尾瀬の麓、片品村でのむらづくり記録

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

ozemura

ozemura

Category

2005年02月17日
XML
カテゴリ: 東田代村
ー鷹になったー

「佐吉、ここ全体が見えないものか」
 一団より先に到着した与惣右衛門は、新しい村の全景が見たくなった。

「はい、見えないことはありませんが、ちょっと登らないと」
 と言って、裏山を指さした。

「そうか、では、時間があるので、どこか良いところに案内してくれ」
「はい、承知致しました」

 山道を登りながら、たびたび後を振り向いたが、どうも格好な場所は出会えない。そのうち、見晴らしが良くなった。沼上山のてっぺんだ。

「もう少し登ってみよう。そうだなあ、あそこまで」
「そうですか」

 しばらく、時間が過ぎた。
 佐吉のあとを付いていった、与惣右衛門が叫んだ。
「おーう、すごい!これは、なかなか出会えない絶景だな」

 三人は、健脚そのもの、結局、裏山の奥にそびえる三ヶ峰山に登っていた。

 あたり一面に見える壮大な景色に見とれて、たえはこう言った。
「ねえ、富士山が見えるじゃないかあしら」

すかさず、佐吉がこう言った。
「ちっちゃいですけど、そうだと聞いています。またうしろに白根山、右手に燧が岳と至仏山。奥に谷川岳です。そして目の前に武尊山というわけです」

「おお、鷹になった気分だ」と与惣右衛門。
 その多くが城下からは見えなかったからだ。

 たえは、風貌には似ない肝っ玉の持ち主。夫の心配をよそに、これ以上上はないというとんがった場所によじ登って、彼女こそ鷹が今にも飛び立つかのようなしぐさをしてみせた。

「おい、危ないぞ」
 夫の悲鳴に似た気づかい。
「さあ、帰ろう」
「そうですね、帰りましょうか」

 下り坂とはいえ、笹が腰丈まで生い茂る道なき道。かすかに道筋が通っているのは獣道だからだった。途中、シカや猿にでくわした。一匹、二匹、三匹…。
「ああ結構いるなぁ」

 窪地には、雪が解けずに残っていた。

 ふと、異空間で頭をよぎったのは、算術のこと。その腕前ならだれにも負けないとの自負心があった与惣右衛門。
(ここでは算術いらずだろうなぁ。いいや、郷に入ったら郷に従えでー。きっと、なにか役に立つときが来るだろうから)

「あなた様―」とたえの声。
「おう」
「さあ、どんどん降りてゆきましょう」
 と夫を急かす。
「あいよー」
 与惣右衛門は、うなずき、小走りであとに続いた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2005年03月12日 18時27分47秒
コメント(1) | コメントを書く
[東田代村] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Calendar

Comments

横坂です@ Re:「東田代村」を議員が視察(07/09) はじめまして。 片品出身の者です。 こち…
乗らない騎手@ ちょっとは木馬隠せw あのー、三 角 木 馬が家にあるってどん…
ボーボー侍@ 脇コキって言うねんな(爆笑) 前に言うてた奥さんな、オレのズボン脱が…
もじゃもじゃ君@ 短小ち○こに興奮しすぎ(ワラ 優子ちゃんたら急に人気無い所で車を停め…
まさーしー@ なんぞコレなんぞぉ!! ぬオォォーーー!! w(゜д゜;w(゜д゜)w…

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: