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サンガンピュールの物語(成長編)6話

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 サンガンピュールが警察と十分な連携をしようとせず、独断で容疑者を殺害したことは市長とKにも伝わった。特に市議会議員の中でも問題になり、市長は胃が痛い状態が続いた。釈明に追われ、事態を重く見た市長は5月13日(火)に臨時市議会を招集することを決定した。また、Kからは大目玉を喰らった。
 K「大バカ野郎!人を殺すために生まれてきたの!? 俺だって事件聞いて怖くなったよ。本当だぞ!」
 普段の優しいKとは程遠い、鬼のような表情のKがそこにあった。これまで面倒を見てくれた養父からも初めて怒られたことで、サンガンピュールは後悔した。犯人を殺したことで、自分の立場が危うくなったし、しかも犯人の男の更生・再チャレンジの可能性が死んだことによってなくなった、そして解放された女性も彼女のことを「怖い」と言ってしまった。議員から人殺し呼ばわりされる、こんな事態になったのは全部自分のせいだ。

 しかしその臨時市議会の日を待たずに、サンガンピュールは再び騒動を起こした。
 5月8日(木)の午後。連休明けのひかり中学に一人の外国人教師がやってきた。彼女の名は、メアリー・キーン(Mary Keane)。セミロングの金髪、青い目で30歳前後。にこやかな笑顔が印象的な女性だった。この日は1年1組での初授業だった。
 昼休みが終わった後の、賑やかさが少し残っている1組教室に英語を担当するベテラン女性教師、安田先生の声が響いた。
 安田先生「はい、みんな注目!」
 1年1組の生徒31人全員の視線が、新登場のメアリー先生に向いた。
 安田先生「今日から2週間ほどひかり中学で英語の授業を担当する、メアリー・キーン先生です」
 それからALT(外国語指導助手)の英語による簡単な挨拶が始まった。
 メアリー先生「My name is Mary Keane. I'm from United States.」
 だがその時、サンガンピュールはなぜだか急にカチンと来た。なぜだろう、もう既に我慢できなくなっていた。
 メアリー先生「Let's enjoy studying・・・」

 サンガンピュール「L'ennemi de paix! Sortez du Japon et France!(平和の敵!日本やフランスから出て行け!)」
 そこには、すっくと立ち上がったと思いきや、もう我を忘れて本来の母国語であるフランス語で声を荒げるサンガンピュールの姿があった。突然の出来事に、あずみなど周囲の生徒は完全にあっけに取られている。
 安田先生「塩崎さん!静かに!失礼だよ!」
 一言厳しい口調で注意されたにもかかわらず、警告を無視し続けた。
 サンガンピュール「Tous les Americains adore la guerre! Tous ils sont folle!(アメリカ人は戦争が大好き!みんなおかしいよ!)」

 安田先生「塩崎!いい加減にしなさい!」

 英語でない外国語を突然聞かされてポカンとしているクラスメイトが周りにいる中で、サンガンピュールの罵倒は終わった。メアリー先生は口には出さないものの、明らかに悲しい表情をしていた。
 あずみ「ちょっと、ゆうこちゃん、落ち着こうよ」
 学級副委員長であるあずみが止めに入ろうとしたが、
 サンガンピュール「Taisez-vous !(黙れ!)」
 完全に手を付けられない状態になっていった。結局、授業中にもかかわらず彼女は安田先生とあずみに取り押さえられながら職員室に連行されていった。これで教室にやっと平穏が取り戻された。
 メアリー先生はアメリカ・メーン州出身。メーン州はカナダと国境を接する州である。しかも国境線の向こう側のカナダの州はフランス語圏で有名なケベック州だ。メアリー先生はアメリカ人であるがフランス語を多少なりと理解できたことがサンガンピュールにとっては不運だった。
 メアリー先生はこの一件で大ショックを受けた。まさか日本に来てフランス語で罵倒されるとは思わなかった。そして「アメリカ人は戦争が大好き」、「平和の敵」と言われて、物凄く悲しい気持ちになった。
 この一言のせいで、サンガンピュールは放課後、面談室で安田先生と森先生からこっぴどく叱責を受けた。

 そして2日後の10日、土曜日には依頼主である土浦市長からも呼び出しを受けた。市長とK、安田先生立ち合いのもと、メアリー先生の目の前で直接謝罪しなければならないと諭されたのだ。これは、サンガンピュールを指導するのと同時に、メアリー先生を守るためでもあった。
 K「さあ、メアリー先生に謝るんだ」
 養父としてサンガンピュールに謝罪を促した。
 サンガンピュール「・・・・・・」
 だが彼女は黙ったままである。
 K「お前のバカな一言のせいで、保護者である俺が謝り、校長先生が謝り、そして市長さんまでもがメアリー先生に泣いて謝ったんだぜ!」
 問題が発覚したその日の晩から彼女はKにこっ酷く叱られ続けていた。サンガンピュールは完全に不貞腐れており、「私は悪くない」と言いたいような表情であった。
 サンガンピュール「・・・分かんない。だって・・・何にも悪いことをしていないイラクに戦争を仕掛けたのは間違ってるもん・・・」

 K「またそれかっ!!」

 市長の執務室でKは今までに聞いたことがない程の大声で怒鳴った。彼女はまだ12歳とはいえ、今回の戦争について十分なバックグラウンドを知ろうという努力すらせず、表面的なことだけを見て判断している。そして、この戦争にはアメリカを始め、世界中の人々が米英軍のイラク派兵に反対していた。人間を国籍だけで判断する養子に対して遂に堪忍袋の緒が切れたのだ。

 K「要するに、お前は『平和の敵』というたった一言のせいで、多くの人々に迷惑を掛けることになったんだぞ。しかもなんだよ、英語の授業なのにフランス語で罵倒したらしいじゃないか」
 サンガンピュール「ああ、そうだよ。フランス語で言ってやった」
 淡々と事実を認めた。
 K「どんな深い理由があったのか、もうこれ以上聞かないけど・・・、他の人に迷惑をかけるのはやめなさい」
 そう伝えた後、Kは一度深呼吸をした後に話の内容を変えた。

 K「お前さ、もう覚悟決めろよ」
 サンガンピュール「覚悟?覚悟ならもう出来てるよ」
 K「じゃあどんな覚悟だ?言ってみろ」
 彼女はフラストレーションが溜まっているせいか、勢いよくしゃべり出した。
 サンガンピュール「もっと悪者退治して、市長さんから信頼を得ること」
 だが彼女なりの答えは、Kの本音からかなり外れていた。養父は思わず言葉を荒げた。

 K「違う!市長さんだけじゃない!」
 サンガンピュール「じゃあ誰から!?」
 K「さぁね。1分間自分で考えてみな」
 突然与えられた質問に異国から来たスーパーヒロインの少女は戸惑った。
 サンガンピュール「・・・分かんないよ」
 K「そうか。じゃあ教えよう。お前は、フランスを飛び出したんだよな。本物のお父さん、お母さんの所には戻りたくないと言ったよね」
 サンガンピュール「・・・うん、確かにそう言った」
 K「そうだよね。今のお前に一番必要なことは、クラスメイトや町のみんな、そして日本中の人々に受け入れてもらえるために、自分を変えられる覚悟を決めることだ。・・・ただ『町の安全を守れればそれで良い』なんていう用心棒は要らない。覚悟出来ないのであれば、・・・もうライトセイバーと拳銃を捨てろ」
 サンガンピュール「それは嫌だ!」
 K「それは嫌?じゃあ、ライトセイバーと拳銃を市長さんに預けろ。封印してもらえ」
 サンガンピュール「それは・・・」
 急に困惑の表情になった。彼女から武器を取り上げたら存在価値がなくなってしまうのだ。Kは今一度、彼女の気持ちを落ち着けさせた後、もう一度語った。
 K「・・・サンガンピュール、お前、ロンドンでやってきたこと、この町でやってきたことをもう一度思い出してみろ」
 ここからスーパーヒロインとしてではなく、一人の人間としてのサンガンピュールに訴えていく。
 K「お前は生まれ故郷での居場所をなくし、イギリスで居場所をなくした。そして日本で居場所をなくしたら、お前はどこに行くのか?」
 サンガンピュール「・・・・・・」
 もう彼女の目から涙がこぼれ落ちそうになった。
 K「俺はお前の人生を応援する。オヤジとして精一杯支えていく。勉強で分からないことがあるなら、聞きに来てくれ」
 サンガンピュール「・・・それが?」
 K「そうだ。もう迷いを捨てろ。修行僧みたいに一途に勉強して、たくさん友達を作れ。町を守ること以外にいろんなことができるようになれ。剣術を磨くのはそれからだ」

 Kの魂の説教が終わった。もう最後通告に近い説教を受けたスーパーヒロインは、もう目からギラギラした力強さが失われていた。そして、
 サンガンピュール「・・・メアリー先生・・・、あんなことを言ってしまって・・・ごめんなさい!」


 ( 第7話 に続く)


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