龍とネコ
第1章
龍宮城のハズだったのに
むかしむかし、落ちこぼれ村にトドという漁師が住んでおった。
ある日、外に出てみると村の子供たちが、1匹の子猫をいじめておった。
ネコ好きのトドは、ウンコ爆弾を投げつけて、悪ガキどもを追い払い、
にゃんこを助けてやったそうな。
にゃんこは、泣きながらお礼を言い、竜宮城に案内すると言い出した。
「はて? 竜宮城はたしか海の中にあるはずだが?」
ごろごろと喉を鳴らすにゃんこを見て、トドは首をかしげた。
とてもじゃないが、その背中など乗れるわけがない。
そもそも、ネコって泳げたっけ?
辞退したのだが、しつこく、すそをくわえて引っぱるので、
ひとの良いトドはしかたなく、チビにゃんこのあとを、ノコノコと
ついて行くことにした。
着いた先は、蓮の池ではなかった。
もちろん、お釈迦さまもおられぬ。
タダの砂浜である。
「みゃ~おん」
子猫が天を見据えて、ひと声鳴くと、にわかに一天かき曇り、
激しい雨とともに稲妻が走った。
とどろく雷鳴におののき、ふとみると、いたはずの子猫がいない。
「手を貸せぇ~っ、貸さねば今ここで、取って喰うぞ」
頭の上から、割れるような大音声。
見上げれば、見るも恐ろしい巨大な龍が大きな口を開けていた。
ギラギラしたウロコ、雲を踏まえ、山をつかみ、
その身の丈は何キロあるのか、見当もつかぬ。
まさか!
その、まさかである。
煌々と光る龍の眼は、まごうことなき子猫のそれであった。
「今、ワシは島の改造をしておる。 来て働くのだ」
「はは~っ」
イヤも応もない。 取って喰われてはたまらん。
トドは、子猫を助けたことを後悔していた。
あの、にゃんこが龍だったとは...バケネコじゃ...
「あ、あの、どちらへお伺いすれば、よろしいんで」
「添付例島じゃ」
へ? テンプラ...? 改造?
龍はにやりと笑った。
「むふふ、実はの、わしも落天日記でアフィリエイトを始めたんじゃ。
よう分からんが、テンプレートなら簡単と聞いてな」
「へ...へい」
「ところが、配置はズレるわ、字の色もおかしくなるわ、
リンクなんぞ、さっぱりわからん。 くそー。
もう、我慢の限界じゃ~、 がおーっ! 」
「あ、あのー、それで...?」
「教えろっ!」
ガブッ!
龍はいきなり大きな口で、トドをくわえると、激しい雨の中、
さいはての添付例島に向かって、空高く舞い上がっていった。
あわれ、トドの運命や如何に?
解説: テンプレートってのは何じゃ?
第2章
決死のテンプレート
龍に噛みつかれ、雨の中でさらわれたトドはいったいどうなったのか。
さいはての添付例島とは、どんな島なのか?
龍のキバが、背中にくい込む。
すさまじい勢いの雨に顔を叩かれる。
痛くて目もろくに開けられず、どの当たりを飛んでいるのか、見当さえ付かぬ。
...いきなり放り出された。
「あたた、痛ってぇ~」
見回せば、草も木もない荒れ果てた海岸。
雨はすっかり上がり、浜は乾いている。
そして、目の前に龍がとぐろを巻いて待ちかまえていた。
「早速じゃが、これを見よ」
龍が指し示したのは、旧式のパソコンに映し出された、
作成途中の悲惨なホームページだった。
文字も写真もぐちゃぐちゃ、せっかくのテンプレートは
原形をとどめておらぬ。
なるほど、これでは、吼えたくもなる...。
そう、あれから今日で3日目。 龍にさらわれたトドは、
いつ食われるか、いつ食われるかとびくびくしながら、
ここ添付例島で、巨大龍の家庭教師をさせられているのであった。
「え~、ですからですね、ここのタグの指定が...」
「タグなんぞ、分からんちゅーとるだろーが、ボケ!」
「だったら、ソフトで写真の大きさを調整しないと...」
「そのソフトが言うことを聞かんのじゃ、くされ漁師め!」
自分の無知を棚に上げて、龍は脅しつけた。
どこにでも、こんな上司や客はいるものだが、ふつうは人間である。
こいつは違う。 さすがに喰われるのだけは、ごめんこうむりたい。
くされ漁師は必死にテンプレートの講義を続けた。
だが、重なる疲労から、めまいがして、思わずふらついたときに
ふところからコロッと落ちたものがある。
それを見た龍の反応を、トドは見逃さなかった。
「ははん、そうか。 だったらチャンスはある...」
第3章
漁師トドの逆襲
龍の眼が、キラーーン!
「ははーん、そうか。そうだったのか...」
くされ呼ばわりされた漁師は、急に落ち着いた。
トドはころがりおちた団子をしまうと、そばに生えていた草を1本耳にはさんで、
龍の方に向き直った。
「えー、HTMLというのはサンドイッチみたいなものでやして、
タグでテキスト文字を挟むことで機能いたしやすです。
このテンプレートはテーブルという、表組みで出来ておりやして
<table>と</table>で囲むことからスタートいたしやす。
でもって、この中に、それぞれの行を表す<tr>と</tr>で
囲まれた部分でごぜーやす。
で、そのまた中にある、<td>と</td>で挟んだヤツが、
列を作っている部分でやして、これがそれぞれのマスにあたりやす。
この中に、文字だの、画像の場所だのを書くことで表が完成するんでがんす」
龍は、小難しい説明など、まったく聞いていない。
トドの耳に挟んだ雑草に、完全に気を取られている。
「やっぱり...」
漁師はふところから、さっきしまった団子を取り出し、
龍の目の前で、右へ左へとみせびらかしてから、
ひょいっと、放り投げた。
またもや、キラーーン!
目の色を変えた龍は、なりふりかまわず団子に飛びついた。
ボフーンッ!
白煙とともに巨大な龍は、一気に縮んで、一尺ほどのサイズになった。
それでも、トカゲサイズのミニ龍は夢中で団子にむしゃぶりついている。
それに、なんだか様子もおかしい。
漁師は落ち着き払って、その首根っこをつまみ上げ、ポーンと放り投げた。
龍もさすがに、今度は正気に戻ったようである。
「なんのっ!」
くるくるくるっと空中で回転したかと思うと、コマネチ顔負けの
見事な着地を見せた。
「このクサレめ、何をするかぁ~っ」
「ほお、喰い殺すか? やってみれ、ホレホレ」
トドは耳に挟んでいた雑草をかざすと、穂先をしゃらしゃらと振った。
「うお! それよこせ、よこせ」
「やんないよーだ」
ここは、バカネコ村の北の海岸。 村から2キロと離れていない。
添付例島などとは、まっかなウソ。
どうやら、毒も切れたようで、幻覚もおさまってきた。
目の前で、しゃらしゃらと振り回すエノコロ草、別名ネコジャラシに
飛びついているのは、三日前、いや、ついさっき助けてやった子猫である。
「裏山のキノコをワシのみそ汁に混ぜるとは、こしゃくな。
マタタビ団子やネコジャラシに飛びつく龍がどこにおる!
キャット空中三回転なんちゅうワザは、ネコ族しか使い手はおらんわ」
「ふにゃーん、ニャンパラリしないとアタマぶつけるんだもん~。
ごめんにゃさい。 カツブシが欲しかったんにゃー。
それで、アフィリエイトで稼ごうかと...にゃん、ぐすん...」
「いじめっ子から助けてやったのに、ホントにネコは恩知らずじゃ」
「実は、子供たちがフライドチキンを持っていたので、もらおうとしたんにゃ。
この三日間、何も食べてにゃいんで...ぐすん」
そんなに腹が減っていたのか。
トドはなんだか、急に気の毒になった。
「いいか、にゃんこ。 ネコがホームページを作ったり、
ましてアフィリなんぞ出来るわけがあるまい。
ネコはネコらしく、ネズミでも探すんじゃ」
「でも、バカネコ講座はネコでも分かるって...」
「うっ...!」
ネコにやりこめられた漁師は、残り飯にカツブシを混ぜて
食べさせてやることにした。
これに味をしめた野良猫は、それからすっかりトドの家に居座ってしまい、
ついには、バーニャンと名付けられて飼い猫になったそうな。
ちゃんちゃん。 おしまい。
※この物語はフィクションです。