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サンガンピュールの物語(女科学者)3話
-3-
次の日の夜、偵察に出かけたサンガンピュールは変装していた。普段はストレートである髪型をツインテールに変えて、服を着替え、そしてメガネまでかけていた。女科学者に正体を明かさないためとは言え、彼女にとってもつらい任務であろう。
土浦の町の中心街から外れた怪しい家に近づいてきたとき、サンガンピュールはとても緊張していた。しかし、
「あいつとあたしは同じ女。おじさんの作戦通りにやれば大丈夫だと思う」
と心を落ち着かせた。Kの作戦とは、同じ女同士でおしゃべりをして、テロ実行の方法と予定日を問いただすことだ。変装した彼女は、久米のアジトのドアを恐る恐るノックした。
「はい?」
明らかに女性の声である。そして誰かがドアへと近づいて来る。
「あら、あなた。誰か知らないけど何しに来たの?」
サンガンピュールは焦った。出てきたのはあの女科学者だ。手配書にある写真と同じ顔だ。恐怖心が出てきた。だが勇気を出して彼女に質問した。
「あの・・・、久米奈緒美さん・・・ですか?」
「そうよ。こんな時間に何がしたいの?夜道を女1人で歩いていたら、暴漢に襲われるわよ。とにかく入りなさい」
「は・・・、はい。ありがとうございます」
「礼はいらないわよ」
取り敢えず、サンガンピュールはアジトに上がった。そして彼女は久米に対してこう言った。女科学者を追い詰めるための作戦が始まったのだ。
サンガンピュールは女科学者に対して言葉を発した。
「あの・・・、大声では言えないんですけど、実は私、男が大嫌い・・・なんです。そこで久米さんの考えに賛同してまして・・・」
これに対して久米は、
「そう、ありがとう。だけど何がしたいの?」
と簡単な言葉を返し、なおかつ逆質問した。変装しているサンガンピュールはなおも話し続けた。
「私は今の男社会に大いに不満を持っています。男なんていなくなればいいと思っているんです」
久米がどんな反応をするか、様子を見た。すると、
「えっ、あなた、今なんて言ったの?」
「ですから、男なんていなくなればいいと思ってるんです」
サンガンピュールが念を押して言ったところ、久米は笑みを浮かべてこう言い放った。
「なんてすばらしいことかしら。そうよ、この世の全ての腐敗は男のせいなのよ!」
「そっ・・・そうですよね・・・」
と、サンガンピュールはたじろぎながら答えた。彼女の心の中では、
「自分はそんな主義ではないのだけれど・・・我慢しなきゃ」
と自分自身に対して言いきかしていた。
そしてサンガンピュールは勇気を振り絞って次の質問をした。
「あなたの考えに賛同したいからこそ、聞きたいことがあります」
「いいわよ。何かしら?」
女科学者・久米奈緒美は質問を受け付けた。
「・・・テロ実行の日っていつですか?」
思い切った質問をぶつけただろう、とサンガンピュールは思ったが、久米は
「フフ、それはね・・・」
しばしの沈黙。
「今日から1週間か10日くらい後かしら」
この答えにサンガンピュールは驚いた。さらに質問をぶつけてみた。
「どのような方法でやるのですか?」
「簡単よ。あそこの実験台に猛毒のサリンのサンプルがあるわ。それを培養して、拡大する。そして実行の日に常磐線の電車の中に入れて破裂させるのよ!オウム真理教気取りじゃないけれど、霞ヶ関や永田町といった男の牙城でやったら、かなり刺激的でしょうねえ・・・」
とても恐ろしい答えが返ってきた。変装中のサンガンピュールは愕然とし、これは本当に大変なことが起こりそうだと確信した。しかし今は久米に歩調を合わせる。
「・・・そ、それだと気持ちいいでしょうね。久米さんに賛同する1人として、グッドアイデアだと思います」
「でしょ?男を滅ぼすくらいなら、徹底的にやらなきゃね」
「ですよね・・・」
大変な計画を知ってしまったサンガンピュールは、すぐに市長さんに知らせなければと思った。しかしそれよりも疑問に感じたことがあった。
「でも、ひとつお聞きしたいことがあります」
「何よ?」
「そんなに計画の詳細をベラベラとしゃべってて、いいんですか?」
「あなたにはいいのよ。あなたに限らず、あたしの計画に賛同する人たちには話す価値があるんだから。そうでしょ?」
「はい、そうですが」
「それならそれで、いいでしょ。他に聞きたいことは?」
「特にありません。ありがとうございました。また、興味があったらこの研究所に寄ってみます」
「あら、同志であるあなたは、いつでもここに来てもいいのよ」
サンガンピュールは一通り礼を言った後、そそくさとアジトを離れた。そして記憶を頼りに必死にメモを取り、すぐにKと市長に連絡した。連絡を聞いたKと市長の感想はほぼ同じだった。
「何と恐ろしいことだろう・・・。絶対にテロを許すわけにはいかない」
(
第4話
に続く)
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