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2019.11.04
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カテゴリ: 書籍
宇宙はなぜ哲学の問題になるのか

宇宙はなぜ哲学の問題になるのか

 無数の星をちりばめた天空は、どれほど美しい姿で私たちを魅了することができても、カントにとってそれは、現象の世界です。(96ページ)
著者・編者 伊藤邦武=著
出版情報 筑摩書房
出版年月 2019年8月発行

著者は、哲学者で紫綬褒章を受章した伊藤邦武さん。本書では、「宇宙の中の人間の位置」を考えていくとしている。

ギリシアの哲学は、宇宙を仰ぎ見ることから始まった。日本や中国の神話や、多くの国の民話も宇宙を仰ぎ見る。私は、澄み渡った星空を仰ぎ見る時の感動というのは、人類の探究心の源泉ではないかと感じる。今年(2019 年)のノーベル物理学賞が、最新宇宙論に関わった宇宙物理学者に贈られたというのも意義深い。
そもそも、二足歩行で不安定な背骨の上に巨大な頭蓋骨を乗せているにもかかわらず、なぜ真上を仰ぎ見る骨格になっているのか。どう考えてもバランスが取れなくなるわけだが――神様の粋な計らいであると感じる。
本書は、近代哲学の巨人カントを中心に、宇宙をめぐる哲学の流れを紹介する。

第1章では、ソクラテスに始まる古代ギリシアの哲学と星座の関わりを俯瞰する。伊藤さんは、「地球中心の惑星の運行の軌跡を一つのシステムにまとめる、というこの作業を集中的に行って、科学としての天文学の基礎となる考え方を作り上げたのがギリシア人たちでした」(30 ページ)と紹介し、科学としては天動説ではあるものの、哲学としては、デミウルゴスが数学的調和を求めてカオスとコスモスに作り替えたという点に着目する。そして、プラトンが述べた正多面体の多重構造宇宙の概念は、近代の天文学者ヨハネス・ケプラーによって再び取り上げられたとしている。
プラトンは、人間の魂には、欲求的部分、気概的部分、知性的部分の 3 区分があり、それぞれの長所を発揮して、調和ある全体へと至ることを「内なる正義」の実現と呼んだ。さらに、社会も同様の 3 区分からなり、それぞれの区分のもつ長所の調和あるバランスからなっているとすれば、国家社会の正義につながると述べている。
つまり、美的調和が正義に繋がるという考え方である。

第2章では、近代科学と近代哲学を紹介する。ニュートンの体系を哲学的な側面から理論的に補強したとして、大きくカントが取り上げられている。
伊藤さんは、『純粋理性批判』『実践理性批判』の 2 冊を通じて、カントは「ガリレイやニュートンのような近代的科学の成果が、人類に共通の客観性をもつことを、哲学的吟味を通じて証明し、あわせて、ヴォルテールやルソーのような自由と平等の思想が、人類に共通の目標となるべきであること」(90 ページ)を説明しているという。
カントは、宇宙の有限・無限問題を考察し、純粋理性は「世界は時間的、空間的に有限である」というテーゼと、「世界は無限である」というテーゼのどちらが正しいかを判断できない――これを含めた 4 つのアンチノミー(二律背反)を挙げ、そこから、「人間が生まれつきもっている認識の枠組みによって課せられた制約」(93 ページ)がある、すなわち、純粋理性の限界を示した。そして、「自然法則ではなく道徳法則によって支配される世界こそが、私たちの本当の世界であり、それはすでに存在する世界というよりも、これからその存在の実現が目指されるべき世界」(96 ページ)、すなわち実践理性には制約がないと説いた。
さらに、私たちがそれぞれの理性の能力を発揮して、共同体の共通の原理を考案しようとするとき、その共通の原理のことを「道徳原理」としている。カントが目指した道徳原理は、今日の国際連合の理念に繋がっている。
たしかに認識には限界があるが、道徳律に限界はないと思いたい。思いたいのだが、現実には、そうだろうか――。

第3章では、宇宙人を話題にして、現代天文学と現代哲学へ入ってゆく。
カントは、「人類と他の星の生命とが、人間社会におけると同じような道徳的連帯をもつことができる」という楽観的は宇宙市民説を唱えたが、伊藤さんは疑問を呈する。
現代科学は、科学法則が宇宙のどこでも同じように成立するという普遍原則に基づいているが、宇宙のほとんどが観測不可能なダークマターやダークエネルギーに満たされていると分かった今日、宇宙全体に科学法則が通用するだろうか。
ここで伊藤さんは言語哲学を紹介する。本書では触れられていないが、言語学者ノーム・チョムスキーによれば、わたしたち人類の脳にはあらかじめ 普遍文法 が組み込まれているから、たとえ言語が違っても相互翻訳が可能だと考える。では、まったく進化の過程が違う宇宙人と、わたしたちが遭遇したら――そもそも、われわれは彼らを知覚することができるだろうか?

夜空を仰ぎ見ることは、同時に、わたしたち一人一人が独立した存在であり、ある意味、孤独であることを再認識させられる。と同時に、自分の隣にいる人が、自分と同じように価値のある存在であると信じることができる。






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最終更新日  2019.11.04 12:48:38
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