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著者・編者 | 野村進=著 |
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出版情報 | 文藝春秋 |
出版年月 | 2014年8月発行 |
新撰組に御用の縄を納めていた近江屋ロープの野々内達雄社長は、「ひとりのユーザーさんを心底満足させられたら、ほかのおおぜいのユーザーさんのご希望にもきっと応えられるはず」(43 ページ)と語る。野村さんは、「代々家業としてきた本業を守り、かりに新たなビジネスを手がけるにしても、本業の“レール”の延長線上からは決してはずれない。この本業力こそ、つぶれない老舗の共通点のひとつ」(45 ページ)と指摘する。
減築により古びた巨大団地を生き返らせるヤシマ工業の小坂幸彦・副社長は、「『正義の味方』求めます」という求人広告に惹かれて入社したという。同い年の者として、その気持ちは理解できる。
同業者の信頼も厚く、ミサワホーム本社ピルの外壁まで改修している。単なる商業主義ではなく、公を尊ぶ社風のためである。
野村さんは、「『正義の味方』は、一見ばかばかしいほど単純に思えて、実は老舗企業のバックボーンにあるものを、だれにでもわかる形で示した言い方」(90 ページ)と指摘する。
プラスチックキャップのトップメーカー三笠産業の中興の祖、林田孝一は、住友商事から、金型の特許の譲渡を持ちかけられたとき、こんな芝居がかった吹阿を切ったという。
「住友さん、三笠の技術ちゅうのは、私、林田孝一の命より大切なもんだす、私は死ねばそれで終わりでんね、そやけどこの三笠の技術というのは、林田孝一が死んだ後もずっと残していく財産ですんで、この技術は絶対にお渡しできません、そのかわり、不良のない製品をしっかり納入することを約束させてもらいますで」(181 ページ)。
野村さんは、三笠のキャップが海外のニーズを遙かに超える過剰品質である事を紹介し、「鎧兜や鉄砲からガラケーにまで一貫している過剰品質を否定したなら、日本の技術の最良の部分が失われはしまいか。日本の老舗を老舗たらしめているものを奪う結果にもなるのではなかろうか」(193 ページ)と指摘する。
吉川廣和・ DOWA ホールディングス会長は、「夢は一人ひとり違うのです。それなのに、社長が一人ひとりの夢に対応できるわけはないじゃないですか」(231 ページ)と語る。まったくその通りである。今日、夢を手帳にした某飲食系企業の創業者にはブラックのレッテルが貼られた。野村さんは、「一族経営と非上場が、日本の老舗企業を語る際に不可欠な二大要素」(204 ページ)とまとめる。
私は、やりたい仕事があり、東証一部上場企業から一族経営・非上場の中小企業に転職した。上場し、有能な社長をヘッドハンティングしてくるのは、一瞬の輝きに過ぎないと感じたからだ。一流企業では粉骨砕身努力して歯車で終わるが、老舗企業では、100 年、200 年の歴史を刻む礎となれる。
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