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著者・編者 | 佐野正弘=著 |
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出版情報 | 毎日コミュニケーションズ |
出版年月 | 2011年05月発行 |
冒頭で、老舗の「コロブラ」の紹介と、成功の裏に隠された努力が綴られている。
私はかつて、PHP による位置情報確認システムの仕事に携わったことがあるが、その失敗の後に「コロプラ」があることを知って、感慨深いものがあった。成功したシステムの背後には、屍が累々と積み上がっているものだ。
「コロブラの場台、お金を払ってでもサービスを楽しみたいという熱心なユーザーが多数存在し、それによって運営が支えられた」(50 ページ)という。これは本書を読み進んでいくとわかるのだが、携帯電話ではサービス提供者とユーザーの間に WIN-IN の関係が成立しており、課金モデルが確立されている。フリーソフトを基盤に育ってきた PC とは、文化の違いがある。
中盤では、ケータイ国盗り合戦、しろつく、foursquare、ロケタッチに触れられているが、面白いのはガラケーの復権をアピールする終盤だ。
まず著者は、「IT 先進層による“ガラケー批判”には、危惧すべき要素が少なからずあると筆者は感じている」(172 ページ)と書き出す。そして、「スマートフォンのアプリ市場は、プラットフォーム事業者(Google や Apple)の都合が大きく影響してしまい、Win-Win の関係を築かなかったため、利便性や収益性が大幅に低下、不便で儲からないものになってしまっている」(193 ページ)と指摘する。前述のようにガラケーでは課金モデルが成立しているのに、なぜスマホでこれを壊すようなことをしているのかという疑問を投げかけているわけだ。
また、「パソコンよりすそ野の広い携帯電話の利用者に対し、“オープンだけど複雑で自己責任”ではなく、“制限されているが動線が整っていて利用しやすい”という環境を提供したことで、iモードをはじめとしたモバイル・インターネットは成功を収めた」(185 ページ)とも書いている。実際、新聞で報じられていたが、ガラケーからスマホに乗り換えたユーザーからの苦情が増えているそうだ。スマホはガラケーの高機能版ではない。あくまで PC の機能縮小版であって、だから私のような PC 人間は抵抗なく入っていける。
だが、ガラケー利用者が圧倒的に多い日本で、わざわざ海外企業を利するようなビジネスモデルに作り直す必要があるのだろうか? これではサービス提供者とユーザーの関係は Lost-Lost である。
著者も、「グーグルやフェイスブックなど世界市場で高いシェアを持つ企業を称賛し、日本から独自の新しいものを生み出そうとすることを悪しきものとする、完全な“思考停止”ではないだろうか」(195 ページ)、「世界に打って出ることができないといわれる日本の lT ・インターネット産業だが、そこに足りないのは、英語力でも、自己批判でもなく、ガラパゴス・アレルギー」(197 ページ)と警鐘を鳴らす。
最後に、東日本大震災と位置情報ビジネスについて少しだけ触れられており、「位置という極めてローカルな情報が、日常的なコミュニケーションだけでなく、こと災害時において大いに活用できる可能性は非常に高い。それゆえ今後、位置情報とモバイル、インターネット、ひいてはソーシャルメディアとの組み合わせによって、災害対策により貢献できる形が生み出されることを、切に願いたい」(209 ページ)と締めくくられる。
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