4. 一転

2人目出産顛末記


4.一転

 そうこうしているうちに、トイレに行きたくなってきた。ろくに陣痛室で過ごさぬまま、バタバタと分娩室に移動してきたので、入院してから一度もトイレに行ってなかったのだ。歩いたほうが陣痛は進みやすいというし、トイレに行くのはいいかもしれない。そう思い、そばにいた看護師さんに、「トイレに行きたいんですが…」と告げた。「いってらっしゃい」という言葉を期待していた私に向けて返ってきた言葉は、予想外のものだった。

 「トイレ…。うーん。(分娩監視装置に目をやる)これだけおなかが張っている状態だと、動かないほうがいいかな…。ここでしてもらってもいいですか?」

 動かないほうがいいほど張りが来ている状態なのか。そんな自覚なかった。っというか、こ、ここでするの? 陣痛でわけがわからなくなっている時ならともかく、こんなに冷静で理性もバッチリあるというのに? うえ~、イヤだ~~。嫌だけど、「動くな」と言われたら、ここでするしかないじゃないか。尿がたまっているとお産の進行の妨げになるし、我慢もできないし。

 あきらめて便器をあててもらった。うううう、お産を経験するたびに、恥じらいとか遠慮とか、そういうものを少しずつなくしていく気がする…。ううううう。

 やがて時計の針は14時を指した。陣痛に進展が見られなかったので、5錠目の薬を飲むことに。1時間後にも進んでいなかったら、6錠目を飲むことになる。錠剤の服用限度は6錠と聞いていたので、なんだか焦ってしまう。でも、いまの私にできることといったら、台に寝ながら陣痛を待つことだけ。何もできないのがはがゆい。

 14時過ぎ、先生が内診に来てくれた。入院前はあれほど毎回「すぐ生まれる」のセリフをくり返していた先生なのに、赤ちゃんの下がり方が十分でなかったのか、内診をするなり、
 「これはもうしばらくかかりそうだなあ。昼間のうちに生まれちゃうと思ったんだけどね。この様子なら、陣痛室に戻っていてもいいよ」
 という無情なセリフを吐き出した。そんなあ、いまさら陣痛室に戻ってもいいだなんて。さんざん気を持たせておいてご無体な、という気持ちである。

 とは言っても、時刻は間もなく15時。15時になれば6錠目の薬を飲み、その30分後にまだ進展が見られなければ、今度は陣痛促進剤を点滴で打つことになる。点滴を打つと急激に進行する可能性があるので、その時にはまた分娩室に戻らなければならないそうだ。
 「そうすると、あわただしくなっちゃうよねえ」
 と言う看護師さんの言葉に、
 「面倒なので分娩室にずっといます」
 と答えた。ただ、分娩台の硬さには耐えられなかったので、帝王切開の産婦さんの処置が終わり空いたままになっていた手前のベッド型分娩台に再度移らせてもらうことにした。横たわってみると、体のラクさが全然違う。フー、ほっとした。

 もうすぐ15時だ。せめて促進剤の点滴は打たずにお産にこぎつけたい。6錠目の錠剤が、どうか効きますように…。祈るような気持ちで時計を見つめていた私だった。


<前へ >次へ ■HOMEへ




© Rakuten Group, Inc.
X

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: