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著者・編者 | 前川喜平=著 |
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出版情報 | 毎日新聞出版 |
出版年月 | 2018年6月発行 |
けれども、冒頭から矛盾が見られる――たとえば、「公務員は匿名」であり、「私個人の名前の入った文書であっても、それは私個人の意思を表したものではない」と記す一方で、後輩官僚に対しては「自分が尊厳のある個人であること―(中略)―を忘れてはならない」(4 ページ)という相矛盾したメッセージを送っている。また、「組織に残る以上は面従せざるを得ない」(14 ページ)と記しているが、これもおかしい。組織が違法行為をしろと命じた場合、それに従ったら犯罪幇助である。
前半は、ご自身が携わってきた文部科学行政を振り返り、論評を加えている。ユネスコの政治化や、国歌斉唱・国旗掲揚については学習指導要領に記されているのだから私立も同じように対応しなければいけないのに効率だけ厳しく指摘されるなどの文科行政の矛盾は、たしかにご指摘の通りである。
このように仕組みやルールについては論理的に分析できている前川さんだが、個人に対する評価には理(ことわり)が見られない。たとえば、誘われて飲みに行った「7 年先輩の河野愛さんや 4 年先輩の寺脇研さん」(26 ページ)は高く評価するが、のちに愛知県知事となる加戸守行氏については「もともと国家主義的考え方の持ち主だ」(29 ページ)と切って捨てる。
また、沖縄県竹富町の教科書採択問題についても、問題自体を客観的に分析し、「教科書採択は各学校の権限にすべきである。複数の学校で同一の教科書を使わなければならない理由もないからだ」(113 ページ)と理路整然と結んでいるのだが、途中、「下村大臣、義家政務官の指示に従って―(中略)―完璧に面従していた」(108 ページ)と関係ない話題を書いてしまう。
こうした矛盾やギャップがどこから来るのか――「内心においていかなる法も規律も認めず、国家に従属したり国家の部分として存在したりすることを拒否するという意味において、私はアナキストだったとも言える」(24 ページ)という独白を読んで納得した。前川さんは、法令遵守を基盤とする民主主義、科学的合理主義とは相容れない方なのだ。たとえば、南京大虐殺が史実であるという前提に立って、「法律も万能ではない。法律が決めたからといって教育内容として妥当だとは言えない」(125 ページ)と書いてしまう。第3章の教育基本法改正に対する反論も、ルールや論理に立脚していないがために、いまひとつ説得力に欠ける。
そして第4章は、京都造形芸術大学の寺脇研氏、毎日新聞の倉重篤郎氏と 3 人で、加計学園問題についての対談となっている。前川さんは、獣医学部は卒業まで学生1 人当たり 2000 万円の収入になるから、学校は儲かると語る。教職員の人件費は、実験費は、施設維持費といった経費は算定しないのだろうか。そして、獣医学部新設は密室で決まったこととして、多くの政治家や官僚の名前を並べ上げ、陰謀論のような話になってゆく。
前川さんは、巻末で Twitter をやっていたことを白状し、いまは非公開にしていると結んでいる。最後まで、ご自身に不都合なことには触れず、たしかにアナーキストの独白を読んでいるような印象を受けた。
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