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コンピュータが将棋の可能性を読み尽くして必勝法を発見したら、対戦してみたいと思っている。
「『将棋を指すうえで、一番の決め手になるのは何か?』と問われれば、私は、「決断力」と答えるであろう」(56 ページ)というのが本書のタイトルの由来であろう。
本書では、棋士・羽生善治らしい簡潔な言葉が随所に見られる――「知識は、『知恵』に変えてこそ自分の力になる」(26 ページ)、「経験は、時としてネガティブな選択のもとにもなる」(30 ページ)、「決断とリスクはワンセットである」(71 ページ)、等々。
棋士は大変な仕事だと思う。羽生さんほどのタイトル・ホルダーになれば、1 年の 80 日以上が対局に費やされるという。加えて、勝てなくなれば引退するしかない。
でも、私らサラリーマンからすれば、羨ましい部分もある。「これ以上集中すると『もう元に戻れなくなってしまうのでは』と、ゾッとするような恐怖感に襲われることもある」(89 ページ)――サラリーマン生活で大変な仕事は何度もしたが、こんな気持ちになったことは一度もない。いままでの仕事は本当に“大変な”仕事ではなかったのだろうが、一度くらいはこんな気持ちになる仕事をしてみたいという思いはある。
羽生さんの世代は、コンピュータの力を借りて強くなったと言われている。すべての大戦をデータベースに記録し、インターネットを介して 24 時間どこにいても棋士同士が研究に参加できる。それが強さの源泉だという。
ところが本人は、「コンピュータが将棋の可能性を読み尽くして必勝法を発見したら、対戦してみたいと思っている」(164 ページ)と飄々としたもの。「人間と指す印象と違うのでほないだろうか」とも言う。
かつて人工知能の研究をした私も同じことを感じる。コンピュータに莫大な知識をおさめ、活用することはできるのだが、ヒトの知恵ではない異質な感じがするのである。コンピュータは、ヒトとはコミュニケーションをとることができない化物に進化するのではないかという恐れを抱く人がいるのも分かる気がする。
Google が言うところの「集合知」が、そういう方面へ転ばないように願うばかりである。⇒(参考) 「みんなの意見」は案外正しい
羽生さんのライバルで、私と同世代の谷川浩司・棋士が書いた「 集中力 」が同じ出版社から発刊されている。羽生さんとは違った側面からコンピュータを分析している部分があり、比較すると面白い。
■メーカーサイト⇒ 羽生善治=著/角川書店/角川グループパブリッ/2005年07月発行 決断力
■販売店は こちら
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