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2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんの評伝である。
修士号も博士号も持たない無名のサラリーマンがノーベル賞を受賞したということで、たいへんな話題になった当時を思い起こす。いまは落ち着いて仕事に没頭できているだろうか。
あらためて田中さんの言葉を読むと、普通であることがいかに素晴らしいことかを想起させられる。筆者が最後に、「小学校のときクラスに必ず1人はいた、日本人みんなの思い出のなかにいる懐かしい“あのタナカくん”」(202ページ)と表現しているが、まさにその通りである。成績がトップなわけではなく、スポーツができるわけでもなく、ルックスが良いわけではない。かといって、友だち付き合いが悪いわけでもない。そんな“タナカくん”がノーベル賞を受賞したことで、日本人の誰もが、まるで友だちがノーベル賞を受賞したかのように感じたのではないだろうか。
その“タナカくん”だが、生後間もなく母が亡くなり、養父母の手で育てられたという。大学へ入る前にそのことを知らされて葛藤したこと、その影響もあって大学では1年留年してしまったこと、第1志望の会社に入れなかったことなど、人知れぬ苦労があったようである。
それでも、地道に努力を重ね、サラリーマンとして会社につくし、妻を大切に想い――だからこそ、なおのこと身近に感じるのかもしれない。同じ技術者として、会社と対立をした青色発光ダイオードの発明者、中村修二さんへの配慮も忘れない。
おそらく、“タナカくん”にとって、ノーベル賞は1つのイベントに過ぎなかったのだろう。“タナカくん”は科学者ではなく技術者である。毎日、コツコツと技術を磨き、社会に貢献できることが“タナカくん”の誇りなのだと思う。
技術者として、かくありたいと、あらためて肝に銘じる次第である。
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