをリョウコさんが気を利かせて、みんな代表で買ってきた。 飲みつつ、みんなでつまむ。 慣れた感じの大学生なのか社会人なのか?って感じのバンド。オリジナルのノリの良い曲を披露していた。 次は高校生のコピーバンド。観客が舞台前で頭をブンブンふって、元気良くピョンピョン飛び跳ねていた。その姿が何だか獅子舞みたいで可笑しい。 そして3番目、赤木くんのバンド。赤木くんが舞台中央に照れつつも慣れた感じで出てきた。 人気があるらしい。みんなが待ってましたとばかりに手を叩く。 「え~と、今日は、クリスマス前ってことで、結構、みんなが知ってる曲をテンポ良く、オレたちなりにアレンジしてみました。でもさ~、クリスマス前に、こんなとこ来ててイイのか~?ちゃんと、いっしょに過ごす相手、見つけたか~?」 ミサコちゃんの隣に座ってた山川さんがイェ~!って叫んで、ヨッシーがヒューって、はやしたてた。他からも、うぉ~!とか、いたら来ねーよ!って野次と、アハハって笑いが飛ぶ。 MCが慣れてて上手だな…って思っていたら、赤木くんは、野次がしたからなのか、ここのテーブルに気付いたらしい。手を振るみんなの姿を照れくさそうに笑って見てた。 ドキン空気が止った気がして、胸が音を立てたのがわかった。赤木くんの目が私を見ていた。(続く)前の話を読む目次
2010年04月30日
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今日の日記( こりゃスゴイ!「アイリス(初回・2話)」「Mother」感想☆ )サキ25(脱力)朝起きたら体がダルかった。熱が出てるらしい。計ったら37.8℃。全て休むことにした。学校もバイトも思考も…。もう何も考えたく無い。無理やり体を起こして、ポカリだけ買いに行って、部屋のミニ冷蔵庫に入れる。寝れるだけ寝た。心配した寮の子たちが、時々やってきて、お見舞い的に看病してくれた。ありがたかった。だけど、翌日に熱が引いちゃうと、「あ~あ、良くなっちゃった。」って、思った。このままずっと眠って、現実から逃げたかった。休もうか悩んだけど、大学とバイトへ行くことにした。短大は出席が命だし、バイトは、行かないと月の生活が苦しい。親にお金が足りないなんて言うと、家から出てる分、めちゃめちゃ心配してくるに違いないし、それが結構ウザったい。あ~あ…。私は溜息をついた。バイトに行くと、早速一階にいた赤木くんと階段の向こう側で目が合った。赤木くんは、ちょっと気を使った感じで、いつものように、よっ!って感じで手を上げた。私もなるべくいつものように手を上げる。でも、赤木くんの側へ行けなかった。いつもなら、何かしら世間話をしに行くのに…。それがバイトでのささやかな楽しみだったのに…。それさえも、別れたカズユキに悪い気がした。カズユキの気持ちを踏みつけるように、赤木くんのところに行っていいのか、わからなかった。それでも、赤木くんの顔を見ると、胸が高鳴る。そんな自分が嫌になる。側に行きたい二人で話がしたいだけど…次にそうなったら、絶対自分が止められなくなる。そうなる自分が何となくわかる。だから、私は赤木くんのところへ行かないようにした。「別れたんだから行けばいいと思うけどな~」ミサコちゃんがそう言った。私は、いわゆる苦笑いってやつをした。あはは~って笑って誤魔化すってやつ?力出ないけど。「人を傷つけても好きだと思ったんでしょ?」ミサコちゃんの質問に、答えを探しながら自分の心を言葉にする。「そうなんだけどね。でも、それだけじゃ無いのかも。赤木くんを好きって言うのだけじゃなくて、もう彼とはダメだって思ってたから…でも、自分のこと…あんなに思ってくれてたなんて思って無かったから…。」「そっかぁ~」反則だよね。その手紙。と、ミサコちゃんが言った。だよね。反則だよね。と、私が言った。ふ~って、お互い溜息をつく。何となくサキちゃんの気持ち、わかるなぁ~って、ミサコちゃんが言ってくれたことで、私の心が少し軽くなる。同時に軽くなっちゃいけないような気もする。 「でも、何か、もったいない。」 ミサコちゃんが残念そうな顔で言うのが、ちょっと可笑しかった。「ありがとう…」それしか言えなかった。私達のフロアーは本やDVD等の物販だから、赤木くんたちのレンタルフロアーより先に終わる。久々にお茶&夕飯をしたミサコちゃんに話して、本当に良かったと思った。やっぱり女友達が一番!男なんて必要無いんじゃない?私はそんなふうに、つい思ってしまう。このまま赤木くんとも終わりかもしれないな…。ふと、そんな予感がした。カズユキからの手紙は、私の心から全ての力を奪い去ったのかもしれなかった。(続く)前の話を読む目次
2010年04月29日
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今日の日記(憧れのマイホームと「ロンハー二時間」「ジェネラル・ルージュ凱旋」感想)サキ24(別れ話)バイト帰りにカズユキのアパートへ向かう。さよならを言いに…。別れを言うために家を訪ねるなんて変かもしれないと思った。 今日帰るから、部屋で待ってて。昼に学校で携帯をチェックしたら、カズユキからショートメールが来ていた。学校帰りにバイトへ行くと、赤木くんはバイトに来てなかった。休みらしい。昨日のキスは夢だったのかもしれない。酔った後だったからかもしれない。本気にしちゃっていいの?私は心配になる。 俺は下心あるから。 友達じゃねーし。 友達なら…側に来るなよ。あの時の赤木くんは顔は真剣だった。もし、酔っていただけだったとしても、もう…私は戻れないと思う。カズユキの元へは、戻れないと思う。ピンポーンとインターフォンを鳴らすと、カズユキはもう部屋にいるようだった。足音がして、ドアが開いた。「寒かっただろ?ちょっと待ってて。今用意するから。飯食いに行こ。」私は入るべきか躊躇したけど、一応ドアの中に入った。「あの…さ」「ん?」カズユキが薄手のコートを羽織る。「私…」何て切り出せばいいのかわからない。「車で話そう。」「ううん。やっぱりここで。私、ゴメン、別れたいの。」下を向いて一気に言った。見上げると、カズユキは無言で、コートを着たまま私の方を見ていた。「なんで?」ボソリと聞こえるかどうかわからない程度の声だけど、はっきりとカズユキの声が届いた。「好きな人ができたから…」私の方も最後は声が小さくなった。カズユキの顔が見れない。 「やっぱり…重かった?」 「え?」カズユキは何か言おうとしたけど、その言葉を飲み込んだようだった。その間がすごく長く感じてイライラする。でも、もう今日で最後だから。自分にそう言い聞かせた。この人のこういうところ嫌いだった。今日は嫌いな部分が妙に目につくと思った。バッグから合鍵を出して、靴箱の上に置いた。「ゴメンね…もう行くね。」私がドアノブを回そうとした瞬間、後ろからカズユキが抱きしめてきた。「…待てよ。」正直、思いもしなかったカズユキの行動に戸惑う。「相手は?どんなやつ?」「どんなって…」私は振り返らずに考える。振り返るのが何だか怖い。「何歳?年上?年下?」「…同じ歳」「やっぱりな…」何がやっぱりなんだろう?私は抱きしめてきた腕を振り払うべきか迷った。「サキは…学生だし…まだまだ出会いもあるし…いつかこうなると思ってた…」何て言っていいのか、私はつばを飲み込んだ。「だって…じゃあ、何で女の人紹介したりするの?出かけるのもいつも嫌そうにしてたし。」言ってから、しまったと思った。コレじゃヤキモチからくるケンカになっちゃう。違うのに。「サキが心配するから、友達だって証明するために会わせたんだろ?あの時は納得してたんじゃなかったの?出かけるのだって、マジで俺疲れてた。ホントに今、仕事でいっぱいいっぱいなんだよ!でも、でも、いつも甘えてたらオマエに悪いと思って…。だけど、最近おかしいと思ってたんだよな。前は出かけたいとか何かしたいとか、ワガママなこと言わなかったもんな。」ワガママ言ってるように思ってたの? カズユキが言い出す一言一言に言い返したいけど、でも言葉にしなかった。もうケンカする必要も無いし。このままじゃ平行線だ。「ごめん…」 別れるために反論なんて必要無い。私が腕から逃れようとすると、更にカズユキの腕に力が入った。 「やだよ。サキ…」カズユキの苦しそうな言葉が聞こえる。 兄の言葉が蘇る。 男なんて怒れば女の一人ぐらい何とでもできるんだからな。 サキ、オマエは気も強いし、口の利き方も気をつけろよ。一瞬ゾクリとした。好きだった人なのに、なぜ?私は、とにかく力を込めて、カズユキを振り払おうとした。けど、その手をカズユキが掴む。体を抱き寄せられ、後頭部をつかまれ、唇がこじあけられ、舌が入ってきた。いつもと違う。ケンカだと思ってるの?嘘を言って気持ちを試してるとでも思ってるの?「…ぁ…やっ…だっ!!!」思い切りカズユキを突き飛ばした。カズユキが信じられないって顔をして、その顔がすぐに泣き出しそうな顔に変化した。「もう…無理なの!ホントに、ホントに、ヤキモチとかじゃなくて無理なの!このまま行くとフタマタになっちゃうの!そういうことしたくないの!」カズユキはジッと私を見ていた。私もカズユキのことを見ていた。そのまま何分経ったんだろう…「…わかった。」カズユキは私の肩を押した。「もう…いい…帰れ…二度と来んな…」 声をふりしぼっているのがわかる。ドアの外に追い立てられ、背中越しに大きな音でバタンとドアが閉まり、ガチャっと鍵をかける音が聞こえた。外の空気が冷たい。コレが別れるってことなんだ…そう思うと、やりきれない気持ちが襲ってきた。これで良かったんだ。これできっと良かったんだ。 ぼんやりと寮に帰ると、宅配ボックスに荷物が入っていた。宛名を見るとカズユキからだった。部屋の中で急いで荷物を開ける。私の好きな故郷でしか売っていないお菓子と手紙が入っていた。 サキへ いつも気づかってくれてありがとう。 おれ、年上なのに年下のサキに甘えてばっかでゴメンな。 今度いっしょに帰省する時は、親に紹介したいと思ってる。 学生のサキには、まだ早いかな? でも、あんまり重く考えなくていいから。 ただ、おれが、どんな家で育ったか知って欲しいと思って。 あ、でも、うちの親とか見て笑うなよ? 息子のおれが言うのも何だけど、いい人たちだから。 これからもサキが行きたいとことか、たくさん行こう。 おれは気が利かないかもしれないけど、 これからもヨロシクな! いつもは口に出せないけど、 ちゃんと好きだよ。 カズユキ手紙をたたむ。出荷の日付は、赤木くんから告白された前日だった。ティッシュを探す。涙が溢れてきてどうしようも無いのでバッグから急いでハンカチを出す。バカだ…私は大バカだ…(続く)前の話を読む目次
2010年04月28日
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今日の日記(今期ドラマどれ観るか決めた~!)サキ23(決意)寮に帰ると、先輩の部屋で飲み会をやってるらしく、きゃあきゃあと、声が聞こえてた。私も声をかけられたけど、お風呂はいっちゃいます~って断った。一応、お風呂が温かいまま入れる時間は当日までって決まってる。お風呂入口のボードを確認すると、幸い、誰も入っていないらしい。私は赤いマグネットを入浴中の枠に置いた。これが4つ入浴中の枠に置かれると満員ってこと。銭湯よりは小さいお風呂だけど、私はなかなか広い、この空間が気に入っていた。こんなところで暮らせるのも、きっと今だけだし、卒業したら、私は実家に帰るのだろう。カズユキもいずれ故郷に帰るはず…彼とは同じ故郷ってことで、どこか安心していたところがある。だから、こっちの人と付き合うことになるなんて、正直私には実感が湧かない。こうなってみると、よくわかる。赤木くんは違う世界の人だと思っていた。だから、自分とどんなに仲良くなっても、付き合う妄想をしたとしても、関係無いと。でも、忘れられそうも無い…。赤木くんの唇や舌の感触。ぬくもり。頬にあてられた温かい手。耳元で聞こえた「好きだ…」って言葉。思い出したら、また抱きしめられたような気がした。胸が苦しい。心が、さっきの空間に戻った気がして、慌てて現実に戻す。こんなに頭が赤木くんでいっぱいになるなんて。どうしよう…赤木くんは、私がカズユキと別れなければ、友達付き合いさえしないつもりらしい。あんなことされて、友達付き合いも無いもんだけど。覚悟を決めなきゃいけないと思った。こんな気持ちで、もう、カズユキとズルズル付き合えない。お風呂から出て、部屋に戻って、カズユキにメールを出すことにした。 いつ出張から帰る? 話したいことがあるの。話したいことなんて、露骨過ぎるかな?別れ話って、すぐわかるかも?会って言うべきなことなんだろうか?電話で言うべき?流石にメールでって言うのは、いけない気がした。どうするよ?私。これでいい?どうする?頭の中で、もう一人の私が聞いてくる。正直、別れ話なんてしたこと無い。電話でフラれたことはある。でも、たった二週間じゃ付き合ったうちに入らない?ちゃんと付き合ったのはカズユキが初めてなんだ…今更ながらに思う。話したいことがある…を削除して、いつなら会える?…と、書き直して、思いきって送信ボタンを押した。(続く)前の話を読む目次
2010年04月27日
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今日の日記(発熱その後と「龍馬伝」「新参者」「女帝 薫子(新ドラマ)」感想☆)サキ22(彼からの告白)赤木くんが私の手をギュッと握る。すっかり秋になった冷たい夜の空気の中で、包まれた手だけが温かい。そして、その手をふりはらえない自分がいた。「オマエの男がどんなヤツか知らないけど、俺は下心あるから。オマエのこと友達として見て無いから。友達じゃねーし。」赤木くんは一気にそう言うと、手を離して立ち上がった。いきなり離れた手が、寒い。「行こ。帰ろう。」赤木くんがこっちを見て言った。私は立ち上がらなかった。このまま帰りたくない。自分で自分がよくわからない。私は…いわゆるチキンってやつだ。いざ、気になってる人が自分に来たら、ビビってしまっている。どうしよう?!って思ってる自分がいる。頭の上から赤木くんの声がする。「気にしなくていーよ。何か言ったらスッキリしたわ、俺。だから…」赤木くんは、ためらうような息を吐いた。「もう、来んなよ。俺、勘違いすっから。」ワザといつもよりぶっきら棒な言葉を言って、無理に笑顔を作ったのがわかる。”来んなよ”って言葉が頭に響いて、胸の奥がズキンと痛んだ。 心が痛むって、表現だけじゃなくて、本当に胸が痛むんだって思った。手が微かに震える。そして、それが、もう私達の微妙な関係の終わりを告げている気がした。赤木くんが背を向けようとしている。どうすれば?どうすれば、この仲をまだ続けられる?どうすれば、彼を引き止められる?「赤木くん…」ようやく声をふりしぼった。 行かないで欲しい。でも、そう思う自分はズルイ。わかってるけど…「もう…口…きいて…くれなくなっちゃう…?」言葉といっしょに涙が出てきた。いきなりのことで頭が回らない。泣くのを止めなきゃって思うのに、出ない言葉とは逆に、涙がこぼれる。「え?何言ってんの、オマエ?」「友達じゃなくなったら…もう、口きいてくれなくなっちゃう?」「そんなことねーよ。」赤木くんは座ってる私の目線に合わせてしゃがみ、無理やり笑顔を作って、私の頬の涙を指でぬぐった。「良かった…困る。赤木くんとしゃべれないと…私…」自分が自分じゃ無くなったみたいだ。こんなことで泣き出すなんて。 もっと自分は強いやつだと思っていた。こんなことは初めてだった。カッコ悪いって思って、急いでハンカチをカバンから出した。でも、なんだか止らない。どうしよう…。「泣くなよ…」ベンチの隣にまた座った赤木くんが、私を抱き寄せた。温かい彼の胸に、そのまま身を任せる。こんなことをしちゃいけないと思う。そんな立場じゃ無い。だけど…赤木くんの温かい手の平が私の頬を包む。彼の唇が頬に触れた。顔を離すと目が合った。私をじっとみつめる目。顔が近付いてきた。唇と唇が触れる。柔らかい唇。 カズユキとは違う。頬にあった手が頭の後ろ側にまわった。抱きしめられた腕で腰を引き寄せられる。柔らかく舌がからまる。吸われる。拒めない。私は、彼を拒めない…。赤木くんは顔を離すとギュッと私を抱きしめた。「好きだ…」聞こえるかどうかのかすれた声が耳元に聞こえた。今度は胸が締め付けられるように、キュンと音をたてた気がした。赤木くんは、私を立ち上がらせて、肩を抱き寄せて歩かせた。私の寮の方へ歩く。 何か言わないと… でも言葉が出ない。 「でも、俺は、都合がいい男になる気ねーから。」赤木くんはそう言うと私から離れた。「友達なら…側に来るなよ。泣いてもダメだ。じゃな…。」淋しそうに言って、駅に向かって行く赤木くんの後姿を見てるだけで、私は何も言えずに道に立っていた。呼び止めたいのに…。頭が真っ白になるって、こういうことなんだと思った。(続く)前の話を読む目次
2010年04月26日
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今日の日記(息子発熱☆と「タンブリング」「怪物くん」感想 )サキ21(私の変化)今回は初めて二次会でカラオケに行くことになった。みんな酔っ払ってナチュラル・ハイ状態!まず一発目は、ゴツいフクさんが、アイドルEryを裏声で歌いだした。女声での熱唱状態にみんなが笑い出す!生で見るジャイアンリサイタルみたいな感じに、みんな大ウケ。私は、いつもキーが合わないEryの曲を、こんなに楽しくカラオケにできることにソンケーの拍手!それを見たヤスさんがウケを狙ったアニソンを歌い出し、山川さんがナツメロを慣れたように歌い出し、一体ホントは何歳なんだ?ってみんながツッコむ。でも、赤木くんがそのナツメロにハモり出し、女の子たちが振り付きでアイドルグループを歌うと喝采が起こる!どいつもこいつも、音痴でさえタダ者じゃ無いようなカラオケ熱唱ライブ状態に、みんな隠し芸か!?と思う程の選曲を披露。エアギターするヨッシー。私も男性ハードロッカーの曲を歌う。みんなが「おおっ!」って騒ぐ。アイドルの歌を上手く歌わなくてイイカラオケって気分イイ~♪「これ、歌える?」赤木くんが、この前車で聴いていた、兄お気に入りの曲を指した。「うん、歌える!これ好き!」二人でハモる。音楽の趣味が同じってイイな~!って思う。赤木くんは上手い。上手いのに、カッコつけたりしないし、目立とうとしない。上手いからなのかな?でも、人が歌ってる時に場を盛り上げる。やっぱイイやつじゃん。って思う。赤木くんの声に、みんなが自然と聴き惚れる。拍手!照れくさそうに笑う赤木くん。赤木くんは、もう私の隣に座っても、隠れて私の手を握ることは無い。興奮状態の中カラオケ終了時間が来てお開きに。すごく短く感じた。実際混んでて延長できないから短かったんだけど。まだ飲み足りない先輩たちは三次会に行ってしまって、そのまま帰るメンバーで帰っていくと、帰りが同じ方向の赤木くんと私が自然と二人になった。「おまえ、女のくせに、あんな歌フツー歌わないだろ?」電車に乗って、出入口の近くに二人で立つ。目の前の赤木くんがカラオケの余韻を残して楽しそうに言った。「何よ、イイじゃない?ハモれて!あの曲好きなの!それに流行りの曲って、女は高音過ぎて出ないよ。ちゃんと歌えてたでしょ?」私もまだ楽しかった空気のノリで言った。「歌えてた…」赤木くんは参りました…って感じで言う。「ぴーす!」私は勝った!って感じで言う。可笑しい!電車がもうすぐ私の駅に着く。あ~あ、楽しかったのにな。祭りの後みたいで、ちょっと淋しい。「じゃあ、またね。ばいばい。」電車から降りた私が手を振ると、赤木くんがいきなり電車から降りた。「何やってんのよ、赤木くん。」「送る。ってか、ちょっと電車気持ち悪くなった。歩いた方がいいから。風に当たってから帰るわ。」「大丈夫~?」気持ち悪いなんて言うから心配になる。そんなに酔って無いと思ってたけど。自動販売機があったので、飲み物を奢ることにした。赤木くんは、あったかいお茶を指した。夜は涼しくなってきていて、一気に秋になってしまったんだな~って思う。この前の公園のベンチに二人で座って飲み物を飲む。「なんか、こうして奢りは誤魔化されそうだな。」ドキりとした。この前赤木くんにデートで奢ったお礼をするって言ったこと、まだ覚えてたんだと思った。「私のこと自動販売機みたいに思って、無料でずっとジュース飲まないでね。」私は笑って誤魔化す。だって、また二人で出かけたりしたらヤバいじゃん。私が。あんまり会ってるとホントに好きになりそうな気がする。「だから、それなら体で払えって。」「まったく!まだ言ってるよ~」私が赤木くんの肩を叩く。赤木くんが笑っているので、こっちまで何だか楽しい。「彼氏とどうよ~?」ムセそうになった。さっきの冗談といい、こんなことを平気で聞くってことは、やっぱり、私とは女友達のノリで行こうってことかもしれない。平静を装う。「う~ん、多分まだ会ってるんじゃないの~?知らな~い。」北風が吹いた。私は言葉を探してお茶を飲む。赤木くんは、何も言わなかった。「私もこうして赤木くんと二人になって、普通にしゃべってるから、いいんじゃないの?そういうのもあるんじゃないの?」カズユキがユウコさんと会ってようと、誰と遊んでようと、ホント最近どうでも良くなってきた。私もこうしてカズユキの知らない世界で遊んでいるからかもしれない。気楽って言えば気楽。これでイイような気がしてきてた。「オマエ、本気で言ってる?あると思うようになった?男と女の友情。」赤木くんが責めるように聞く。知らないよー、そんなこと。もう、そういうの悩むの嫌なの。「こうしてるのが友情ってやつならね。」私が答えると、赤木くんがまた黙った。何か私、変なこと言った?「何?どしたの?赤木くん?」心配になる。何で黙るのよ。「いや…別に。」赤木くんは自分の足元をジッと見ていた。男ってやつは、よくわからない。私は赤木くんが無言になった理由をあれこれ考える。せっかく私の恋愛相談を真面目に聞こうとしてたのに、私の投げやりな態度に呆れたのかもしれない。そう思うと、赤木くんに嫌われた気がして怖くなった。嫌われたくない。投げやりになったワケじゃ無い言葉を探す。だって、疑い出すとキリが無いし。心は縛れないし。私だってそうだし。そんな言い訳を心の中でグルグル考える。とにかく何か話そうとした沈黙の中、赤木くんの声が夜の冷えた空気に響いた。「オマエ…俺のこと男として見てる?」「え?」いきなりの赤木くんの問いに、何て返事をしていいのかわからない。じっと目を見られて、心を見透かされたような気がして、恥ずかしくて目を逸らした。私の手の上に温かい感触が乗った。心がはねる。赤木くんの手だ。(続く)前の話を読む目次
2010年04月25日
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今日の日記(「ヤンキー君とメガネちゃん(初回)」感想☆ )サキ20(もしも彼から告白されたら)赤木くんとデートしてから、私はちょっと変。やっぱ、異性の友達ってアリかもね~って、赤木くんを思い出し、赤木くんを思い出すと、カズユキに申し訳無い気持ちになり、心が異様に寛容になってる気がする。よく、男が浮気すると優しくなるって言うけど、私もきっとそう。あれが浮気って呼べるんだとしたらね。「ねえ、明日映画でも観ない?」最近カズユキが休みの日は、お決まりみたいにカズユキの部屋が待ち合わせ場所になっていた。明日もカズユキは寝てたいみたい。それを阻止するためにも私は電話を入れる。「何か観たいの?」カズユキがかったるそうに言う。「ん~」別に映画が観たいワケじゃ無い。でも、どこか行きたい。待っててもカズユキから提案することは無い。「カズユキ観たいのある?」「特に無い。いいんじゃん?映画観たかったらDVDうちで観れば。好きなの借りてきていいよ。」そーじゃ無いんだよ。私は反論したいけど、上手く言えない。「じゃあ、テキトーに前売り買っておくから。いいのね?」「え?ん~。あ~。まあ、いいか~。任せるよ。」私は待ち合わせ駅を伝えて電話を切った。これで良し。もう浮気心なんて持ちたく無い。私達に必要なのは、きっとこの倦怠や慣れから脱出することなんだ!私はちょっと何かにやる気になった人間みたいに、ウキウキして映画を選ぶ。駅で待ち合わせ。新鮮でいいじゃん。カズユキは、ちょっとメンドウそうだけど。映画いいじゃん。カズユキ寝ちゃってるけど。私に対して安心してるからだよね?私もジックリ映画に集中できる。隣に誰かがいることで緊張することは無い。刺激が欲しいか?ときめきが欲しいか?それとも安心感か?長く付き合っていくつもりなら、刺激やときめきは無くなっていくもんだよね?私はそう思う。寮のベッドで、赤木くんと観に行った映画の券を眺める。裏側に彼の携帯番号が書いてある。かけてどうするんだ?私はそう思って映画のパンフレットに券を挟む。赤木くんからは、あれから特に誘われることも無い。やっぱり、ただ映画にいっしょに行く人を探してただけ。誰でも良かったんだ。それとも、私がカズユキの話なんかするから、引いちゃったのかも?当然だよね。誰がワザワザ彼氏持ちの女なんてめんどうな女を好きになるんだろう?ふと、自問自答してる自分がいる。でも、そう思うと気が楽になった。男友達として、これからも気軽に相談にのってもらおう!それがいいや。うん。イイ人みたいだし。「アッカギくんオハヨ~♪」私は気軽に赤木くんに挨拶する。その度に、おう、とか、ああ、とか無愛想な返事が返ってくる。「何してんの~?」「バカかオマエ?仕事に決まってんだろ?オマエ何してんだよ。」「だって、お客さん来ないんだもん。ちょっと一階を偵察~」「はいはい。こっちも来て無いですよ。」赤木くんは商品の品出しをしながら答える。ホント無愛想。私は一階に来た本題を伝えることにする。「今日も飲みに行くみたいだよ。久々にヤスさんが来てたから~」「え?マジ?!行く行く!決まったんだ就職?話聞きたいんだよな~!」私の知らせに、赤木くんは目を輝かせた。こんな顔を見れるなんて、伝言しに来て良かったと思う。「それじゃ後でね。一階のメンバーに伝えておいて~」「おう。さんきゅ!」私もちょっと嬉しくなった。最近バイトの気軽なメンバーで飲み会が増えた。それがバイトでの楽しみだったりする。心のどこかに赤木くんを見てウキウキしてる自分がいる。やっぱ浮気心ありだよね…。まあ、いっか。別に、何も無いんだしー。私は自分の心にちょっと言い訳をする。例えばだよ、例えば。赤木くんが私を好きとか言ってきたら~私、カズユキと別れちゃうかも~!な~んてね。妄想。妄想。私は自分のフロアに戻って在庫チェックをすることにした。余計なこと考えて無いで仕事しないとね。ミサコちゃんに、最近赤木くんと仲良しだったりしない?って言われる。同じ歳だから話が合うんだ~って答える。二人が付き合ったら面白いのに~って、ミサコちゃんが言う。ミサコちゃんこそ山川さんとどうなのさ~って返す。上手くいったらダブルデートしよう!ってミサコちゃんが言う。あはは!彼氏がいなかったらね~って、私が流す。まさか、この夜に、そんなもしもの話が冗談じゃ無くなるなんて、私は思ってもみなかったから。(続く)前の話を読む目次
2010年04月24日
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昨日の日記(ホームヘルパー説明会に行ってみた☆)今日の日記(「同窓会~ラブ・アゲイン症候群~(初回)」「素直になれなくて」感想☆ )サキ19(小さな浮気)「赤木くん、女友達いるんでしょ?」話を自分のことから逸らすことにした。「え?ああ…うん。合コンしたり、電話したりするのはいる。あ、あと、他のバンドの仲間に、ちょっといる…か。」赤木くんは真面目に答えた。「ふぅん。そうなんだ。」やっぱ、いるんだ…って思った。「でも、彼女のこと断って飯食ったりとかってことは無い…な。だいたい、彼女がいないから遊んでもらうって感じで。」その言葉に、私はちょっと傷ついた。じゃあ、私がいるのに女友達と食事に行くカズユキって一体…。「じゃあ、彼女いたらもう遊ばないの?」「ってか、忘れてる。お互い彼氏や彼女いたら疎遠になるし、またいなくなったら連絡することもあるけど…男友達のが楽しいしな。その程度。」「そっか…」私も同じだな…って思った。どちらかって言うと、彼氏優先。男友達が欲しいなんて、思ったことも無かった。女友達と騒いでる方が楽しい。彼氏でも無い男がいると気を使うし。だから思う。なんで私の優先順位って低いんだろ?やっぱ、あんまり愛されて無いってことだよね。。「あ、でもさ、俺だって、彼女に黙って行くことあるよ。例えば…彼氏の相談聞きにとか…さ。あと、女心ってやつ?聞いてみたりとか。彼女にみつかるとうるせーし。」赤木くんは、慌てて付け加えた。何か…イイ人じゃない?この人。「いいよ、フォローしなくて。」私は、軽く笑って言った。いわゆる苦笑いってやつ?「別に、そんなんじゃねーよ…」お互い、なんだか言葉がみつからない…って沈黙が襲ってきた。赤木くんが困ってるのがわかる。どうしよう…何て言ったらイイんだろ。大丈夫だよ、私別に気にして無いし。…とか?何か…私彼とうまくいって無いんです、だから、私、他の男と遊びに行ってるんです。…みたいな?ああ…違う、そういうんじゃ無いんだけど…赤木くんと映画に行ってみたかった。誘ってくれて嬉しかった。そう言ったら、彼氏に相手にされてない可哀想な女から、一気に浮気女になる。どっちも今の私なんだろうけど…。「俺、帰るわ。電車無くなるし…。」赤木くんが沈黙を吹っ切るように言って立ち上がった。「あ!そっか。ゴメン!」赤木くんはペットボトルを公園のゴミ箱に投げた。ナイス、イン。そして、ほら…行けよ!って言いながら、あっち行けって感じで手を振った。私はバイバイって感じで手を振って、寮の方まで早足で歩く。立ち止まって振り向くと、赤木くんがまだ道にいて、私のことを見ていた。「ありがとね~!赤木くん!」私は大きな声で言った。赤木くんも、今度はバイバイって感じで後ろ手で手を振って駅方面に歩いていった。笑ってた気がする。その背中を見ていたら、何だかちょっと淋しくなった。もう、今日みたいなことは、赤木くんと二人で過ごせることは、きっと無いんだろうな…(続く)前の話を読む目次
2010年04月23日
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今日の日記(主婦な生活と「Mother」感想☆)サキ18(最低な私)私がトイレに立って戻ってくると赤木くんはもう会計を済ませていた。「いくらだったの?」「いいよ、今日誘ったの俺だから。」「そうなの?」「どうしても払いたいなら払っていいよ。体で!」「バカじゃない!」私が赤木くんの肩をたたくと、赤木くんが楽しそうに笑ったので、私も愉快な気持ちになる。「じゃ、今度昼おごってよ。」「うん。いいわよ。ありがとね。」自然な気持ちで返事ができた。貸し借りって、あんまり好きじゃないのに。帰りは、赤木くんが遅いから送るって言い出した。そんな女の子扱いが妙に嬉しくて、私は帰り道の公園でお礼に飲み物を奢ることにした。公園のベンチに二人で座る。ペットボトルのお茶が冷たくて美味しい。まだ酔いが残ってる。こうして見ると、赤木くんて手足も長くて、やっぱりカッコ良くみえる。そんな人が、私のこと誘ったり手を握ったりするのは何で?からかわれてんのかしら?「ねえ…」私のこと好きなの?聞きたいのはそのことなのに、何だか自意識過剰女みたいな自分が怖くて、思い留まった。「男と女に友情はあると思う?」「え?何で?」「私男友達っていないの。」だから、こういう関係ってよくわかんないの。友達として誘ってるのか、私のこと女として好きだと思って誘ってるのか。…って言いたいけど、何か聞けない。「え?そうなの?」赤木くんが、そんな人もいるんだ?って、言ってる気がした。そんな小さな反応に、男友達くらい作れば良かったのかも…って思う。何で今まで彼氏に悪いって思って作ってこなかったんだろ。「でも、私の付き合ってる人にはいるのよ。」つい、愚痴ともつかない言葉をつぶやいていた。異性の友達がいない私っておかしいのかな?「前のことなんだけど、彼がね…いつもは友達と飲みに行くって言うのに、その日は友達と夕食食べに行くから会えないって言うの。私、何となく…ホントに何となくなんだけど、変な気がして、その友達って女の子でしょ?って聞いたの。そしたら一瞬黙って…そうなんだって。」赤木くんは何も言わずに頷いて、お茶をまた飲んで、私の話の続きを待ってるみたいだった。私は話したことに、ちょっと後悔し始めていた。カズユキのことなんか話さなきゃ良かったな…って。赤木くんと二人で楽しかった空気を、自分から壊しちゃったような気がした。でも何となく、仕方無いから続きを話す。「で、二人なのか聞いたら、そうって言われて…友達なんだから、夕飯食べるだけなんだから、何でもないよ、って。何か私、スネてると思われたみたい。私、男友達とかいないから、よくわからないし。」カズユキに対して思っていた不満をつい正直に話してしまったことで、何だか自分がすごく嫌なヤツみたいに思えた。何かに気持ちをぶつけたくなって、足元にあった石をつい蹴った。ここまで話したら全部ぶっちゃけちゃえ。「で、私が怒ってると思ったらしくて、その場に連れて行かれたんだけど、相手の女の人も、私が来た事に驚いてたけど、私のこと、ニコニコ受け入れてくれて…何だろ…?あれ…大人の女ってヤツ?二人とも私に気を使って、話ふってくれて、何か…すぐ男と女に結びつける自分が子供みたいで、私も無理に何でも無いように話したのよ。でも…」私は話してるうちに自分があの時に思っていたことが、自分がモヤモヤしていたのはどうしてなのか、わかってきた気がした。そうなんだ。私は子供なんだ。彼らと違って…。彼らの感覚がわからない。男と女の間の友情なんて、わからない。「何だか嫌になっちゃった。だから、勝手にしていいって言うか、お互い縛らない方がいいのかな…って。友達ってあるのかもしれないし。」今こうして、私が赤木くんに本音をぶっちゃけてるのが友達だからだとしたら…矛盾した心が私の中に広がっていく。どの女友達にも言えなかった私の気持ち。でも、どうして赤木くんには言えるんだろう?よくわからない。私が黙ってると、赤木くんが口を開いた。「で?俺とこうして出かけてみたりしたワケ?」「そうかもしれない…でも、よくわかんない…。」赤木くんは返事をしなかった。利用したって思われたかもしれない。実際そうなのかも?私ってサイテー。自己嫌悪の波が私に押し寄せてきた。(続く)前の話を読む目次
2010年04月22日
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今日の日記(大沢たかおのダバダ~♪と「絶対零度」「ジェネラル・ルージュの凱旋」「ろんはー」感想)昨日の日記(ライブに向けてのギターレッスン)サキ17(男友達とデート)私は、やっぱり男と女の間に友情なんて無いと思う。映画を観ている時は、赤木くんがまた手を握ってくるんじゃないか?って、ついドキドキしていた。だから映画に集中しようと思っているのに、何だか映画に集中できない自分がいて困った。チラリと映画を観てる顔を見る。真面目に観てる。私ってば何考えてるんだろ?やっぱり、あの時の赤木くんは酔ってたんだろうと思う。こういうのが男女でも友達って言うのかもしれない。ちょっと異性を感じてドキドキするけど、やっぱ、何も無いよね~みたいな?映画の後には、ちょっとイイ感じのバーレストランに連れて行ってくれた。洞窟の中に入っていくような内装の、アミューズメントパーク的なお店。赤木くんって、モテそうなタイプだと思ってたし、彼女もいたって聞いてたから、こういう店も詳しいのかもしれない。私はちょっと、赤木くんの彼女になる人が羨ましく思えた。「あれ?ねえ、”爽やかな風”がある!コレって有名なカクテルなの?」私はメニューから、この前飲んだオリジナルだと思っていたカクテル名をみつけた。「え?マジで?あ、ホントだ!フクさんも飲んでたやつじゃん!同じカクテルかな?頼んでみる?」赤木くんは、飲み会でのことを思い出したのか、楽しそうに笑った。同時に手を握られたことも思い出す。そして慌てて消す。赤木くんは店員にカクテルとつまみをオーダーした。その時に赤木くんがカクテルのことを聞くと、この店がこの前に行ったお店の系列店だってことがわかった。二人で、そうだったんだ~って頷く。そんなことが妙に嬉しい。飲むとやっぱり同じものだった。店によって微妙に味が違うけど。ほろ酔い気分で、何だか楽しい。「ねえ、赤木くんて、こういうとこ、よく来るの?お酒いろいろ知ってそう。」「バンドの打ち上げで昔から飲んでたし、店はいろいろ教えてもらった。」赤木くんはカラカラと氷を混ぜるように鳴らしてから、お酒を飲んだ。「ここは?」「来た事無い。来てみたかったけど、何か、女連れの方がいいって聞いてたから。」「そうなんだ。」「うん。だから、ちょっと今日はありがたいよ。来てみたかったしさ。」ふーん。赤木くんて、いろいろ連れてってくれそう。いいな。バンドもやってるとかって、何か、私と別世界って感じ。私は頼んだお酒を飲んで、溜息をつきそうになった。私もこんなふうにどこかに連れてってくれる人と付き合えば良かった。…なんて思う自分って嫌なヤツかな。赤木くんが席を立ってる間、パンフをパラパラめくって思う。カズユキも女友達と会ってる時は、私みたいなこと思ってるのかな~?って。それとも同性の友達と遊ぶみたいに、何も考えずにその場を楽しむのかな?私はワザとバンドの話を聞かなかった。聞く必要無い。赤木くんのこと、あんまり知りたくない。聞いたら、何だかますます赤木くんに惹かれちゃいそうな自分がいて怖かった。「赤木くん、こういう話好き?」私はパンフを眺めながら自分にもできる無難な話を聞く。「好きって感じじゃなかったけど、友情って感じは良かったんじゃん。オマエは?」赤木くんは私の名前をあまり呼ばない。ナゼだろう?と、思いつつ答える。「う~ん、戦争映画だし、大体予想してたけど、観てて悲しくなってきちゃった。」「俺も。友達が死んじゃったりとか。嫌だな。俺と同じ歳くらいなのにさ。」「大事な友達がいるんだっけ?」女なのかもしれないけど。と、探るような気持ちで聞いた。「うん。…まあな。ちょっとシンクロして観てたとこあった。」赤木くんがお酒を眺めながらしみじみした口調で言う。映画は、共につらい訓練を切り抜け、苦しい日々も助け合っていた二人が少しずつ親友になるけど、窮地に合って、あっけなく片割れが死んでしまった苦しみが描かれていた。二人は男同士で、恋人とも家族とも違うけど、かけがえのない存在だったことを映画は現していた。その友があっけなくなくなってしまう悲しみ。「そういう友達がいるのっていいよね。」疑ったりして悪かったかな…と思った。別に彼氏でも無いんだけど。何となく。「ねえ、赤木くんは戦争に行きたい?」「行きたくないけど、行くと思う。」ああ、やっぱり男はみんなそうなんだ。戦いが好きなのね。って、私は思う。私はそれでホッとする。嫌いなところをみつけてホッとする。「何で?」「誰かが守らないと…例えば、好きな子とかが戦争相手に殺されたりしたらヤだから。」「そんなもの?」「オマエだって、レイプとかされたらヤだろ?そうでもない?」「そうだけど…」あんまりそういう具体的なこと考えたこと無かった…。同時に、ああヤバイんじゃ無いか?って思う。彼の感性が好きだと思う。同調しそうな自分がいるけど、ここで赤木くんの意見に負けるワケには行かない気持ちになった。「私なら逃げる。好きな人や家族連れて、どこか遠くに!」「そうなの?」赤木くんは、ちょっと面白そうに笑った。その顔がちょっとイジワルに見える。「どっかって、どこだよ?」「どこでもいいわよ。じゃなきゃ、いっしょに死にたい。とにかく、好きな人と離れるのは嫌なのよ!」私はムキになって言った。酔ってるかも。「それもイイかもな。」赤木くんは軽く笑って、納得したようにお酒を飲んだ。「でしょう?」ふふん。勝ったね。…と思う私は自分が子供になったような気がした。年上のカズユキの前ではできないこと。参ったな。これじゃあ好きになっちゃうじゃん。そんなに素直に納得しないでよ。でも、私も素直になって言った。「好きな人といっしょに死にたいの。」「情熱的だなぁ。」「そうよ!パッションね!」照れくさくなって茶化す。「英語に変えただけじゃん!」私が笑うと赤木くんも笑う。あんまり楽し過ぎると…困る。すると店内の明かりがチカチカと点滅して、暗い中に雨と雷の音が響いた。ブラックライトに明かりが変わると骸骨が浮き上がる服を着たウェイターが、店内をうろつく。「へえ、面白いじゃんここ。」「ホントだね。男同士で来たかった?」親友だと思える友達と。「いや、いいよ。男同士ならもっと安っぽいとこ行くし。女の子と来た方がいいでしょ。」私はちょっと嬉しくなったけど、それはどういう意味だろう?「そうなの?何で?」「さあ?男喜ばせても嬉しく無いし。俺ホモじゃ無いから。」「女友達も喜ばせれば嬉しい?」赤木くんは私から目を逸らして笑った。私を女友達として誘ったのかが知りたい。なのに、肝心なことからは視線と同じで逸らす。赤木くんは、よくわからない。でも一番わからないのは、こんなこと聞いてる自分自身なのかもしれない。(続く)前の話を読む目次
2010年04月21日
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今日の日記(「SMAP×SMAP本当にあった恋の話」と読書「重力ピエロ」感想☆ )サキ16(男女に友情はあるか)飲み会で手を握られてから、赤木くんとバイトで会うことはほとんど無かった。 私が帰省してたのもあるけど、私がバイトに出る頃には、赤木くんは夏休み明けの試験のために8月終わりからずっと休み。 赤木くんが来ていた時は、1階にいる赤木くんの姿をみかける度に、ちょっと気になってしょうがなかった。 どうして手なんか握ったの? そう聞きたいけど… 時間が経つにつれて無かったことになっていく気がした。 私の学校は夏休み前に試験だったから私は9月半ばまで夏休み。でも、仲良しのミサコちゃんも試験でいなくて、バイト先は何だかつまんなかった。 昼休み、みんなが行きつけにしてる安いランチを出すカフェレストランに一人で行くと、一階のフクさんたちがいた。ちょっとホッとして席に向かうと、ナゼかその席の中に赤木くんがいた。え?!何で?朝は、いなかったと思ったのに。 私は朝に一階にいたメンツを思い返す。 「あれ?サキちゃん一人?」 「うん。二階はみんな今日まで試験なんだって。午後から誰か来るみたいだけど…」 私は赤木くんの方を見ないで答える。 私の分の日替わりランチが出てきてすぐに、食べ終わったみんなが席を立ち始めた。 「あ、サキちゃんコイツ今日バイトじゃないから、ゆっくり食ってて大丈夫だよ!」 「んじゃ、またね~!」 赤木くんはアイスコーヒーに入っている氷をストローでまわした。 私は、何となく急いでご飯を食べないといけないような気持ちになった。 何か話そうかな…でも何を? 口を開いたら、この前はどうしてあんなことしたの?って、聞きそうな気がした。 でもそのことを蒸し返すのが何だか怖い。私は、とにかくご飯を食べることにした。 「今日は何時まで?」 食べ終わるのを見計らってたのか、私が食後のアイスティーを飲み始めると、赤木くんがポツリと言った。 「早番だから5時まで」 「彼氏とは平日も会う?」 ドキンとする。 「え?あ、うん。仕事が早かったらね。何で?」 いきなりの質問に、ばか正直に答えてしまった。 いいや、隠すことでも無いし。 でも、何でか、あまりカズユキとのこと話したく無いと思う自分がいた。 赤木くんは映画のチケットを2枚出した。 「今日までなんだけど、彼氏と行くならやるよ。レイトショーなら間に合うんじゃね?」 「え?赤木くんは、行かないの?」「誰も行かれなかったし、一人で行くのめんどくなった。寝に行くようなもんだし。」「ふーん。」てっきり、いっしょに行かない?って誘われるんだと思ってた。拍子抜け。いやいや、待て。私にはカズユキがいるんだって。 映画のチケットを見ると、私の好きな俳優が出てる最新モノだった。友達が結構良かったって言ってたやつ。 え?映画?サキは休みだからイイけど、俺、明日も仕事だしさ~。 学生はイイよな、ホント。 カズユキが断る言葉がスンナリ頭に浮かんだ。 「コレ、行きたいけど、多分彼は行かないと思う。翌日も仕事あると、映画はね。」 「そっか。」 赤木くんはアイスコーヒーを飲み干した。 私は時計を見た。そろそろ戻らないといけない。 一瞬、じゃあ私と行く?って聞きそうになった。 でも、それって言っていいのかわからない。彼氏いるくせに…って思われそう。 「んじゃ、俺と行く?」 赤木くんがサラリと言った。心臓がドキンと音を立てた。「バイト仲間と映画に行くのはマズイ?男と女に友情は無い?」手、握ってきたくせに?私はイジワルな気持ちになって思う。この男、一体何を考えているんだろう?どういう意味で誘ってる?どうして彼氏と行けばとか言う?仲間… 男と女に友情… 「ん~」 私はうなった。 それが今私を悩ませていることなんだけど…。 「ギリギリかな。」 友だちとして見るか、男として見るかのギリギリライン。私は机に置かれたチケットを一枚取った。 自分が大丈夫だと思ってれば大丈夫だよね? 「どこで待ってる?」私が聞くと、赤木くんは、ちょっと嬉しそうな顔をしていた。魚でも釣ったみたいな。「終わる頃、駅ビルの本屋にでもいる。これ電話。」 赤木くんは置いてあったチケットに携帯らしき番号を書いて私に渡してきた。 両方持っててってことらしい。 私はそのチケットを受け取った。 「じゃ、あとでね。」 店を出て、チケットを眺める。 ちょっとドキドキした。 浮気なのか?男と女に友情はあるのか? それを私は今日見定めるのだ。 私は心の中で言い訳をした。(続く)前の話を読む目次
2010年04月20日
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今日の日記(週末新ドラマ「タンブリング」「怪物くん」「チェイス~国税査察官~」「新参者」感想☆)昨日の日記(映画「のだめカンタービレ(前編)」の感想☆)サキ15(本音はどこへ)女物であろう傘を見て迷う。まるで心理テストやクイズ番組みたいに。 A.この傘誰の?って聞いてみる B.見なかったことにするとりあえず傘からサッと目を背け、Bを選んで前の景色を見る。カズユキは気付いて無い。でも、頭の中はAにしようかBにしようかずっと考えている。さあ、どっち?さあ、どっち?Bでいいの?ファイナルアンサー?車はカズユキのアパートの前に着いた。降りて部屋の前まで来る。「あのさ…」「ん?」カズユキは鍵で部屋を開けた。「うわっ!暑っ!」急いで中に入ってクーラーを入れている。私は玄関でその様子を見ている。「どしたの?何で入らない?」「ああ…うん…」カズユキは冷蔵庫を開けてビールを出した。「あ~、うまっ!」車だったから飲むのを我慢してたらしい。私は、とりあえずベッドに座った。「どした?」「うん…あの…傘さ…」「え?傘?あ!ああ~!ヨシザワの。こないだ送ったから。」ずっと迷って、ようやく言った言葉に、カズユキは、何てこと無いように言う。「何?そんなの気にしてたの?サキって、ヤキモチ焼きだな。」私は、そうかな?って思う。フツーは、気にしないものなのかな?私がヤキモチ焼きな女なのかな?カズユキはテレビをつけて服を脱いで、Tシャツとパンツだけになった。そしてビールを飲みながら、テレビを見て、あははって笑ってる。私の気持ちなんて、きっとどーでもイイんだろうな。それに、もうビールを飲んだってことは、私を送る気なんて無いってことだよね。何だか腹がたってきた。「やっぱり今日は帰るね。」「え?何で?」「終電なくなっちゃうし。寮の門限に間に合わないし。」「泊まればいいじゃん。」「…」「怒ってんの?ヨシザワ送ったこと?」「怒って無いけど」「怒ってんじゃん。」「そうじゃ無くて…言い訳とか説明とか、どうしてこっちが聞かなくても言ってくれないの?何でこっちがいつも聞かないといけなくて、どうして責める形になっちゃうの?だから何だか疑ってるみたいになっちゃうのに。それがホントに嫌なのに。」カズユキは私の言葉を私の顔をじっと見て聞いていた。それから、ようやく聞き終わったかのような間を置いて言葉を出した。「ああ…うん…何て言うかさ…」ああもう!歯切れ悪いっ!何かホントに腹が立ってきた。「だってほら…、別にさ、友達だしさ。傘忘れてったなんて思ってなかったんだよ。ホント。ホント何でも無いし。」カズユキは残念そうな顔をして言った。信じてもらえてないんだ?って顔。そんな顔をされると何も言えなくなる。「うん…うん、わかった。」何でも無いんだろうけど…それは、わかってるんだけど…「うん…ホント、なんでも無いから…。」カズユキはつぶやくように言って、またテレビを見始めた。何もなかったかのような空気を作ってるような気がするので、私は仕方なく、隣にちょっと間を開けて座った。その距離が私とカズユキの距離のように感じる。さっき飲み会で赤木くんと隣同士だった時と同じ距離なのに…。赤木くんなら…彼女とケンカした時にどうするのかな?さっきみたいに手を繋いでくれる?私の左手が、何だか淋しそうに見えた。(続く)前の話を読む目次
2010年04月19日
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サキ14(男の勘と女の勘)慌てて携帯電話に出た。そのまま座敷から慌てて出る。みんなが私を見てたのがわかった。 「どしたの?」 「サキ?騒がしいけど、どこにいるの?」 カズユキの声が聞こえるけど、確かにこっちがうるさくてよく聞こえない。 「バイトの飲み会に来てるから。」 「ああ、そっか。」 カズユキの反応は薄い。 「何?珍しいね。何かあったの?」 「ああ、うん…」 カズユキはちょっと間を置いた。 迷ってるような、考えるような間。 「今出張の帰りで車なんだよ。サキがバイト終わって会えるなら迎えに行こうと思ったから。」 珍しいことを言う。 何か男の勘でも働いたのか?偶然か? 手を握られたことに、ちょっと罪悪感が湧いてくる。 「どこにいるの?」 カズユキはバイト最寄駅のロータリーに来ていた。 そんなとこまで来られてたら帰らざるを得ない気がした。 「すみません、彼から電話きちゃって。今日は帰りま~す。」 私はみんなのところへ戻って、言われた程度のお金を残して、残念とばかりに席を立った。 歩きながら思う。 前までだったら、カズユキからこんな電話があったらもっと嬉しかったはずなのに…。私一体どうしちゃったんだろう? 今は… 何ていうか、赤木くんがいなくなったことで、あの場にいても、ちょっと面白さが減っちゃったって思ってた部分がある。 だから抜けても、まあいいかな~って。 もし、赤木くんがあの場にいたら…? あ~、私って浮気モノなんじゃ? クビをブンブン振ってロータリーに急ぐ。 だから男女間で友達って、よくわかんないんだよ。 ロータリーでキョロキョロしてると、スーツ姿のカズユキが車の外で手を振ってるのが見えた。 「早かったね。」 車に乗り込むと急いだせいで涼しい空気が心地イイ。 私は汗をハンカチで拭いた。 「だって近くまで来てるなんて言うんだもの。」 「慌てなくても良かったのに。」 カズユキは当然みたいに言って車を出した。 「腹減った。どこ行こうか。」 「どこでもいいよ。私オナカ減ってないし。」 「飲んでたんだもんな。」 「うん。」 それで会話終了。 カズユキの好きなアイドル、Eryの甲高い声が聴こえる。 好きだからかもしれないけど、カラオケに行くと歌ってって言われる。 私のキーには合わないからあまり好きじゃないけど、 カズユキが嬉しそうな顔をするから歌う。 もうすっかり覚えちゃったな。 私は何だか可笑しくなった。 いつもの空気。 かき回されてた心がちょっとだけ落ち着いた気がする。 やっぱり、これでいいんだ。 カズユキは適当なファミレスに入って、 いつも頼むハンバーグセットを注文した。 私はケーキセットを頼んだ。 酔いの後だからか、醒めてるせいなのか、気だるい。 「家、寄ってくでしょ?」 カズユキが言った。 「うん。」 今日あったことは、酔っ払ってたから。 それでイイんだ。うん。 何度も自分に言い聞かせてる気がする。 いや、気がするんじゃない。そうなんだ。 ファミレスを出て車に乗る。 ちょっと自分の感情を持て余して、ダルかったので、座席を少し倒そうとしたら、後部座席の足元に傘があることに気付いた。 黄色とブルーの水玉。 どうみても男物の傘じゃ無かった。(続く)前の話を読む目次
2010年04月18日
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今日の日記(重たい感想になったな…映画「余命一年の花嫁」と推理ドラマの感想☆ )サキ13(握られた手)赤木くんの手が私の手をすっぽりと包んでいる。あったかいな…酔いが更に回った気がする。ふわふわした感覚の中、赤木くんの手が更に強く握られた。酔ってんのかな…。みんなが笑う声が聞こえて、自分もいっしょになって笑うけど、意識が手に行ってしまうせいで、みんなが何を話しているのか、よくわかって無かった。どうしよう…このまま握られてていいんだろうか…?いきなり赤木くんはパッと手を離して、ポケットから携帯を取り出しながら立ち上がった。「…?どした?今飲んでるんだよ。バイトのみんなとさ…」赤木くんは、しゃべりながら座敷を出て行ってしまった。フクダ先輩が、「女?女じゃん?」ニヤニヤしながら言う。「赤木、こないだ別れてフリーだって言ってたけどな~」すかさず山川先輩がボソリと言うと、「じゃあ、元カノじゃん?」「オマエとか言ってたよ~!」って、みんな耳をダンボにしてたらしくて、本人がいないのをイイことに、興味津々でしゃべり出した。いきなり離れた手がスースーして、酔いが覚めたような、物足りないような気持ちになった。気持ち良く寝ていた布団をはがされた気分。トイレに行ってくるね、ってミサコちゃんに言って席を立つ。何やってんだろ?私。カズユキがいるのに。そう思いながら、お店のツッカケを履いてトイレの方へ行くと、赤木くんが携帯でしゃべっている姿が見えた。「…俺がそっちに行くよ。どこだ?」電話を切って顔を上げると、私がいたので表情が一瞬固まった。「あ、ゴメン…。」トイレの前だって気付いたらしくて、私を通そうとする。 何であんなことしたの? そう聞きたかったのに、出てきたのは違う言葉だった。「赤木くん帰るの?」「うん、ちょっとな…友達が迎えに来てくれるって言うから帰るよ。」心配そうな顔で携帯に返事していたのを思い出した。「何かあったの…?」「さあ?でも何か心配だからさ。俺が大学行かなかった時に助けてくれた友達なんだよ。普通の友達じゃ無いんだよな。あ、異常って意味じゃないけど。」 最後は照れくさくなったのか、付け加えた冗談に、私も軽く笑う。一気に以前二人きりで車の中で過ごした空気が蘇って、打ち明けてくれたことにちょっと嬉しくなった。「わかってるよ。…男友達?」以前の私ならこんな質問はしてなかったと思う。友達って聞いたら同性だろうな…と。カズユキのせいだと思う。大事だと思う女友達がいるカズユキのせいだと思う。「何で?…気になる?」「別に!ただの好奇心。」手を握られたことを思い出した。拒否しなかったことで、気があるって、軽い女だって、思われたのかもしれない。今の私、まるでヤキモチ焼いてるみたいに思われたのかもしれない。赤木くんはクスクス笑って言った。 「女だよ。」赤木くんにもいるんだ。何でだろう?ちょっとガッカリしている私がいる。「ウソウソ。男。俺モテないもん。」赤木くんは、否定の手を振りながら座敷の方へ戻って行った。何なのよ一体。。。赤木くんに感情をかき回されたような気がする。トイレから戻ると赤木くんは店を出るところだった。ふ~ん、本当はどっちなんだか。私は冷たい視線を送った。隣にいたはずの赤木くんがいなくなったせいで、何となく淋しく感じる。別に、何かしゃべってたワケじゃないんだけど。お酒をグイっと飲むと、私の携帯が鳴っていることに気付いた。表示を見るとカズユキだった。(続く)前の話を読む目次
2010年04月17日
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今日の日記(新ドラマ「素直になれなくて(初回)」感想と「1Q84~BOOK3~」の予約! )サキ12(飲み会)飲みに行こうよ!一階の誰かから発端して二階の私達のフロアにも誘いが来た。バイトでの飲み、私は今回が初めて。平日、短大で寮の私には夜遅いシフトのメンバーと飲むのは厳しい。けど夏休みの今なら参加できる。私はちょっとワクワクした。販売の私達は、一階のレンタルフロアーよりも早く上がる。売上金をミサコちゃんといっしょに事務所へ持って行き、飲み屋へ向かうと、一階の早番の人とうちのフロアの先輩とが、大人数用の小さな座敷でもう飲み始めていた。「サキちゃんって飲める方?」「ほどほどかな。ミサコちゃんは?」「私も~。」えへへ、って二人でちょっと笑う。いつもお茶ばかりの私達は初めての飲み会参加で、二人とも、いきなりの飲み会の誘いに、ちょっとテンションが高かった。私達がその居酒屋にしか置いてないネーミングのお酒を頼むと、お酒が来るのと同時に、一階の「あがり中盤」メンツがやってきた。その中に赤木くんがいた。目が合ったので、手を上げて挨拶しようかと思ったけど、その視線をスッと逸らされた。上げそうになった手がバツが悪くて、そのまま運ばれてきたお酒の方にのばして、ミサコちゃんに渡した。「おい、つめろよ」更に後ろにいた先輩に言われて、赤木くんはドサっと私の隣に座った。何か、私の隣に座るのを躊躇してなかった?嫌がられてるのかな?なんで?ちょっと気になるけど、何となく聞けない。赤木くんを含む一階軍団は、今日のお客の中でスゴイチョイスをした人がいる!って話を私たちにしてくれた。え?何がスゴイの?って言ったミサコちゃんに、山川さんが詳しくどうしてなのか説明しはじめたので、私はなるべくミサコちゃんと山川さんがしゃべれるようにして、一階軍団の話の輪に入ることにした。「それ何てお酒?」私の目の前にいた先輩が尋ねる。「”爽やかな風”ってカクテルらしいですよ。」「ふーん、カクテルなんだ?女の子っぽいね!」「何だよ、オレも次それ頼もうとしてたのに、ヨッシー、オレも女の子かよ?!」「マジで?!フクダが”爽やかな風”?」「どーみてもオレのための酒だろう!コレは!」私の目の前で一階軍団がコントのような会話を繰り広げる。みんなであはは!って笑う。酔ってるせいもあって、何を言ってても何だか可笑しい。すると、私の座敷に置いていた左手の指に何か触れた。あたたかい。冷房が効き過ぎた店内に置かれたカイロみたいだと思った。赤木くんの足かな?ま、いっかー、あったかいし。先輩たちが私の顔を見て、思いきり話を盛り上がらせるので、それが何なのか確認できず、私は手をどけなかった。「サキちゃんって、カトウさんって言うんだよね?カトウフロアー長と親戚とか親子だったりするの?」「全っ然関係無いです!」「だよね!全然似てないもんな!でも娘だったらヤバかったよ~!俺こないださ~」隣の赤木くんが動くと、小指に当たっていた温かいものがいきなりなくなった。赤木くんが箸を取っておつまみをモグモグ食べる。周りの話に頷きながら、ああ、赤木くんの手の端だったんだな。って、ぼんやり思った。お酒を一口飲むと、また私の小指に赤木くんの手が触れた。あたたかいのが心地良くて、ついそのままにしてしまう。赤木くん…ワザと…?そう、思った瞬間、赤木くんの手が私の手の上に重なった。(続く)前の話を読む目次
2010年04月16日
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今日の日記(新ドラマ「Mother(初回)」とリアルにうちの母☆)サキ11(気になる異性)前期試験が終わり、夏休みになって、サークルに入って無いし、社会人のカズユキと会えないこともあって、私はバイトを思いきり入れることにした。ここのバイトは大学生が多い。私が試験の間は、夏休み明けが試験の人たちが目一杯入ってたようだ。でもってお盆は主婦や各フロアの社員たちが休む。それに合わせて、私は帰省をズラすことにしていた。お盆なんて混むし、特にその時に帰る必要も無い。お母さんは揉めてた姉夫婦が最近上手くいってるようで、ご機嫌だった。いつ帰ってきてもいいからね。なんて言う。あ~あ、いつ帰ろうかな。帰るとなると、ついめんどうくさくなる。兄は勤めた場所に現地妻ならぬ現地彼女ができて、同じく、めんどくさいらしくて帰ってくるかどうかわからない。私達家族は賑やかを通り越し過ぎてバラバラになった。赤木くんも夏休みに稼ぎたいらしくてバイトでよく見かけた。あのバーベキュー以来、顔を合わせると、お互い「よっ!」って感じで手を挙げる。フロアーが違う赤木くんをみかけると、なんとなく嬉しい気分になった。休みだと思っていた仲良しの友達が来ていたことに気付いた感じ。昼休みは3つのグループに別れる。各フロアー長が当日に決めて、名前分けされた表が出る。主婦等のパートが中盤、学生系のバイトは前半か後半に取ることが多い。学生が行く店は大体決まっていて、フロアーが違っても会うことが多い。今日は私達が食べていたら、赤木くんたち1階のグループが入ってきた。ちょっと離れた席で赤木くんはご飯を食べながら、しゃしゃり出ない程度に相槌を打つ。周りに年上が多いからなのか、同フロアの人たちには結構愛想が良さそうに見えた。みんなの会話に笑いながら、時々目が合った。また、あんなふうに、二人でしゃべる機会は早々無いんだろうな。それがちょっと残念なように感じる。同じフロアーだったら、もっと気軽に話す機会も多いんだろうけど。せっかく話が合いそうだと思ったのに、異性ってことになると、彼氏いるのに、私がワザワザ近付くのも変だし。同性だったら、気軽に話せるのになぁ~、と思うと、すごく残念な気がした。それとも、そういうことにこだわる私が変なのかな?異性の友達だと思うなら、変に気にしないで話しかければいいんだよね。でも、わざわざ話しかける勇気も無く、私は食後のアイスティーを飲んだ。(続く)前の話を読む目次
2010年04月15日
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今日の日記(どうかな?新ドラマ「絶対零度~未解決事件特命捜査~」「ジェネラル・ルージュの凱旋」感想☆)サキ10(彼とのデート)土曜日、 カズユキは案の定二日酔いで、なんだか会っても、かったるそうだった。 「ねえ、やっぱり今日会うのやめた方が良かったんじゃない?私、帰ろうか?」 食後にコーヒーを飲みながら、ぼんやりしてるカズユキに言った。 「え?なんで?」 「だって、ダルそうだし。」 「いや、ちょっと、まったりしてただけだよ。大丈夫。」 「ふーん。」 でも別にカズユキから会話をふってくるワケでも無く、私達はぼんやりと店から見える外の風景を見ていた。 何だかつまらない。 私も、昨日はどうだった?とか聞けばいいんだけど。 カズユキもそのことに触れようとしないし。 やっぱり、なりゆきみたいに付き合い始めたのが良くなかったのかなぁ。。 そんなこと、ポツリと思う。 オレたち付き合おうか? カズユキがそう言った時は本当に嬉しかったのに。 嬉しかったはずなのに。 体を重ねる時だけに言われる「好き」って言葉、何だかマニュアルみたいに感じる。 普段に聞いたことが無い。 何となく隣にいたから、何となく付き合ってるって気がする。 何となく私が彼を好きそうだったから、何となく付き合ってる気がする。 私が好きじゃなければ終わる気がする。 別れる理由も特に無い。 もうずっとこのままなのかもしれない。 「やっぱ、オレのとこ来てもらってもいい?」 「え?ああ、うん。」 ホントは気が進まなかった。 一人暮らしをしているカズユキの部屋。 カズユキとゴロゴロしながらテレビを観てると虚しくなる。 私は今日カズユキと会うためにバイトが終わってから、締め切りのレポートを慌てて仕上げていた。 こんなことなら今日のデートに持って来ちゃえば良かった。あれじゃあ中途半端だし。 ミサコちゃんからショッピングに誘われてた。でも、彼とデートだよね。って消えた。寮の先輩から合コンの話も来てた。でも、彼氏いるから悪いよね。って声をかけられなくなった。クラスの子からサークルの勧誘もされてた。でも、入ると自由にカズユキと会えなくなるかもしれない。 気付くと、私にはカズユキしか、いないみたいになってる。カズユキには私だけじゃ無いのに。私ばかりが好きなの? つい、そう思ってしまう。 会わないと膨らんで行く。 そんな自分の思いが重たい。 もう私のためにデートのプランなんて考える気も無いのかもしれない。 ずっとこんななのかな?私達。 面白いテレビなんて、やってない。 カズユキは、いつの間にか眠ってしまった。 私はここで何をしているんだろう。 帰りたいと思った。 でも、どこに? 帰ったら泣き出しそうな気がする。 テレビの中で笑う人々を見て、私は溜息をついた。(続く)前の話を読む目次
2010年04月14日
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今日の日記(オススメ昼ドラマ「娼婦と淑女」! ) サキ9(彼への不満)私はカズユキにバイトメンバーでのバーベキューのことを言わなかった。別に隠そうと思ってたワケじゃ無いんだけど。カズユキは仕事のある平日は連絡して来ないことがほとんど。大体連絡が来たら、次のデートは仕事でキャンセルって連絡ばかりだから、私が、わざわざ電話して、報告することでも無いしね。それに、な~んか嫌な空気になりそうな気もするし。そんなこと思って、寮のベッドで転がってたら、携帯が鳴った。カズユキからだ。まーたキャンセルか。なんかちょっと淋しい気持ちで携帯に出る。「はい?」「俺だけど」「うん。」「明日なんだけどさ、サキ、夜、時間ある?」何?珍しい!私はちょっとワクワクした。「ん~、バイトだけど…」即いいよ!って言うと、学生は暇なんだなって言われたことがあるから、ちょっともったいをつける。明日は早番だから5時には終わるし…って言おうとしたら、カズユキの声がさえぎった。「あ、そうなんだ?いやさ、明日、学生時代のサークルのメンバーで集まるんだけど、サキもどうかと思って。」「え?」今までそんなの誘われたこと無い。どういうことだろう?「良かったら、みんなに会わせようかな~って思って。」ちょっと嬉しくなった。「うん。でも、私行って大丈夫かな?浮かない?みんな年上だよね?緊張しそう!入っても大丈夫?」「大丈夫だよ。あ、ヨシザワも来るしさ。ヨシザワ、サキとまた飲みたいって。」ヨシザワ=ユウコさんのことだ。この前会わせたから、もう私とユウコさんは友達ってこと?なんか、ちょっとムッとした。カズユキに嫌われたくなくて話を合わせてたけど、別に、私、ユウコさんに会いたくなんか無いんですけど?一気にテンションが落ちた。でも、それを声に出すと、またカズユキが呆れた溜息をつきそうな気がした。サキは子供だな。…って。「ん~。あ!でも…ゴメン。明日遅番なの忘れてた!やめとく。バイト上がってから行くのも大変だし。」嘘ついた。行ったって、この前と同じで、気をつかってばかりで面白く無いだろうって、想像がすぐについた。「そっか~。じゃあ、いいか。明後日に会えるもんな?」なんか、カズユキの口調がホッとしてるような…言い訳してるみたいに感じる。別に、そんなにホッとしなくてもイイのに。私だって、異性の友達がいるくらい、どうってこと無いと思うし。なのに、カズユキの態度が、どうもムカつくのは何でなんだろう?この前のバーベキューの話でもしてやろうかと、一瞬思っった。でも、そうすると、絶対スネてるって思われる。あの時の、楽しかった帰りの思い出が、つまんないものになっちゃう気がして、やっぱりやめた。「うん。ゴメンね。」「いいよ。じゃ、土曜日に。」何?その安心したような声。何?いいよ、って。良かったのはそっちでしょ?でも、私はムカついた心を抑えて電話を切った。「あー、ムカつく!」その場にあったクッションを投げると結構すごい音がボンっ!ってして、自分でも驚いた。「サキちゃん、どうしたの~!」隣の部屋の先輩が廊下に出ていたらしい。「何でも無いです~!部屋片付けてたら物落としちゃって…すいません!」あ~もう、寮って、疲れる。私はぼんやりと一人暮らししたいなぁ~って思った。(続く)前の話を読む目次
2010年04月13日
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今日の日記(お見舞いと「わが家の歴史(三夜目)」「龍馬伝」感想☆ サキ8(異性の友達)ラブホテルが近付いてくる。 赤木くんは無表情で車を飛ばす。 兄が言っていた言葉を思い出した。 「サキ、オマエ、男を怒らせないように気をつけろよ。」 何いきなり~って私は兄に言った。 「こないだ峠道を走ってたらさ、下着姿の女が泣きながら道歩いてんだよ! 幽霊かと思って、マジ、ビビった! そしたらさ、男と別れ話がこじれたらしくて、下着にされて道に捨てられたんだと。オマエもさ、時々口の利き方が悪いし、気も強いから、ホント気ぃつけなきゃダメだぞ!男が本気で怒ったら、女なんか力じゃ絶対敵わないんだからな!」 兄は現実に自分が見てきた出来事に驚いたのか、その情景を思い出したのか、かなり興奮して私に言い聞かせた。 兄と子供の頃にケンカをしてきた私には、男の力が本気になると怖いってことは、よくわかっている。 「怒った?」 赤木くんは返事をしないで、車はそのまま道をまっすぐにラブホテルを素通りした。「オマエ、オレがホントにホテルに入ってたらどうすんだよ?」赤木くんが前を見たまま言った。「入るとは思わなかったし。…もし入ったら逃げる!」私の言葉に赤木くんが吹き出して笑った。私はちょっとホッとして、緊張が解けた。「オレは好きなヤツとじゃねーとヤラね~し。」なるほど。「私もよ。」ちゃんと否定しておかないとね。でも、そんな自分がちょっと可笑しかった。「赤木くんて、意外と真面目なんだ。」「そうだよ。意外と真面目なんだよ、オレ。」意外とって何だ~?自分で言うところが愉快で笑った。彼も私と同じで誤解を受ける人なのかもしれない。真面目な男は、あんなこと言わないんじゃないの?ま~いいけど。その時、曲が昔行ったことのあるライブのものに変わった。「あ、私この曲、野外ライブで聴いたことあるよ。」私は、その時のことを思い出して楽しい気持ちになる。「マジで?!オレも行った。」赤木くんが嬉しそうに声のトーンをあげた。「オレが行った日は、雨が降ってきたんだけど、ずっと続けてくれて、最後には月が出たんだ。すげ~、感動した!」「うそ!?私も行ったのその日!」あの時の感動を知ってる人が、こんなに身近にいたことに、私も興奮する。あの時は凄かった。兄が行くメンバーの一人が行けなくなったので、急遽、その場にいた私に行くか聞かれて頷いた。犬みたいに彼らにくっついて行った。初めて行くライブってものにドキドキした。小降りの雨の中でも、帰る人はほとんどいない興奮のライブだった。ほぼ、男祭りで、女の私は最初は怖かったけど、快くノリに混ぜてもらえて、楽しい気持ちでいっぱいだった。赤木くんも、その時のことを楽しそうに話す。あのライブに女が来てるとはな~とかって、嬉しそうに言う。私は状況を話す。イイ兄貴じゃん!って、赤木くんが言ったのが、何だか嬉しかった。そのバンドの曲を二人で聴きながら、ポツリポツリと思ったことを話して笑った。私の駅の近くまで来ると、赤木くんが、この際だから家の近くまで送るって言い出した。私も何だか名残惜しい気持ちになっていたので甘えることにした。寮の近くで車を停めてもらう。「楽しかったね。」まるで、あの時のライブにいっしょに行ってきたような気持ちになって、私は言った。「そうだな。」赤木くんも、同じように思ってる気がした。「じゃな。」私を下ろすと、赤木くんはクラクションを一つ鳴らして角を曲がって行った。私は彼が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。だって、楽しかったんだもん。そう思うことに、なぜか罪悪感は無かった。私だって男友達くらい、いてもいいよね?(続く)前の話を読む目次
2010年04月12日
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今日の日記(「わが家の歴史(二夜目)」「(初回)警部補 矢部謙三」感想☆)サキ7(二人だけの車内)帰りの車の中、山川さんは家までもう少しってところで気持ち悪いって言い出した。慌てて適当な最寄り駅で降りるってことになって、ミサコちゃんが、心配だし、近いから私もいっしょに降りるね、って山川さんといっしょに降りてしまった。ミサコちゃんの気持ちを知ってる私は、何となくいっしょに付いて行っていいのか迷い、二人は駅の方へ消えてしまい、赤木くんは、後ろでクラクションを鳴らされたこともあって、さっさと車を発進させてしまった。いきなりのことに沈黙が重い。って言うか、こう静かだと、何だか異性として赤木くんを意識してしまう気がした。カズユキのことを思い出して、何意識してんのよ?と心でつぶやく。「私、どこで降りればいい?」「近い駅はどこ?」てっきり途中のどこかで降ろされるんだと思っていた。私は寮の最寄り駅を言うと、オレんちと近いじゃん。って返事が返ってきた。赤木くんは信号待ちの間に、ラジオから普段聴いてるらしい音楽に変更した。それで、ちょっと気持ちが楽になった。それは昔、兄がよく聴いていた曲だった。懐かしい。こうして車に無言で乗っていると、兄がたまに助手席に乗せてくれて、近所に出かけた時のことを思い出す。私はつい、兄の車に乗っているような気持ちになって、サビの知ってる部分を小さな声で歌っていた。「女でこの曲聴くのって、珍しくないか?」赤木くんの言葉で我に返った。「兄がいるの。よく聴いてるから。コレは好き。」自分が歌ってた声を聴かれてたことが恥ずかしくて、打ち消すように返事をした。ふ~ん、と赤木くんがつぶやいた。「彼氏いて、こういうの参加するの、怒らんねぇの?」あ、言われると思った。黙ってバーベキューに参加したことに、ちょっとした罪悪感もあったけど、私はそれを認めるのが嫌だった。だって、カズユキだってあちこち参加してるんだし。それでも何だか、赤木くんがカズユキになって私を責めてるように感じた。「そうね~。どうかな?向こうは向こうで楽しんでるだろうからね。それに、いない時まで束縛されたくないよ。」どうだっていいじゃない。男なら良くて女だといけないの?つい投げやりに返事をした。「そりゃ、そうだよな。サキちゃんと付き合うには、器が大きい男じゃないと無理そうだ。」赤木くんが呆れたように言った。男って、み~んな、こんなふうに思うのかしら?さっきは面白いこと言ってたのに、なんか、ちょっとガッカリした。 「そうよ。赤木くんはどう?」そんなこと言うからには、ヤキモチ焼いたりするの?「えっ?!」赤木くんは、ちょっと慌てた顔をした。なんで?ポーカーフェイスが崩れたようで、 私はちょっと嬉しくなって笑った。「器が大きいの?」「オレは小さいね~。」今崩れた顔が錯覚だったみたいに、余裕を取り戻した赤木くんが言った。そう来ると、もっとこの余裕な状態を崩したくなる。「へぇ~、そうなんだ?どんなところが?」ヤキモチ焼くの?どんなふうに?行くなよ!とか言うのかな?想像したら、ニヤニヤしてしまった。赤木くんが黙った。怒らせちゃったかも? 「オレは器が小さい男だから、そういう気の強いこと言ってると、ラブホテルに連れ込むぞ。」赤木くんは、いいこと考えたって顔をして、チラリとこっちを見た。私がどう来るか試してる?「ふーん、赤木くんてそういう人なんだ?」内心ビックリしたけど、顔には出さないようにした。負けない!怒ったからそんなこと言うの?もしかして子供っぽい?ホントにホテルになんて連れ込む気?本気かな?冗談だよね?私は見極めるために赤木くんの横顔をジッと見る。大通りの左側にラブホテルの建物があるのが見えた。(続く)前の話を読む目次
2010年04月11日
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今日の日記(「わが家の歴史(一夜目)」:(初回)「プロゴルファー花」「激恋」ちょっと感想とお祝い☆)サキ6(彼以外の男性)バーベキュー場では、行動に性格が出るかもしれない。料理好きな子と料理ができることをアピールしたい子が必ずいて、何気なくそれをチェックする男子と、そんな空気は全く読まずにバーベキュー奉行になる男子がいたりする。その兼ね合いが何だか可笑しい。私はミサコちゃんの側にいて、ミサコちゃんがすることのお手伝い的に動いていた。山川さんは、本当は車の運転が好きらしい。でも、それ以上に飲みが好きだったらしく赤木くんに運転手を頼んだようだった。何となく、ミサコちゃんと山川さんがイイ感じで2人で会話してるので、私はみんなが集まっている川辺に。みんな川に石を投げていて、どれ位川の上をハネて行くか?ってことを競っていた。そこも何だか自分の居場所を感じられなくて、赤木くんが寝転がっていたレジャーシートに戻った。最近の私って、仲良しがいないと、どこにいても何だか馴染めないし、楽しめ無い。カズユキは会社の飲み会や大学時代の仲間としょっちゅう出かけてる。私がいなくても楽しいから参加してるんだろうな。。そう思うと、自分の世界の狭さにウンザリした。少し隣に転がる赤木くんは、日光浴してるみたいだった。せっかく来たのに、こうして一人で転がってるし、私と同じであまり楽しんでるようには見えないし、この人、運転だけしに来たのかしら?赤木くんが私の視線に気付いたのか、目を開けた。目が合ったことにバツが悪くて、私は適当にさっき車で聞いたことを口にした。「ねぇ、赤木くんは、ずっと学校休んでたんだよね?」「…うん、まあ。今は行ってるけどな。」めんどくさそうに赤木くんが答えた。あ、ちゃんと答えてくれるんだ?私は少しホッとして、社交辞令的に会話を続けることにした。「ふ~ん。何で?…とかって、聞いてもいい?」「ヤダ。」即、赤木くんが答えた。「え~!何ソレ?」会話になんないじゃないのよ~。どうせ答えないだろうと思ってたけど、思った通りの返事だったので、つい笑った。子供みたい。「じゃあ、オマエは何で大学行ってんだよ?」「ふん、教えな~い!」私も赤木くんに習うことにした。そっちがそう来るなら、こっちもちゃんと会話なんてするもんか。そう思ったら、私の返事に赤木くんが、ちょっと面白そうに笑った。ほーんと、マイペースなヤツ。「赤木くん何型?B型じゃないの~?」「クワガタ。」ますます小学生みたいなことを言ってくる。「何よ、それ~!」「イッセイオガタ」「も~!どっから仕入れて来るのよ~?」子供の頃に男子とやりあった感じに似てる。懐かしい気分になって、私はつい笑っていた。川辺にいたみんなが、何楽しそうに話してんの~?って戻ってくる。もしかしてイイ感じだった?邪魔した?とかって始まって、みんなそこで再び飲み会モードになった。確かに楽しかったけど、私には彼氏がいるんだよね~。みんながしゃべり出すと赤木くんは聞き役になり、また無口になってしまったので、私はちょっと残念な気持ちになった。学校の5分休みに隣の子とちょっとしゃべってて、盛り上がってきたところで授業に戻るような感じ。ちょっと残念。そう思う私って浮気モノなのかな?にしても、この人ウマイって思った。会話が途切れそうな合間に何かボソっとテキトーなことを言って人を笑わせてる。話を聞くのが上手いのか、それとも観察するのが好きなのか?気付くと私はみんなの中にいる赤木くんを観察していた。(続く)前の話を読む目次
2010年04月10日
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今日の日記(今日はドキドキ保護者会☆)サキ5(出会い)普通、自分の付き合ってる彼が女友達と会うことになった場合、大概の女の子なら、会わないで、とか、行ったら嫌だな…とか、もっとカワイイこと言うのかもしれないな。でも、私がいっしょに行かないなら彼女とは会わないって言うカズユキの言葉に、私は全く喜べなかった。普通なら、自分を選んでくれた!って喜ぶものなのかもしれないのに。そして、きっぱり2人きりで会うのをやめようとしなかったカズユキに、私を連れて行っても、行かなくても、彼女とこれからも付き合って行くつもりなんだろう…と、ガッカリしている自分がいる。私がいなければ、あの2人はもしかしたら、友情から恋人の仲へ発展したのかもしれない。そう思うと、私の心は、あれからモヤモヤしっぱなしだった。みんなでバーベキューに行く車の中で上の空の私に、ミサコちゃんとずっとしゃべっていた山川さんが私にも話しかけた。「サキちゃんは、大学一年生だっけ?」「そうですよ。山川さんの2つ下です。」山川さん情報はミサコちゃんから時々聞いている。私がずっとミサコちゃんと山川さんの話に適当に相槌を打ってたから、気を使ってくれたのかもしれない。優しい人なんじゃない?ミサコちゃんは、なかなか見る目があると思う。友達が言うには、私は黙ってると不機嫌に見えるらしい。気をつけないと。「じゃあ、赤木と同じ歳なんだ?」山川さんが助手席から後ろの私たちと運転手を見て言う。「え?そうなの?」私は、ちょっとビックリしてしまった。口調から山川さんより年下だろうとは思っていたけど、「放っておいて下さい」ってオーラを出しているような近付きがたいところが、何となく同じ歳に思えなかったからだ。私の反応に山川さんは満足そうに笑った。運転している赤木くんは無口で無愛想だった。「そうだね。」赤木くんは私が同じ歳だってわかったからなのか、私の驚きの問いに素っ気無いタメ語で答えた。無口でクール。女の子たちが陰で騒ぐタイプ。彼がいる私には関係無いんだけどね。フリーなら職場に一人いたら嬉しいかも。正直、このバーベキューに彼が参加してるとは思わなかった。「サキちゃんは、彼氏いるの?」山川さんが、さっきミサコちゃんに聞いたことを私にも聞いてくる。山川さんもミサコちゃんと同じ、ズバリ聞いてくるタイプなんだな~って思った。「いますよ。」「いるんだ~?何歳?大学生とか?」「社会人です。」私はありのままを正直に答えた。「平日は、空いてるから来たんだよね~」ミサコちゃんが助け舟を出す。だから浮気モノとかじゃ無いんですよ、って、さりげなく言ってくれてる。ミサコちゃん、私、協力するからね!私は心の中でそうつぶやいた。「赤木は彼女と別れたんだっけ?」「痛いこといきなりいいますね。」山川さんは、たいしたことじゃ無いよって感じで、あははって笑った。「だから休んでた大学に行くことにしたんだろ~?」「…山川さん、事故ってもイイですか?」赤木くんが軽く蛇行運転をした。山川さんは、バカ!やめろ!ごめん!悪かった!って慌てて言って、そんな山川さんの様子に赤木くんが満足そうにククって笑う表情が、バックミラーから見えた。そうか、フリーターじゃないんだ?同性には気さくな人なのかもしれない。私は赤木くんのことをそう思った。頭の中からカズユキが消えてたことに、その時は全く気付いていなかった。(続く)前の話を読む目次
2010年04月09日
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今日の日記(私的、春ドラマチェック~♪ )サキ4(彼への気持ち)カズユキにバイト仲間で遊びに行くことを言っておこうかな。いちおう。そう思って手に携帯を持つ。言って、行くのダメって言われたら、私行かないのかな?ミサコちゃんに行くって言った手前、それはもう無理な気がした。事後承諾。うん、コレでいいや。いつもカズユキが私にやってたことだもん。私だって、許しをもらう必要なんて無いだろう。カズユキは社会人で、教習所で知り合った。私は、ただ家から出たいってだけで、推薦で行ける短大に寮付きってことで承諾してもらった。普通免許は履歴書に何か書けることと身分証明書になるから。カズユキは社会人になる前に仕事で使うから取りに来たって言ってた。二人共、春になったら同じ街へ行くってことで話が合って、そこから何となく付き合うことになったけど、彼は好きな人がいたようだった。この前会ったユウコさん。彼女なような気がする。彼女と会うことになったのは、たまたま私の勘が働いちゃったから。「今から?ごめん、これから友達と夕飯に行くから…」講義の後、カズユキの携帯に会えるか電話をした。お酒が好きなカズユキが、友達と夕飯って言うことが時々ある。何となく怪しいって思っていた。「もしかして友達って女だったり?」私が何の気無しに言ってみると、嫌な沈黙。「そうだけど、別にただの友達だしイイでしょ?」その口調に、聞かなきゃ、女だって言うつもりなんかなかったんだろうと思った。「そうだね。イイんじゃない?じゃあ、楽しんできて。」私は電話を切ろうと思った。同時に頭を冷やそうと思った。ただの友達なんだから、いいんじゃない?そういうこともあるんじゃない?でも、私の口調をカズユキはヤキモチと取った。「待てよ、サキ。じゃあさ、いっしょに来ればいいいよ?な?本当に友達なんだし」「友達だったら、尚更、会ったことが無い人が加わると気を使って嫌でしょ?別にいいから、行けば?」「サキがいっしょじゃなきゃ、行かない。」連れて行かれた相手の気持ちなんて考えないの?いきなりドタキャンされたら嫌だと思わないの?それも私のせいで…。彼女がヤキモチ焼くからさ~とでも言うんだろうか?私はそんなことを思いながらも、カズユキと押し問答を続けた。結局、私は嫌々ながらも、信じてるなら来て欲しいと言う言葉に負けて行くことになった。行って納得したのは、私なんて連れて行ったところで、ユウコさんは私を受け入れないほど子供じゃない人だってことと、そんなことで2人の仲は変わらないって事実だった。それを私に見せたカズユキに腹が立つ。彼はこれで私に後ろめたい気持ちが無くなってスッキリしたのだと思った。一つ、私の心がカズユキから離れたことなんて気付きもしないんだろう。ヤキモチを焼かせようとしてるなんて思われたら腹が立つ。私はそんなことはしない。私は手に持った携帯をバッグにしまった。(続く)前の話を読む目次
2010年04月08日
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昨日の日記(ライブ選曲会♪)今日の日記(「ジェネラル・ルージュの凱旋(新ドラマ)」「ロンハー3時間スペシャル」感想☆)サキ3(誘い)「んん~、サキちゃん、そんなんでいいの?」バイト帰り、一個上のバイト友達ミサコちゃんが、私の話を聞いて言う。別に自分から言いたくて話した話じゃないんだけど。いつの間にか相談したみたいな空気になってるとこがミサコちゃんのスゴイとこ。サキちゃんって、彼氏いる?どんな人?結構ラブラブ?あ、ゴメンネこんなこと聞いて。実は私さ~特に返事を答えなくても、こんなふうに開けっ広げにいろいろ話しかけてくれるから、ついつい、こっちも話しちゃう。って言うか、ミサコちゃんをかわすようなワザ思い浮かばないし。でも、自然に話せる空気が嬉しいかもしれない。彼女がこんな子だから、私も自然に友達になれたんだと思う。私は何となく、この前カズユキの女友達と会った話をしていた。「そりゃあイイ気分はしなかったけど、でも…まあ、ナイショで夕食いっしょにされるよりも連れてってくれた方がマシじゃない?」私がそう言うと、ミサコちゃんはまた、「ん~でもなぁ~」って、両手でほっぺたを抱えた。ホントはマシじゃ無い。だけど、自分にそう言い聞かせてる。バイト帰りに喫茶店で夕飯。遅くまで開いてる安いセットがある店は、私達みたいな若い子達ばかりで、気だるい空気で賑わっていた。「私、そういうのヤダな。怒るかも。ううん、めんどうだから別れちゃうかも。」ミサコちゃんは素直に感想を述べて、あ、でも今、彼がいないからそんなこと言えるのかも~。なんて付け加えた。私は曖昧に笑う。そうすべきかな~?なんて思いながら。やっぱ、愛されて無いのかな~なんて思いながら。「ねえねえ、じゃあ、来月の定休日、学校休んじゃわない?バイトのみんなでバーベキュー行こうって話が出てるから~」嬉しそうにミサコちゃんが提案する。レンタルショップで定休日。無いと思っていたけど、間隔月であるからビックリ!店側の都合らしいけど…。返却はその時のみサービスで一日遅くてイイって何なんだろう?もしかして、それがレンタル率UPに関わってたり?私達の階はどちらにしろ販売フロアーだから早目に終わる。「じゃあって何~?」私が軽く笑いながら返事をする。「うん、だって、サキちゃん彼氏がいるから、イベントに誘っていいか迷ってたんだよね~実はね、私…」ナイショだよ?って、周りをちょっと確認するようにキョロっと見て、顔を近づけてきた。こんなとこがミサコちゃんは年上に見えない。私はミサコちゃんのその仕草が、何だかカワイくてつい軽く笑ってしまう。なになに?って、同じように口元に耳を近づける。「私ね、一階の山川さんがイイな、って思ってるの」そう小声で言うと、えへっ!って感じで嬉しそうに笑った。「え?そうなんだ~?!」私は、もしかして?とは思ってたけど、それが当たったことで、ちょっと驚いた顔をしてみせた。「ナイショね!ナイショ!」私はアイスティーを飲みながら、ウンウンって頷いた。同時にちょっとニヤニヤしてた。人の恋愛話ってどうしてこんなに楽しいんだろ?「だからね、バーベキュー行こうと思ってて。山川さん行くって言うし、そこでお近付きになりたいって言うか。でも、行くメンツにあんまり仲良しがいないから、どうしようかな~って思ってて。サキちゃんがいっしょに行ってくれると嬉しいの。」「なるほど。」私はまたアイスティーを一口飲んだ。「いいよ。」きゃー!やったぁ~♪ミサコちゃんが、すごく嬉しそうな声を出した。私まで何となく嬉しくなる。このバーベキューが私の人生に大きな出会いをもたらすことになるなんて、その時は全く思わなかった。いいな。楽しい恋愛。私はぼんやりと、カズユキとのことを考えていた。(続く)前の話を読む目次
2010年04月07日
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今日の日記( 「ホンマでっか?!TV」と始業式と恋愛系バトン☆)サキ2(彼の女友達)私の目の前に座っているのは、今日が初対面の女。薄い茶色のジャケットにパンプス、全体をベージュにまとめたお洒落な大人の女。隣にいるのは私の彼氏カズユキ。美味しそうにビールを飲んでニコニコして話に頷くだけで加わってこない。なんてズルイ男なんだろう…と思う。なのに私は、この男に嫌われないように、目の前の知らない女と打ち解けたフリをして、懸命に話題を盛り上げようとしていた。目の前の女も大人なのか、それとも大人の女の余裕をみせつけたいのか、私と楽しそうに話してくれた。それともそれは、年下女への気遣いなんだろうか?それが更に私をみじめにさせる。彼女はカズユキの女友達だった。付き合ってるのは、私のはずなのに…。私はジュースのようなカクテルをグイっと飲んだ。それが、せめてもの2人への抵抗だった。(続く)前の話を読む目次
2010年04月06日
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サキ1(捨て猫)学校の帰り道、私は公園道の脇に捨てられた子猫をみつけました。ダンボールに入っていて、まるでテレビドラマみたいだと思いました。私はその猫をどうしてもそのまま放っておくことができなくて、家に連れて帰りました。お母さんは、怒っているんだけど悲しそうな顔をして、イラついたような、困った口調で、元の場所へ帰すように言いました。私は、泣きながら、手のひらに乗る程度の猫を、元あった場所のダンボールの中に戻しました。振り返ると猫がこっちを見ていて、まだ鳴き声とも言えないような、かすれた声で鳴いていました。私は猫の側に行きたくても行けなくて、泣いていました。そして、猫を置き去りにしました。でも、今なら何となく母親の気持ちがわかります。生き物は、手元に置くと決めたなら、そう決めた人に責任がある。今なら、何となくわかる。私は、決意する側の人間になったのです。(続く)目次
2010年04月05日
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