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「ママ。ただいま。」
「プッチニア!よく、よく無事で・・・!」
私の姿を見つけるとすぐに駆け寄り、強く強く抱きしめた。
「全部揃ったの。称号、くれる?」
「そう、そうなの・・・。もちろん・・・もちろんよ・・・!!」
やっと一人前のビーストテイマーになれた。でも私の思っていた、辿り着きたかった強さってこれのことなんだろうか?
試験はすべて終わった。もっと喜んでいいはずなのに、頭の奥がぼんやりとした霧に包まれているみたい。なんともいいようのない、気だるい虚無感だけが残っていた。
「これでもう一人前ね。さあ、家に帰りましょう。」
「・・・ううん。ママ、まだダメなの。」
「どうして!」
「最初は『パパやママの子供として恥ずかしくないように強くなりたい』って、ただそれだけだった。でもね、今は自分のために強くなりたい。いろんな場所に行き、いろんな人に会って、そう思ったの。」
まっすぐママの顔を見て、一言一言、自分の気持ちを確かめながら言った。そうなんだ、ここが終点じゃないって気がして、だからそれほど嬉しいと感じなかったんだ。
「ママ、強い人ってすごく優しいのよ。そういう人たちに助けられて、今ここにこうしていられるの。私も誰かを助けられるくらいに強くなりたい。だから、まだ家には帰れない。」
「そんな・・・。」
ママの涙を見たら決心が鈍りそうだった。でもこんなに中途半端な気持ちでこの村にいても、きっと後悔するだろう。
「もう、行くね。」
「ダメだ。」
振り向くとパパがいた。
「パパ!」
「プッチニア、お前は学校も卒業しないまま、勝手に村を出て行ってしまった。ちゃんと話しておかなければならないことがある。今日は必ず、家に帰ってもらう。」
パパは嬉しそうでもなんでもなく、むしろ怒っているように見えた。
「いいな、必ずだ。首に縄をつけてでもそうする。早く来い。」
いつもはママに『本当に甘いんだから』って怒られるくらい優しいパパ。こんなパパの顔は初めて見る。
確かにマスタークエストを終えてちゃんと学校を卒業するまで村を出る事は禁じられているけど・・・。どうもそれだけではなさそうだ。久しぶりに会えたというのに、どうしてこんなに怖い顔をしているのだろう。
パパに手を引かれ、有無を言わせない形で自分の家に戻る事になった。
私の部屋は出て行った日、そのままに置いてあった。次の日持っていくはずだった宿題、鞄、服。私の部屋の匂いが懐かしかった。もう何年も帰ってきてなかったみたい。アルバムをめくるような気持ちで、自分の部屋の中を歩き回って持ち物を眺めた。
「プッチニア、ごはんよ。」
ダイニングに行くと今日帰ってくることが分かっていたみたいに私の好物がたくさん食卓に並んでいた。
「さあ、たくさん食べなさいね。ちょっと見ない間に痩せたみたいよ。」
「うん!」
実はママは料理が下手だ。まあ、共働きだったから仕方ないけど・・・。でもこの美味しくないごはんが、たまらなく嬉しかった。
「ママ、またオムレツに卵の殻が・・・。」
「あら、そう?まあカルシウムだから、それも食べときなさい。」
これだ・・・。あまりにいつもどおりで思わず泣きそうになった。
連理と比翼は不思議な食事の前で固まっている。大丈夫、死にはしないと思うよ。・・・たぶんね。
「プッチニア」
食事の間も憮然とした顔をしていたパパが、やっと口を開いた。
「急に家を出て行くような真似をして・・・。」
「・・・パパ。」
「どれだけ心配をかけたか分かっているのか?手紙一つ寄越さず、パパとママがどんな気持ちでいたと思う。」
パパの目が赤い。ずっと涙を堪えていたことが分かった。
「ごめんなさい。・・・本当にごめんなさい。」
自分がこの両親の本当の子供ではないことを知ったときのショック、それにほっとしてしまったことへの罪悪感、弱さへの自己嫌悪。家を出たときはそんなものでいっぱいいっぱいになってしまっていて、パパたちの気持ちまで考えられなかった。置手紙一つだけで家を出てしまったら、心配するに決まっているのに・・・。せめて落ち着き先が決まった時点で無事を知らせるべきだった。
「お前がまだ旅を続けたい事は分かった。マスタークエストが無事に終えられたのなら、その資格はあるだろう。村長や校長先生には私から話をしておく。」
「あなた!」
「・・・いいの?」
パパは苦笑して
「お前は昔から言い出したら聞かない子だったからな。」
「でも・・・あなた・・・。」
「卒業したら村を出て冒険者となる人間が多い。この子の場合、その順番が逆になっただけだ。そろそろお前も覚悟を決めなさい。」
ママはまだ逡巡していた。
ごめんなさい、ママ、本当にごめん・・・。
「その代わり今度はちゃんと定期的に連絡を寄越しなさい。いいね。」
ふいに席を立ったパパは戸棚から小さな小瓶を取り出し、テーブルの上に置いた。
手にすっぽりおさまる大きさの瓶の中にはちろちろと炎が燃え、金色の粉をはぜている。錬金術のクエストで使った火の元素に似ているが、これはもう少し赤みが薄く、その熱はほのかにあたたかい程度だ。
「これは聖なる炎を分けていただいたものだ。」
聖なる炎。村の中央に赤々と大きく燃え盛っている火のことだ。邪悪なものから村を守ると言われている。実際、こんな高地にあるロマ村ビスルが温暖なのは、あの火のおかげだった。
「村で人が死ぬと、骸をあの炎の中で燃やす。それは知っているね。」
「うん。」
「しかし火葬の風習はこの村独特のものだ。地図製作者のクエストでアウグスタのロビンを訪ねたときのことを覚えているか?」
「うん。十字架のついた石のオブジェがたくさんあるところに立ってたよ。」
「あれは墓というものだ。ここ以外では人が死ぬとそのまま体を棺に納め、土に埋めている。」
「ええ!あの綺麗なオブジェの下には死体が入っていたの?」
「そうだ。」
信じられない。何度か死んでから時間の経った動物の死体を見たことがあるが、それは酷いものだった。人間の死体をそんな状態にしておくなんて・・・!
「どうしてそんなことするのかな?そのまま置いておくと腐敗するのに・・・。」
「いや、他の街に住むものからしたら、ロマの風習の方が変わっているんだ。愛する者の体を焼くということに、抵抗があるらしい。」
「でも聖なる炎に焼かれると、その体は高く高く空に昇ることができて、天国に早く行くことが出来るんでしょ?そっちの方がいいと思うけどな。」
「ああ。・・・それ以外にもこの風習に意味はある。」
パパは両手の指を交差して組み、そこに額ずけた。しばらくそうした後、ゆっくりと顔を上げて私の目を見据えた。
「プッチニア、これからいうことをよく聞くんだ。」
「これから旅を続けるなら危険な目に会うこともあるだろう。もしも死んですぐに蘇る手段を持たず、そのまま骸を晒さねばならなくなったら、この火で身体を焼きなさい。」
⇒
つづき
長かったんですがマスタークエスト自体、実は前フリでした ペチ(ノ∀`)アチャー
ここから先はすべて私の妄想が突き進んだ結果、つまりすべてがフィクションになります。あらかじめご了承下さい <(_ _*)X(*_ _)>
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