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2019.06.16
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カテゴリ: 書籍
コーヒーの科学

コーヒーの科学

 豆の中では熱によって化学反応が励起され、生豆中の成分から新たな物質が生成、さらにそれがまた別の反応を起こし‥‥と非常に複雑な化学反応が順次進行していきます。これら一連の、焙煎に伴う化学反応は「焙焦反応」と総称されます。(178ページ)
著者・編者 旦部 幸博=著
出版情報 講談社
出版年月 2016年2月発行

日頃、コーヒーを愛飲しているが、その味や店舗に関する情報はよく目にしてきたのだが、生物学的特性や歴史については知らないままだった。本書は、コーヒー豆がなるコーヒーノキの生物学的特徴にはじまり、精製、焙煎、抽出のプロセスを科学的に説明する。とくに焙煎プロセスは化学変化であり、香味や泡、色などが、全てこの工程で生成されるということを再認識した。自宅でできる焙煎や抽出のテクニックも織り交ぜられている。
全体を通して、コーヒーを科学的に知ることができ、とても勉強になった。
最後に、旦部さんが提示した「コーヒーとは何か」という問いかけに対し、私は「座右の飲み物」と答えたい。自宅でも職場でも、私のデスクには常にコーヒーが置かれている。

著者は、微生物感染症学が専門で、学生時代にコーヒーにはまったという旦部幸博さん。人気コーヒーサイト「百珈苑」 https://sites.google.com/site/coffeetambe/ を主催する。
まず、コーヒー豆がなるコーヒーノキについて図版入りで説明が始まる。コーヒーノキは、染料の原料となるアカネや、マラリアの特効薬キニーネが発見されたキナノキが属するアカネ科の植物である。アカネ科コーヒーノキ属は北回帰線から南回帰線までのコーヒーベルトで見ることができ、125種がある。そのうち、コーヒー豆を採るために栽培されているのは、アラビカ種とカネフォーラ(ロブスタ)種の 2種だけという。中でもアラビカ種は 4 倍体で、かつ自家受粉するという珍しい植物だ。また、コーヒー豆は、ダイズやアズキなどの豆類と異なる構造をしており、胚乳が残存しており、ここにカフェインが含まれる。カフェインは、近くに生えている植物の生育を抑えたり、一部の昆虫や、ナメクジやカタツムリに対して毒性を示す。
コーヒーの花は、雨によって開花が調整され、雨季と乾季がはっきり分かれる地域ほど、たくさんの花が一斉に咲く。花が散るとコーヒー豆が育ち、だいたい 8~9 ヵ月目くらいで完熟する。収穫した生豆は、精製、焙煎、抽出の加工を経て、コーヒーが作られる。

最初にコーヒーを利用していたのはアラビカ種の原産地であるエチオピア西南部の人々だと考えられているが、10 世紀ペルシアの医学者アル=ラーズィー(ラーゼス)の『医学集成』にコーヒーに関する記述が初めて登場する。
1723 年、フランスの海軍将校ガブリエル・ド・クリューが、パリ植物園から盗み出した 1 本の苗木を、カリブ海のマルティニーク島に伝え、栽培に成功。この 1 本の樹の子孫がカリブ海から中米一帯に広まり、世界のコーヒー生産の半分を占める最大産地になった。
1867 年、スリランカでコーヒーさび病が発生し、インド中のコーヒーが壊滅的打撃を受けた。スリランカのコーヒー園は荒廃し、後に紅茶を生産することになる。
ヨーロッパではナポレオン戦争後にコーヒーブームが起き、コーヒー豆の生産が本格化する。しかし、需要に供給が追いつかず、少ない豆でも作れるアメリカンや、代用コーヒーが誕生した。代用コーヒーは、ついにカフェインと同じ覚醒物質を発見できなかった代わりに、カフェインレスとして発展してゆく。
産業革命の進捗とともにコーヒーの焙煎、抽出技術も進歩し、イタリアでは 1948 年にガジア社がエスプレッソマシンを開発。高圧抽出が可能になったことで、「クレマ」と呼ばれる独特の泡で表面を覆われた、現在のエスプレッソが生まれた。
一方、1929 年、世界大恐慌の余波でコーヒー価格が暴落した際、ブラジル政府はネスレ社に、余剰コーヒー豆を用いた製品開発を依頼し、インスタントコーヒー「ネスカフェ」が誕生した。

コーヒーは苦いというのは万国共通だ。苦み感覚は食品に潜む危険を察知するものだが、大人になるまでの食体験の中で、その食品が安全だと学習することで平気になり、味の変化の一つとして楽しむようになるようだ。また、苦味受容の遺伝子も明らかにされ、先天的に苦みをあまり感じない人は、エスプレッソやブラックコーヒーを好む傾向がわかってきた。

1980 年代には、カフェ・バッハの田口護氏が、生豆の選定から抽出までの流れを一つのシステムとしてとらえ、おいしいコーヒーを科学的に考察し、定義した。
コーヒーの主要な苦み成分が、カフェインではなくクロロゲン酸の加熱物であることが分かったのは、2006 年のことだった。また、コーヒーの黒い液色の正体は「コーヒーメラノイジン」と総称される、焙煎の過程で生じる水溶性の褐色色素群だという。さらに、コーヒーの香味には精製中に生じる発酵が大きく影響しているといい、発酵に関わる微生物群をコントロールすることで、香味を調節する取組みもはじまっている。
コーヒーの科学は、現在進行形なのである。

焙煎の時に生じる化学反応によって、コーヒーの香味や色が決定する。焙煎は、多くのプロが「もっとも重要な工程」と位置づけているという。
焙煎が進むための必要条件は 2 つで、浅煎りで 180℃以上、深煎りでは 220~250℃に達する「温度」と、水分が十分に減ることだ。

私も自宅で「抽出」をやる方だが、ドリップ式はクロマトグラフィーと同じ原理だという。コーヒーを淹れるプロセスは化学である。また、挽いた粉を茶こしやふるいにかけて微粉を除き、粉の大きさを揃えると驚くほど味が変わるという。試してみよう。
焙煎時に作られた細胞壁表面の「どろどろ」の部分を抽出することで、コーヒーが出来上がる。また、多孔質の粉には、焙煎時に生成する二酸化炭素を主成分とするガスで満たされており、「どろどろ」にもガスが大量に溶け込んでいる。さらに、界面活性物質も混じっており、これらがお湯に触れ抽出されることで、泡ができる。
焙煎から抽出は、化学的なプロセスである。

コーヒーサイフォンは、サイフォンの原理を使っていないのだが、欧米では「吸引式コーヒーメーカー」「ダブル・ガラス風船型」と呼ばれているそうだ。ダッチコーヒーもオランダ由来ではなく、京都生まれの抽出法だ。

旦部さんは最後に、「コーヒーと健康」について、急性作用と長期影響に分けて解説する。急性作用は、カフェインによる覚醒効果や利尿作用が代表だが、長期作用は 2 型糖尿病を減らすとか肝がんの発症リスク低下などがある。急性カフェイン中毒とカフェイン依存についても紙面が割かされている。






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最終更新日  2019.06.16 12:35:06
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