PR
キーワードサーチ
フリーページ
Winny事件から、オープン・ソースの理念と現実、インターネットを巡る国際情勢まで、技術史とキーマンへの取材の両面からよく整理されている。技術者としてコンピュータとつきあっていると、ハードウェアやソフトウェアの設計の裏に隠れている理念に触れることが多い。本書は、そんな先達の考えを知り、自分なりの理念を考えていくときに参考になるだろう。
本書の前半では、Winnyの生い立ちから、逮捕された作成者の一審結審までが紹介されている。PCに感染し、Winnyネットにファイルを流出させるAntinny.G――通常「キンタマ・ウイルス」――は、作成者が逮捕される直前に登場した。その3日後に、作成者の取り調べを進めていた京都府警から、キンタマ・ウイルスによる情報漏洩が発生する。おそらくWinnyの配布を阻止したいがために、京都府警は作成者を逮捕したのだろう。それが最悪の結果を招いた。逮捕された作成者はWinnyのバージョンアップができなくなり、Antinny.G対策が打てなくなった。一方、Antinnyシリーズは次々と亜種が登場し、逮捕後3年を下手にもかかわらず、情報流出を止めることが出来ない。そして、ついに警視庁から、公安情報を含む莫大な調査資料が流出してしまった。
リアル世界で暮らす人々は、バーチャル世界のメリット/デメリットに疎すぎる。
IT業界でも似たようなことが起きている――新規システムの設計をしている際、私は、ある部分をオープン・ソースにした方が良いと感じることが少なくない。まったくの新技術の部分は、もっともっと普及させるべきだし、こちらとしても自信がないので多くの技術者にレビューしてもらいたい。そんな観点から、オープン・ソース化を会社に提案することがある。しかし返ってくる答えはいつも同じ――「そんなことをして儲かるのか?」。
儲かるかどうか、これがリアル企業の唯一の指標である。
だが、ファストフードの店員がお客さんに「スマイル=0円」で接客しているのと同様、IT技術者も、お客さんのため、ひいては公共のために何かしてあげたいと感じているはずである。それが品質を超える「サービス」を産み出す原動力であり、日本の強みであると信じている。
もちろん特許やライセンスで囲むべき部分は必要だが、ほんの一部だけ、皆さんへのサービスとして開放しても良いではないか――この点で、私はリアル企業と衝突する。だからリアル出世はできない(苦笑)。
もっとも、かれこれ四半世紀にわたってリアル現場で仕事を続けていられるというのは、ある意味、幸せではある。本書には、パソコン業界がサブ・カルチャーから誕生した歴史が書かれている。この歴史の結末がどうなるのか、これからも自分の目で見ていきたいと思う。
■メーカーサイト⇒ 文藝春秋 ネットvs.リアルの衝突
■販売店は こちら
【SFではなく科学】宇宙はいかに始まった… 2024.10.20
【大都会の迷路】Q.E.D.iff -証明終了… 2024.10.06
【寝台列車で密室殺人事件?】Q.E.D.if… 2024.10.05