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2021.04.09
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カテゴリ: 書籍
三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題

三体問題 天才たちを悩ませた400年の未解決問題

 結果として、「三体問題」は厳密な解を与える求積法だけでなく無限級数の形の方法さえも退けてしまったのです。これが、「三体問題は解けない」といわれる所以です。(157ページ)
著者・編者 浅田 秀樹=著
出版情報 講談社
出版年月 2021年3月発行

著者の浅田秀樹さんは、一般相対性理論、重力理論、理論宇宙物理学を専門とする弘前大学大学院の教授だ。
月は地球の周りを公転しており、その軌道は明らかにはなっているものの、ある時間における正確な位置を計算で求めることができない。これは、月の軌道に地球と太陽の重力が影響しているからである。月=地球=太陽のように、3 つの天体の運動を一般化することを「三体問題」と呼び、天文学・物理学・数学の未解決問題として、数世紀にわたって多くの学者の挑戦をはねのけてきた。20 世紀に入り、一般相対性理論が解法をさらに困難にする一方、コンピュータの急速な進化が新たな解法を提供する。
同世代である浅田さんが、あとがきに「筆者が理学部学生だったときに講談社のブルーバックスを楽しく読み漁った人間として、今こうしてその 1 冊を自分で執筆できることにとても感激しています」(248 ページ)と書いた気持ちは、とてもよく理解できる。

第1章・第2章では、解ける方程式と解けない方程式を紹介する。2 次方程式の解の公式は、中学の数学で習うのでご存じの通り。4 次方程式までは解の公式が存在する。ところが 5 次以上の方程式には解の公式が存在しない。解の入れ換えの組み合わせの数が大さすぎで、代数的に解くことが不可能になるためだ。1858 年、数学者のシャルル・エルミート、フランチェスコ・ブリオッシ、レオポルト・クロネッカーが、楕円関数を使った 5 次方程式の解法を発表した。この方法は「代数的に解くこと」ではない。

では、3 つの質量が関係する「三体問題」の解法はあるのか――第4章では、前提条件を置く制限三体問題として、オイラーが「直線解」を発見する。これは、各天体が全体の共通重心のまわりを円運動するものだ。
ラグランジュは、太陽系において直線界が許される場所が複数あることを証明した。アニメ「機動戦士ガンダム」でお馴染みのラグランジュ点である。太陽に比べて非常に軽い惑星と、質量をほぼ無視できる天体(ガンダムでは植民コロニー)の制限三体問題では、ラグランジュポイントの 4番目L4 と 5番目L5 が安定する。
時代は下り、1906 年、太陽と木星に対するラグランジュ点 L4 と L5 に小惑星群「トロヤ群」が発見された。

第5章では、三体問題の一般解を追求する。
ニュートンが発明し、ライピニッツやリーマンによって体系化された積分法は、微分方程式の解を求めることができる。つまり、ニュートンの運動方程式を時間に関して 2 回積分することができれば、三体問題を解くことができる。これを求積法と呼ぶ。
しかし、三体問題を解くには、17 個の互いに独立な「運動の定数」を見つけ出さなければならない。このうち 12 個はオイラー、ラグランジュ、ヤコビによって発見された。しかし、まだ 5 個が残っている。
そして 1887 年、ドイツの天文学者ハインリヒ・ブルンスによって、三体問題に関して互いに独立な「運動の定数」が存在しないことが証明されてしまった。こうして求積法による解法の道は閉ざされた。
さらに 1889 年、スウェーデン国王兼ノルウェー国王のオスカル 2 世の 60 歳の誕生日を祝う懸賞論文として、N 体問題を級数展開する課題を提示した。ところが、論文締め切りの直前、フランスの数学者アンリ・ポアンカレは、この課題設定が誤りであることを証明してしまう。

求積法や級数展開以外の解法はないのか――7章では、20 世紀半ばに成長した電子計算機によって、数値演算による三体問題の解法を紹介する。私が電算機の世界に入った時代であり、プログラムで繰り返し計算させることで力任せに微分方程式の数値解が得られるようになった。こうして、3 つの天体が十字状の軌道を描くように見える十字解や、8 の字ループを描く 8 の字解が得られる。8 の字解は SF のようだが、現実に、銀河あたり 1 個は存在しているという。

第8章では一般相対性理論を取り上げる。
20 世紀に入り、天体観測の精度が上がると、水星の近日点が移動していることが明らかになった。この現象はニュートンの運動方程式では説明がつかず、未知の惑星の存在も疑われたが、アインシュタインの一般相対性理論によって決着が付いた。
天体に働く重力は、ニュートンの運動方程式における力ではなく、時間と空間における幾何学(リーマン幾何学)の性質によるものであった。
ケプラーの法則やニュートンの運動方程式は近似解であり、より厳密に二体問題を解こうとすると、アインシュタインらによる EIH 方程式を解かなければならない。ところが、EIH 方程式には、万有引力だけでなく、質量の 3 次に比例する逆3 乗則に従う力もあれば、さらに天体の速度に依存する項まで登場し、厳密に解くことは不可能なものであった。
国立天文台が発表している天文暦は、EIH 方程式を加味しているとはいえ、あくまで近似的な解となっている。
ここで、小惑星の軌道計算において急に軌道変化する「古在機構」を取り上げているが、『 地球は特別な惑星か? 』にあるように、太陽系の進化の過程で、木星や土星が太陽に近づいたり遠ざかったりする現象も、EIH 方程式によって解き明かされるかもしれない。
近い将来、パソコンを使って太陽系進化の数値計算ができるようになるかもしれない。






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最終更新日  2021.04.09 12:26:08
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