おはなし  執着 


  涼介の従妹が、出てきます。

  4話分つながっているので、かなり長いです。(34ページ分)
  ちなみに その13は12ページ分。
        嫉妬~は26ページ分。

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    執着


涼介には、高校3年のかわいい従妹がいる。
医大生の涼介は、時々この従妹に、勉強を教えていた。

ある日曜日。
涼介の従妹の緒美(つぐみ)は、高橋家へ来た。
涼介に勉強を、教えてもらう約束をしていたのだ。
玄関のインターホンを鳴らしても、誰も出て来ない。

ドアは、開いてる。

 緒美「こんにちは」

あれ?
もう1度。

 緒美「こんにちは」

誰もいないのかな?
もう1度、インターホンを鳴らした。

 緒美「こんにちは」

 歩美「は~い」

あれ?
女の人の声がする。
涼介の母親の声ではない。
おかしい。

緒美の前に現れたのは、見た事のない女性。

 緒美「あの~誰ですか?」

 歩美「え、あなたの方こそ、どなたですか?
    私、留守番をしているのですが」

 緒美「涼兄は?」

 歩美「涼介さんですか? 涼介さんなら、出掛けています」

 緒美「え~~~~~。今日は、勉強を見てもらう約束をしているのよ」

 歩美「いつ帰ってくるか、わからないわ」

緒美は、急いで涼介の携帯に電話した。
出ない・・・

 緒美「涼兄。私との約束を忘れているんだ。
    涼兄が、帰って来るまで、涼兄の部屋で待ってる」

 歩美「そうですか」

緒美は、まだ涼介と歩美の関係を知らない。

 緒美「おじ様とおば様は? 啓兄は?」

 歩美「2人ともお出かけで、夜まで帰って来ません。
    啓介さんは、デートみたいです」

 緒美「啓兄って、彼女がいるんだ」

緒美は、涼介の部屋で、涼介の帰りを待つ事にした。
歩美は、丁寧にお茶を持って来てくれた。

 歩美「どうぞ」

 緒美「ありがとう」

 歩美「あの~涼介さんは、あなたの家庭教師ですか?」

 緒美「まあ、そんなものね」

この人、留守番って、涼兄とどういう関係なのかな?
それとも、おじ様かおば様の知り合いなのかな?

歩美は、涼介の本棚から、本を出した。

 歩美「ここで、読んでいいかしら?」

 緒美「あっ、はい」

緒美は、勉強をやり始めた。

この人、涼兄の本棚を、勝手に開けたぞ。
まるで、自分の本棚のように。
ここで、読書って事は、涼兄の知り合い? 医大のお友達?
でも、医大生って感じじゃないなあ。
お茶も入れてくれたし、ただの留守番じゃないわ。
どういう関係なんだろう。
まさか、涼兄の恋人?

緒美は、従兄の涼介の事が好きだった。
小さな頃から、本当の兄の様に慕ってきた。

歩美は、読書。
でも、この謎の来客が気になる。

<涼兄>って呼んでいたけど、この方、どういう関係なのかしら?
家庭教師って、先生が生徒の家へ行くものでしょ。
恋人ってことは、ないでしょう。
この方、まだ高校生みたいだし。

 緒美「あの~」

 歩美「はい」

 緒美「涼兄と同じ医大生ですか?」

 歩美「いえ、ちがいます」

会話は、そこで途切れた。
同じ医大生なら、勉強を見てもらおうと思っていた緒美。
医大のお友達でないとしたら・・・
緒美は、がんばって勉強をしている。

歩美が1冊読み終わったらしく、本を元に戻して本棚を見ている。

 緒美「本が好きなのね」

 歩美「涼介さんを待っている間、よく読むのよ。 
    涼介さん。鉄砲玉みたいに出掛けたら、なかなか帰って来ないから」

 緒美「いつも、待っている事が多いの?」

 歩美「一緒に行く事もあるのよ」

やっぱり、涼兄の恋人?
でも待っている事が多いって、どういうこと?
普通は、一緒に行くもんでしょ。
留守番なんてさせないわ。

 緒美「涼兄。もしかしたら、恋人と会っているかも」

緒美は、ちょっと意地悪したくなった。

恋人と会っているかも・・・と言う事は、この方は恋人じゃないのね。
馴れ馴れしいけど、どういう関係なのかしら?

 緒美「涼兄の恋人って、きっと素敵な人なんだろうなあ。
    どんな人かな~」

 歩美「涼介さん。 恋人がいるんですか?
    私とお見合いしたから、いるわけないわ」

お見合い? この人、お見合い相手?
何で涼兄は、お見合いしたの?

 緒美「お見合い? 涼兄、まだ医大生なのに」

お見合いしたってことは、将来この人と結婚するの?

緒美は、ショックだった。


お昼になった。
涼介の携帯は、相変わらず、つながらない。

 歩美「お昼にしましょうか?」

 緒美「いいえ、帰ります」

私の好きな従兄の涼兄・・・
この人と本当に結婚してしまうの?

緒美は、帰って行った。

あっ。今の方、お名前を伺うのを忘れてしまったわ。
一体、誰だったのかしら。

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20分くらいして、涼介が帰って来た。

 涼介「ただいま」

 歩美「おかえりなさい」

 涼介「腹、減った」

 歩美「何か作ります」

 涼介「頼むよ」

歩美は、キッチンで、昼食の支度をしている。
緒美のことは、言わなかった。
涼介は、緒美との約束を、すっかり忘れている。

 涼介「昼飯、食ったら、どこかへ行こうか?」

午前中に、歩美を1人にして出掛けた償いか?

 歩美「うれしいわ」


昼食を済ませた2人は、ドライブへ出掛けた。
2人とも、緒美の事を忘れている。

緒美は、昼食を食べ終わって、もう1度涼介のところに電話。
つながらない。
どうして?
高橋家も、留守電になっている。

涼兄、どうしたのかな?
本当に恋人と会っているのかな?

心配になった緒美は、啓介の携帯に電話した。
つながらないから心配だ・・・と。
啓介は、歩美の携帯に電話した。

涼介と歩美は、ドライブ中。
歩美の携帯がなった。

 歩美「もしもし」

 啓介「啓介だけど、アニキと一緒じゃないのか?」

 歩美「涼介さん。隣にいるけど、運転中です」

 啓介「じゃ、緒美のところに電話して とアニキに伝えて」

 歩美「はい、わかりました」

電話は切れた。

 涼介「俺に?」

 歩美「啓介さんが<緒美さんに電話して下さい>って」

ここでようやく、涼介は、今日緒美に勉強を教える約束だったと思い出した。
車を他の車の邪魔に、ならないところに止めた。

涼介の携帯は、電池切れだったため、自分の部屋に置きっぱなしだった。
忘れていた・・・

緒美の携帯の番号が、わからないじゃないか。
もしかしたら、自宅にいるかもしれない。
涼介は、歩美の携帯を借りて、緒美の自宅へ電話した。

緒美は、家にいた。

 涼介「もしもし、俺だけど」

 緒美「涼兄! 何してるの? どこにいるの?
    今日、約束したでしょ」

 涼介「ごめん。忘れてた」

 緒美「もうーー。今からでいいから、家に来て」

 涼介「今は、ダメなんだ」

午前中、歩美を残して出掛けてしまったし、ここで緒美のとこへ行ったら、歩美がかわいそうじゃないか。

 緒美「どうして? 
    もしかしたら、留守番していたお見合い相手と一緒にいるの?」

 涼介「そうだけど」

 緒美「私より、そのお見合い相手の方が、大事だって言うの?」

 涼介「また日を改めて、今度、勉強を見てやるから」

 緒美「ダメ! もうすぐテストなのよ。私、受験生だし」

緒美は、わがままを言った。

 緒美「約束を忘れた涼兄が、悪いでしょ。今から家に来て」

涼介は、困ってしまった。

 涼介「・・・・わかった。今から行くから」

涼介は、緒美に甘いのだ。
涼介は、携帯を切って、歩美に返した。

 涼介「ありがとう。
    悪いけど、用事ができたから、家まで送るよ」

 歩美「勉強を教えに、行くのですか?」

 涼介「ああ。すっかり、忘れていた。
    緒美が、家に来たんだってな。どうして言ってくれなかった?」

 緒美「ごめんなさい。
    私より、その方との約束の方が、大切なのですか?」

 涼介「歩美とは、いつでも会えるじゃないか。
    また今度、ドライブへ行こう」

 歩美「私より、その方が好きなんですか?」

歩美は、涼介と緒美が従兄妹だと、まだ知らない。

 涼介「何を勘違いしているんだ? 
    緒美は、俺の従妹だ」

 歩美「従兄妹?」

 涼介「そうだ。 俺と緒美は従兄妹どおしだ」

歩美は、ほっとした。

涼介は、歩美を家まで送った。

 涼介「ごめん。 このうめあわせは、必ずするから」

 歩美「はい。楽しみにしてます」

緒美のやつ。かなり怒っていたなあ。
涼介は、ケーキを買って、緒美の家へ向かった。

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緒美の家。
ケーキを食べて、緒美の機嫌が直ったと思った涼介。
それは、大間違え。

 緒美「涼兄! お見合いした人と結婚するの?」

 涼介「今すぐは、結婚しないよ」

 緒美「いつかいつか、あの人と結婚するの?
    あの人が、涼兄のお嫁さんになるの?
    絶対絶対、似合わないよ。 涼兄は、ああいう人が、好みなの?」

 涼介「いつか、結婚しなきゃ、いけない時が来るんだろうな」

 緒美「どうして? どうして?」

 涼介「高橋家には、おまえの知らない事があるんだ」

 緒美「何々、教えてよ」

 涼介「おまえも大人になれば、イヤでもわかるさ」

 緒美「また、子供扱いして!」

 涼介「だって、おまえ、まだ20歳前だろ」

 緒美「あの人とやっぱり、結婚するの? あの人の事好きなの?」

 涼介「さあ、ケーキも食べ終わったし、勉強をやろう」

 緒美「ダメ。涼兄は、あの人の事好きなの?」

 涼介「もうすぐ、テストだろ」

涼介は、この話題から、離れたかった。

 緒美「・・・・私と涼兄。従兄妹じゃなかったら、よかった」

 涼介「どうして? 
    従兄妹じゃなかったら、会ってなかったかもしれないぞ」

 緒美「従妹じゃなくて、恋人として会ってたら、よかった」

緒美は、涼介の事が好きだった。
涼介も、緒美の態度を見て、緒美の気持ちはわかっていた。

 涼介「それは、残念だな。
    でも、おまえは、俺の恋愛の対象にはならないな」

 緒美「ほら、また、子供扱いして」

涼介は、緒美を抱きしめた。

 涼介「緒美の事は、大切に思っているよ。
    本当の妹のように、大切に思っている」

緒美は、涼介と従兄妹どうしでなかった方が、よかったと思った。
従兄妹どうしでなかったら、好きとはっきり言えるのに。

 涼介「さあ、勉強を始めようか」


涼兄は、本当にあの人と結婚してしまうの?
そしたら、涼兄は、どんどん私から離れて行ってしまう。

緒美は、この時、秀香の存在を知らなかった。

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時は、流れて・・・・
緒美は、希望の大学に合格した。

ある日曜日。
緒美は、本屋で立ち読みをしていた。
中里も、車の本を立ち読みしていた。
緒美と中里は、面識がない。
2人とも、別々の本を読み終わって、どれにしようか迷っていた。
<これにしよう>
2人は、同じ本を取ろうとした。

中里の手が、緒美の手に触った。

 中里「あっ。すいません」

 緒美「ごめんなさい。 あっ、お先にどうぞ」

 中里「いえ、先にどうぞ」

中里は、ちがう本を読んだ。
緒美は、先にその本を読むことになった。


 緒美「読み終わったので、どうぞ」

 中里「ありがとう」

の一言でいいのに

 中里「車が好きなんだね」

と初めて会った緒美に、声をかけてしまった。

 緒美「うん。免許取ったばかりだけど」

緒美が、にこっと笑った。

かわいい・・・
と、ここで終わればいいのに

 中里「もし、お暇なら、どこかでお茶でもしませんか?
    車の話でも、しませんか?」

 緒美「ナンパですか?」

 中里「ナンパって、言うか・・・」

中里は、下を向いてしまった。

初めて、ナンパされた緒美は<これがナンパってやつか>と思った。

 緒美「本屋さんで、ナンパってあるんだね。
    お茶は、しないけど、あなたの車だけでも見せてもらおうかな」


駐車場。

 緒美「わあ~かっこいい」

 中里「乗せてやろうか?」

 緒美「それって、ナンパ?」

 中里「・・・・・・・」

 緒美「かっこいいなあ。 でも、涼兄の車には負けるよなあ」

 中里「え? 涼兄?」

 緒美「うん。 もう引退しちゃったけど、すごく早い走り屋だったのよ」

涼介は、医大を卒業したので引退した。

涼兄って、高橋涼介のことか?
涼兄って、こいつは、高橋兄弟の妹?
あの2人に妹がいたのか?
よりによって、俺はとんでもない女を、ナンパしてしまった。

中里は、涼介に会った事がある。
もちろん、その事は緒美は知らない。

 緒美「涼兄。どうしているかな。 今から、会いに行こうかな」

 中里「そうか。 会いに行けば、いいじゃないか」

あれ? 妹じゃないのか?
高橋兄弟に妹がいるって、聞いた事ないもんなあ。

 緒美「でも、きっと、あの人がいるだろうなあ」

 中里「あの人?」

 緒美「うん。 涼兄とお見合いした人。
    よく、涼兄のところに来るのよ」

 中里「お見合い~?」

あの涼介が、お見合いだと?
あいつ、彼女がいたんじゃないか。
とびっきりの美人が。

中里は、何回か、涼介と秀香が一緒にいるところを目撃していた。
もちろん、涼介と秀香が、別れた事は知らない。

 緒美「私。あの人、好きじゃない。
    涼兄は、本当にあの人と結婚するのかな・・・
    あっ。ごめんね。 初めて会った人にこんな話。
    しかも、名前も知らないのに」

 中里「俺は、中里って言うんだ」

中里は<緒美が涼介に恋をしているんだな~>と思った。

 緒美「私は、緒美よ」

 中里「その涼兄って、とこへ行くなら、乗っけて行くけど」

 緒美「あー。やっぱり、ナンパだ」

 中里「俺、帰ろうかな・・・」

 緒美「中里さんは、好きじゃない人と結婚できる?」

 中里「そ、そんな事言われても、俺、彼女もいないし」

 緒美「結婚って、好きな人とするよね?
    涼兄は、どうしてあの人と・・・・」

泣きそうな顔の緒美。

よっぽど、涼介の事を好きなんだろうなあ。

 中里「緒美ちゃん。 自分の気持ちを伝えた方が、いいんじゃないか。
    乗っけて行ってやるよ」

涼介め。こんなかわいい緒美ちゃんを、泣かすなんて、男として許せない。

 緒美「ナンパしてる」

 中里「ナンパとか、そんなんじゃなくて・・・俺、やっぱり帰る」

中里は、緒美を駐車場に置いて、帰ってしまった。
中里は、緒美と涼介が、従兄妹だと知らない。


緒美は、涼介の携帯に電話した。

 緒美「もしもし、涼兄?」

 涼介「緒美か。どうした?」

 緒美「今、家の近くの本屋にいるの。お仕事お休みでしょ?
    今から、会えないかな?」

 涼介「今日は、ダメだ」

 緒美「今、どこにいるの? 忙しいの? 歩美さんと一緒にいるの?」

 涼介「そうだけど」

 緒美「私より、歩美さんの方が好きなの?」

 涼介「また、その話になる」

 緒美「今まで、忙しくても、私と会ってくれたじゃない。
    それなのに、お見合いしたら、歩美さんとばかり会って、ちっとも
    私と会ってくれなくなったじゃないの」

また、緒美のわがままが始まった。

 涼介「とにかく、今日中にやらなきゃならない事があるから、もう切るぞ」

 緒美「あっ。もしもし・・・」

緒美は、一方的に電話を切られてしまった。
おちこむ緒美。

そこへ、心配になって戻って来た中里に、また声をかけられた。

 中里「まだ、いたのか」

 緒美「ナンパの中里さん。 お茶しましょう」

 中里「ああ、いいけど」

緒美は、中里の車に乗った。

 緒美「すぐそこの、ファミレスでいいよ」

何か、しょんぼりとしている緒美。

どうしたんだろう。
まだ、涼介の事にこだわっているのか。
涼介は、恋人を振って、お見合いした上に緒美ちゃんまで泣かせて、なんて奴だ。

勝手に推測している中里。


中里は、ファミレスで、緒美が涼介を、好きだと言う気持ちを聞いた。
話の流れから、2人が従兄妹どおしだと、言う事がわかった。

ナンパは、成功したけど、あの涼介の従妹に手を出すわけにはいかない。

中里は、黙って緒美の話を聞いていた。
緒美は、言いたい事を、中里に全部言ってすっきりした。

 緒美「ごめんね。 私ばかりしゃべって。聞いてくれてありがとう」

 中里「別に、構わないぜ」

 緒美「中里さんって、優しいのね。うち、ここから近いから歩いて帰るね。
    ありがとう」

緒美は、中里とファミレスの前で別れた。


大丈夫かな。緒美ちゃん。
何も涼介に、こだわらなくても、男は星の数ほどいるさ。
きっと、緒美ちゃんを好きになってくれる男もいるし、
緒美ちゃんの好みの男も、現れると思うぜ。

緒美ちゃん。若いんだから、たくさん恋をするといい。

中里は、何か兄貴になった気分だった。

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私の好きな従兄の涼兄。
でも、涼兄は、いつか歩美さんと結婚してしまう。
私から、どんどん離れて行ってしまう。
私の事なんか、忘れてしまうんだわ。 きっと。

緒美は、秀香の存在を知らない。


 涼介「大学にも、男はいるだろう。
    1人位、緒美の事を好きだと言ってくれる男は、いないのか?」

緒美の気持ちを知りながら、意地悪な事を言う。
そればかりか、

 涼介「俺は、歩美の事が好きだ」

と、嘘をつく。
こんな簡単な嘘なら、緒美でさえわかる。

 涼介「俺と歩美は、1泊で旅行に行く仲だ」

とまで言う。
涼介の嘘は、バレバレだ。
(これは、もしかしたら、本当かもしれない。 行くだけの仲なら)

涼介の母親まで

 「歩美さんは、涼介のお嫁さんになるのだから、仲良くしてね」

と言う。

イヤだよー。涼兄のお嫁さんなんて、絶対認めないよ。

時々、高橋家へ行っても、涼介の母親は姑の顔、歩美は嫁の顔をしている。

ちょっと、待ってよ。
まだ、涼兄は、結婚したわけじゃないでしょ。

 涼介「未来の姑と嫁が、仲良くやっているんだから、いいじゃないか」

どうして、歩美さんと結婚しなきゃいけないか、新年会でわかったけど、
納得いかない。
どうして、涼兄が、犠牲にならなきゃいけないの?
みんな、涼兄に、すべてがかかっているみたいな言い方して。
周りは、この2人を認めるの?
2人の結婚に、賛成しているの?
私は、反対よー。

 涼介「まだまだ、子供だな」

と、子供扱いされ

 歩美「がんばります。よろしくお願いします」

と、言われた。

いやだよー。この結婚は、反対よ。
誰か、反対派の私の味方してよ。

東京にいる啓兄も<しかたないことさ>と、あきらめた言い方。
啓介は、兄・涼介の気持ちが痛いほどわかる。

啓介の奥さんも<私も認めたくないけど>と。
1人、私の味方がいたと喜んでいたら
<お義兄さんと歩美さんが、もし結婚しなかったら、どうなるかわかる?>と
言った。
恭子も涼介の気持ちが、痛いほどわかる。

啓介も恭子も、けっして、秀香の事を口に出さない。

涼兄と歩美さんが、結婚しなかったら・・・
どうなるか、わかるわよ。もう子供じゃないから。

だったら、2人が結婚しなくて、済む方法を考えなきゃ。
難しい・・・・
うーん。 結婚するしか、方法はないのかしら?
涼兄。私の好きな涼兄。


土曜日の夜。
緒美は、高橋家へ行った。

よし、2人の邪魔をしてやろう。
そうだ! 歩美さんが、涼兄を嫌いになればいいんだ。

案の定、2人は、涼介の部屋にいた。
涼介は、パソコン。
歩美は、雑誌を読んでいた。

何だ?この雰囲気は? 
これが、フィアンセどうしの夜か?

 緒美「こんばんは」

 歩美「こんばんは。 緒美ちゃんが、来てくれてうれしいわ」

 涼介「ちょうどいい。 歩美の遊び相手が来た」

私は、涼兄のところへ来たのよ。
わざわざ、歩美さんに会いに来たわけじゃないのよ。

緒美は、歩美に涼介の短所を言いまくった。
そうすれば、歩美が涼介の事を嫌いになって<私。涼介さんと結婚しません>
と言うだろう。
緒美は、この言葉を待っている。

でも、

 歩美「それは、知ってます」

 歩美「それは、短所とは言わないでしょう」

と言われてしまった。
その上、

 歩美「涼介さんの短所も含めて、好きになりました」

とまで、言われてしまった。

逆にやられた。 この作戦はダメだ。
他の作戦を、考えなきゃ。

 涼介「緒美の短所を含めて、好きになってくれる男が、今にか現れるさ」

 歩美「緒美ちゃん。かわいいから、すぐに彼氏ができると思うわ」

2人とも、意地悪だあ。
涼兄なんか、私の気持ちを知っているくせに。

 緒美「歩美さん。無理してない?
    涼兄と結婚したら、あまり相手にされないよ。
    後悔するよ。 涼兄のどこがいいの?」

 歩美「緒美ちゃんは、私達の結婚に反対なの?」

歩美が、少し哀しい顔をした。

 涼介「歩美は、おまえとちがって、繊細なんだからいじめるなよ」

いじめられているのは、私の方よ。
涼兄は、もしかしたら、私より歩美さんの味方なの?

 涼介「緒美は、俺達を祝福してくれないのか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘つき。
それは、本心なの? 涼兄。
歩美さんの手前、そう言ってるだけ?
哀しくなる。
どうあがいても、ダメなのね。

 緒美「私。もう帰る」

緒美は、部屋から出て行った。

緒美。俺は、おまえを傷つけるつもりはない。
頼むから、俺の気持ちをわかってくれ。

 **********************************

次の日の夕方。
涼介は、歩美とのデートを早く切り上げて、緒美の家へ行った。

 涼介「こんにちは。 わがままお姫様」

 緒美「何しに来たのよ。 歩美さんは?」

 涼介「家へ送って来た。
    ・・・・・・前にも言ったけど、緒美の事は、大切に思っているよ。
    それは、恋愛の対象じゃなくて、妹として」

 緒美「うん。  涼兄が、どんどん遠くに行っちゃうよ」

 涼介「歩美に遠慮しないで、いつでも家に遊びに来るといい」

 緒美「ありがとう」

 涼介「俺は、おまえに彼氏ができるまで、結婚はしないから、安心しろ」

 緒美「本当に?」

 涼介「ああ。約束するよ」

 緒美「でも・・・ずーと彼氏ができなかったら、どうするの?
    そしたら、涼兄も結婚しない?」

 涼介「30くらいまでは、待っているから。俺よりいい男を見つけろよ」

 緒美「涼兄より、いい男なんていないよ」

涼介は、緒美を抱きしめた。

 涼介「俺達は、従兄妹どうしだ。この先も、ずっと従兄妹どおしだ。
    それ以上でも以下でもない」


それにそう簡単には、秀香の事が忘れられない。

緒美は、俺の気持ちを全くわかってない。
それが、緒美と秀香の違いだ。
秀香は、俺の気持ちが痛いほど、わかっていたから、別れを切り出したんだ。
緒美に、秀香の事を言うつもりはない。

緒美とは、どこまで行っても従兄妹どおしだけど、秀香とは赤の他人だ。

だんだん、大人につれて、緒美も俺の気持ちがわかってくるだろう。
その時、緒美の隣には俺ではなく、他の男がいるだろう。


俺は、両親の決めたレールの上を走って、やがて駅に到着するだろう。
駅には、花嫁の歩美が待っていて、今度は2人で、レールの上を走って
行くだろう。

 *********************************


時々、涼介が電話をくれる。

 涼介「大学は、どうだ? 彼氏は、できたか?」

 緒美「涼兄より、素敵な人なんかいないよ」

 涼介「理想が高いんじゃないか?」

 緒美「う~ん。 ねえ、今度、2人だけでどこかへ行こうよ」

 涼介「歩美が、いない時にな」

と、言っても、涼介のお休みの日は、だいたい歩美が一緒だ。

 緒美「歩美さんを、優先するの?」

 涼介「従妹より、未来の妻の方が、大切だろ」

 緒美「ずるーい。 今から、そっちへ行く」

 涼介「今からってもう、10時過ぎたぞ。
    子供は、寝る時間じゃないのか?」

 緒美「子供扱いしないでよ。 歩美さんと一緒なの?」

 涼介「今日は、いないけど」

 緒美「ラッキー♪ 今から行くね」

緒美は、一方的に電話を切ってしまった。

涼兄に会いたい。


高橋家。

涼介が、玄関で待っていた。

 涼介「今日は、親父もお袋もいるんだ」

 緒美「別に構わないよ。 私と涼兄は、従兄妹どおしだもん。
    それにいつでも、遊びに来ていいって、言ったのは涼兄でしょ」

 涼介「それは、そうだけど」

 緒美「私達、やましい関係じゃないでしょ」

緒美に負けた涼介は、自分の部屋に緒美を通した。

 緒美「何してたの?」

 涼介「本を、読んでた」

 緒美「何の本?」

涼介が、本を見せた。

 緒美「わあ、難しそうな本」

 涼介「コンパとか、行ってるのか?」

 緒美「うん。でもおもしろくないよ。いい男いないし」

 涼介「緒美って、もてないのか? 好きだって、言われた事ないのか?」

 緒美「・・・あるよ。でも好みじゃないよ」

 涼介「好みの男は、いないのか?」

 緒美「いないよ。  
    彼氏を見つけるために、大学へ行ってるわけじゃないでしょ」

 涼介「そうだけど、大学生活を楽しまなきゃ」

 緒美「そういえば・・・涼兄は、大学の時に彼女いたの?」

いつか、聞かれると思っていた事だ。

 緒美「1度も聞いた事ないような気がする」

もし、聞いて<彼女いるよ>なんて言われたら、ショックだから
聞かなかったのかな。

 緒美「涼兄って、かっこいいから、彼女いたでしょ?」

 涼介「俺だって、男だからな」

こう言う答え方しかないだろう。
ここで、終わってくれればいいのに、緒美は突っ込んでくる。

 緒美「ねえねえ、どんな人? 同じ医大生だったの?
    どのくらい付き合っていたの?」

更に、

 緒美「涼兄の初体験って、いつだったの?」

まで聞いてくる。

 涼介「あのなー。そういう事、平気で聞いてくるなよ。
    緒美は、女の子なんだから」

 緒美「教えて」

 涼介「・・・・秘密だ」

 緒美「ずるーい。 今後の参考にしようと思ったのに。
    大学では、初体験の事なんか、教えてくれないもん」

 涼介「おまえ、何しに大学へ行ってるんだ・・・」

 緒美「ねえ、もちろん、歩美さんともそういう仲でしょ?」

緒美が、ちょっと意地悪く聞いた。

 涼介「そういうことを、聞きに来たなら帰れ」

 緒美「やっぱり、そういう仲なんだ」

緒美が、泣き出した。

 涼介「何で、そこで泣くんだ。 おまえは俺の恋人じゃないだろう」

 緒美「恋人になりたかった」

涼兄の事が好き・・・好きだって言いたい。

 涼介「もう遅いから、帰りなさい。
    明日、講義あるだろう。 俺だって、仕事だから」

 緒美「わかった。 また会いに来ていい?」

 涼介「もちろんだ」

緒美は、自分の気持ちをつたえられないまま、家に帰った。

涼兄は、すぐに<彼氏できたか?>と聞く。
涼兄は、早く歩美さんと結婚したいのかな?
それとも、私の事が嫌いになったの?
私が、涼兄と会う事が迷惑なの?

必ず、大学で恋人を作るなんて、約束してないよ。
社会人になってから、恋人を作ってもいいじゃん。
私は、涼兄の事が好きだから、簡単には恋人なんてできないよ。
ずーととは、言わないけど、涼兄の事、好きでいさせて。
早く恋人を、作る必要はないよ。

コンパへ行っても、男に特に興味を示さない緒美。
いい男なんていない。
いいもん。一生恋人できなくても。
そうすれば、涼兄は、結婚しないもん。
恋人ができなくても、涼兄がいてくれるもん。
ああ、片思いってつらい。

 *********************************


ある土曜日の朝。

 緒美「おはようございます」

緒美が、高橋家へ来た。

 涼介の母「おはよう。緒美ちゃん。 涼介なら、いないわよ」

 緒美「お仕事ですか? それともお出掛け?」

 涼介の母「歩美さんと、1泊で清里へ行ったのよ」

 緒美「2人で?」

 涼介「あの2人。仲がいいのよ」

本当に仲がいいの?
おば様の前だけ、仲がいい恋人どおしを演じているんじゃないの?
仮面夫婦じゃなくて、仮面恋人?
それまでして、一緒にいる必要があるのかしら。

 緒美「また来ます」

 *********************************


日曜日の夜。
涼介が、清里のお土産を持って来てくれた。

 涼介「はい。お土産」

 緒美「うれしいなあ。 ありがとう」

 涼介「歩美が、選んでくれたんだ」

えっ。歩美さんが?
涼兄が、選んでくれたわけじゃないのー。 何でよ。

 緒美「いらない」

緒美は、涼介にお土産を返した。

 涼介「何で?」

 緒美「涼兄が、選んでくれたものがいいのよ」

 涼介「わがまま、言うなよ。 歩美が気を使ってくれたんだ」

 緒美「涼兄。ずるい。内緒で清里へ行くなんて」

 涼介「緒美に、わざわざ言う事もないだろう」

 緒美「私とは、2人きりでどこかへ行かないのに、歩美さんとは行くのね。
    歩美さんが、好きだから?」

 涼介「また、始まった・・・
    清里へ行きたいなら、来週連れて行ってあげるよ」

 緒美「清里じゃなくてもいい。 涼兄と2人だけなら、どこでもいい。
    清里の夜は、どうでしたか?
    歩美さんも、涼兄の事好きだから・・・・」

 涼介「何、嫉妬しているんだ。   
    俺と歩美は、まだそういう関係じゃないぞ」

 緒美「もう、このお土産持って帰ってよ」

涼介は、しかたなく、お土産を持って帰って行った。


それから、緒美は、歩美が涼介と一緒にいない日に、高橋家へ行く様になった。
歩美さんとは、会いたくない。

歩美は<最近、緒美ちゃん。来ないわね>と言う。

私が、会いたいのは、涼兄だから。
でも、涼兄は、あまり相手にしてくれない。

 涼介「コンパへは、参加しているのか?」

 緒美「うん」

 涼介「好きな男は、できたか?」

 緒美「涼兄以上に、いい男なんていないよ」

緒美が、涼介の胸に飛び込んだ。

 緒美「少しの間でいいから、私の事、従妹以上に思って」

 涼介「お前は、俺のかわいい従妹だ。 本当の妹の様に思ってる。
    それ以上の感情はない」

 緒美「何か、無理してない?涼兄。
    無理して、歩美さんといるみたい。
    それじゃ、疲れちゃうよ。ストレスたまるよ」

涼介は、緒美を突き放した。

 涼介「緒美に、何がわかる。帰れ」

涼兄。やっぱり、無理しているんだ。

 *******************************


緒美は、歩美に会う事にした。

 緒美「涼兄。 あなたの事、少しも好きじゃないわ。
    無理してる。無理に歩美さんの事、好きになろうとしている。
    それじゃ、疲れちゃうよ。ストレスもたまるよ。
    歩美さんは、涼兄をダメにしてる。苦しめているよ」

緒美は、言いたい放題。

 歩美「言いたいことは、それだけですか?」

 緒美「え?」

 歩美「ストレスがたまっているのは、緒美ちゃんの方でしょ」

 緒美「私は、涼兄の事を思って・・・・」

 歩美「最初は、わからなかったけど、緒美ちゃんって涼介さんの事、
    好きなのね。 従兄以上に。
    涼介さん。素敵だもんね」

 緒美「この際だから、言わせてもらうけど・・・・・」

緒美は、また言いたい放題。
繊細な歩美は、泣くか?

 歩美「言いたい事、言ってすっきりした?」

 緒美「ばかにしないでよ。 
    あんたなんか、お嬢様じゃなきゃ、結婚できないわよ。
    いくら、お料理ができても、性格悪いもん。
    涼兄もあんたと、結婚しなきゃならないなんて、かわいそう。
    ・・・・涼兄は、あんたじゃなくて、お金と結婚するのよ」

これで泣くか?

 歩美「この事は、涼介さんには言わないわ。ご安心下さい。
    失礼します」

歩美は、帰って行った。

私・・・今、すごく意地悪だったわ。口が勝手に動いちゃった。
涼兄の事が、好きだから。


歩美は、今すぐにでも、涼介の胸へ飛び込みたかった。
でも、涼介は当直だ。

 **********************************


次の日。
歩美は、涼介と会った。

 涼介「どうした?病院まで来るなんて、今までなかっただろう?」

 歩美「涼介さん。無理してませんか?
    私と一緒にいて、疲れますか?
    私は、涼介さんを苦しめていますか?」

 涼介「そんなことはないけど、どうした?  家まで送るよ」

涼介は、歩美を車に乗せた。

 涼介「誰かに何か、言われたのか?」

 歩美「いいえ」

歩美は、緒美と会った事を言わなかった。

 涼介「俺が、なかなかプロポーズしないから、気になったのか?」

 歩美「そんな事ないわ」

 涼介「疲れた時には、俺ははっきり<今日は会えない>と言うだろう。
    別に無理して、歩美と付き合っているわけじゃないから、大丈夫」

 歩美「優しいですね。涼介さん。  それは本心ですか?」

 涼介「もちろん」

 歩美「その答えも、本心ですか?
    涼介さんは、ご自分に嘘をついて、苦しくないですか?」

 涼介「歩美・・・・」

 歩美「ごめんなさい。  言い過ぎました。
    私は、まだまだ未熟ですね。
    涼介さんの気持ちが、わからないもの。
    これでは、涼介さんの妻にはなれませんね」

 涼介「・・・・・・・・・・・・」

少しの間、沈黙が続いた。

 涼介「着いたよ」

 歩美「ありがとう」

 涼介「歩美・・・・・・もう少し、時間をくれ。
    そしたら、ちゃんとプロポーズするから」

これは、本心?
また歩美を安心させるための嘘?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・多分、本心ではないだろうか。

 歩美「わかりました。 おやすみなさい」

この時、歩美はこれが本心だと感じた。

歩美は、家の中に入って行った。

緒美の意地悪が、逆に2人を進展させてしまったようだ。

 *******************************

土曜日の夜。 
緒美は、歩美に言い過ぎた事を謝ろうと、高橋家へ行った。

 緒美「あれ? 歩美さんは?」

 涼介「今日は、家の用事があるから来ないぜ。
    珍しく、歩美に会いに来たのか?」

緒美は、歩美に謝るつもりで来たのに、また勝手に口が動き始めた。

 緒美「ああ、よかった。 いない方がいいもん。
    涼兄と2人きりだ」

 涼介「せっかくだけど、今から飲みに行くんだ」

 緒美「えー。私も連れて行って。 ねっ、もう未成年じゃないんだから」

確かに緒美は、20歳の誕生日を過ぎたのだ。
20歳の誕生日には、涼介とお祝いをした。

断る理由もなく、涼介は緒美を、一緒に連れて行く事にした。


飲み屋。
ケンタと松本がいた。

 ケンタ「こんばんは」

 松本「こんばんは」

 緒美「こんばんは」

 涼介「従妹の緒美だ。出掛けに家に来て捕まってしまった」

 ケンタ「どうぞ、どうぞ。女の子がいる方が楽しいよ」

 緒美「ありがとう」

涼兄と、飲みに行くのは初めてだ。
20歳前は<未成年だからダメ>なんて、かたいこと言われたから。

 松本「涼介さんが、女の子を連れてくるなんて珍しい」

 緒美「歩美さんを、連れて来ないの?」

 涼介「歩美は、ほんの少ししか飲めないんだ」

 緒美「涼兄って、意外と飲めるんだ」

 松本「強いよ」

 緒美「涼兄は、大学の時、コンパへ行ったのかなー」

 ケンタ「俺、何回か、啓介さんに、飲みに連れてってもらいましたよ。
     啓介さん。どうしているかな」

 松本「啓介さん。パパになっちゃいましたね」

話の話題が、啓介になった。

本当は、涼兄の大学の時の事を聞きたかったのに。
やっぱり、彼女がいたのかな。
歩美さんの事、どう思っているのかな。

このケンタさん。やたら、べらべらしゃべってる。
涼兄の事を聞いたら、教えてくれるかな。

涼介が、トイレで席を立った時に、緒美は何となしに聞いて見た。

 緒美「ねえ、ケンタさん。涼兄って、大学の時に彼女いたでしょ?」

一瞬、松本はドキッとした。

 ケンタ「いるわけないじゃないですか。 走りにかけた青春だったから」

 緒美「あれ、おかしいなあ。自分で<彼女いた>と言ってたよ」

 ケンタ「いたのかな」

 松本「涼介さんも男だから、過去に女の1人や2人は、いたんじゃないかな」

松本は、秀香の事を知っているけど、ケンタは知らない。

 緒美「そうか。どういう人だったのかな。涼兄の彼女」

 涼介「俺が、どうしたって?」

涼介が、戻って来た。

 ケンタ「涼介さん。大学の時に、彼女いたんですか?」

 涼介「いたけど」

 緒美「やっぱり、いたんだ。
    ねえ、涼兄の彼女って、どういう人だったの?」

 涼介「・・・・・緒美と違い、俺の気持ちがわかる女だった」

ドキッ。 涼介が、これほどはっきり言うとは。

緒美は、哀しくなってきた。

 緒美「トイレ、行って来るね」

と席を立った。

 松本「随分とはっきり言いましたね。例の従妹ですよね?」

松本は、少しだけ、涼介に緒美の事を聞いていた。

 松本「涼介さん。酔っているんですか?」

 涼介「酔ってたら、もっと緒美に余分な事を、しゃべっていたかもしれないな」

 松本「・・・・・・・」

 ケンタ「緒美ちゃん。大丈夫かな」

緒美は思ったより、早く戻って来た。

 緒美「もう、帰る」

 涼介「わかった。帰ろう。おやすみ」

 松本・ケンタ「おやすみなさい」

 *********************************


<緒美と違い、俺の気持ちがわかる女だった>
私は、振られたの?
私は、涼兄の気持ちがわかってなかったの?

一緒に飲みの行ってから、涼介に会ってない緒美。

涼兄の気持ちのわかる女って、どんな人だったの?
私も、その人みたいになりたい。
その人に、近づきたい。
そうすれば、涼兄は、もっともっと私を見てくれるだろう。
歩美さんより、私の事を優先してくれるだろう。
でも、涼兄の気持ち・・・わからない。

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緒美は、家の近くのファミレスで、偶然中里と会った。

 中里「久しぶりだな」

 緒美「うん」

 中里「元気だったか?」

 緒美「うん」

 中里「お茶でも、飲まないか?」

 緒美「ナンパの中里さんだ」

2人は、ファミレスへ入った。

 中里「あれから、どうなった? そのー涼兄と」

 緒美「痛い事、言われたんだよ」

緒美は、中里に涼介と飲みに行った時の事を話した。

 緒美「大学の時の彼女って、どんな人だったのかな?」

中里は秀香を見た事があった。
飛び切りの美人で、涼介とお似合いだった。
でも緒美には、言えない・・・

 緒美「涼兄の気持ちなんて、わかんないよ」

 中里「それは、緒美ちゃんが、本当の恋をしてないからじゃないのかな。
    たくさんたくさん恋をすれば、今にか涼兄の気持ちもわかる様に
    なるんじゃないかな」

恋愛経験の少ない中里にしては、いい答えだ。

 緒美「涼兄とは、どこまでいっても従兄妹どおし。
    それは変わりはないのね。
    でも、涼兄が好きなの」

 中里「昔の彼女と緒美ちゃんを比べるなんて、涼兄はまだ、その彼女のことを
    忘れられないんだ」

中里は、調子にのっていたら、余分な事まで言ってしまった。
余分な一言で、緒美はまた歩美を、いじめる材料ができたと喜んだ。

 緒美「いろいろ、聞いてくれてありがとう。すっきりした」

 中里「俺でよければ、いつでも相談にのるよ」

 緒美「ありがとう」

緒美と中里は、ファミレスの前で別れた。

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 緒美は、歩美をまた呼び出した。

 緒美「こないだは言い過ぎたわ。ごめんなさい」

 歩美「いいえ」

 緒美「涼兄。なかなか結婚しないわね。
    やっぱり、涼兄は、昔の彼女の事が忘れられないから?」

 歩美「そうみたいですね」

 緒美「えっ?」

歩美は、どうやら、昔の彼女の事を知っている様だ。

 緒美「涼兄の彼女の事、知っているの?」

 歩美「はい。それは、以前から知っていました。
    写真も見た事、あります。
    涼介さんに、彼女がいてもおかしくないでしょ。
    今でも、忘れられないみたいですね。
    私は、それでもいいと思います。無理に忘れなくても。

    涼介さんは、その彼女と結婚するわけじゃないでしょ。
    結婚するのは、この私。
    今でも、その彼女と会っているというなら、問題だけど、涼介さんが
    心の中でその方の事を思うくらいは、許してあげましょう。

    もしかしたら、涼介さんは、その方と結婚したかったかもしれません。
    でも、その方ではなく、私を選んでくれました。
    ご自分の病院の、犠牲になってくれました。
    だから・・・・・

    私は、小学校の時から、すっとお嬢様学校でした。
    だから、男の人とのお付き合いもありませんでした。
    最初に好きになった方が、涼介さんでした。
    その涼介さんが、ご自分のために、私と結婚してくれるのです。

    緒美ちゃんが言うように、私ではなく、お金のために結婚するかも
    しれません。
    それでも構いません。

    涼介さんは、確実に私の方へ近づいています。
    時間が、いくらかかってもいいです。   
    涼介さんが、プロポーズしてくれる日を待っています」

この時、緒美は、涼介が自分より、歩美を優先させる理由がわかった。
歩美は、涼介の気持ちがわかってる!?
一緒にいる時が多いから、涼介の気持ちがわかってきたかもしれない。

 緒美「歩美さんは、大人なのね。いい話を、聞かせてもらったわ。
    とてもじゃないけど、涼兄と歩美さんの間には入れないわ」


私の好きな従兄の涼兄。
この人と、いつか結婚してしまうのね。
涼兄の気持ちが、わかるこの人と。

私と涼兄は、どこまでいっても従兄妹どおし。
私も、いつか涼兄以上に、素敵な男性を見つけるわ。


 執着 完

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 あとがき

 お疲れ様でした。
 ここまで、読んで下さって、ありがとうございます。

 ページ数が足りなかったので、次の「執着 あとがき」のページにあります。
 お暇な人、読んでくださいましー。

 9月16日
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