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サンガンピュールの物語(お菓子の国)15話



 サンガンピュールは水を得た魚のようにすばしっこく動き回った。熊田が「ぶっ殺してやる」と言った直後、2人はお互いの顔を目掛けて突進した。彼女の鬼の形相に逆に熊田が驚きの表情を見せている。熊田はすかさず右足で彼女の顔へ蹴りを三発入れるも、そして遠くへ飛ばしても、彼女はへこたれなかった。再び立ち上がり、熊田に向けて突進。面と向かった彼女の右手の拳がピュンピュン鳴るのに対して熊田は両手でガードするのがやっとだった。再び熊田が強烈なキックを入れるも今度の彼女は倒れなかった。熊田が複雑なステップを踏みつつ右足で錯乱する足技攻撃を仕掛けた。それに対してサンガンピュールは同じ右足で彼の技を封じ、さらに見よう見まねで熊田の攻撃を真似した結果、今度は熊田が顔に蹴りを入れられ、さらに一回転した。彼女は気付いた。

 「・・・これがさっきの神様の力か!」

 そう確信した彼女はもっと思い切った攻撃を仕掛けた。試しに右足で本気の蹴りを入れたら熊田は凄く後ろへ引き下がって倒れた。そして熊田によって遠ざけられていた自分のライトセイバーをフォースで奪還し、ライトセイバーの赤い刃を出現させた。すると熊田はその武器を再び蹴り落とそうとしたが一度目はかわされた。二度目は彼女の顔に当たった。さらに左足で彼女の右足を倒した結果、彼女は傍にあった机に頭をぶつけた。机の強度が勝り、サンガンピュールの頭には激痛が走った。その際に熊田が疲れを押し殺しながら一言。
 「フフフフフ・・・、一生に亘ってお菓子の国を、俺達を裏切った連中を、そしてお前を、恨み続けてやるっ!!」
 それに対してサンガンピュールは言い返した。

 「・・・させない。そうはさせない!せっかくみんなが頑張っているのに、それを邪魔するのは許さない!」

 さらにこうも言った。
 「あんた達がお菓子の国の職人さんを、すごい方法で殺したの、知ってるんだから!」
 「ほう、よく知ってるな。確かに、お前が殺った安本が職人とやらをすごい方法で殺した。どんな方法だったか知ってるか?」
 「・・・知ってる。ミキサーにかけて粉々にしたんでしょ!」
 「その通り!正確にはミキサーじゃなくてあの粉砕機だがな!お前もあいつと同じ目に遭わせてやる!」
 「・・・そうはさせない!」

 サンガンピュールはライトセイバーを振りかざしながら熊田に迫る。これに対して熊田は先程の高飛車な発言とは逆に後ろへ下がっていった。彼女はライトセイバーを地面に突き刺した。すると、コンクリートの床に高圧電流が流れた。よけきれなかった熊田は感電して倒れたのだが、すぐに立ち上がるしぶとさを見せた。すぐにライトセイバーを蹴飛ばし、キックを彼女の顔や腕に向けて何発も入れた。
 最終決戦が始まって15分が経過した。その分、時限爆弾が示す残り時間も少なくなっていった。両者とも「ゼーハーゼーハー」と息を吐きつつも、それを押し殺して戦いを続けていた。しばらくひるんでいたサンガンピュールは何を思ったのか、ライトセイバーで先程の机を三度斬り刻み、粉々にしてしまった。唖然とした表情の熊田。ライトセイバーを前面に出しながら突進するする彼女に対し、熊田は完全に焦っていた。熊田は何発も足技を仕掛けるもその分、彼女にかわされた。逆にサンガンピュールは熊田の足を狙って何度もライトセイバーを振り回した。熊田はそれをかわそうとした瞬間、足を滑らせて倒れた。そしてその瞬間、サンガンピュールは熊田の右ふとももを狙って突き刺した。

 「わああぅっ!!」

 熊田が苦悶の表情を見せた。これがこの決戦のクライマックスとなった。その後はサンガンピュールが優位に決戦を進め、足技を得意とする熊田はふとももを高熱のライトセイバーでやられたことで一転して大劣勢に立たされた。熊田が左足で豪快な蹴りを入れようとしたところ、サンガンピュールに左足を掴まれて封じられ、挙句の果てに離されることで転倒したのは、その象徴だった。
 熊田は悪あがきとして近くにあったパイプ椅子を振り回して攻撃するが、ライトセイバーを使うサンガンピュールにとっては恐るべき武器ではなくなっていた。すぐに椅子にライトセイバーで穴を開け、そしてキック!パイプ椅子はバラバラに壊れ、その反動で熊田もダメージを負った。その直後、彼女はフォースで彼を持ちあげて反対側の壁へ飛ばして叩きつけた。その瞬間、熊田のブレザーのポケットから時限爆弾のスイッチが落ちた。上下が逆になった状態で壁に叩きつけられた彼に戦いを続ける力はなくなっていた。
 とうとう力尽きたかに見えた。サンガンピュールは熊田に勝った。サンガンピュールはすぐに時限爆弾のスイッチを拾い、緑色の解除ボタンを押した。時計は止まった。残り2分3秒というところだった。

 サンガンピュールはふらふらになりながらも人質がいる部屋に向かった。その部屋に入った時、職人が驚きの表情を見せた。
 「サンガンピュールさん!」
 驚きながらもうれしいという表情だ。自分たちは助かったんだと。

 「・・・勝ったよ・・・、あたし・・・勝ったよ・・・」

 ふらふらになりながらもどうにかして時限爆弾の首飾りを外した。人質となっていた5人の職人たちは自由の身となった。部屋の窓の方に目を向けると外には、この建物に到着した時には無かった巨大な水たまりができている。雷鳴はいつの間にか終わっていた。だがやはり戦っている最中にゲリラ豪雨みたいな何かがあったのを彼女は初めて確認したのだった。

 「さあ、急いで逃げようよ!」
 しかしサンガンピュールが解放した職人と共に工場から逃げようとする時、再び熊田が現れた。身構えるサンガンピュール、その一方で職人に対して、
 「あたしは放っといていいから早く逃げて!」
 と言った。職人は一瞬躊躇したが彼女は
 「早く行って!!」
 と促した。これで2人きりとなった。その後、熊田は最後の力を振り絞るかのようにこう言った。
 「・・・俺の勝ちだ・・・!」
 右手には拳銃が。それに対しサンガンピュールは
 「それはどうかな?」
 と返した。これが癪に障ったのか、熊田は銃を一発発射した。しかし彼女は動体視力で見事によけ、逆に熊田をフォースで天井に向けて浮かばせた後、コンクリートの床に叩きつけた。強い衝撃音が場内に響いた。そしてそのままベルトコンベアの前に熊田をセットし、再びフォースを使って粉砕機とベルトコンベアの電源を入れた。
 攻守所を変えてチキンレースが再開した。
 「・・・やめろ!俺は怖い、助けてくれ!・・・許してくれ!」
 熊田が必死の命乞いをするもサンガンピュールは、

 「あんたはその言葉を、今まで何回聞いてきたの?」

 と返した。
 「・・・やめろ!やめろぉぉぉ!!」

 彼の身体は、粉砕機の中へと消えて行った。安本によって殺された職人同様、ミンチ状態となった。このチキンレースの勝負、サンガンピュールの勝ちである。熊田はチクロンB幹部の中で最も悲惨な最期を迎えた。

 その頃、工場各所から凄まじい爆音が響いた。あらゆる所で爆発による火災が起き、天井が崩落していった。サンガンピュール、熊田、解放された職人がいるこの部屋でも屋根の一部が崩落していた。
 サンガンピュールはあるものを取りに行った。動かなくなった時限爆弾だ。残り2分3秒と表示されている本体を離れた場所に置き、リモコンでスイッチを入れた。接続されていない時限爆弾はショートやスパークを起こし、すぐに爆発した。
 その後、チクロンBの工場兼アジトは大爆発を起こした。サンガンピュールはその直前に外に脱出することに成功した。5人の職人も無事だ。それから数分後にパトカーが、遅れて消防車が到着。消防士が消火活動を始める中、パトカーからは背広を着た男たちがゾロゾロと入って来た。

 ( 第16話 に続く)


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