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過去、韓国で食べた忘れられない味が二つある。一つは92年初夏に大田で食べた冷麺。大田駅でタクシーの運転手に「何かうまいものが食べたいので紹介してくれ」と頼んだところ連れて行かれたのが冷麺屋。緑豆で作られたかなり細めの麺が、滋味のある汁に絡み合い絶妙の味だった。
もう一つは87年冬にソウルの武橋洞でたまたま入った店で注文した純豆腐(スンドゥブ)。ちょうど昼時で「模範食堂」(ソウルオリンピックの頃、韓国政府が外国人にお薦めできる食堂をそのように指定していた。ムクゲのマークが目印)だったので何も考えずに入った店だった。多くのサラリーマン客が食べているのが何やらぐつぐつと煮たった真っ赤なスープとご飯の定食。「あれをお願い」とでてきた純豆腐チゲはアサリだしの真っ赤な辛いスープにおぼろ豆腐、真ん中に卵の黄身がドンと乗ったもの。辛いのに豆腐が優しくて、海鮮ダシが効いていた。これも忘れられない味だ。
昨日、池袋のLABI日本総本店(すごい名前だ)の7Fにある 「KollaBo」 に行ってきた。この店は韓国料理を専門にしている9つの店舗の協力でいろんな味が楽しめると云うコンセプトの店で前から気になっていたのだ。
カンジャンケジャン(ワタリガニのしょうゆ漬け)は期待通りの味。マッコリと一緒においしくいただく。海鮮チジミもほくほくして美味い。しかし、楽しみにしていた純豆腐チゲはあれっと云う味。まず、ぐつぐつしていない。卵をほぐすと妙にマイルドな味になり、辛さがどこかに消えた。スープにはカキも入っていてコクがあるはずなのだが、何かべたべたした感じがする。これはまずい。
純豆腐チゲは 「ソゴンドントッペギ」(漢字で書くと「小公洞土鍋」) と云う店が出しているメニュー。小公洞とはソウルの中心部にあり、何やらそこには純豆腐ストリートがあるらしい。この店は1962年に開店した老舗だ。それがなぜこんなにもまずいのか。
人の舌などいい加減なもので、忘れられない味などと云っても、同じものを今食べたらまた同じように美味しいと感じるかはわからない。特に最初に食べて「おいしい」思ったものは多少美化されて記憶に残る傾向がある。しかし、純豆腐チゲはその後も何度も食べているが、87年のものを上回る味に出会ったことはない。今回のはずれでまた、87年伝説は継続されることになった。