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北朝鮮の金正日の死去が伝えられたのは19日。メディアでは金正恩後継体制の行方が盛んに議論されている。当面は様子見と云うのが多くの識者の見方。多くの北朝鮮関連報道の中で僕が注目したのは北朝鮮の携帯電話に関するもの。
先月20日、ロイターは北朝鮮は2008年に携帯電話を解禁。エジプトの大手携帯電話会社であるオラスコム・テレコム社と4年契約を結び3G回線の敷設を開始、今年末までに加入者が100万人に到達する見込みとなったと報じていた。北朝鮮の人口は約2400万人なので普及率は4%と云うことになる。これは決して高い数値ではないがわずか2008年時点では普及がほぼゼロの状態だったことを考えると爆発的な普及速度と云ってもいいのではないか。
ロイター報道の出所は米国のシンクタンクであるノーチラス研究所の報告書とあったので早速読んでみる。以下、その概略。
・実は北朝鮮は一度携帯電話の普及に乗り出したことがある。2001年からタイのLoxley Pacific社との提携によりGSMネットワークによる携帯電話の試験的導入がなされたのだが、2004年に発生した龍川駅における爆発事故(金正日が乗車していた鉄道 が同駅に接近していたため、暗殺を狙ったものではないかとの憶測を呼んだ)において、火薬の点火に携帯電話が使用されていた可能性があるとされたことから、その後、携帯電話の普及は見送られた。
・一度見送られた携帯電話普及計画であるが、2006年頃から、前述のオラスコム・テレコム社との接触が始まる。なぜ、オラスコムなのかは不明。オラスコム社のCEOは4度も北朝鮮を訪問、金正日とも食事をするなど信頼を得ていた。
*ちなみにオラスコム・テレコム社はアフリカでもMTN、VODACOM(共に南ア)に次ぐ規模の通信会社で、エジプトのほかにアルジェリア、中央アフリカ、ブルンジ等に進出している。
・2009年、オラスコム・テレコム社75%、朝鮮逓信会社25%の出資で合弁会社を設立、サービスを開始。
・ピョンヤンの20代~50代の世代の60%が携帯を使用、特に若者世代と商人にとって、携帯は必需品となっている。
・当局は携帯によるコミュニケーションの監視を行っているが、急激な普及に当局の監視能力が追いつかないと云う事態も発生している。
・携帯電話普及に関して、北朝鮮はすでにルビコン川を渡ったと云える。2004年に戻ることはできない。
・ちなみにオラスコムの契約は2012年まで。懸案の一つは国際的な銀行システムと接続していない北朝鮮で得た利益をどのようにエジプトに送金するかと云うこと。
・携帯電話を含むIT政策の立案にあたっては、中国の経験を参考にしている。金正日は2001年及び2006年に中国を訪問した際にIT企業を数多く訪問しているが、現在、北朝鮮で使用されている携帯電話器材は2006年に訪問した華為技術公司製(*この会社は日本では有名ではないが、エリクソンに次ぐ世界第2位の売上高を誇る。ここまでが概略)。
北朝鮮のIT政策の立案には金正恩の見解も反映されていると云われている。金正恩の指導力は全くの未知数であるが、このように見てくると、これまでのように情報を統制、監視することは容易でないことがわかる。
北朝鮮の携帯電話普及を担っているのがオンゴーイングで「アラブの春」を経験しているエジプトの企業であることが北朝鮮の将来に対する暗喩であるようにも思えるのだ。