尾瀬の麓、片品村でのむらづくり記録

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ozemura

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2005年04月01日
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カテゴリ: 東田代村
六 夕焼け

 ふもとに戻った頃、瞬く間に真っ赤な夕焼けがみんなを包み込んだ。西側に見えるのは武尊山。ほたかやまと詠むが、ヤマトタケルノミコト(日本武尊)を祭るためだ。
 立春が過ぎると、獲物をねらう豹が浮き上がる山だと、与惣右衛門は城内で耳にしたことを思い出して、そこに居たみんなに伝えた。
 動物好きな彼はすぐにでも見たくなった。その季節までまだ十ヶ月ある。
 そうこうしているうちに、辺りは薄暗くなった。
「お侍様、どうぞ、こちらに」
「わたしらは、菅沼村の竹蔵と妻のみちでございます」
 真っ黒に日焼けした顔をみせた竹蔵が、与惣右衛門ご夫妻に呼びかけた。
「夕食の準備ができました」
「やあ、ありがとう。これから宜しく頼むよ」
  与惣右衛門は、三人の暖かい思いやりを感じて、これからの日々に期待を弾ませた。
 みんなは薪を燃やした炉のあるかやぶき小屋に案内された。囲炉裏を囲んで座った。
 みちが木の器にもってくれた夕食は、そば団子汁だった。
「美味しい!」
 たえは、一番早く反応し、ほめことばを述べた。
「ありがとうございます」
 といったみちは、緊張感が解けてくる自分に気づいた。
 与惣右衛門は、城下で堪能したものと比べれば、決して美味しいとはいえないものだった。しかし、心をさとす瞬間となった。
(これでもうまいと思えないといけない)
「ところで、みんな。どうしてここに来ることになったのか。志願したのか」
 問いかけた与惣右衛門の目に、佐吉の目が合ってしまった。
「いやー、訳ありなのです」
 人なつっこい佐吉は、このころには、仲間に話す口ぶりに変わっていた。
 菅沼は、西下に半里しか離れていない。佐吉は、そこでもやり手の農夫だった。好んで、田代新田入植に加わったわけではない。殿様の至上命令だった。
 それを受け入れたのには、訳がある。名主の権左衛門が条件付きの誘いをかけたからだ。話は簡単、高嶺の花だったちよを嫁に世話してあげると約束してくれたからだ。自分やお父やおっ母の力ではとうてい叶えられない縁談を年内にもまとめてあげると言ってくれたので、一晩考えただけで承諾し、一月半前から田代に飛び込んで来ていた。
 佐吉は、所帯を持つのが待ち遠しいのだが、一抹の不安があった。
(ここに、もしかして…)
 嫁いでくるちよが不憫(ふびん)に思えてならなかった。
(でも、俺と一緒なのだから、良しとしよう)
 用意された小屋は、たった一つ、五人には狭かった。だが、身を寄せ合って寝るのが、かえってお互いにとって安堵感をもたらした。そこには侍と百姓の仕切りがなかった。
 新天地の朝は早かった。というより、佐吉が連れてきためん鳥が寅の刻に目覚まし時計となった。
 たえは、たたき起こされついでに、戸外に飛び出し、思いっきり背伸びをし、空気をお腹一杯吸った。
(ここね、私が活躍できる場は…)
 なぜか、太陽が近く生き生きと感じられた。






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Last updated  2005年04月01日 18時45分09秒
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横坂です@ Re:「東田代村」を議員が視察(07/09) はじめまして。 片品出身の者です。 こち…
乗らない騎手@ ちょっとは木馬隠せw あのー、三 角 木 馬が家にあるってどん…
ボーボー侍@ 脇コキって言うねんな(爆笑) 前に言うてた奥さんな、オレのズボン脱が…
もじゃもじゃ君@ 短小ち○こに興奮しすぎ(ワラ 優子ちゃんたら急に人気無い所で車を停め…
まさーしー@ なんぞコレなんぞぉ!! ぬオォォーーー!! w(゜д゜;w(゜д゜)w…

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