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2019.05.27
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カテゴリ: 書籍
母子手帳のワナ

母子手帳のワナ

 子供が病気にかかりやすい、治りにくい、アトピーやアレルギーなどに悩まされる、そうした問題の大部分は、生まれる前に親の世代が受けて来た過剰な医療行為や、生まれてからすぐに受ける行き過ぎた医療介入が原因(10ページ)
著者・編者 高野弘之=著
出版情報 四海書房
出版年月 2016年7月発行

「ワクチンを射(う)つ」という不思議な言い回しをしている本があるということで、読んでみた。著者は、東京世田谷区で「可能な限り薬にたよらない自然派小児科」を開業している高野弘之さん。1971 年生まれである。
扉を開くと、免責事項として、
 ・本書で取り上げられている母子保健の方針は著者個人の試みです。
 ・本書で取り上げられている効果等は、あくまで著者の研究による個人的な見解の表明であり、株式会社四海書房はその効能を含む一切について保証をしません。
 ・また、本書に取り上げられている療法のすべてについて、株式会社四海書房は一切の照会に応じられません。また特定の医師の紹介、推薦をすることもできません。
と記されている。

まず、本書を読む前に確認した事実を書いておこう――高野さんが経営するクリニックと同じビルに、レメディと呼ばれる飴玉をなめると全ての怪我や病気が治るとする日本ホメオパシー医学協会が入っている。日本豊樹自然農業株式会社において、農薬と化学肥料をまったく使わず、作物と土壌の生命力を最大限に引き出す「ホメオパシー自然農法」を実践している。会員制サイトで通販を行っており、玄米は 500 グラム 1900 円と、市販のコシヒカリの 4~5 倍のお値段である。

冒頭で、?野さんは、「子供が病気にかかりやすい、治りにくい、アトピーやアレルギーなどに悩まされる、そうした問題の大部分は、生まれる前に親の世代が受けて来た過剰な医療行為や、生まれてからすぐに受ける行き過ぎた医療介入が原因」(10 ページ)と言い切る。これは、科学ではなく宗教で言うところの因果応報思想である。
そして、母子健康手帳(母子手帳)の成長曲線について、「グラフの標準範囲と、あなたの赤ちゃんの成長に、それほど関係はないのです」(16 ページ)という。関係がなかったら、その時代の子どもの成長・体格の統計情報を反映し、定期的に母子手帳が改訂されるわけがない。
また、冒頭で「人工乳の利用を否定するものではありません」(70 ページ)と書きながら、最後まで母乳のことしか書いてない。

予防接種欄については、「このようなページがあることで商店街のポイントカードやスタンプラリーのごとく空欄を埋めて行くべきものだと暗示がかかる」(18 ページ)と指摘した上で、「私は、診察で母子手帳を見せてもらってワクチン欄が真ッサラの空白だった時はちょっとしたカタルシスを感じます」と述べる。予防接種反対は自己満足だったのか。
「予防接種のワクチンが対応しているのは、すでに現在の日本社会には存在していない感染症」(20 ページ)と、ワクチン接種には全面反対の?野さんだが、これはおかしい。たとえばポリオについては、少ないながら海外では感染例もあるし、そもそもポリオをここまで封じ込められたのはワクチンのおかげである。それを打つなと言うのは本末転倒。つい 30 年前まで、ポリオによって 150 万人以上の子どもが死んでいたのだ。
HPV ワクチンの効果は最大でも 0.15%と見積もっているが、その根拠は、子宮頸がんの発症率は 0.15%だから――これも滅茶苦茶。しかも、この数字は世界統計で、日本国内 20~30 代女性に限ると 0.57%と大きくなる。統計の誤魔化しである。
そして、予防接種は一切不要で、
 ・幼少期に病気にかかって自然治癒することで、本当の免疫を身につける。
 ・病気の症状を積極的な解毒の機会と考え、対症療法をしない。
 ・食生活を見直す。
と締めくくる(118 ページ)。いつの時代の育児ですか、これは。

ワクチンのアジュバンドにアルミニウムが含まれていることについて、「アルミニウムは人体にとって全く不必要な物質」(124 ページ)と言い切るが、この仮説は検証されていない。ワクチン接種の有無に関わらず、人体には微量元素としてアルミニウムが含まれている。さらに、風疹のワクチンを子どもの頃に接種するため、妊娠適齢期になってワクチンの効果が薄れ、2013 年、風疹の流行が起きたという主張をしている。事実は、ワクチン定期接種の機会がなかったか、移行措置のために接種率が低くなった世代が感染していたのである。わずか 3 年前の出来事を、このように歪めてしまう書きっぷりは、いかがなものか。

新生児の出血を防ぐために飲ませる K2 シロップについては、その添加物が毒だという。10 年ほど前、山口で K2 シロップの代わりにホメオパシーのレメディを与え、生後 2 ヵ月の乳児が死亡した事件を思い出す。本書は 2016 年発行だが、ホメオパシー関係者は過去の死亡事故を意に介さないようである。

第3章では、母子手帳の成り立ちが GHQ と乳業企業による陰謀であると言い始め、トンデモの色合いが濃くなる。
子どもを虫歯にしないためには、3 歳まで砂糖を接種させない。虫歯菌の有無は関係ない。フッ素塗布は不要と主張する。だが、これとは全く逆の育児をしたわが子に虫歯がないことが、この主張の反証である。
また、フッ素は魂の座である松果体を石灰化させ、霊性を下げるという。いよいよトンデモである。逆に考えると、ホメオパシー関係者の間では松果体に魂が宿っているととらえているのかもしれない。フランスの哲学者・数学者のデカルトが、松果体を「魂のありか」と呼んでいたことに由来するのだろう。

第5章では、ノーベル平和賞を受賞したアルベルト・シュバイツァーの言葉を引用し、「内なるドクター」が「自己治癒力」であるという先入観を与え、これについて述べる。
まず、創傷を消毒してはいけないということだが、これは感染していないという前提条件がつく。本書のように、無条件に消毒してはいけないというのは危険だ。
また、症状は治療過程だと言い切り、「高熱自体は悪くない」とする。タミフルは危険行動誘発剤だという。
内なるドクターに働くチャンスを与える「世界の五大療法」として、アロパシー、ホメオパシー、ナチュロパシー、オステオパシー、サイコパシーを挙げる。どれも代替医療といえば聞こえがいいが、要するにトンデモである。
デトックスについても触れている。「人生において最大のデトックスの機会は出産」(247 ページ)――(自)意識高い系の母親が赤ん坊を虐待するケースは、デトックス思想の延長かもしれない。

最終章では、こうしたトンデモを子どもに施したあげく、医師が児童相談所に通報した事例を取り上げ、「拉致まがいの一時保護」と言い切る。こうして母親を標準医療や社会福祉体制から切り離し、ホメオパシーをはじめとするトンデモ医療に帰依させるのだろう。おそろしいことである。






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最終更新日  2019.05.27 12:03:03
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