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著者・編者 | 岩淵潤子=著 |
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出版情報 | 筑摩書房 |
出版年月 | 2014年2月発行 |
著者は、アグロスパシア株式会社(http://agrospacia.com/)取締役・編集長の岩淵潤子さん。「もともとフランス系カトリックの一貫校で小学校から高校までを過ごし、その後、アメリカ、イタリア、イギリスなどでかなりの期間を過ごし、欧州各国、南米やアジアの国々を旅して回った筆者にとって、キリスト教、あるいは、『教会』という施設は、決して珍しい存在ではなかった」(15 ページ)と豪語するので、期待して読み始めたのだが‥‥
ネタバレで申し訳ないが、本書は『ヴァティカンの正体』を記してはいない。「あとがき」を除く最後の 7 ページ目で、岩淵さん自身が「本書の目的はヴァティカンとカトリックの教えを知るための教養書ではなく‥‥」と書いているのが「本書の正体」である。
読んでいる方が「ええー!」となった。
冒頭で、映画(原作ではなく)『ダ・ヴィンチ・コード』『ゴッドファーザー』を引き合いに出し、メディアとしてのヴァティカンや、マネーロンダリング疑惑を述べ、後半までネットで拾える程度のローマ・カトリック史が続く。いかんせん、史料や現地取材がないので、よくあるキリスト教史の入門書だと思って読んでいたにもかかわらず、である。
惜しむらくは、終盤に少しだけ触れられている、チャールズ 1 世の収集した美術品と、ピューリタン革命後にクロムウェルが、それらを売却したという下りがユニークであること。「筆者は 1990 年代半ばの 3 年間、毎年、春から夏をロンドンで過ごしながら、エセックス大学の博士課程に籍を置いて、表向きは『世界に散逸したチャールズ 1 世の美術コレクションについて、その価値の再評価を行う』という研究テーマで、『なぜ英王室の美術コレクションはパッとしないのか』について、リサーチを行うことを決意した」(174 ページ)と書いてあるとおり、この下りはユニークである。もちろんヴァティカンとは関係ないのだが、二束三文で売られたレンブラントの行方を追っていくと、もっと面白い本になったと思う。
岩淵さんは、最後に「ハリウッドのやり手のプロデューサーやディレクターが『クール・ハリウッド』などと言わないのも、当たり前のことだ。みずからを『クール』と呼ぶのはクールではない‥‥というか、むしろ恥ずかしいことなのである」(215 ページ)とクールジャパンを批判し、日本将来についてヴァティカンを見倣うことを提案する。だがしかし、ワシは、本書のように首尾一貫性に欠ける政治が、わが国の将来に暗い影を落としていると考えている。また、法律や政省令でがんじがらめにしている点もいただけない。ヴァティカンに学ぶべき所があるとすれば、本書でも「『標準化』と『ローカライゼーション』という、今の時代のグローバル企業が経営戦略上、最も重視することに原始キリスト教団がごく早い段階から取り組んでいたことは注目に価し、また、現在のヴァティカンが、当然ながら、その延長上に存在しているということを忘れてはなるまい」(32 ページ)と触れているように、キリスト教の公会議のように、最大公約数的な「標準化」を行い、あとはローカルルールに任せるという点ではないだろうか。そして、この方式は ISO に踏襲されている。
岩淵さんが、美術品と映画とアップル(「さらにマニアックな解説をすると―(中略)―なんとアップルの製品は三位一体を具現した存在」199 ページ)が好きであることはよく分かったが、本書で護国卿クロムウェルを「反面教師」としているように、本書を反面教師として歴史を学び、わが国の将来について考えを致すことにしたい。
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