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G3 (歴) 【Christmas Eve!】
日常編 (歴) 【Christmas Eve!】
事務所から出ると、背後から「歴さん」と呼び止められた。振り返ると、同じように事務所から出て来た不破犬君さんが立っていた。
「不破さん! おはようございます」
今私たちがいる従業員通路は、入口に近いせいで、身震いしてしまうほど寒い。
今朝観たニュースを思い出す。気象予報士は、「名古屋は今年一番の冷え込みとなりそうです」と報じていたっけ。
寒さ対策の一環なのか、不破さんはユナイソンのロゴ入りジャンパーを羽織っている。
不破さんは「おはよう」と微笑み、おもむろに小さなメモ用紙を私に差し出した。
「歴さん。これ、事務所で落としませんでした?」
その赤い紙には見覚えがあった。そこに書かれた字にも。
「あっ。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「中……見ました?」
窺うように瞳を覗くと、不破さんは軽く噴き出して、「大丈夫、黙ってますから」と約束してくれた。
「それ、何かのオマジナイですか? 立ち話もなんだから、食堂で何か飲みません?」と不破さん。
「魅力的ですね! こう寒いと、温かい飲み物が恋しくて。30分ぐらいなら大丈夫ですよ。雪が積もってたから、念の為早く出て来た口で」
「歴さんも? 僕も同じです。それに、さっき事務所にいた凪さんもそんなことを言ってましたよ。やっぱり兄妹ですね」
「もぅ、からかわないで下さい」
「すみません」
クスクスと笑い続ける不破さんの横に並び、私たちは食堂へ向かった。
だだっ広い食堂は常に開放されている。自動販売機が連なる一角で、不破さんはホットはちみつ柚子を買い求めた。
「それ、美味しそうですね」
「実際美味しいですよ。僕好きなんですよね。柚子とかカリンとか」
不破さんは紙コップを一口啜りつつ、空いた方の手で再度、投入口に硬貨を入れる。
「はい、どうぞ」
「え? あの……」
「誘ったの、僕なんで。奢らせて下さい」
駄目押しとばかりににっこりと微笑まれてしまっては抗えない。素直に好意を受け取ることにした。
「ありがとうございます。ご馳走様です」
私も不破さんと同じものを選ぶ。排出されたての紙コップ容器を両手で掴み、手を温める。小さな幸せ1つ。
私たちは窓際のテーブル席に、向かい合う形で座った。「それでは早速」と不破さん。「その紙にまつわる話を聞かせて下さい」
ホットはちみつ柚子で舌を湿らせると、記憶を手繰り寄せるように言葉を紡いでいった。
「あれは12月24日のイブ。名古屋店にいた時の話です」
*
「千早さん。はい、これ」
婦人服売場のチーフである五十嵐さんは、事務所でコピーを取っている私を見るなり1枚の赤い紙を手渡してくれた。……のだけれど。
「何ですか?」
何も書かれていない、小さな紙切れ。『はい、これ』だけでは分からなかったので尋ね返してみると、
「店内のクリスマスコーナーに、特大ツリーが置いてあるだろう? この紙に願いごとを書いて、ツリーオーナメントとして吊るすんだ」
「まるで七夕みたいですね。従業員が吊るしてもいいんですか?」
「勿論。従業員からお客様にいたるまで、大勢の方に参加して貰ってるんだ。千早さんもぜひ、参加して」
説明を終えた五十嵐さんは、用事を終えたとあって、即退室してしまう。
何を書けばいいの?
思わず天を仰いでしまった私の視界に、麻生さんが「よぉ」とひょっこり顔を出して覗き込む。
勢いよく振り返ったせいで、首を捻ってしまった。その痛さに身悶えていると、麻生さんは私が持っている紙に気付いて「あぁ、それな」と笑った。
「嵐に渡されたのか? ちぃも何か書くといい」
「麻生さんは書きました?」
「俺と柾の分は、平塚に奪われたよ。あいつ、きっと1個も願い叶わねーぜ。がめつい奴は神様に嫌われるって、古来より相場が決まってるからな」
正否については分かりかねたので、曖昧に頷いておく。
「黒ペンだと目立たないからミルキーペンで書くといい。ツリーの傍に机とペンが置いてあるから行ってきな」
「でも、何を書けばいいのか……」
「一攫千金とか給料UPとか宝くじ当選とかさ。願いごとなんて、ごまんとあるだろ?」
麻生さんは、なかなか世俗的なことを言う。
「麻雀で負けたという話は本当だったんですね、麻生さん……」
「言うな。傷口が開く。ここで弁当奢らされたんだ」
「あそこでイーマン切りする馬鹿があるか。リーチ一発チンイツドラドラ親ッパネ。ご馳走様、麻生。あの時の特上海鮮丼は相当旨かった」
「柾……! こっちは大三元狙いだったんだ。俺の役満の邪魔すんじゃねぇ」
「目先の欲に目が眩む方が悪い」
「柾さん! おはようございます」
「おはよう、千早」
出勤してきたばかりの柾さんはロングコート姿のまま社員証を機械にかざしていた。
憮然とする麻生さんを余所に、柾さんは私に向かって「今からPOSルームに行こうとしてたんだ。一緒に行こうか」と促してくれた。
「あ、POSで思い出したんだが……。俺さっき、八女サンに500円せびられたぜ。あれ、何だったんだろうな?」
「芙蓉先輩に?」
「僕も入口で500円払った。他の社員にもカンパを募っていたようだったが」
「??」
芙蓉先輩ったら、何をしでかすつもりなんだろう。慌てて書類を掻き集めると、POSルームに戻った。
*
「いまいちケーキとクリスマスブーツの売り上げが悪いのよ」
開口一番、芙蓉先輩は据わった目で私を見つめたのだった。
今までの経験から、よくないことが起こるのは確実。本能に赴くまま回れ右をしたけれど、先輩の手が私の手首を掴む方が早かった。
「千早、これを着なさい」
差し出されたのは赤い服。……まさか。
「まさか……」
「そのまさかよ。2階のテナントで買ったパーティーグッズ。THEコスプレ嬢~サンタ編~。皆の血税で購入したものよ」
「血税!? 芙蓉先輩のポケットマネーですらなく!? ていうか、税を徴収してるんですか!?
あっ、従業員出入り口で麻生さんや柾さんから500円を徴収したのは、もしかしてこのためだったとか!?」
「本日のみユナイソン名古屋店は八女帝国占領下、私はその女王。だから私に従いなさい」
「なんの嫌がらせですかぁ!」
「いいから着るの! そしてお客様を集めてケーキとお酒とブーツを売りなさい!」
「私の仕事はどうなるんですか!? POSの仕事は!?」
「THE・困った時の潮頼み」
「また岐阜店からデータコピーさせて貰ってるしー!」
背後では、ちゃっかりというかなんというか、麻生さんと柾さんが『THEコスプレ嬢~サンタ編~』を広げてしげしげと見ている。
「この布面積はあり得ません! このミニスカはあり得ません!」
「売上の危機なのよ? 四の五の言わずに着なさい。いい? これはね、」
「「「上司命令」」」、「なのよ」「だ」「ね」。
三者の声が見事にハモり……。
30分後、店内にサンタクロースのコスプレをした女性社員の姿があった。つまり私だ。
浮いてる。絶対に浮いてる。
*
「い、いらっしゃいませー。新商品のワインはいかがですか? ケーキも宜しくお願いします」
1階、クリスマスコーナー。
他の社員たちが横目で通り過ぎていく中、どさくさに紛れて芙蓉先輩がスマホでサンタ・コスの私の写真を撮っている。
しかも音からするに連写だ。スマホの方は後で没収・消去させて貰うとして、問題はこの羞恥心。
「千早、笑顔!」
すかさず芙蓉先輩からのオーダーが入るものの、引き攣った笑顔しか作れない。
「薄手30デニール黒タイツのサンタコスチュームはエロいわね。グッジョブ千早! 分かってるじゃない!」
……この人、今日は何しに来たのだろう……。
「おー、サンタのねーちゃん美人だなー。そのワイン1本くれ」
「んまっ★ ありがとうございますぅ!」
お客様のご要望に対し、満々の微笑みを浮かべながら商品を渡す芙蓉先輩。
「やったじゃない、千早! この調子でどんどん売るわよー!」
腕捲りをする芙蓉先輩に、もう溜息しか出て来なかった。
*
当初は恥ずかしがっていたサンタのコスプレ店員役も、商品が売れれば売れるほど楽しくなっていた。
様子を見守っていた店長は芙蓉先輩にもサンタの格好をして売るように依頼し、閉店間際には他の女子社員数名もコスプレ店員になっていた。
ケーキは見事完売。ブーツは若干売れ残りはしたものの、まだ25日が残っているし、そこで捌けばいいと思えば少しは気が楽になる。
レジを閉める作業をしていると、芙蓉先輩が声を掛けて来てくれた。
「お疲れー、千早」
「お疲れ様でした、芙蓉先輩」
お互い労うように、手を叩き合う。
「今日はどうだった?」
「始めは抵抗ありましたけど……存外楽しかったです。やっぱり、勧めた物が売れるというのは嬉しいですね」
「それが、私たち営業種の力の源よね」
「はい」
「でもさすがに慣れないことやったから疲れたわ。世間ではイブなのよねー。なんだか信じられない。
……そうだ。千早、ツリーに吊るすための紙は書いたの?」
「まだです。ポケットに入れたままで」
「せっかくだから、今、何か書いて吊るすといいわ。もうお客様もお見えにならないし」
天井スレスレに立つ3メートルのモミの木には、既に様々な願い事が書かれた赤い紙と緑の紙が隙間もないほど吊るされている。
私は少しの間逡巡すると、ミルキーペンで願い事を書き、葉に括り付けた。
「何て書いたの?」
「秘密です。芙蓉先輩こそ」
「私? 勿論ヒミツよ」
「じゃあ、お相子です」
「叶うといいわね、お互い」
「はい!」
ハチャメチャな上司に、メチャクチャなイレギュラーワーク。
散々振り回されても結局楽しめてしまうのは、芙蓉先輩の為せる業に違いない。
*
「『もっともっと色んなことを楽しめますように、千早』。……そういう意味だったんですね」
話を聞き終えた不破さんは、「相変わらず強引なんだから、あの人」と苦笑しながら最後の一口を呷る。
「やるからには楽しくやりたいなって、あの時そう思ったんです。芙蓉先輩を見てたら、なんだか楽しまないと損な気がして」
「それは言えてる」
「こんな話を長々とごめんなさい。お陰で時間潰しになったとは言え……」
「とんでもない。でも僕も歴さんのサンタ・コスを見たかったな。八女先輩に頼んでみようかな」
「だ、駄目です! 勘弁して下さい」
「あはは」
始業時間の5分前。私と不破さんは食堂から出ると、それぞれの持ち場へ帰るため、飲み物のお礼を述べてから別れた。
道すがら柾さんと麻生さんに出会い、出勤の挨拶と笑顔を交わす。POSルームには、透子先輩と芙蓉先輩がいた。
「おはようございます」
「おはよう、千早」
「千早さん、聞いてよ! 八女先輩ってば、私と千早さんの2人でホワイトデーイベントのキャンギャルをしろって言うのよ!?」
詰め寄る透子先輩をなだめつつ、実はホワイトデーイベントのキャンペーンギャルという任務も楽しいような気がしていたり。
世の中には、ごくごく小さく些細な出来事がたくさん転がっていて、それを楽しめたら素敵だなって、私は思うのだった。
2009.12.24
2020.02.20 改稿
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