6. いきみ到来

2人目出産顛末記


6.いきみ到来

 破水後、陣痛は急に強まってきた。間隔は3~4分だ。
 お産が急激に進む可能性があるからということで、奥の分娩台に再び移動し、分娩準備を行なうことになった。陣痛が引いている隙を見て、台を移動する。3~4分は間隔があくので、それほど難儀なことではない。

 奥の分娩台に横たわると、看護師さんたちがあわただしく私の足にカバーをかけたり、T字帯とお産パッドを外したり…と準備を始めた。そういえば剃毛された気もするが、どの辺をどれくらい剃られたのかはよくわからなかった。ただ、陣痛が来ている間も剃っていたので、「変に力を入れると切れるかも…」と恐かったのを覚えている。
 準備をしている間、便通があったかどうかを聞かれた。このところ快調だったのでそう答えると何も処置をされなかったが、そうでなければおそらく浣腸されたのだろう。

 陣痛はどんどん強くなっていった。痛みが増すにつれ体も熱くなり、気がつくと汗びっしょりになっていた。まもなく痛みがおしりのほうにも来て、いよいよいきみたくなってきた。鼻から深く息を吸っておなかに酸素を送り、「フーーーー」とゆっくり長く息を吐いていきみを逃す。呼吸は看護師さんがリードしてくれた。深呼吸をくり返すうち、頭がクラクラしてきた。酸素マスクがあてがわれる。

 「スー、フーーーーーーー」
 「スー、フーーーーーーー」
 深呼吸をしながら、気がつくと分娩室で流しっぱなしになっていたソフロロジーのテープに聞き入っていた。私自身は特にトレーニングをしてきたわけではなかったが、この病院はソフロロジーを推奨しているのである。
「陣痛の痛みは赤ちゃんが生まれるために必要なもの。お母さんと赤ちゃんが乗り越えるべき痛みなのです。ほら、赤ちゃんが下りてきます」
「陣痛の痛みは長くても50秒ほどしか続きません」
 テープがこう言っているのを聞きながら、
「そうだ、赤ちゃんが下りてきているんだから、がんばらなきゃ」
「まだまだ、いきむのはがまんだ」
 という気持ちになった。一人目出産の時はいきみを逃すことができず、やたらめったらにいきみ過ぎたために産道は裂けるわ、最後まで体力が持たずに吸引になるわでさんざんだったので、「いきみはなるべくがまんしなければ」という気持ちが強かったのだ。
 陣痛は強まっているとはいえ、一人目の時の「たたみかけるように襲って来る痛み」に比べると間隔が長く楽な気がして、「まだ耐えられる」と思えた。

 だから、子宮口が全開大になり、看護師さんに
「じゃあ、次に陣痛が来たら、痛みの一番きついところでいきんでいいですよ」
 と言われた時も、思わず
「えっ、もういきんでもいいんですか?」
 と聞いてしまった。
 さらに「痛みの一番きついところでいきむ」と言われたので、陣痛の波が襲ってきても「ここはまだ一番きついところじゃないから、いきめない」と思うことが多く、あまりひんぱんにいきまないまま、陣痛が何度か過ぎていった。

 一方で、陣痛が辛くなるにつれ、「もうどんな方法でもいいから、サッサと産ませて~」という気持ちも頭をもたげてきていた。

 いきめば赤ちゃんの頭が見える状態になっているらしい。なのにいつまでも出てくる気配がない。さらに、いきむたびに分娩監視装置のアラームが鳴った。なんだか様子がおかしい。看護師さんがあわてて先生に連絡をしている。

 やがて先生が分娩室にやって来て、私にこう伝えた。
「へその緒が赤ちゃんの首に巻きついている可能性があります。このまま出産に時間がかかると、胎児仮死などの恐れがある」


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