おはなし  期待




涼兄は、ずーと従兄のまま。
コンパへ行っても、涼兄よりいい人はいない。
緒美は、時々中里と会っていた。
大学の話。涼兄の話。
悩み事の相談や、単なる暇つぶしとか・・・
会うところは、だいたいファミレス。
たまに、適当に流す程度。
涼介は、多分2人の事を知らないだろう。

 *******************************

ある土曜日。
緒美からの電話。

 緒美「たまには、遠出しませんか?」

中里は、少しドキドキしたが、すぐにOKした。
ちょうど紅葉の時期だったので、日光へ行く事にした。

 緒美「何か、わくわくする」

 中里「日光は、初めて行くの?」

 緒美「ううん。 家族で何回か・・・
    涼兄とも行った事あるよ。 
    あっ・・・涼兄の事は、忘れる事にしたんだった」

 中里「涼兄より、いい人が見つかったのか?」

 緒美「ううん。 なかなかいないのよね~」

 中里「緒美ちゃんは、理想が高いからなあ」

 緒美「そうでもないと思うけど」

中里のナビシートは、すっかり緒美の指定席になっている。
中里は、ナビシートに座っている緒美に満足していた。

これは、恋!?
最近、緒美の事が、気になってしかたがない。
笑っている顔・悩んでいる顔・困っている顔・泣いている顔・
怒っている顔・・・
中里は、緒美のいろんな顔を見てきた。
やっぱり、笑っている顔がいい。

出会った頃は、まだ子供のような顔をしていたが、だんだん大人の顔になって
きた。
女の子だった緒美が、女に近づいている。
中里は、目のやり場に困る時もある。


紅葉の時期で、いろは坂は人が多かった。
緒美は、きれいな目で、窓の外を見ていた。
時々、そのきれいな目で、中里を見る。
中里は、ドキドキしてしまう。

車から降りると、緒美がせいのびをした。

 緒美「う~ん。気持ちいいなあ」

 中里「ああ」

 緒美「うれしいなあ」

 中里「デートに誘ってくれる人は、いないのか?」

 緒美「いるけど・・・話が続かないとか、自分の趣味ばかり話す人とか。
    その点、中里さんとは話が合うし、一緒にいて楽しいもん」

 中里「<一緒にいて楽しい>なんて、初めて言われた」

 緒美「そう? 中里さんといると、おしゃれしなくてもいいし、気を使わない
    から楽なのよ。
    私が会いたいって言えば、いつでも会ってくれるし」

 中里「まあ、暇だからな」

回りのカップルは、手をつないで歩いている。

 緒美「ねえ、手をつなごうよ」

緒美が、手を出してきた。
中里は、恥ずかしそうに手を出した。

 緒美「私達、どういう風に見えるかしら?」

 中里「え?」

 緒美「兄弟だと全然似てないし、やっぱり恋人どおしかな?」

緒美は、にこにこした。
中里は、すっかり緒美のペースにはまっている。
緒美の手は、小さい。
小さいけど、温かい。

 緒美「私と紅葉、どっちがきれい?」

 中里「え?」

 緒美「私と紅葉、どっちがきれい?」

 中里「緒美ちゃんの方が、きれいに決まっているだろう」

 緒美「嘘つき。さっきから、紅葉見て<きれいだ、きれいだ>って
    言ってるじゃん。
    緒美を見て<きれいだ>って、1回も言った事ないじゃない」

 中里「何言ってんだ? 紅葉にやきもちやいているのか?」

中里は、緒美の言っている意味がわからなかった。

 中里「緒美ちゃんは、きれいっていうより、かわいいよ」

かわいい・・・ちょっと幼く見られた感じ。

 緒美「私のどこが、かわいいの?」

 中里「う~んと顔とか。この手とか」

 緒美「他は? 他は、かわいくないの?」

 中里「そう言われても・・・目もかわいいし、鼻もかわいいし、口も耳も
    全部かわいい!」

 緒美「よかった」

緒美が、にこっと笑った。
わがままお姫様を、喜ばすには疲れる。

 中里「そろそろ、車に戻ろうか?」

 緒美「もう? 早いよ。
    中里さん。私と一緒にいるのが、イヤになったの?」

 中里「そういうわけじゃないけど」

 緒美「じゃ、まだ車には戻らない」

緒美は、中里の手を離して、どんどん先に歩いて行ってしまった。

何だか、雲行きが怪しい。
山の天気は、変わりやすい。
それにこの時期になると、日の入りも早い。
夏に比べれば、暗くなるのが早い。

 中里「緒美ちゃん。 雨が降りそうだから、車に戻ろう」

 緒美「さっきはいい天気だったじゃない」

緒美は、どんどん先へ行ってしまう。

 中里「この様子だと、一雨来るかもしれない。
    緒美ちゃん。もう戻ろう」

 緒美「天気予報、見てきたよ。 今日は、雨が降らないんだってよ」

 中里「それは、群馬だろ。ここは、栃木なんだぜ」

 緒美「そうか。 日光って栃木だったわ」

 中里「もう、車に戻ろう」

緒美が、やっと言う事を聞いて車に戻ろうと引き返したら、ざーとすごい雨。

 緒美「何で雨が降るのよ」

 中里「俺に聞いたって知らないぜ」

2人は、走って車に戻った。

やっと車に非難。
車から、結構離れた2人は、びしょぬれだ。
こんな時、非常識だが、ぬれた髪の緒美がきれいだ。

 緒美「中里さん。タオル持ってない?」

 中里「ごめん。持ってない」

緒美は、ハンカチで、顔や服や髪の毛を拭いている。
でも小さなハンカチは、すぐにびしょぬれになってしまった。

 緒美「もう最悪」

 中里「だから<すぐに車に戻ろう>って、言っただろう」

中里が、少しきつい口調で言った。

 緒美「そんなに怒らなくてもいいじゃない。
    服、冷たくて気持ち悪いよ。 足元もぬれて寒いし」

 中里「風邪、ひいちまう」

 緒美「何とかしてよ。 このままじゃイヤよ。
    家まで、どのくらいかかるの?」

 中里「服を乾かしてから、帰ろうか?」


中里は、ラブホテルへ入った。

 緒美「こういうとこ、初めて・・・・・」

 中里「大丈夫。何にもしないから」

 緒美「服、脱ぐ。気持ち悪い」

緒美は、シャワーを浴びて、バスタオルを巻いて出て来た。

 中里「じゃ、俺もシャワーを浴びて来るよ」

初めて入ったラブホテル・・・
緒美は、部屋のあちこちを見ていた。

カチャ。
中里も、バスタオルを巻いて出て来た。

 中里「しかし、すごい雨だよな」

中里は、煙草に火をつけて、テレビをつけた。

 緒美「ねえ、おなかすいた」

何だってー。

 中里「何か頼むか?」

中里は、テーブルにある食事のメニュー表を見せた。

 緒美「すごい。ここって部屋まで、ご飯を持って来てくれるんだ。
    何食べようかな~。 ええーと・・・」

緒美は、メニュー表を見ていた。
注文を頼んだ緒美は、また部屋のあちこちを見ていた
中里は、テレビ。

 緒美「中里さん。これ何?」

ベッドの上にいる緒美が、中里を呼んだ。

 中里「どれだ?」

中里が、緒美の隣へ行った。

 緒美「これ、何入っているのかな?」

緒美が、開けようとした。

 中里「・・・・・・開けない方がいい」

 緒美「何で? 何入っているのか、知っているの?」

 中里「知っているけど」

 緒美「何?」

 中里「本当に知らないのか? 俺を、からかっているんじゃないだろうな」

 緒美「知っているなら、教えてよ」

 中里「緒美ちゃんには、関係ないよ。男が、使うものだから」

 緒美「ずるーい」

 中里「・・・・・・あのさ。 学校の時、保健体育の授業で習わなかった?
    絵も出てたぞ」

 緒美「・・・・・・・・・・・・・」

ようやく、わかったようだ。

 中里「もう少ししたら、飯が来るぞ」

緒美の目と、中里の目が合った。
ドキッ。

 緒美「中里さん・・・」

 中里「緒美ちゃん・・・」


ピンポーン。
頼んだ食事が来たようだ。

 中里「飯が来たぞ」

 緒美「わあ~い。いただきます」

一口食べた緒美。

 緒美「おいしくない」

 中里「確かに、うまくはないな」

 緒美「もう最悪。 雨に降られて服はぬれるし、これはまずいし」

 中里「しかたないさ」

おなかがすいていた緒美は、我慢して食べた。


 緒美「まだ服、乾かないよ」

 中里「そんなに、早く乾くわけないさ」

 緒美「ここ、乾燥機ないの?」

 中里「・・・洗濯機もないだろう」

 緒美「テレビもつまらない」

緒美は、ベッドでゴロゴロしていた。

 緒美「ねえ。このベッド。気持ちいいよ。
    中里さん。テレビばかり見てないで来て」

中里は、ベッドの上に来た。

 緒美「ねっ。ふわふわしているでしょ」

 中里「ああ」

 緒美「あっ。中里さん。こんなところにほくろがある」

緒美は、中里の右指にあるほくろを見つけた。

 緒美「変わったところに、ほくろがあるのね。
    私はね。ここのとこ」

緒美が、髪の毛をかき上げて、首にあるほくろを見せてくれた。
ドキッ。

 緒美「他にも、ほくろがあるのよ。下の方に」

 中里「じゃ、足かな?」

中里が足を見た。

 緒美「もっと上の方よ」

 中里「もっと上?」

 緒美「ひざより上なのよ。さあ、どこでしょう」

 中里「ほくろなんて、どこにもあるからな」

緒美が、バスタオルを、少しずつ上へ上げた。
ドキッ。

 緒美「さあ、ほくろはどこにあるでしょう」

 中里「当てたら、何かくれるのか?」

 緒美「う~ん。そうだなあ。 そのほくろに、キスしてもいいよ」

ドキッ。
ひざより上ってことは、太ももか。
ない・・・
あった・・・
緒美の内股に、小さなほくろがあった。

 中里「あった」

中里が、ほくろを指差した。

 緒美「見つかっちゃった。 いいよ。キスしても」

ドキッ。
これは、めったにないチャンスだぞ。
しかも、内股のおいしいところ。

 中里「本当にいいのか?」

 緒美「うん。 中里さんだからいいの・・・・」

 中里「緒美ちゃん・・・」

中里は、そっとそのほくろにキスをした。

 緒美「唇にも、していいよ」

ドキッ。
ベッドの上。 緒美は、横になっている。
こんなに、おいしいチャンスは、もう2度とないかもしれない。

 中里「いいのか?」

 緒美「もう~じれったい」

中里は、緒美の唇にキスをした。

 緒美「もっとして」

ドキッ。
いいのか、本当に・・・・
ここに入った時<大丈夫。何もしないから>と言ったのに、緒美ちゃんの方から
俺を誘っているなんて。

中里は、もう1度唇にキスをした。

 緒美「中里さん。 さっきの・・・使ってもいいよ」

いきなり・・・

 緒美「あれは、男の人が使うものでしょ?」

 中里「そうだけど、いいのか?
    緒美ちゃんって、もしかしたら、初めてじゃない?」

 緒美「うん。初めてよ」

意外と簡単に答える緒美。

中里は、もう1度唇にキスをした。
首にあるほくろにも、キス。
中里は、緒美のバスタオルを取った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

悩みの相談や、暇つぶしに、利用していただけなのに、中里さんといると
楽しい。
安心する。
これって恋!?
たくさんのコンパへ行ったけど、気に入った人はいなかった。
すぐそばにいる中里さんが、今頃になって大きな存在だと気づいた。

初めての相手に、中里さんを選んだのは好きだから?
中里さんなら、すべてをあげてもいいと思ったから?

たくさんたくさん抱いて、たくさんたくさん愛を贈る。
たくさんたくさん抱かれて、たくさんたくさん愛をもらう。
頭のてっぺんから、足のつま先まで、すべてをあなたに捧げる。


 中里「緒美。よかったよ。 
    今日は、もう遅いから、ここへ泊まろう」

 緒美「うん。 朝まで一緒なのね」

中里は、緒美にキスをした。

 中里「好きだよ。緒美・・・」

 緒美「うれしい。 私も中里さんが好き」

 *********************************

中里の携帯がなった。

 中里「おかしいな。 切ったのに」

中里は、携帯に出た。

 緒美「もしもし、中里さん? 緒美だけど・・・」

 中里「え? 緒美? 緒美なら、俺の隣に」

隣には、緒美はいない。
起き上がって回りを見回すと、自分の部屋で自分のベッドの上にいた。
ちゃんと、パジャマも着ていた。

どうなっているんだ?

 緒美「もしもし、中里さん?」

 中里「うん」

 緒美「今日は、天気がいいから、たまには遠出でもしませんか?」

 中里「いいよ」

 緒美「じゃ、2時でいいですか? 迎えに来て下さい」

 中里「いいよ」

 緒美「お願いします」

携帯は、切れた。


あれ?
俺、緒美と一緒に紅葉を見に行ったんじゃなかったのか?
雨にぬれて、服がびしょぬれになって、それからラブホテルに入って、緒美の
ほくろ探しして・・・
俺には、本当に右指にほくろがある。

夢だったのか?
緒美を抱いたのも、すべて夢。
何てことだ。
どうりで話がうますぎたわけだ。
緒美と抱き合う夢を見るって事は、俺は緒美に恋してる?
緒美を抱きたいと思う欲望があるから、こんな夢を見るのだろうか。


2時。
中里は、時間通りに、緒美を迎えに行った。

 中里「どこへ行こうか?」

 緒美「日光は? 紅葉がきれいみたいだから」

日光・・・もう1度夢のようになるのか?
夢と同じように、すごい雨に遭うのか?
そしてラブホテルに入って、緒美を抱く事ができるのか?
ドキドキして、わくわくの中里であった。


  おはなし 期待 完


 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 あとがき 

 このおはなしは「執着」を書いてから、すぐ考えたおはなしです。
 T様のリクエストでもあります。

 いろは坂に行った事のない私。
 もしかしたら、たくさん歩けるところはないかも・・・
 そうだったら、許して下さいませ。

 書いていて、今はもう削除してしまった「おはなし1」と似ているところが
 あったらどうしようと思いました。
 何となく、啓介と中里が、重なってしまって・・・
 違いを出すのに、苦労しました!?

 次回は、どういたしましょうか?
 T様リクエストの<池谷×真子>を書いてもいいけど、あの2人の結末を
 知らんので、ちょっとそれを聞いてから、書きたいと思ってます。

 この感想。
 掲示板ではなく、メールのメッセージを送る~の方に入れてくれると
 ありがたいです。
 (自分のメールアドレスを入れなくても、送信できます)
 もしくは、どこかで会いましょう。(笑)

 ここまで、読んで下さって、ありがとうございました。


 11月23日

HOME




© Rakuten Group, Inc.

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: