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親からも見放され、自暴自棄に生きる青年、翔人。通り魔やコンビニ強盗を繰り返し、罪悪感も持っていない。どうせ人生なんて、しゃぼん玉のようなもの。一瞬のうちに消えてなくなる、はかないもの。そんな彼が、なりゆきで老婆を救ったことから、再生の道をたどることになります。と書いてしまうと、わりとありきたりな展開みたいで、なーんだと思われるかもしれません。でも、それをよくある話と片付けられない重みとさわやかさある小説にしたのは、ひとえに乃南アサさんの力量でしょう。田舎の人は他人のプライバシーに踏み込むことが多いし、都会の人は他人との距離を大きくとる。そんなふうによく言われるけれど(私もなんとなくそう思っていたけれど)、真実はそんな単純なものじゃないんだなと思わせられました。他人のことを疑い詮索したがるのは、意外と都会の孤独を感じている人たちなんじゃないでしょうか。そして、この本に出てくる田舎の老人たちは、他人の家庭のことをよく知ってはいるけれど、根本的に他人を信じて生きています。他人から信じてもらうという感覚を初めて知ったことが、この主人公をよりよく生き直そうと決心させたのだと思いました。都会人の心の寂しさを感じながら、涙で読み終えました。気持ちが疲れている人に、お勧めしたい本です。
2008.06.30
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先日見た映画「砂の器」といい、この「彗星物語」といい、私の涙腺どうかなっちゃったんじゃないの?と言いたくなるくらい泣けました。涙もろいのは年のせいだよ・・・陰の声も聞こえてきそうだけど。主人公は50代の専業主婦敦子さん。家族は夫とおじいちゃん。子どもは4人。それだけでも私のような怠惰な主婦から見ればフゥ~ってため息が出そうだけど、それに加えて夫の妹が離婚して、4人の育ち盛りの子どもを連れて帰ってきた!おまけに夫の事業が失敗して、屋敷を売って狭い家暮らし。そして、夫が裕福だった頃に全て面倒を見ると約束していた、ハンガリー人の留学生を迎えて、総勢13人。それと、主要な登場人物(?)のビーグル犬。どうです?主婦の皆さん。私ならヒステリー起こして、家出かも・・・・家族が多いと当然、いろんな事件が次から次へと起こります。普通の日本人だけでもそうなんだから、国民性の全く違うハンガリー人ボラージュも絡んで、それはもう丸くおさめようったって収まらない!敦子さんもがんばりますが、それを陰で支えるのはおじいちゃんです。飄々ととぼけた味のおじいちゃんですが、ここ一番の大事なときには、強力な助け舟を出してくれるその頼もしさ。軽妙な大阪弁で雰囲気を和ませてくれるおじいちゃん。いいな~!こんなおじいちゃん。そして、世代の差、国民性の差を埋めてくれたのは、ありきたりな言葉だけど、愛でした。人間の一生には彗星の尾を引く光に似た出会いがいっぱいあるんだなあ。悠久の宇宙から見れば人の一生なんてほんの一瞬だけど、一生懸命生きていこう。家族の愛情を確認したい方。すてきなお母さんになりたい方。社会主義国の国民が自国をどう考えていたか知りたい方。本気で勉強するってどういうことか知りたい方。(この留学生はほんとうによく勉強しました。私は日本人が恥ずかしくなってしまったくらいです)そして、犬が大好きな皆さんにも。この本を強くおすすめします!!
2008.06.21
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先日松本清張の「砂の器」を読みましたが、「砂の器」の映画を絶賛する書き込みを頂きました。やっとDVD借りてきて、見ましたよ。ほんとうに、素晴らしい映画でした。思い切り泣いてしまいました。原作の方は、ベテラン刑事がわずかな手がかりから少しずつ犯人像に迫っていくところが、いちばんの魅力でしたが、映画の方はちょっと違います。映画の捜査ぶりは、原作の地道な捜査の雰囲気を損なうことなくうまく省略されていて、意外に早く犯人にたどりつきます。が、映画の見所は、犯人を確定できた後でした。原作にはない親子の逃避行が、映画では丁寧に描かれています。考えてみれば、なんというひどい時代だったんでしょうね。伝染病に対して無知な時代だったとはいえ、親子して追われるように故郷を出て、あちこちで迫害されなければならなかったとは。警官にまで、病気であることを理由に村に入ることを拒否される。それが当たり前に行われていたとは。そして、最後に父親が息子の写真を見るシーンは、本当に悲しかった。社会的に成功した息子、その写真を見て知らない人だと言い張る父親、やっと息子を探し当てた親切な元警官。それぞれに押さえた演技が光り、見ごたえがありました。砂浜を歩く親子のシルエットが、とても印象的でした。
2008.06.17
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ずいぶん前に読んだ「空夜」(くうや)の続編です。「空夜」は、福岡県の山村でワイナリーを営む女性の、幼なじみとの恋愛を描いた小説でしたが(うろ覚えなので、ちょっと違っているかも)こちらは、その山村の環境を守るため立ち上がった村の物語です。若い頃は山村から離れられない自分の運命を呪うヒロインでしたが、次第に故郷を大切に思い、愛する人と故郷を守ろうとする・・・と書くと、ちょっと宮本輝さんのキレイ系の小説を思い浮かべるかもしれませんね。だけどこの本は、村を囲む山向こうに建設されつつあるごみの処理場の嘘を暴き、行政をも動かすという、かなり骨太な内容でした。環境問題やごみに関する啓発パンフなど、いくら読んでもきれい事のように感じられてもう一つピンと来ないものが、この小説のおかげで、よく分かりました。リデュース・リユース・リサイクルとよく言われるけれど、事態はかなり深刻で危険な状態です。特に、地中にしみ込んでしまった有害物質は、外からは見えないけれど、何十年も先になってから地下水に影響を及ぼすこと。地下水はインターネットのようにつながっているので、遠方にも影響が出ること。戦争中に中国大陸にばら撒いたり埋めたりした大量の爆弾や毒ガス弾。戦争を仕掛けたお偉いさんはみんな死んでしまって、下っ端の兵隊たちは年をとってしまった。土の中にある不発弾や毒ガス弾を取り出しているのは、戦争を知らない若い者たちだ。費用も若い者の負担だ。ゴミも同じこと。我々が死んだ後、50年先、100年先の日本人に尻拭いさせるようなことをしてはいけない。この分かりやすいたとえ話が、とても印象に残りました。 さて、我が家では先日から「ダンボールコンポスト」というのを始めました。ダンボールに入っているピートモスに微生物の元みたいなのと生ゴミを入れてよくかき混ぜるだけで微生物が生ゴミを食べてくれ、良質の堆肥になってくれるというもの。これまであったコンポストと違ってマンションのベランダでもできると言うのが、うれしいです。野菜の皮も、魚の骨も、賞味期限切れの豆腐も、一晩でなくなります。廃油や米のとぎ汁もOKって、すごいでしょ?(しかも必要なものがセットで、わずか880円!どこで売ってるか知りたい人は、こっそりお教えしますのでメールくださいね)というと、台所から出るごみの量が減ったでしょ?って思われるかもしれませが、意外にも台所からは相変わらずけっこうなゴミが出ています。それは、ひとえに包材が多いせいです。考えてみてください。トマト一つ、ねぎ一束買うにも、必ずビニールの袋に入っていますよね。納豆もお豆腐もパック入り。レトルトは紙箱に入っているし、パンを買えば一つ一つ袋に入れてくれます。これでは、家庭内でごみを減らそうと生ゴミを処理しても、たいした効果は出るわけありません。家庭での努力も大切ですが、行政の思い切った改革を期待したいと思います。
2008.06.13
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たとえば、福袋を開けるときの気持ち。うれしい気持ちと、楽しみな気持ち。早く中味が見たい。でも、楽しみはもっと先にとっておきたい。どんな物が入っているだろう。気に入るだろうか。気に入らない物だったらどうしよう。実は人生も、福袋みたいなものなんだ。いい物が入っているのか、そうでもないのか、開けて見なければわからない。好みにバッチリ合って、うれしくて楽しくてしょうがないという物は、まずたいていの場合入ってない。中には、こんなのいらな~い!って言いたいものも、あるでしょう。けれど、そこそこ使えそうなもの、まあまあ付き合えそうなものが、いくつか見つかるはず。それを大切に、楽しんでいけばいいんだ。というようなことを、角田光代さん流に淡々としたストーリーにした、短編集でした。無理やり預けられた段ボールの箱。ごみ置き場にあった、紙袋。恋人のケータイ。元夫に来た同窓会の案内。赤ちゃんのおむつ。いろいろなものを「開ける」ことが主題で、開けたことから主人公の人生がささやかに動く。すみずみまで目が行き届くような、角田光代さんのタッチが優しくて、読み心地がとてもよかったです。ところで、この本の表紙。袋の中にこんなのが入ってたらうれしいだろうな、という女のこの好きなものがいっぱいあふれています。バラやマーガレットや色とりどりのおもちゃめいた造花。金色のちっちゃい額縁。耳がピンクのワンコ。お人形の洋服や、首にリボンを結んだうさぎ。人生って、こんなかわいいものが詰まってるって、信じてた頃もあったのよね。
2008.06.12
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ここのところ、一ヶ月10冊程度の読書量です。ヒマさえあれば読んでた頃に比べれば、読書量が減ったなあと思うのですが、読書以外にもけっこう用事があったりして、まあまあいいペースでしょうか?この頃疲れ気味なのか、睡眠不足なのか、乗り物の中で読めなくなりました。本を開いたら、即、爆睡です。悲しいなあ・・・・1 「妖気切断譜」 貫井徳朗 この時代の医学で、こんなことできるわけないって、ちょっと不満。2 「最後の藁」 夏樹静子 この人の作品は昔は夢中で読んだけど、今はなんだかものたりない。3 「豚キムチにジンクスはあるのか」 絲山秋子4 「アルゼンチンババア」 吉本ばなな よかった!おもしろかった!映画も見てから感想アップしますね。5 「ララピポ」 奥田英朗6 「阪急電車」 有川浩 実は、阪急電車とは浅からぬ縁のある私。まあまあおもしろかったです。7 「ある小倉日記伝」 松本清張 短編がたくさん収録されていて、読み応え満点でした。8 「英国ファンタジー紀行」 山田史子9 「禁断のパンダ」 拓未司10「砂の器」 松本清張11「避暑地の猫」 宮本輝
2008.06.04
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