おはなし  その9 





お見合いしてから、歩美が頻繁に、高橋家へ出入りするようになった。
涼介の母は、もう自分の娘になったみたいに、喜んでいる。
涼介は、おもしろくない。

歩美は、お料理・裁縫・生け花・お茶・書道・ピアノ・乗馬ができる。
小さな時から、どこにお嫁に出してもいいようにと、両親からしつけられてきた。
高校を卒業後、医療事務の専門学校へ行き、現在自分の両親が経営する病院の
医療事務をやっている。
もちろん、パソコンも使える。

もしかしたら、涼介のパソコンにも、手を出すかもしれない。
おとなしい歩美は、そんなことはしないと思うが。
万が一のことを考えて、秀香からのメールは、全部削除。
もうメール交換も終わりにしようと決めた。
もちろん、携帯も。

秀香とのつながりがあるものは、すべて消去しなければ・・・
涼介は、部屋の中を片付け始めた。
そして、車のメカニックの松本に、ある事を頼んだ。

 涼介「俺の名前で送るなよ」

 松本「それくらい、わかってますよ。だから、俺を呼んだでしょ」

 涼介「何かの不都合があって、物が送り返されたら、困るからな。
    それに、京一が怒ってまた送り返して来る可能性もある」

京一は、秀香の兄。
秀香の妊娠に、対して激怒しているであろう。

 松本「送るんだったら、俺、そのまま軽トラに積んで、秀香さんのとこまで
    行ってもいいですよ。
    秀香さんに会って、どんな様子か、涼介さんに報告できるし」

 涼介「気持ちはありがたいが、送ってくれ」

 松本「わかりました。 
    アルバムをそのまま、送るんですか? 本やシャツまで。ネクタイも」

松本は、涼介に言われるまま、ダンボールの中に入れていた。
他には、どこかのお土産もあった。

 松本「ネクタイまで送るんですか? 言わなきゃ、秀香さんからのプレゼント
    だってわかりませんよ」

 涼介「ネクタイのプレゼントは‘あなたにくびったけ‘と言う意味が
    あるらしい」

 松本「それだけ、秀香さんに愛されていたんですね」

 涼介「俺は、その分、彼女を愛していたか、わからない・・・・・」

 松本「涼介さん・・・」

秀香からのプレゼントは、意外にも多かった。

 松本「これで全部ですか?」

 涼介「いや。まだこれがあった」

涼介は、自分の左薬指から、指輪をはずした。

 涼介「20歳のクリスマスの時に、2人で買ったんだ。
    結局、秀香に指輪をプレゼントしたのは、これが最初で最後だった」

 松本「お預かりします」

松本は、軽トラに乗せて行ってしまった。

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 涼介の母「ただいま。ああ、楽しかったわ」

 涼介「おかえり。 随分買い込んだこと」

 涼介の母「息子は、大きくなれば、親と一緒に歩かないけど、やっぱり女の子は
      いいわ~」

 歩美「ただいま。 
    たくさん涼介さんのお母様に、お洋服を買っていただいたわ」

 涼介「それは、よかった」

 涼介の母「ねえ、夕ご飯は食べた?」

 涼介「食べたよ」

 涼介の母「私たちも済ませてきたのよ。 
      途中でお友達と会ってね。今夜一緒に飲まないかと、誘われたのよ。
      お母さん、飲むから、そこで泊めてもらうわ」

涼介の母は、荷物を置いて、着替えを始めた。
着替えが終わると、涼介だけ、自分の部屋に呼んだ。

 涼介の母「歩美さんとは、どうなっているのよ」

 涼介「どうって?」

 涼介の母「仲良くやっているの? パソコンとにらめっこばかりで、歩美さんの
      顔もろくに見てあげてないんじゃないの? 
      ちゃんと、構ってあげてるの?
      おとなしい子だけど、いい子よ」

 涼介「それは、歩美が母さんに言ったことですか?」

 涼介の母「今すぐ、結婚とは言わないけど、仲良くしなきゃいけないわ」

 涼介「・・・・・・・・・」

 涼介の母「じゃ、行って来るわ。 仲良くしなさいね」

涼介の母は、出かけてしまった。
2人っきり。
涼介は、自分の部屋に戻った。
取り残された歩美。

トントントン。

 涼介「どうぞ」

 歩美「入ってもいいかしら?」

 涼介「まだ、帰ってなかったんだ」

歩美は、ソファに座った。

 涼介「言いたい事があるなら、自分の口で言った方がいい。
    母さんは、伝書バドじゃないんだから」

歩美は、うなづいた。

 涼介「用事がないなら、家まで送ろう」

 歩美「私、涼介さんに見捨てられたら、困るわ。
    あなたの心の中には、私より他に誰かいらっしゃるの?」

涼介は、ドキッとした。

 歩美「その方のことが、忘れられないの?」

涼介は、自分の気持ちを、見透かされているような気がした。 

 涼介「そんなことはない」

 歩美「私、一生懸命がんばります。悪いことがあったら、直します」

 涼介「じゃ、母さんを伝書バトに使わず、自分の口で言いたい事を言って
    ほしい」

 歩美「はい」

 涼介「家まで送ろう」

涼介は、歩美と2人きりになるのが怖かった。
一緒にいたくない。

涼介は、立ち上がった。
歩美が、涼介のそばに来た。

 歩美「今夜。今夜、ここへ泊まってはいけませんか?」

歩美の意外な発言。
歩美は、勇気を振り絞って言った。

親父は、学会。母さんは、飲み会。
たまには、あてになるかもしれない啓介も、どこへ行ったか、わからない。

 歩美「啓介さん。彼女と一緒みたいですね」

やばい!
啓介が恭子と一緒にいて、その日のうちに帰って来たことなんて、めったにない。
やはり、啓介は、あてにならない・・・

 歩美「やっぱり、私の事がお嫌いですか?」

 涼介「そんなことはないけど」

歩美が、涼介の胸に飛び込んだ。
意外な行動だ。

 歩美「少しずつでいいから、私の事を好きになって下さい」

涼介は、歩美を抱き締めた。
何か、いじらしい。
あまりにも、歩美を嫌い過ぎると、返って変に思われる。
秀香に執着していると、歩美に見透かされてしまう。

歩美は、顔を上げて、目を閉じた。

許せ。秀香。
おまえを守るために、嘘を貫くことも必要かもしれない。

涼介は、歩美が求めるまま、キスをした。
歩美にとって、初めての経験であった。

 歩美「ありがとう」

 涼介「大切にするよ」

心にもない涼介のセリフ。
歩美に秀香の存在を、知られては困る。
愛しい秀香のことが、すぐに忘れられるようなら、苦労はしない。
秀香には、おなかの子がいるけど、歩美には俺しかいない。
今夜、どうしよう。

 歩美「シャワーを、浴びて来た方がいいかしら?」

 涼介「そうだな・・・・」

今、ここで歩美を抱くわけにはいかない。
涼介は、客間にお布団をひいて、歩美がシャワーから、戻る前に寝てしまった。
得意のどこでも、寝れる。速攻で寝れる早業。

歩美が、シャワーから出てきた。
涼介は部屋にいない。
客間で、寝ている涼介を発見。

 歩美「どうして、客間に寝ているのかしら?」

クスッ。
歩美は、そーと涼介のお布団に入った。


朝、歩美が目を覚ますと、涼介の姿はなかった。
自分の部屋で、テレビを見ていた。

 涼介「おはよう」

 歩美「おはようございます」

 涼介「朝飯、作ってもらえるとありがたいなあ」

 歩美「わかりました。キッチンお借りします」

歩美は、キッチンへ行った。
涼介と歩美しかいない、高橋家。
歩美は、声を出さずに泣いた。

多分、涼介は、私を見てない・・・・
もし、結婚しても新婚生活は、こんな感じだと思った。
でも、涼介に捨てられたら困る。
逆に言うならば、涼介は私と結婚しなければ、高橋クリニックは危機に陥る。
助けてあげなければ。
不安になる歩美。

一方、涼介は。
親のひいたレールの上を、親の思うように走っている。
脱線でもすればいいのだが・・・

 おはなし その9完

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 あとがき

 その9は、恭子のお誕生日編を考えていた。
 でも、そろそろ、啓介と恭子をつついてやろうと思った。
 啓介と恭子の恋は、今頂上だ。
 それから先が、難しい。

 意外にも、涼介と秀香のその後を気にするお方もたくさんいる。
 そんなわけで、今回は、涼介をメインに書いたが、これまた難しいのよ。

 一通り、ストーリーは頭の中で組み立てていたけど、ラストをどうしよう    か・・・と悩んだ。
 いまいち、納得のいかない終わり方だ。
 その9まで、書き上げてきて、1番悩んだおはなしだ。

 涼介と秀香の思い出を、中に入れようと思ったけどやめた。
 今回は、意外と純なラブストーリーに、仕上げました。

 その10は、うまくいっている啓介×恭子をちょっとつつきましょう。(笑)

 ここまで読んで下さって、ありがとうございました。


 8月5日

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